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子規のエネルギーに導かれる

2016年05月29日 | 読書
 『ノボさん』(伊集院静  文春文庫)




 副題は「小説 正岡子規と夏目漱石」。題名が「ノボさん」なので当然中心は子規の方にある。二人の交友についてある程度知っていたが、これほど多くの関わりを持っていたことを改めて驚かされた。何より子規という一個の人間が持つエネルギーの強さ、眩しさが漱石との出会いを演出したし、この作家も導かれた。


 いわゆる近代文学は詳しくないし、文学史も常識程度だろう。それでもあの有名な「柿くえば」の句ができるまでのエピソードなど非常に面白く読んだ。また、漱石も含めて子規の周りに集う多くの各分野の先駆者たちの様子も生き生きと感じられた。どこまでの脚色かはわからないが、とにかく楽しめる小説である。


 子規といえば「写生」。彼がどのようにそれに立ち向かっていったかも描かれる。様々なことに興味を示し、俳句に関する歴史的な編纂も行い、膨大な歌や句を書き残していても、写生の確立は安易ではなかった。親しい画家との交流から、写生の本質を見い出したという箇所は心に残る。不折という青年画家の言葉である。

 
 「あるものを見たままに描くのでは写生になりません。見た時の感想、たとえば綺麗な花だと思ったこころを描くのが写生です」


 読んでいて映像化してしまったのは、あの『坂の上の雲』である。NHKで3年間にわたって放送された司馬遼太郎作品。全篇見たかどうかちょっと忘れたが、香川照之の子規役は実にぴったりだった。Youtubeで検索したら、次の箇所が出てきて改めて見ると、また感心してしまった。このエネルギーは胸を打つ。

 こちらです→ 「正岡子規と秋山真之」