創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

(BL小説)風のゆくえには~自由への道2

2014年12月22日 12時22分14秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道

 教室を出たところで後ろから声をかけられた。

「桜井ー、桜井浩介ー。レポートもう出したー?」
「これから出しにいくとこー」

 出そうとしているレポートをひらひら振りながら答える。

「ごめん、オレ、サークル遅れちゃいそうだからさー」
「ああ、一緒にだしとくよ?」
「助かる! よろしくな!」

 拝まれながらレポートを渡される。
 実はこれで3人目だ。

「また明日ー」
 手を振って見送ったあと、レポートの名前を確認する。同じ講義を受けている奴だとは分かっていたけれど、名前は覚えていなかった。なかなか覚えられない。向こうはおれのフルネームまで知っていたのに。
「………」
 急いで研究室にレポートを提出しにいき、校舎をでる。
 同じ年代の学生達がわらわらと歩いている。笑い声があちらこちらから聞こえてくる。

「………」

 テレビの中みたいだ。と思う。
 色褪せていて、遠い。ブラウン管を通したような、掴めない、色の薄い世界。

「………慶」
 早く慶に会いたい。

 電車に乗っていても、ブラウン管を通したような視界は変わらない。自分の実体がない感じ。この世界に属せていない自分。閉ざされた世界。

「慶」
 早く会いたい。

 慶の通う大学の最寄り駅で下車する。そこからほど近い喫茶店『アマリリリス』。木をふんだんに使った落ちついた雰囲気の店。

 ドアを勢いよく押すと、涼やかな鈴の音が響く。

「いらっしゃいませ」
「………慶」

 にっこりと微笑んでくれるその人を見て、おれは心底ホッとする。

 ああ、おれはちゃんとこの世に存在している。

 見えない壁が取り払われ、世界に色が戻ってくる。世界はこんなにも、明るい。



 小学校高学年くらいから、視界がブラウン管を通しているような感じになることが多くなった。
 ブラウン管の中に自分が入り込んでいるのか、まわりが入っているのか、よくわからない。とにかくまわりで起こるすべてのことが、テレビの中のことのようだった。

 遠い遠い、色褪せた世界。

 そんな中、中学3年生の時に偶然見たバスケットボールの試合での、一人の男子生徒の姿に衝撃を受けた。薄いぼやけた世界の中で、ただ一つのまぶしい光。名前は、渋谷慶。

 彼の姿をもう一度見たくて、数日間、彼の通う中学の門の近くで下校中の生徒の波を延々と見張ったが、結局会うことはできなかった。あとから知ったのだが、慶はこの試合の直後に膝をけがして入院していたそうで、おれが見に行っていた時期はちょうど学校を休んでいたらしい。(見張りにいっていた話は、慶には内緒にしている。しつこく探していたことを知られて気持ち悪いとか思われたら立ち直れない……)

 だから、県立高校を受験して、バスケ部に入部した。そうすればそのうち試合か何かで会えるのではないかと思ったのだ。それにバスケをすることであの光のようになれるのではという期待もあった。

 偶然にも同じ高校に通っていることが分かったのが、高校一年の連休明け。
 それからは、ブラウン管状態になる時間がかなり減った。慶の存在がおれの世界を鮮明にする。



 大学生になってから、家庭教師のアルバイトをはじめた。一年生のころは担当生徒は2人だったけれど、二年生のGW明けからもう一人増えることになった。新しい生徒は高校一年生の女の子。

 初日、母親との軽い挨拶のあと、部屋で2人きりになった途端、その女子高生、宮下希衣子ちゃんの態度は一変した。

「ねーねー、桜井センセ、彼女いるの?」

 母親の前でのおすましは演技だったらしい。片肘ついて頬を支え、長い黒髪を弄んでいる。高校生になりたてのわりに大人っぽい表情。

「彼女? いないよ」
「ふーん?」

 希衣子ちゃんはニヤーッと笑うと、わざとおれの足にぶつけながら足を組み替えた。短いスカート。胸元の開いたシャツ。……寒そうだ。

「ねえ、じゃあさあ、勉強なんていいから、もっと楽しいことしようよ」
「楽しいこと?」
「例えばさあ……」

 細い足がおれの膝に向かって投げ出された。が、とっさに避ける。
 かわいい顔をして大胆な子だ。どんな中学生活を送ってきたのか心配になってくる。

 希衣子ちゃんは不満げに、空を切った足で机の端を蹴りつけた。

「楽しいことしてあげるっていってんのに……」
「ダメだよ?」

 おれは冷静に、ニッコリと言う。

「そういうことは、恋人としないと」
「そんなのいないし」

 希衣子ちゃんがムッとした顔をしておれをにらみつけた。

「センセーだって彼女いないんでしょ? だったらいいじゃん。どうせ男なんて頭の中そんなことばっかりなくせに、なにかっこつけて……」
「ああ、ごめん」

 ひらひらと手を振り、話を遮る。

「おれ、彼女はいないけど、彼氏はいるんだ」
「……は?」

 眉間にシワを寄せる希衣子ちゃん。まあ普通の反応だな。

「そんなこといって誤魔化そうったって、体は正直なんだからね」
「………」

 希衣子ちゃんの白い手がおれの股間に伸びてくる。
 しょうがない子だなあ……。慶、ごめんねー……と内心ため息をつきながら、とりあえずほっとく。

 数秒後………

「………彼氏って、本当にホントなの?」
「だから本当だって」
「そうみたいだね…………ぜんぜんふにゃふにゃ……ずっとふにゃふにゃ……」

 希衣子ちゃんがあきらめたようにおれから手を離した。 

「ゲイの人って初めてみた。普通なんだね」
「普通って」
「彼氏も普通の人?」

 何をもって普通というのかわからないが、

「普通の人、だけど、すごくキレイな顔してて、それでいて男らしい人」
「へえ……会ってみたいなあ」

 希衣子ちゃんが頬杖をつきながら言う。
 それこそ、普通、の高校一年生の女の子の顔にようやくなった感じがする。

「ねえ、会ってみたい。会わせてよ」
「ちゃんと勉強して、成績上がったら考えるよ」
「げーーーー」

 鼻にシワを寄せる希衣子ちゃん。その顔がかわいくて思わず笑ってしまうと、希衣子ちゃんも笑いだした。この子とは、なかなか気が合うかもしれない。



---------------


浩介視点でした。浩介視点ってなんか切ないんだよね……。
前半の「テレビの中みたいだ」からの「世界に色が戻ってくる。世界はこんなにも、明るい」ってセリフ。
20年前に書きたいと思っていたシーンとセリフだったので書けて嬉しかったです。

今後、あかね視点、希衣子視点、浩介視点、慶視点、で終わる予定です。たぶん。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「自由への道」目次 → こちら

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

(BL小説)風のゆくえには~自由への道1

2014年12月19日 12時19分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 自由への道

 不覚、だった。

 いつもならば、いつ人が通るか分からないこんな場所で!と、断固拒否するのだ。
 しかし、現在自動車免許合宿に一緒に参加していて一週間寝食を共にしているのにもかかわらず、何もできない、というこの状況のせいで、かなり欲求がたまっていて、その上、宴会でアルコールも入ったものだから、精神的にも肉体的にも通常の状態ではなかった。
 それに、自動販売機の横の小さなベンチは、背の大きな観葉植物が目隠しになっているし、誰か来たならスリッパの音で分かるだろうと、思い込んでいたせいもあるかもしれない。

 浩介に強引に引き寄せられた瞬間、理性が吹っ飛んだ。
 ベンチに座る浩介の膝にまたがり、本能のまま唇を求め、舌をからませ、浩介の固くなったものに手を伸ばそうとした、その時だった。

「見ーーーちゃった♪」
「!!!」

 転がるように浩介から飛び降りる。振り返った先にいたのは……

「あかねさん……」

 女優オーラ満開の、木村あかねさん、だった。


・・・

 話は春にさかのぼる。
 高校時代の友人、安倍康彦、通称ヤスから、アルバイトをしないかと電話がかかってきた。
 場所は、おれがこの春から通うことになった大学の最寄り駅近くにある、ヤスの伯母さんが経営している喫茶店「アマリリリス」(「リ」が一つ多いのはこだわりポイントらしい)。従業員の一人でもある娘さんが7月末まで産休に入るため、復帰までの間の短期アルバイトということだった。
 浩介から、夏休みに車の免許を合宿で取りにいこうと誘われていて、それまでに金をためなくてはと思っていたので、この話はまさに渡りに船だった。

 アマリリリスは、ケーキがおいしいと評判なためか、客は近所のおば様達か、うちの大学の女子のグループか男女カップルがほとんどを占める。なので、男一人でやってくる浩介は少々浮いている(浩介は自分のアルバイトがない日は必ずアマリリリスにやってくるのだ)。

 浩介の通学電車の路線の途中におれの通う大学はある。この校舎に通うのは一年次だけで、二年次からは浩介の大学と近くなる。
「お兄ちゃん、わざと?」
と、妹の南に突っ込まれたが、けっしてわざとではない。途中まで路線がずっと同じというのも偶然だ。本当に偶然なんだって!…ということにしてある。


 大学生活にもアルバイトにもだいぶ慣れてきた、五月の連休明けのある日のことだった。

「いらっしゃいま……」

 せ、を言う代わりに、3秒ほどポカンとしてしまった。

 カランカランという軽やかな響きのドアチャイムの音とともに入ってきた長身の女性……。
 スポットライトを浴びたかのように彼女の立っている場所にだけ、明るく日射しが差し込んでいる気がした。

「な、何名様で……」

 すぐに我に返り、案内に向かうと、彼女はニッコリと「3」と指を立てた。
 大きなアーモンド形の瞳が印象的。背はおれより10cmは高い…。

 奥のテーブル席に案内すると、彼女の後ろにいた小柄な女の子達がはしゃぎながらついていった。

「慶、今、見とれてたでしょ……」

 カウンターの一番端に座っている浩介が、おれが通り過ぎる時にボソッとつぶやいた。
 ………正解。よく見てる。
 浩介はむーっとした顔をしている。これはフォローしておかないと帰り道が面倒だ。 

「………」
 次に浩介の前を通り過ぎる瞬間、まわりから見えない角度で、ポンポンと浩介の太腿をたたいてやる。途端にふくれていた頬が緩んだ。単純な奴だ。

 でも、この数分後、浩介の頬は最大限に膨れ上がる。
 なぜなら、注文のケーキセットを運んだ際に、おれが彼女から声をかけられたからだ。

「私とデートしない? 渋谷慶君」

 極上の笑みを浮かべた彼女は、まるでテレビCMか街角のポスターの中の女優のように美しかった。



----------

慶と浩介は横浜市民です。自宅の最寄り駅は隣同士です。

この2人の通う大学は、20年前から決めてありました。
今回書くにあたり、浩介に関しては違う学校にしようかと調べなおしたりしたのですが、やっぱり20年前の私の意見を尊重することにしました。

慶が通っている大学は、知ってる人が読めば分かるかも?
慶が一年次だけ通うキャンパスは自宅から結構近いですが、二年次からのキャンパスは都心にあるので少し遠くなる。
けれども、浩介の通う大学とわりと近い。電車も途中までずっと一緒です。
今回調べてみてちょっとビックリした。駅探見てニヤニヤしちゃった。本当に偶然なんだけど。

設定、20年以上前なので、もしかしたらその当時はキャンパス違ったりするかもしれませんが、
フィクションなので細かいところは目をつむっていただければと。

携帯なしのポケベルの時代で、駅に伝言板があったころのお話です。



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「自由への道」目次 → こちら

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

(BL小説)風のゆくえには~影日向(南視点)

2014年12月01日 11時40分40秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切


*本編のネタバレになります。
「巡合」のラストの裏話です。


-------------------



 12月23日月曜日
 午後5時過ぎ、浩介さんがうちを訪ねてきた。部活の帰りらしく大きなカバンを持っている。
 あいにくお兄ちゃんはお姉ちゃんのうちに行っていて留守、と言うと、浩介さんは玄関先でへなへなと座り込んでしまった。
「あーもうダメだー」
 とかなんとか、ボソボソと独り言を言っている。
 とりあえず上がるようすすめると、真面目な浩介さんは「女の子一人(両親も出かけていていなかった)の家に上がるわけにはいかない」と言い張るので、結局玄関で話をすることになった。

「で、どうしたの?」
 お兄ちゃんには内緒にするから話してみて。と言うと、浩介さんはうーんうーんと悩んだ挙句、
「絶対に内緒にしてね」
と、念を押してからポツリといった。
「慶に、さけられてる……」
「さけられてる?」
 そのわりには、校内ではいつも二人でいるのを見かけるし、写真部にもちゃんと二人で顔をだしてたよね?
 そう言うと、浩介さんは、さらにうーんうーんと唸ってから、
「そうなんだけど……どうも距離がある」
「距離?」
「触ろうとするとよけられる」
「あらま……」
 そういわれてみると、最近ベタベタ感があまりなかったかも……。
「あーーーーやっぱりあのせいかなーーーー」
 浩介さんは頭を抱え込んでいる。これは重症だ。
「なにかあったの?」
「…………」
 浩介さんはしばらく玄関の床をじーっと見つめていたが、ようやくボソリとつぶやいた。
「なにかあったっていうか……しちゃったの」
「しちゃった? 何を?」
「……………………キス」
「………………………え?」
 なんですと?
「キス?」
「………うん」
「マジで?」
「うん……」
「…………」
 ど、どうしよう……。
 頭の中がぐわんぐわんしてきた。
「うわあ……」
 神様……この世に生を受けたことを感謝します……。
 生きててよかった……。
 神様、ありがとう……。
「………南ちゃん?」
「あ」
 思わず胸の前で手を組んでお祈りのポーズをしていた私。浩介さんからの呼びかけにハッと我に返った。
「あの……それ、いつの話?」
「後夜祭の時……」
 一か月半も前の話じゃないの。
「無理やりしちゃったってこと?」
「いやいやいやいや」
 浩介さんが慌てて首を振る。
「話ししてて……なんか自然に……」
「ほー……」
 後夜祭……キャンプファイヤーの火に照らされる二人の姿……。
「………」
 くっそーーーーっ!なんでその現場見逃したんだ私!!!
 内心のグルグルを押し隠して、浩介さんに問う。
「で、そのあとそのキスについて何か話した?」
「話してない。なかったことになってる感じ……」
「なるほど。で、ギクシャクしてる、と?」
「うん……」
 お兄ちゃん……なんでここで逃げるのよ。情けない。
「で、浩介さんはどうしたいの?」
「どうって?」
「お兄ちゃんと付き合いたいの?」
「-----ええええええ!?」
 浩介さんが飛び上がる。
「そ、それは……っ」
「だってキスしたってことは、好きってことでしょ?」
「えっえええ?! で、でも……っその……っそれは……っ」
 気の毒なくらい真っ赤になっている浩介さん。
「あの……っ」
 まあまあ落ちついて、と浩介さんを座らせる。
「前に浩介さん、バスケ部の美幸さん、だっけ? 好きだったよね?」
「………あー……」
「彼女に対する気持ちと、お兄ちゃんに対する気持ちと、どう?同じ?」
「あー……うー……んと……」
 浩介さんはしばらくうーんうーんと唸ってから、
「美幸さんは見てるとふんわり癒されて……ずっと見ていたい、とは思ったけど……」
「じゃ、お兄ちゃんは?」
「慶は………」
 浩介さんはカバンのひもを無意味にガシガシと引っ掻きながら答える。
「一緒にいたい、と思う。だから今落ち込んでんの」
「今も一緒にいるじゃない」
「そうなんだけど……一緒にいて、頭なでたい、とか思ってて……。けど、さけられてて……」
「なるほど」
 それじゃ。
「抱きしめたい、とか思う?」
「………思う」
「キスしたい、とか?」
「…………うん」
「それ以上のことも、とか?」
「それ以上って?」
 浩介さんが眉を寄せる。
「男同士でそれ以上って何するの?」
「あー……」
 そりゃそうだ。ノンケで真面目な男子高校生が男同士のそれ以上なんて知るわけないがな。
「まあ、それについては、必要とあらばおいおい説明します! とりあえず、今、大切なのは、浩介さんの気持ちよ!」
「おれの……気持ち」
「お兄ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「慶のこと……」
 ふっと浩介さんの目が遠くを見つめた。
「中3の時からずっと憧れてた。高校入って友達になれて、いつも支えてもらってて……大好きだよ」
「友達として?」
「だと思ってたんだけど……」
「友達とキスしたいとは普通思わないわよね」
「うん………やっぱり普通じゃないよね」
 浩介さんは大きくため息をついた。
「昨日今日と連休で慶に会えなかったじゃない? なんかおれ頭おかしくなりそうでさ、それで我慢できなくて来ちゃったんだよね……」
「そうだったんだ……」
「ま、会えたとしても、また近づいたらよけられて、それで余計に悶々としちゃうんだろうけど……」
「あのー……」
 はい、と手を挙げる。
「思いっていうのは、言葉にしないと伝わらないよ。ちゃんと言葉にしないと」
「思い?」
「抱きしめたいって思ってる。キスしたいって思ってるって、言えばいいじゃない」
「それは………っ」
 浩介さんがビックリしたようにこちらを見た。
「そんなこと言って、嫌われたら……」
「そんなことで嫌われるような関係じゃないでしょ? 二人の絆ってそんなもん?」
「…………」
「お兄ちゃんのこと……好き、なんでしょ?」
「…………」
 こっくりと浩介さんが肯く。
 よっしゃ!という内心のガッツポーズは押し隠し、浩介さんの肩をポンポンとたたく。
「6時頃帰るっていってたから、今から駅で待ってればお兄ちゃんに会えるはずよ」
「…………」
「駅前のクリスマスツリーのイルミネーション、すごく綺麗なの。告白にはバッチリのシチュエーションよ」
「南ちゃん………」
「頑張って!」
 戸惑い気味の浩介さんを力をこめて押し出す。
 告白……見に行きたいけど、さすがにそこは遠慮してあげるよ、二人とも!

 そして夜8時頃、ようやく帰宅したお兄ちゃん。
 その顔を見れば、うまくいったということは一目瞭然!
 だけど、内緒にするって浩介さんと約束したから何も言わないでおくよ。でもお兄ちゃんの今の幸せは、私の影での支えがあったおかげなんだからね!

・・・

 で。以下単なる下ネタです。上記の話から1年7か月後の話。

「南ちゃん、売ってる場所教えてくれれば自分で買いに行くから……」
「ぶぶー。ダメです。教えません」
 浩介さん大学1年生。お兄ちゃん浪人1年生。私高校三年生。
 お兄ちゃんが予備校から帰ってくるまで時間がある。今がチャンス。

 お兄ちゃんと浩介さんが付き合うことになったあと、私は親友・天野っちのお姉さんと相談して、「それ以上のこと」が書かれた本と、その行為がスムーズに行われるためのローションを浩介さんにプレゼントした。報告をすることを条件に。
 でも、浩介さんはのらりくらりとかわして今まで話してくれなかった。が。ようやくチャンスが巡ってきた。浩介さんのほうから、あのローションの購入先を聞いてきたのだ。と、いうことは、使い終わるくらいの回数は事をしたって事よね?

「南ちゃん………なにを聞きたいの?」
「んーまず、どちらがどっちなのかってこと」
 そう。名付けて、どちらが受か論争。
 天野っちと天野っちのお姉さんとそのお友達とかと、よくその話になる。どうやって決めるのだろう?と……。
 お兄ちゃんと浩介さんとでいえば、背の高さでいえばお兄ちゃんが受かなと思うんだけど、性格的には案外とお兄ちゃんのほうが男らしいところあるし……。
「慶には絶対に内緒にしてよ……」
「当然です。絶対に話しません」
 お口にチャックの仕草をすると、浩介さんはやれやれと息をついてからポツリポツリと話し出した。

 初めのうちは、両方試してみた、のだそうだ。
 でも、お兄ちゃんが受になることが多くなり、最近は100%お兄ちゃんが受、なのだそうだ。
「それはなんで?」
「なんで……って、うーん……」
「そっちのほうがしっくりくる、とか?」
「うーん、それもあるけど……」
「あるけど?」
「慶、体柔らかいからね。それが一番の理由かも。おれ体固いし」
「……それ関係あるの?」
「あるよ。柔らかくないとできない体位とかあるもん」
「……なるほど」
 想像してたら……頭クラクラしてきた。鼻血が出そうだ。ああ、まだまだ未熟だな私……。

「もう、いいでしょ?! 話したんだから、売ってる場所を……」
「いやいや、今回はまあこれでいいとして……はい」
 新しいローションの入った紙袋を目の前に突き出す。今回も天野っちのお姉さんが用意してくれたのだ。
「なくなったらまた言ってね」
「だから、教えてくれれば自分で買いに行くって……」
「いいからいいから。お兄ちゃん帰ってくる前にカバンにしまってっ」
「………」
 不承不承の顔で浩介さんがカバンにしまう。
 今度までに質問事項をきちんと整理しておこう……。

 と、思ったのに……。
 この件に関して聞けたのは、これが最後になってしまった。浩介さんが大学の友人に聞いたとかで自分で入手できるようになってしまったからだ。ちぇーっ。
 まあでもとにかく。二人がちゃんと事をできたのは、そう、私のおかげです!!!
 感謝してよ、お兄ちゃん……って思うけど、浩介さんとの約束なので兄には内緒です。私ってば本当に影の支えだわ!


------------------


年末に何を書いているんでしょうか。私^^;
それ以上、の話、今ならネットで調べたりできるでしょうが、当時(慶たちが高2のときは1991年)はそんな便利なものなかったのでね。購入先も調べられないからね。そんな時代でした。
ちなみに慶はそれ以上の方法、知ってました。南の愛読書をコッソリ読んでたから。南が兄が読むように仕向けてたからね。ほーらやっぱり南ちゃんのおかげ♪

は~南ちゃん視点、楽しすぎた~♪
書いてすっきりしたので、今年はこれで書き納めとします。

6月30日からはじまった昔のノート整理。
お付き合いくださりありがとうございました。
無事に全部シュレッターかけ終わりました。

来年からはペースを落として、更新していこうと思います。
次は慶たちが大学生の時の話を書きたいな、と。

それでは皆さま、良いお年を。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする