原題:『Au hasard Balthazar』
監督:ロベール・ブレッソン
脚本:ロベール・ブレッソン
撮影:ギスラン・クロケ
出演:アンヌ・ヴィアゼムスキー/フランソワ・ラファルジュ/ヴァルテル・グレェン
1966年/フランス・スウェーデン
「言葉遊び」で撮られる映画について
一度観ただけではストーリーを理解できない。もしも本作の原作がドストエフスキーの『白痴』であるならば、本作の主人公でバルタザールと呼ばれるロバ(âne)そのものが「バカ者」という意味も持つ。これはビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル(The Fool on the Hill)」の「フール(愚か者)」と同じような使い方であろう。
さらに「バルタザールどこへ行く」と訳されている原題を正確に訳すならば「行き当たりばったりのバルタザール」となるのだが、そもそもこれは「アウ・アザ―(Au hasard)」と「バルタザー(Balthazar)」と最後に韻を踏んだ言葉遊びなのである。
つまりブレッソンは(おそらく)冒頭とラストシーンだけは決めて、真剣に辿ろうとすると数々の齟齬を見出してしまう、「行き当たりばったりのバカ者」の物語を本気で紡ぐつもりはなかったように見える。四肢だけにはやたら拘りながらもアドリブと言ってもいい演出でギリギリまでそぎ落としたストーリーを楽しむにはかなりの忍耐が強いられるかもしれない。