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BL小説・風のゆくえには~グレーテ2

2018年03月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【チヒロ視点】



「僕のこと、好きにしていいです」

 祈るように手を組んで見上げたら、真木さんが「いいよ」と肯いてくれた。

 そして、そっと優しく、頬に触れてくれた。



***


 日曜日の夕方、アユミちゃんが泣いた。僕の双子のお姉さんのアユミちゃんは、時々、こういう風に、この世の終わりみたいに泣く。

「絶対に許さない!リサも!小林も!」
「アユミちゃん……」

 歌舞伎町のキャバクラで働いているアユミちゃん。今日は小林というオジサンと同伴の約束をしていたのに、「リサと先に約束してたこと忘れてた」ってさっき電話で断られたそうだ。そんなのは絶対に嘘で、リサが横から奪ったに決まってるって、ずっと怒っている。

「ひどい。ひどいよ」
「うん。ひどいね」

 抱きついてきたアユミちゃんを抱き止めて、頭をイイコイイコと撫でてあげる。

「チーちゃん………」
 アユミちゃんはグスグスと鼻をすすりながら、こちらを見上げた。

「ごめんね。せっかくチーちゃんがお金ためて可愛くしてくれたのに、私まだ、可愛くないみたい」
「そんなことないよ!アユミちゃんは一番可愛いよ!」

 アユミちゃんの希望通り、目もパッチリにした。アゴもシュッとした。これ以上ない完璧な顔。

「でも、どうしても、リサに勝てない……」

 悲しそうなアユミちゃん。どうにかしないと………

「どうしたら勝てるの?」
「……………。とりあえず、小林よりもカッコよくてお金持ちの人と同伴したいの」
「……………」

 カッコよくてお金持ち……

「チーちゃん、誰か知らない?」
「えーと……、あ!」

 パッと閃いた王子様。真木さんなら絶対に誰も敵わない。

「いる。2丁目のお店にくる人で背もすごく高くて顔もすごくカッコよくて高いホテルに住んでてタクシー代って5万円くれて……」
「その人!連れてきて!」

 アユミちゃんの顔がようやく明るくなった。でも………

「でも、来てもらえるかは………」
「大丈夫」

 にこーっとアユミちゃんが笑った。

「チーちゃんはかわいいから。前にも教えたでしょ? こうやって手をお祈りするみたいに組んで………」

 アユミちゃんの温かい手が僕の手を包み込む。

「かわいい顔で見上げて、『僕のこと、好きにしていいです』って言うの。そうしたら誰でも言うこと聞いてくれるから。ね?」
「………………」

 今までは『お金をください』を聞いてもらってたけど、『同伴してください』でも大丈夫かな………

「チーちゃんなら大丈夫」
「………………うん」

 アユミちゃんの言うことはいつも正しい。だから言う通りにする。



 ホテルの部屋のインターフォンを鳴らしたら、3回目でようやく真木さんは出てきてくれた。寝てたのか、少しボーッとしているけど、時間がないからすぐ話をした。

「姉と同伴出勤してほしいんです」
「………は?」

 いぶかしげに眉を寄せた真木さん。でも、お祈りのポーズで、一生懸命説明したら、ちゃんと聞いてくれた。それで、いくつかの質問のあと、

「で、その同伴するってお願い聞いたら、俺に何か利点はあるわけ?」

って、聞かれたので、あらためて、お祈りのポーズをした。そして、

「僕のこと、好きにしていいです」

 アユミちゃんに言われた通り、かわいい顔で言った。……………でも。

「………は?」

 再び眉を寄せた真木さん。

 …………。聞こえなかったのかな?

「あの! 僕のこと、好きにしていいです!」

 もう一度、大きな声で言ってみた。
 すると真木さんは「いや、あの、聞こえてるから……」と言って、少しだけ迷ってから………

「まあ………、いいよ」
と、うなずいてくれた。良かった。アユミちゃん。大丈夫だったよ。

「ありがとうございます」
 ほっとして真木さんを見上げると……

(え?)
 手が伸びてきて、そっと頬に触れられた。初めて、触れられた。

(なに?)
 こちらを見下ろす目は、すごく切ない色をしていて、でも、頬に触れてる手はすごく温かくて………

(………?)
 僕の知っている自信満々の王子様じゃなくて、優しくて儚げで……

(………っ!)

 何でだろう。心臓が痛いくらい大きく波打ちはじめた。喉のところが苦しい。何だろう……何だろう。真木さんの悲しそうな目が、温かい手が………苦しい。

「………………真木さん?」
「ああ………」

 ふっと真木さんは僕から離れた。

「同伴って、今日これからってこと?」
「はい」

 うなずくと、真木さんはかけてあったジャケットを着て(その着方も、サッてしてカッコイイ)、

「じゃあ、最上階のバーに来るように言って? 君はここで待ってなさい。ルームサービス頼んでいいから」
「あ……はい」

 そのまま、僕のことを一度も見ないで出ていってしまった。

「真木……さん」

 残っている真木さんの香りを大きく大きく吸い込む。良い匂い……。
 真木さんが触れてくれた頬を触ってみる。ドキドキする。

(もっと触れていて欲しかったな……)

 そんなことを思った。なんでかは分からないけど、そんなことを思った。



---

お読みくださりありがとうございました!

上記話らへんの真木さん視点が「その瞳に・裏話4」の前半になります。

次回、火曜日はこの続きからになります。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~グレーテ1

2018年03月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ


【チヒロ視点】


 絵本から抜け出てきた王子様だ。

 真木さんをはじめて見た時、そう思った。シンデレラ?白雪姫?とにかく有名な童話の王子様。
 顔も外国人風にかっこよくて、背も高くて、『身分』も高そう。命令することに慣れてて、みんな言うことを聞いちゃう。お店に真木さんが入ってきた途端、主役は真木さんになった。

「僕、コータですっ。こっちはチヒロ」
 閉店間際、友達のコータに連れられて真木さんを近くに見に行った。良い匂いがする。

 真木さんは少しだけお喋りをしてから、

「今度一緒に遊ぼうね」
 にっこりと眩しい笑顔を残して、出て行ってしまった。いなくなった後も真木さんの良い匂いがそこら中に漂っている。

「王子様みたい……」
 ほわあ~とコータがつぶやいた。

(違うよ、コータ)
 心の中で訂正してあげる。

 王子様みたい、じゃなくて、本物の王子様だよ。


 それから一か月くらいたって、「今度」の約束通り、真木さんは滞在先のホテルにコータと僕を招待してくれた。

 コータと他の人と3人でホテルにいくのはもう何回目かだ。「 知らない人といきなり一対一は怖いでしょ?」ってコータが言う。僕もそう思う。怖い目にあいそうになったところを、コータが助けてくれたのが僕達の出会いだった。

「ネコもタチもできる」コータは、他の人と一緒に僕を抱いたり、僕を抱きながら抱かれたりもする。「3P楽しいでしょ?」って、コータが言う。だから、楽しいことなんだと思う。嫌だなって思うのは僕がおかしいからで、本当は楽しいことだから、楽しいと思わなくてはならない。でも嫌だな……って思う。コータは楽しそうだけど、僕は早く時間が過ぎればいいって思う。

 でも、真木さんと一緒のこの日は、コータはいつもと全然違っていた。

 何が違うって、声が、違う。

 真木さんに抱かれているコータの声……
 こんなに余裕のない声初めてきいた。口からよだれ垂らして、気持ちいいと苦しいの半分半分みたいな顔してる。

(いつもの可愛い喘ぎ声は『演技だよ』って言ってたのは、本当だったんだなあ……)

 今は、演技する余裕もない、って感じ。真木さんに攻め立てられるコータのことを、部屋の隅の椅子の上で、膝を抱えて座って眺めながら、そんなことを思う。

(真木さんはいつでも王子様なんだなあ……)

 真木さんは余裕の顔。ちょっと笑ってる。あんなにずっと激しく腰振ってても、コータのこと持ちあげるみたいにしてても、全然疲れないみたい。すごい体力。すごいといえば体もすごい。すごい筋肉。引き締まってる。キレイ。触ってみたい……

 そうして真木さんはコータのことを何度も絶頂に連れていって……最後は気を失ったコータをベッドに寝かせると、はじめて僕の方を向いた。

(次は、僕?)
って思って、ドキッとする。今見てたこと、僕もされるのかな……あんなよだれ垂らすみたいな顔になるのかな……と思ったんだけど。

「用事を思い出した」
 真木さんはそう言って、素っ裸のままベッド横の棚の引き出しからお金を取りだすと、

「これでタクシー代足りる?」
 はい、と渡してくれた。一万円札5枚……

「二人とも、帰ってくれる?」
「…………」
「ああ、シャワー浴びるなら、俺が出るまでちょっと待ってて」

 コクリ、と肯くと、真木さんは「じゃ」と言って、シャワー室に行ってしまった。すぐに水音が聞こえてくる。

 コータに伝えないと、と思って「コータ、起きて」とぐったりしているコータの腕を揺すると、

「………起きてる」
 コータがぼんやりと肯いた。

「噂通りだね……」
「噂?」
「こんなの初めて。めちゃめちゃ上手」

 コータは、苦笑い、みたいな顔をして身を起こすと、自分にくっついてるコンドームを取ってティッシュにくるんで捨てた。「ベッドを汚したくないからつけるよ」って、はじめに真木さんにつけてもらってたけど、正解だな、と思う。何回も何回もイッてたもんね……

「これ知っちゃったら、他の男としたくなくなるよ」
「ふーん?」
「でも、かなりのSだねあの人」
「?」

 S?

「快感も度が過ぎると拷問だよ。こっちがイキ過ぎて苦しいのを見て楽しんでる感じだった」
「???」

 イキ過ぎて苦しい?

「噂通りの悪魔。泊まらせてもくれないし」
「あ………うん」

 コータの言葉に、手の中のお金のことを思い出す。

「タクシー代、だって」
「それで飲みいこー」
「え」

 えいっと立ち上がって下着を身につけはじめたコータに、「ダメだよ」と注意する。

「タクシー代って言われたんだからタクシーで帰らないと」
「大丈夫大丈夫。ほら、チヒロも着替えて」
「でも……あ、うん」

 自分も下着姿なこと忘れていた。ここに来てすぐに、コータと一緒にシャワーを浴びて、する準備だけはしてたのに、僕は結局何もしなかったのだ。

 着替え終わったコータがお金を数えながら言った。

「これはね、タクシー代って言う名前のお小遣いなんだよ?」
「お小遣い?」
「やらせてくれてありがとうって。いつものお小遣いと同じ」
「え」

 そうなの? いつもコータと一緒にエッチする人達はお小遣いくれるけど、それと同じってこと? だったら……

「だったら僕は何もしないで見てただけだからいつもと違うからこれはもらえないからコータが全部もらってそれで……」
「うんうん分かった分かった」

 ポンポンと頭を撫でられた。

「チヒロはホントにかわいいね」

 そして、ちゅってキスしてくれた。コータは笑って、言葉を継いだ。

「やっぱり飲みじゃなくて、ホテル行こ?」
「ホテル?」

 ここもホテルだけど?

「散々、ドライでイかされて、オスとしては消化不良なんだよ。だからやらせて?」
「???」

 言ってる意味が全然分からない。………けれど、コータのお願いは何でも聞くことにしてる。

「行こ?」
「うん」

 きゅっと手を掴まれる。コータはいつも僕を連れていってくれる。

 こうして僕は、いつも誰かに手を引かれていく。




---

お読みくださりありがとうございました!
新シリーズです。ドキドキです。
チヒロはかなりの天然君です。
真木さんは自己中王子です。はい。
上記話らへんの真木さん視点が「その瞳に・裏話2」になります。

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風のゆくえには~その瞳に*R18 目次・人物紹介・あらすじ

2018年03月13日 08時00分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18

(2016年4月24日に書いた記事ですが、カテゴリーで「その瞳に」のはじめに表示させるために2018年3月13日に投稿日を操作しました)



目次

その瞳に1(浩介視点)
その瞳に2(浩介視点)
その瞳に3(浩介視点)・完

その瞳に・後日談(慶視点)


その瞳に・裏話1(真木視点)
その瞳に・裏話2(真木視点)
その瞳に・裏話3(真木視点)
その瞳に・裏話4(真木視点)・完




人物紹介

桜井浩介(さくらいこうすけ)
28歳。身長177cm。高校教師。子供向け日本語教室のボランティアも続けている。
表は明るいが、裏は病んでいて、慶に対する独占欲は相当なもの。母親の束縛に苦しんでいる。

渋谷慶(しぶやけい)
28歳。身長164cm。小児科医。浩介の親友兼恋人。
道行く人が振り返るほどの美形。芸能人ばりのオーラの持ち主。だけど本人に自覚ナシ。
憧れの小児科医になったはいいけれども、理想と現実の差に悩んでいる。でも、基本前向き。
病院内では口調も穏やかで笑顔を絶やさないが、本当は口も悪いし手も足もすぐ出る。

一之瀬あかね(いちのせあかね)
28歳。中学校教師。浩介の友人。
人目を引く超美人。同性愛者。女関係はかなり派手。
大学の時から、浩介の両親の前では、浩介の恋人のふりをしている。
(『自由への道』では名字「木村」でしたが、大学卒業と同時に親が離婚し「一之瀬」になりました)

真木英明(まきひであき)
34歳。身長187cm。慶の勤める病院の系列病院の医師。



あらすじ

高校二年生の冬、無事に両想いになり付き合いはじめた慶と浩介。
大学時代、浩介の母親と問題があり、浩介の両親の前では、表向きは別れたことになっているが、裏では順調に交際は続き、もうすぐ丸11年。

慶の仕事が忙し過ぎて、なかなかゆっくりは会えないけれども、お互いの気持ちに揺るぎはなく、幸せな日々を送っていた。
こんな日がずっと続くと思っていたのに。
母親の束縛と真木の存在により、浩介の慶に対する思いが歪んだものになっていく……




-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
慶と浩介が28歳(2002年9月)のお話になります。
この暗い話を3日間で終わらせて、2016年4月28日(慶の誕生日)に読み切りを載せて、本ブログは一時休止します。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!おかげでここまで書いて来られました。あと数回、どうぞよろしくお願いいたします。
(※そういって休止したものの、5月に戻ってきました。失礼いたしましたm(__)m)

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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・裏話4・完

2018年03月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18


 突然やってきたチヒロは、「お願いがあるんですけど……」と、小さな小さな声で言った。

「姉と同伴出勤してほしいんです」
「………は?」

 同伴?

「姉は、歌舞伎町のキャバクラに勤めてて……」
「キャバ嬢?」
「はい。それで同伴を」
「……………」

 意味が分からない……。

「何で?」
「あの……」

 チヒロは、祈るように組んだ手を口元にあてて、こちらを上目遣いで見てきた。男に媚びる仕草。慣れている感じがする。

(ああ……やっぱり、なかなかの美形だな)

 あらためてそう思う。
 体は貧弱すぎて少しもそそられないけれど、顔だけは合格点だな………

 そんなことを思いながら見下ろしていたら…………
 突然、チヒロは壊れたお喋り人形みたいに一本調子で言葉を発しはじめた。

「真木さんは今まで見た誰よりもカッコよくてお金持ちで背も高くてカッコいいからアユミちゃんも絶対に満足して大喜びしてカッコいい真木さんを同伴していったらみんながビックリしてセーラちゃんすごいねって言われてアユミちゃんもたくさん喜んでカッコいい真木さんが……」
「ちょ、ちょっと待て」

 慌てて手で制する。な、なんなんだ?!

「………」
「………」

 チヒロは、停止ボタンを押されたように、ピタッと言葉を止め、ジッとこちらを見上げている。

「……意味が分からない」
「だから」
「ああ、いいいい」

 口を開きかけたチヒロを再び手で制する。また言葉の羅列を聞かされたらたまらない。

「俺がカッコイイって話はもういい。そんなのは分かってる」
「……はい」
「で……君のお姉さんの名前がアユミ?セーラ?」
「あ……アユミが本名で、セーラがお店の……」
「………ふーん」

 キャバクラか……接待や付き合いではしょっちゅう行くけれど、個人的には面倒くさくていかないんだよなあ……

「で、その同伴するってお願い聞いたら、俺に何か利点はあるわけ?」
「はい」

 チヒロは、また祈るように手を組むと、コックリと肯いてから、言った。

「僕のこと、好きにしていいです」
「…………………………………。は?」

 なんだそれは!? 呆れすぎて、開いた口がふさがらない。
 姉のために自分の身を投げ出すっていうのか?
 っていうか、それ以前に、その貧弱な体に、俺に言うことを聞かせるだけの価値があるとでも思ってるのか? 図々しい。
 先日、コータと一緒だった時も、コータに3Pを提案されたけれども、ガリガリのチヒロを抱く気にはどうしてもなれなくて、結局、俺はコータとしかしなかったというのに。……まあ、もちろん本人にはそんなこと言ってないが。

 無言のまま見返していたら、チヒロは俺に聞こえていないと思ったのか、「あの!」と叫んで、再び言った。

「僕のこと好きにしていいです!」
「………いや、あの……聞こえてるから」

 つ……疲れる。何なんだこの子……。音声調節機能とか音声速度機能とかそういうもの全部壊れてるのか? 先日は、チヒロはほとんど言葉を発しなかったので気が付かなかった……

「……ダメですか?」
「あー………」

 いつもだったら、こんな意味の分からない依頼は速攻で断るところなんだけれども……

(やっぱり……少し、慶に似てる)

 手に入りそこねた天使の姿と重なる。この子と一緒にいたら少しは気が晴れるだろうか。

「まあ………、いいよ」
「ありがとうございます」

 ほっとしたように息をついたチヒロ。その白皙に触れてみる。

(ああ……慶の方が年上なのに、慶の方が艶やかだったな……)

 栄養状態が悪いのだろう。血色も良くない。そういうところも、少しも似ていない。

(まあ、しょうがない……)

 今晩はニセモノで気を紛らそうか。



***



 それから4日後。
 渋谷慶に再会した。彼の勤める病院の研修室で行われた勉強会に参加したのだ。あいかわらずの完璧の美貌と輝くオーラに圧倒される。

(ああ……やっぱり)

 ちらちらとこちらに視線を送ってくる彼の様子にほくそ笑んでしまう。やっぱり俺のことが気になってしょうがないらしい。
 お仕置き的に無視していたけれど、勉強会終了後に、慌てて追いかけてきたので、許してやることにした。の、だけれども……

 そこで、驚くべき事実を告げられた。

「おれ、バリタチなんで!! すみません!!!」
 
 …………。

 …………。

 …………え?

 バリタチ? この子が? この可憐な天使が???

 よ、予想外すぎる……。

 予想外過ぎて………笑い出してしまった。

「君のその情熱的な視線は、完璧なタチである俺への憧れのものだったのか……」

 すっかり勘違いしてしまったじゃないか。でも、タチだなんて、その可憐な容姿からは想像できないからしょうがないだろう。

(あ、でも、この子、すごい体鍛えてるんだった。それに、あの鳩尾に繰り出した蹴りは……)

「君、喧嘩しなれてるの?」

 たずねてみたところ、彼は頬をポリポリとかいて、

「ええと……、おれ、背も低いし、顔もこれだから、昔から馬鹿にされることが多くて……それで鉄拳制裁っていうか……」
「なるほどね」

 納得。バリタチなのはそのコンプレックスのせいだろう。

(では、作戦変更だ)

 当然、この完璧な天使を手にいれることを諦めるなんてことはしない。
 頼りになる先輩、という地位を確固たるものにして、その後でゆっくり攻略していこう。

「ここは潔く、君のことは諦めるよ。また蹴られたらたまらないしね。これからは友人として、医師仲間として、よろしくな」

 最上級の頼りになる先輩風の笑顔で手を差し出すと、彼はパアッと表情を明るくして、

「よろしくお願いします!」

 ぎゅっと強く手を握り返してきた。その笑顔の可愛いこと!

「うわ、その笑顔……ホント天使だな……」
「!」

 思わず本音をつぶやいたら、思いっきり飛び離れられてしまった……。

 ああ、気を付けないとだな……


**


 その日の夜、チヒロを呼び出した。

(ほんと、顔だけはいいんだけどなあ……)

 その無気力な瞳と痩せすぎの体がどうにもこうにも気に食わない。顔だけはいいんだから、もう少しマトモになってくれれば、彼を手に入れるまでの慰めになるというのに……

 でも、チヒロには一つだけ特技があった。

「前回と同じ感じでいいですか?」
「うん」

 ふわりと漂うラベンダーの香り。温かい手が体中を辿ってきて、心地が良い。アロマオイルを使ったマッサージ。リラックス効果は抜群だ。
 こないだやらせてみたら思いの外上手だったので、「姉との同伴出勤」という意味の分からない依頼の報酬は、マッサージにすることにした。聞いたら、よく姉のマッサージをしているので慣れているそうだ。

(ああ……気持ちいい)

 惜しいなあ……。これでもう少し魅力的な子だったらなあ……。ああでも、魅力的すぎたら、こうして呑気にマッサージなんかされていられなくなるから、ちょうどいいのか……

(あ、それとも……)

 太らせてから喰うっていう手もあるな。そんな童話もあったっけ……

「ねえ、チヒロ君」

 うつ伏せの状態から、顔を少し上げて横にいるチヒロを見上げる。

「君さあ……ご飯ちゃんと食べてる?」
「ちゃんとって……」

 チヒロはキョトンとしてから……

「ちゃんとというのが他の人と同じ量という意味なら食べてないことになるけど僕にとってはそれで問題ないのでちゃんとだけど他の人にとってちゃんとかと言われると……」
「わかった。もういい」

 またはじまった言葉の羅列を即座に止める。

「量は人それぞれ適量があるから構わないが……」
「…………」
「その少ない量の食事は、きちんとバランスの取れたものなのか?」
「バランス?」

 首をかしげたチヒロ。

 ………。何も考えて無さそうだな……。

「じゃあ、明日の朝は、『ちゃんと』バランスの取れた食事をしよう」
「え………」
「このホテルのビュッフェ、おいしいから。俺がセレクトしてあげよう」
「え!」

 泊まっていいんですか?

 ビー玉みたいな瞳に嬉しそうな色が浮かんだ。

 綺麗な……色。

(………。そんな顔もできるのか)

 ふーん……と思いながら、頭を元に戻す。そして、その心地良い手と、香りに身をゆだねていたら、ウトウトしてきて……
 しばらくして、隣に潜り込んできた痩せた身体を抱き枕かわりに抱きしめて眠ったら、久しぶりに朝まで一度も目が覚めることはなかった。




<完>……そして、二人の物語に続く
 

------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の3と後日談の真木さん視点でした。

次回から真木さんとチヒロの新シリーズ「グレーテ」をはじめます。どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・裏話3

2018年03月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18


「………痛っ」
 目覚めた途端、首の後ろのズキズキする痛み、腹のあたりの鈍い痛み、吐き気、床の固い感触……、とにかく、ありとあらゆる不快なものに襲われた。

「………なんだ?」
 ぼんやりと天井を見上げる。今、俺は床に転がっていて……ここは俺の滞在するホテルの一室で。ベッドルームとリビングルームの境目あたりで……

「………?」
 思考を遮るように、ピンポーンと呑気な感じのインターフォンが遠くから聞こえてきた。誰か来たのか……?
 壁に掴まりながら立ち上がり………、リビングルームのテレビに繋がれたビデオの線が視界に入って、ハッとした。

(そうだ。ビデオをみせてあげて、それで……)

 記憶を辿っていく。あの時、彼とソファに並んで座って、15分ほどの映像を一緒にみて、その話を少しして、それから……



「こっちがベッドルームになってるんだよ」

 そう言って誘導すると、彼は「へえ~~」と感心したような声を上げて、

「あ、この仕切りの先が寝室なんですね? すごいなあ。こんな大きなホテルの部屋、初めてきました」
「そうなんだ?」
「こんな風に部屋が分かれてるなんて……、わ!すっげー大きいベッド!」

 スライドドアの先の、通常のキングサイズよりもさらに大きめのベッドを見て、はしゃいだように言った彼。子供みたいで可愛い。

「ここで一人で寝るなんて、贅沢ですねえ」
「うん。だから今日は慶君も一緒に、ね?」
「あー、いやいやいや」

 あはは、と笑いながら手を振った彼。

「だから、そこまで甘えられませんって」
「甘えてよ」
「え」

 振っている手をギュッとつかむと、彼が、きょとん、とした表情をした。

「真木さん?」
「全部、俺にゆだねて?」
「え?」

 そのキレイな瞳が何度か瞬いた。
 期待してここに来たくせに……。そんな駆け引き、面倒くさいからいらないよ。

「君は本当に美しい。君こそ、俺の隣にふさわしい」
「え……と、あの?」

 彼が戸惑ったように、一歩後ろに退いた。空いた分の距離を即座に詰める。

「慶君……」
「……わっ」
「え」

 顔を寄せようとしたのに、しゃがみこまれて、空振ってしまった。おいおい……

「慶君?」
「え?! いや、あの……何を言われているのか……」

 頭を抱えている彼。そんなカマトトぶらなくても……同級生の親友君とやることやってんだろ?という言葉は胸にしまって、ニッコリと微笑みかけてやる。

「ねえ………、慶君って、ドライでイッたことある?」
「は?え?」

 彼はしゃがみこんで頭を抱えたままこちらを振り仰いだ。その上目遣い、そそられる。

「経験ない、よね?」
「…………」

 ジッと見かえしてくる瞳。少し開いた唇。ああ、おいしそう……

「君の知らない快楽、俺が教えてあげる」
「………」
「出さないでイかせて……」
「あのー……」

 彼はゆっくりと立ち上がると、はい、と手をあげた。

「真木さんって………、おれのことそういう対象としてみてたんですか?」
「そういうって?」
「性的……対象?」

 言いながら、上がっていた手が力なく下ろされた。
 今更、なんの確認だ?

「そうだよ? 君もそうだろ?」
「え?」
「隠さなくていいよ」

 そっとその白皙に触れる。………瑞々しい。吸い付くような肌……想像以上だ。見返してくる瞳も湖のように綺麗で………

「君は本当に美しい。俺だけの天使……」
「……………」
「慶……」
「!」

 ビクッと震えた手を掴み、そっとその愛らしい唇に……………



「……………。それから、何があった?」

 再び鳴らされたインターフォンの音に記憶の旅を邪魔された。けれども、何とか記憶を繋いでいく。それから……それから……

 ………思い出した。

「っざけんな!」

 彼の鋭い声。次の瞬間、鳩尾に痛みが走り、身を折ったところで、首の後ろにゴッと衝撃が………


 …………………。


 彼にやられた、ということか?
 ここまで的確に、人の急所を狙えるなんて、どんだけ喧嘩慣れしてるんだ。あんな可愛い顔して……

「………くそっ」

 痛みに顔が歪んでしまう。

「あのクソガキ……っ」

 この俺をコケにするとは良い度胸だ。どうしてくれよう……………

 そう思いながら、3度目のインターフォンの音に、ドアスコープから外をのぞいて………ハッとした。

(………慶!)

 彼が、立ってる。謝りにきたのか? そうだよな。驚いて条件反射的にあんなことしたんだよな? そうか、そうか………

 内心、安心しつつも、怒っている風に顔を作って、ドアをあけ………


 ……………。

 ……………。

 ……………。


「……………なんだ」

 そこに佇んでいる人物を見て、盛大にため息をついてしまった。

 ドアの先にいたのは、天使のような彼ではなく………

「何か用? チヒロ君」

 ビー玉みたいな目をしたチヒロだった。




------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の3の真木さん視点。

慶君、人懐っこいのも大概にしないと勘違いされちゃうよ~?というお話でした(ん?そうなの?)。

次回裏話最終話になります。
それをあげたら、諸事情により2週間ほどお休みをいただこうと思っております。

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