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BL小説・風のゆくえには~眼鏡の話(後編)

2024年02月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 話は高校生時代に遡る。

 浩介と享吾は同じバスケ部だった。
 そのバスケ部男子の中で、とある女子……ずっと眼鏡だったけれど、ある日突然、コンタクトにしてきた女子のことが話題になり、

「眼鏡やめて正解」

 という意見が大半をしめる中で、一人の部員が、

「オレは眼鏡の方が好き」

と、言い出したそうだ。

「眼鏡の子が、時々、眼鏡外した時に、『え、かわいい』ってドキッとなる感じが更にいい」

 なんて、マニアックな意見まで言い出し、賛否両論巻き起こった中で、享吾は断然「眼鏡賛成派」だったそうだ。


「村上って、普段こういう話に全然乗ってこないのに、この時だけは、すごーく食い気味だったから、印象に残ってるんだよねえ」

 記憶をたどるように、天井を見上げながら浩介が言った。

「だからきっと、村上の好きな子は眼鏡かけてるんだろうなあって、その時思ったんだけど、正解だったね」
「……………………………」

 ぐっと詰まったようになったテツの顔がみるみる赤くなっていったのは、酒のせいだけではないだろう。

「あ、そうだ。しかもね、現国のゆっきー先生って覚えてる?」
「あー、結構美人な…」
「おばさんになりかけの先生だったよな?」

 言い合ったおれとテツに「そうそう」と浩介がうなずいてみせた。

「ゆっきー先生、時々、眼鏡をヘアバンドみたいにあげることあったじゃない? さっき、村上がしてたみたいな感じに。今思い返せば、あれ、老眼だったからなんだろうけど」
「…………」
「あれも、かわいいって話になって、村上も同意してた」

 テツと享吾は名字が同じ「村上」だから話がややこしい。でも浩介はそのまま二人とも「村上」でいくつもりのようだ。

「だから、きっと、村上は村上が遠近にしたことで、眼鏡外さなくなっちゃったことが残念でため息ついてるんだと思うよ」
「そうかなあ……」
「そうだよ!」

 浩介が自信たっぷりにうなずいている。

「今日帰ったら、是非、眼鏡こうやって外してみて。絶対喜ぶよ!」
「えー……」

 助けを求めるようにこちらを見たテツに、軽く肩をすくめてみせる。

「やるだけやってみろよ?」
「やってみて!やってみて!」
「う…………」

 勢いにおされてうなずいたテツ。


 とは言うものの……
 正直、この歳になって、それでため息つくだの喜ぶだのって、そんなことあるかよ……と思っていたのだけれども……

 数時間後、テツからLINEがきた。

『桜井の説、当たってた』
『ずげー』

 ………マジか。

「…………だってさ」

 スマホの画面を見せてやると、浩介は「でしょ?」と得意げにVサインを作った。

「三つ子の魂百まで、だね」
「…………」

 若い時ならともかく、今年50の男に、そんなかわいさ?を求めるって……

「享吾もなんつーか……相当、変な奴だな」

 思わず本音をつぶやくと、

「えー!変じゃないでしょっ」

 むきになったように浩介が言い返してきた。

「おれは、慶が眼鏡かけなくなったら、ため息どころの騒ぎじゃないからね!」
「なんだそりゃ」

 眼鏡って言っても、老眼鏡だっつーの……

「もちろん、素顔の慶もかっこいいんだけど!でも、でも!眼鏡かけてる慶もかっこよすぎるんだもん! 誰にも見せたくないって気持ちとみんなに自慢したいって気持ちが錯綜して、ほんと困ってるんだからね!それくらいかっこいいんだからね!」
「……。お前、それ、前から言ってくれてるけど、これ、老眼鏡……」
「老眼鏡でもかっこいいの!」

 浩介が興奮したようにまくし立ててくる。

「おれ、眼鏡の慶が見られるようになって、老眼に感謝してるんだから! 村上もきっと、眼鏡を外す村上を見られるようになって、老眼に感謝してると思うよ!絶対!」
「……なんだそりゃ」

 訳が分からない話になってきた……が。

 老いたことをマイナスに思わずにいてもらえることは、有り難いというか……

「……幸せだな」

 思わずつぶやいてしまったおれに、「うん!」とうなずく浩介。

「幸せだよー。こんなにかっこいい人と一緒にいられるなんて、本当に幸せ者だよー」
「あー……、そうじゃなくて」

 こんな風に、何年たっても思ってもらえるなんて、本当に幸せなことだと思う。
 そして……

「そうじゃなくて?」

 きょとん、とした浩介。
 昔から変わらない表情。おれも、何年たっても、この表情がかわいくて、愛しくて、たまらない。そんな相手と一緒にいられることが……

「そうじゃなくて……」
「うん」
「おれがお前と一緒にいられて幸せって話」

 言いながら、耳のあたりに軽くキスしてやると、

「……え」

 浩介がびっくりしたように目を丸くしてから、ふにゃ〜とこちらにもたれかかってきた。

「慶ー……幸せー……」
「……そうだな」

 浩介のこういうところも、変わらず愛しいと思う。

 どれだけ年齢を重ねても、変わらない。そんな日々が続いていく。

(……そうは言っても、老眼に感謝はしねーけどな)

 治せるものなら治したい。誰か特効薬作ってくんねーかな……と、常々思っていることは言わないでおく。



---

お読みくださりありがとうございました!
ただイチャイチャさせたかっただけのお話にお付き合いくださり本当にありがとうございます……なんかすみません……
なんか……なんでしょう……
いいかげん長い話を書きたい……けど、そうなると慶と浩介の話じゃなくなる……。二人が出てこないことに耐えられる自信がない私……

という感じで……

読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!また……


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