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BL小説・風のゆくえには~グレーテ2

2018年03月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【チヒロ視点】



「僕のこと、好きにしていいです」

 祈るように手を組んで見上げたら、真木さんが「いいよ」と肯いてくれた。

 そして、そっと優しく、頬に触れてくれた。



***


 日曜日の夕方、アユミちゃんが泣いた。僕の双子のお姉さんのアユミちゃんは、時々、こういう風に、この世の終わりみたいに泣く。

「絶対に許さない!リサも!小林も!」
「アユミちゃん……」

 歌舞伎町のキャバクラで働いているアユミちゃん。今日は小林というオジサンと同伴の約束をしていたのに、「リサと先に約束してたこと忘れてた」ってさっき電話で断られたそうだ。そんなのは絶対に嘘で、リサが横から奪ったに決まってるって、ずっと怒っている。

「ひどい。ひどいよ」
「うん。ひどいね」

 抱きついてきたアユミちゃんを抱き止めて、頭をイイコイイコと撫でてあげる。

「チーちゃん………」
 アユミちゃんはグスグスと鼻をすすりながら、こちらを見上げた。

「ごめんね。せっかくチーちゃんがお金ためて可愛くしてくれたのに、私まだ、可愛くないみたい」
「そんなことないよ!アユミちゃんは一番可愛いよ!」

 アユミちゃんの希望通り、目もパッチリにした。アゴもシュッとした。これ以上ない完璧な顔。

「でも、どうしても、リサに勝てない……」

 悲しそうなアユミちゃん。どうにかしないと………

「どうしたら勝てるの?」
「……………。とりあえず、小林よりもカッコよくてお金持ちの人と同伴したいの」
「……………」

 カッコよくてお金持ち……

「チーちゃん、誰か知らない?」
「えーと……、あ!」

 パッと閃いた王子様。真木さんなら絶対に誰も敵わない。

「いる。2丁目のお店にくる人で背もすごく高くて顔もすごくカッコよくて高いホテルに住んでてタクシー代って5万円くれて……」
「その人!連れてきて!」

 アユミちゃんの顔がようやく明るくなった。でも………

「でも、来てもらえるかは………」
「大丈夫」

 にこーっとアユミちゃんが笑った。

「チーちゃんはかわいいから。前にも教えたでしょ? こうやって手をお祈りするみたいに組んで………」

 アユミちゃんの温かい手が僕の手を包み込む。

「かわいい顔で見上げて、『僕のこと、好きにしていいです』って言うの。そうしたら誰でも言うこと聞いてくれるから。ね?」
「………………」

 今までは『お金をください』を聞いてもらってたけど、『同伴してください』でも大丈夫かな………

「チーちゃんなら大丈夫」
「………………うん」

 アユミちゃんの言うことはいつも正しい。だから言う通りにする。



 ホテルの部屋のインターフォンを鳴らしたら、3回目でようやく真木さんは出てきてくれた。寝てたのか、少しボーッとしているけど、時間がないからすぐ話をした。

「姉と同伴出勤してほしいんです」
「………は?」

 いぶかしげに眉を寄せた真木さん。でも、お祈りのポーズで、一生懸命説明したら、ちゃんと聞いてくれた。それで、いくつかの質問のあと、

「で、その同伴するってお願い聞いたら、俺に何か利点はあるわけ?」

って、聞かれたので、あらためて、お祈りのポーズをした。そして、

「僕のこと、好きにしていいです」

 アユミちゃんに言われた通り、かわいい顔で言った。……………でも。

「………は?」

 再び眉を寄せた真木さん。

 …………。聞こえなかったのかな?

「あの! 僕のこと、好きにしていいです!」

 もう一度、大きな声で言ってみた。
 すると真木さんは「いや、あの、聞こえてるから……」と言って、少しだけ迷ってから………

「まあ………、いいよ」
と、うなずいてくれた。良かった。アユミちゃん。大丈夫だったよ。

「ありがとうございます」
 ほっとして真木さんを見上げると……

(え?)
 手が伸びてきて、そっと頬に触れられた。初めて、触れられた。

(なに?)
 こちらを見下ろす目は、すごく切ない色をしていて、でも、頬に触れてる手はすごく温かくて………

(………?)
 僕の知っている自信満々の王子様じゃなくて、優しくて儚げで……

(………っ!)

 何でだろう。心臓が痛いくらい大きく波打ちはじめた。喉のところが苦しい。何だろう……何だろう。真木さんの悲しそうな目が、温かい手が………苦しい。

「………………真木さん?」
「ああ………」

 ふっと真木さんは僕から離れた。

「同伴って、今日これからってこと?」
「はい」

 うなずくと、真木さんはかけてあったジャケットを着て(その着方も、サッてしてカッコイイ)、

「じゃあ、最上階のバーに来るように言って? 君はここで待ってなさい。ルームサービス頼んでいいから」
「あ……はい」

 そのまま、僕のことを一度も見ないで出ていってしまった。

「真木……さん」

 残っている真木さんの香りを大きく大きく吸い込む。良い匂い……。
 真木さんが触れてくれた頬を触ってみる。ドキドキする。

(もっと触れていて欲しかったな……)

 そんなことを思った。なんでかは分からないけど、そんなことを思った。



---

お読みくださりありがとうございました!

上記話らへんの真木さん視点が「その瞳に・裏話4」の前半になります。

次回、火曜日はこの続きからになります。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします!

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今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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コメント (2)
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