MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『笑う猫事件』

2015-08-03 00:22:08 | goo映画レビュー

原題:『Chats perchés』
監督:クリス・マルケル
脚本:クリス・マルケル
撮影:クリス・マルケル
2004年/フランス

二項対立を解消する「フィクション」の可能性について

 本作をクリス・マルケル(Chris Marker)が撮ろうとしたきっかけは、フランスの画家のトマ・ヴュイユ(Thoma Vuille)が街中に描いた「ムッシュ・シャ(M・Chat)」のグラフィティーを発見したことにある。


(「Chats perchés=高みにいる猫たち」)

 2001年にアメリカで起こった同時多発テロの話題から始まり、2004年当時のジャン=ピエール・ラファラン(Jean-Pierre Raffarin)首相が制定しようとした高齢者や障害者のために働くか働かないか「Journée de solidarité(連帯の日)」という休日を巡るデモに「ムッシュ・シャ」のプラカードが出現したことで、二項対立を解消しようとする「第三者」の可能性を模索する。目をこらして見るならば「ムッシュ・シャ」は有名な芸術作品にも現われなくはないのである。
 しかし「ムッシュ・シャ」も地下鉄内で暮らしていたボレロという猫も見かけなくなった頃、「Noir Désir(ノア・デジール)」というロックバンドのボーカルのベルトラン・カンタ(Bertrand Cantat)が女優のマリー・トランティニャン(Marie Trintignant)の過失致死の容疑で懲役8年の刑を受けたり、難民のために尽力していた老教授が亡くなったりする。
 ラストで再び現れた「ムッシュ・シャ」にはもはやにやけた顔は無く、シルエットだけの存在であるが、相変わらず二項対立を解消しようと試みる「第三者」の可能性を模索し続けるだろう。それは突き詰めて「正解」を得ることの困難な真面目な「真実」ではなく、敢えて笑いを誘う「フィクション」に可能性を託そうとする試みになるはずである。


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