鳩山政権の失政の原因は何なのか?鳩山首相の個人的資質だけの問題ではないことは確かだ。行政の仕組みに問題を求めることは可能だ。イメージ先行の脱官僚・依存に財務省がつけこんだとの考えもある。小沢氏や労組支配の影響は大きい。しかし、これらすべての中心にいるのは鳩山氏であり、首相の個人的資質の問題は無視できない。
個人的資質といったときに、性格や能力だけではなく、思想も問題となる。例えば、一般人の大量殺人を試みたオウム真理教の高弟たちは、性格や能力に問題があったわけではない。教祖から伝授された異常で危険な思想に感染し、それを実行に移そうとしただけだ。梅棹は文明の生態史観で宗教の伝染病説を唱え、スペルベルは文化疫学を言っている(書評「丸山眞男の時代」参照)。宗教に限らず思想は脳を宿主とするウィルスのようなもので、感染、伝染、流行、免疫、発症といった現象がある。ウィルスというと一般にはマイナスのイメージだが、キリスト教ウィルスなど、マイナス面も多かったが、プラスの面も大きい。というか、人間の文化は思想ウィルスへの感染なしにはなりたたない。どんなウィルスに感染したかが、その人や集団の行動を決める上で重要となる。
鳩山政権を支配する政治的な思想ウィルスには三種類ある。鳩山政権の政治はこれらの複合ウィルスの感染結果である。各ウィルス自体は、鳩山政権の構成メンバー、支持層に限って見られるわけではない。鳩山政権の特徴は、構成メンバー、支持層にこれら三種の政治思想ウィルスが強力かつ複合的に感染している点にある。
(1)左翼全体主義ウィルス
「横山北斗県連代表が「昨年の総選挙では、まさに革命と呼ぶにふさわしい出来事として、私たちは政権交代を実現したが、革命の後は、反革命が起こる」とし、「今、民主党を批判する反革命分子に負けずに、この危機を乗り越えて行かなければならない」と強い決意を述べた。」
民主党青森県連躍進パーティー(3月28日)での発言である。仙谷行政刷新担当相による文化大革命発言も記憶に新しい。
経済運営に関しても、労組優先や郵政の再国営化路線など、自由主義経済とは逆行する政策が顕著だ。
左翼全体主義ウィルスの高感染度は、主に世代問題、知識の遅れ、状況の三要因によるのだろう。
世代問題:民主党で中心となる政治家や支持層にかつて革命を試みた全共闘世代へノスタルジーやシンパシーを抱いている人が多い。
知識の遅れ:日本の知識社会では国際社会における悲劇への関心が薄く、共産主義全体主義がもたらした悲劇への理解が乏しい。例えば、欧米でベストセラーになった共産主義黒書は、マイナーな出版社から出版されているだけであまり読まれていないようだ。国連へのナイーブな信頼も同じ無知に基づく。こうした無知が仙石氏の文化大革命発言や小沢氏の国連中心主義を可能にしている。また、くりかえし池田信夫氏が指摘しているように、政治家やメディアの経済学への理解が著しく時代遅れなのも、派遣禁止など、意図とは逆に(経済学では意図は問題としない)、マイナスの効果が明確な、愚かな社会主義的規制強化策が歓迎される原因となっている。
状況:戦後の日本は自由主義陣営に入り繁栄を謳歌した。旧ソ連地域や東欧、文化大革命の辛酸をなめた中国のように、左翼全体主義の被害をじかに経験していない。1990年にソ連が崩壊し、地球規模で自由主義経済の競争が始まったなかでの、日本のたちおくれを、自由主義経済の行き過ぎと事実とは真逆の解釈をし、規制強化、社会主義化をはかりつつある。左翼全体主義の被害をじかに経験したいのかもしれない。
(2)敗戦国シンドロームウィルス
国家や国旗への反発、軽視、軍備への忌避感、中韓への対等の原則を破った謝罪的宥和的姿勢などが、敗戦国シンドロームウィルスの症状である。日本の国旗を切り裂いて党の旗とした民主党、国というものがなんだか分からない首相、反日教育を推進してきた日教組を支持母体とするなど、鳩山政権における敗戦国シンドロームウィルスへの感染は相当に進行したものである。
ソ連や中国などの共産主義国家が、第二次世界大戦では連合国側だったため、共産主義国家における虐殺や国家犯罪については、敗戦国側のようには行われなかったという事情がある。何を弾劾、批判するかは、それぞれの国の利害にそって行われる。アメリカやイギリスなどの、連合国・自由主義陣営は、一致して敗戦国を弾劾、自由主義者が共産主義を批判という気持ちの良い立場にいる。過去にさかのぼれば、奴隷制や原住民の虐殺、植民地支配など色々あるが、それらはアジェンダ化しないようにする。ソ連や中国など連合国・共産主義陣営は、より微妙な立場にある。一致して敗戦国を弾劾するが、同じ虐殺でも、共産主義への批判は断固として抑圧してきた。日本は、敗戦国で、自由主義陣営なのでより難しい立場にある。可能な立場は四つある。敗戦国として反省するか否か。共産主義の犯罪を弾劾するか否か。自由主義史観は、共産主義の犯罪を弾劾し、敗戦国としての過剰な反省にまったをかける。親米路線は、共産主義の犯罪を弾劾し、敗戦国として罪を反省する。いわゆるサヨクは、共産主義の犯罪に眼をつむり、敗戦国として罪は大いに反省する。自由主義史観の自国評価は、過去の日本も現在の日本も肯定する気持ちの良いものだが、過去の日本を否定する英米、過去現在の日本を否定する中ソともに敵に回す危険がある。親米路線とサヨクは、過去の日本を否定する点では一致するが、現在の日本をも否定するのがサヨクである。これは過去現在の日本を否定する中ソとの友好を優先したのかもしれないが変態的である。これに対し、自由主義史観は、子供っぽいと言えるかもしれない。
(3)党派的利益誘導政治ウィルス
高橋氏と竹内氏は「鳩山由紀夫の政治を科学する」で、民主党の政策が支持層(労組、パチンコ業界など)の利益にかない、敵対する層の支持を削ぎ、浮動層の共感を得るためのものであることを、分析している。豪腕小沢氏率いる民主党は、今のところ御輿が予想外にパーだったせいか、浮動層の共感は失いつつあるが、支持層の利益確保と敵対する自民党の支持層の切り崩しはちゃくちゃくと進めているようだ。陳情の一元化や箇所付け、長崎への報復予算など、小沢氏が主導する利益誘導政治と比較すると、自民党の利益誘導政治は子供じみてみえるくらいだ。
アメリカの建国の父の一人であるハミルトンは、「ザ・フェデラリスト」で、人間の党派性の害悪を指摘したあと、党派性を除くことはできず、その悪影響をさけるしくみが必用であると述べている。中央政府による独裁を抑制するための連邦制や権力の分立と抑制などのしくみである。
自民党政治では支持層の利益誘導が優先され、補助金や無駄な公共事業、規制の撤廃などの大胆な改革が出来ずに公の利益が損なわれたが、よきにつけ悪しきつけ個別の利益誘導が中心で党派的独善性は顕著ではなかった。これに替わった鳩山内閣では利益誘導政治の権化とも言える小沢氏主導のもと、さらに徹底した党派的利益誘導政治が行われ、これに(1)の反自由主義的な規制や補助金を是とする思想、党を国より優先する考え、(2)における国益概念の軽視も加わって、党派性が複合効果を発揮し、公の利益を急速かつ大幅に損ないつつある。
以上、三種類の政治思想ウィルスについて簡単に見てきた。これらは鳩山政権において高濃度に複合して猛威をふるっている。しかし個々のウィルス自体は鳩山政権や民主党に限られたものではない。説明が不十分なところも多いので、各ウィルスや拮抗する政治思想ウィルス、鳩山氏個人、鳩山政権における三種類の政治思想ウィルスの複合感染の症状については、また機会をあらためて述べたい。
個人的資質といったときに、性格や能力だけではなく、思想も問題となる。例えば、一般人の大量殺人を試みたオウム真理教の高弟たちは、性格や能力に問題があったわけではない。教祖から伝授された異常で危険な思想に感染し、それを実行に移そうとしただけだ。梅棹は文明の生態史観で宗教の伝染病説を唱え、スペルベルは文化疫学を言っている(書評「丸山眞男の時代」参照)。宗教に限らず思想は脳を宿主とするウィルスのようなもので、感染、伝染、流行、免疫、発症といった現象がある。ウィルスというと一般にはマイナスのイメージだが、キリスト教ウィルスなど、マイナス面も多かったが、プラスの面も大きい。というか、人間の文化は思想ウィルスへの感染なしにはなりたたない。どんなウィルスに感染したかが、その人や集団の行動を決める上で重要となる。
鳩山政権を支配する政治的な思想ウィルスには三種類ある。鳩山政権の政治はこれらの複合ウィルスの感染結果である。各ウィルス自体は、鳩山政権の構成メンバー、支持層に限って見られるわけではない。鳩山政権の特徴は、構成メンバー、支持層にこれら三種の政治思想ウィルスが強力かつ複合的に感染している点にある。
(1)左翼全体主義ウィルス
「横山北斗県連代表が「昨年の総選挙では、まさに革命と呼ぶにふさわしい出来事として、私たちは政権交代を実現したが、革命の後は、反革命が起こる」とし、「今、民主党を批判する反革命分子に負けずに、この危機を乗り越えて行かなければならない」と強い決意を述べた。」
民主党青森県連躍進パーティー(3月28日)での発言である。仙谷行政刷新担当相による文化大革命発言も記憶に新しい。
経済運営に関しても、労組優先や郵政の再国営化路線など、自由主義経済とは逆行する政策が顕著だ。
左翼全体主義ウィルスの高感染度は、主に世代問題、知識の遅れ、状況の三要因によるのだろう。
世代問題:民主党で中心となる政治家や支持層にかつて革命を試みた全共闘世代へノスタルジーやシンパシーを抱いている人が多い。
知識の遅れ:日本の知識社会では国際社会における悲劇への関心が薄く、共産主義全体主義がもたらした悲劇への理解が乏しい。例えば、欧米でベストセラーになった共産主義黒書は、マイナーな出版社から出版されているだけであまり読まれていないようだ。国連へのナイーブな信頼も同じ無知に基づく。こうした無知が仙石氏の文化大革命発言や小沢氏の国連中心主義を可能にしている。また、くりかえし池田信夫氏が指摘しているように、政治家やメディアの経済学への理解が著しく時代遅れなのも、派遣禁止など、意図とは逆に(経済学では意図は問題としない)、マイナスの効果が明確な、愚かな社会主義的規制強化策が歓迎される原因となっている。
状況:戦後の日本は自由主義陣営に入り繁栄を謳歌した。旧ソ連地域や東欧、文化大革命の辛酸をなめた中国のように、左翼全体主義の被害をじかに経験していない。1990年にソ連が崩壊し、地球規模で自由主義経済の競争が始まったなかでの、日本のたちおくれを、自由主義経済の行き過ぎと事実とは真逆の解釈をし、規制強化、社会主義化をはかりつつある。左翼全体主義の被害をじかに経験したいのかもしれない。
(2)敗戦国シンドロームウィルス
国家や国旗への反発、軽視、軍備への忌避感、中韓への対等の原則を破った謝罪的宥和的姿勢などが、敗戦国シンドロームウィルスの症状である。日本の国旗を切り裂いて党の旗とした民主党、国というものがなんだか分からない首相、反日教育を推進してきた日教組を支持母体とするなど、鳩山政権における敗戦国シンドロームウィルスへの感染は相当に進行したものである。
ソ連や中国などの共産主義国家が、第二次世界大戦では連合国側だったため、共産主義国家における虐殺や国家犯罪については、敗戦国側のようには行われなかったという事情がある。何を弾劾、批判するかは、それぞれの国の利害にそって行われる。アメリカやイギリスなどの、連合国・自由主義陣営は、一致して敗戦国を弾劾、自由主義者が共産主義を批判という気持ちの良い立場にいる。過去にさかのぼれば、奴隷制や原住民の虐殺、植民地支配など色々あるが、それらはアジェンダ化しないようにする。ソ連や中国など連合国・共産主義陣営は、より微妙な立場にある。一致して敗戦国を弾劾するが、同じ虐殺でも、共産主義への批判は断固として抑圧してきた。日本は、敗戦国で、自由主義陣営なのでより難しい立場にある。可能な立場は四つある。敗戦国として反省するか否か。共産主義の犯罪を弾劾するか否か。自由主義史観は、共産主義の犯罪を弾劾し、敗戦国としての過剰な反省にまったをかける。親米路線は、共産主義の犯罪を弾劾し、敗戦国として罪を反省する。いわゆるサヨクは、共産主義の犯罪に眼をつむり、敗戦国として罪は大いに反省する。自由主義史観の自国評価は、過去の日本も現在の日本も肯定する気持ちの良いものだが、過去の日本を否定する英米、過去現在の日本を否定する中ソともに敵に回す危険がある。親米路線とサヨクは、過去の日本を否定する点では一致するが、現在の日本をも否定するのがサヨクである。これは過去現在の日本を否定する中ソとの友好を優先したのかもしれないが変態的である。これに対し、自由主義史観は、子供っぽいと言えるかもしれない。
(3)党派的利益誘導政治ウィルス
高橋氏と竹内氏は「鳩山由紀夫の政治を科学する」で、民主党の政策が支持層(労組、パチンコ業界など)の利益にかない、敵対する層の支持を削ぎ、浮動層の共感を得るためのものであることを、分析している。豪腕小沢氏率いる民主党は、今のところ御輿が予想外にパーだったせいか、浮動層の共感は失いつつあるが、支持層の利益確保と敵対する自民党の支持層の切り崩しはちゃくちゃくと進めているようだ。陳情の一元化や箇所付け、長崎への報復予算など、小沢氏が主導する利益誘導政治と比較すると、自民党の利益誘導政治は子供じみてみえるくらいだ。
アメリカの建国の父の一人であるハミルトンは、「ザ・フェデラリスト」で、人間の党派性の害悪を指摘したあと、党派性を除くことはできず、その悪影響をさけるしくみが必用であると述べている。中央政府による独裁を抑制するための連邦制や権力の分立と抑制などのしくみである。
自民党政治では支持層の利益誘導が優先され、補助金や無駄な公共事業、規制の撤廃などの大胆な改革が出来ずに公の利益が損なわれたが、よきにつけ悪しきつけ個別の利益誘導が中心で党派的独善性は顕著ではなかった。これに替わった鳩山内閣では利益誘導政治の権化とも言える小沢氏主導のもと、さらに徹底した党派的利益誘導政治が行われ、これに(1)の反自由主義的な規制や補助金を是とする思想、党を国より優先する考え、(2)における国益概念の軽視も加わって、党派性が複合効果を発揮し、公の利益を急速かつ大幅に損ないつつある。
以上、三種類の政治思想ウィルスについて簡単に見てきた。これらは鳩山政権において高濃度に複合して猛威をふるっている。しかし個々のウィルス自体は鳩山政権や民主党に限られたものではない。説明が不十分なところも多いので、各ウィルスや拮抗する政治思想ウィルス、鳩山氏個人、鳩山政権における三種類の政治思想ウィルスの複合感染の症状については、また機会をあらためて述べたい。