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BL小説・風のゆくえには~幸せな日々

2019年09月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【浩介視点】

 慶のお父さんが大腸癌の手術をした……らしい。
 らしい、というのは、おれの知らない間に検査で発覚していて、手術も無事に終わっていて、もう退院してきた、ということを、おれの誕生日祝をしてくれた席で聞いて知ったからだ。

 お父さんが癌になったということも、とてもショックだけれども、

(やっぱり本当の息子じゃないから教えてもらえなかったんだ。慶もおれに黙ってたんだ……)

と、図々しいながらも、そんなことも思って、ショックを受けた。

 けれども。

 慶も知らなかった、というから、驚いた。


「何で教えてくれなかったのかな」

 マンションに帰ってきて、二人並んでソファに座ったところで、慶に言ってみると、慶は軽く肩をすくめて、

「面倒くさいからじゃね?」
「面倒って……」

 なんだそれ。

「でも慶なんてお医者さんなんだから、色々話を……」
「専門じゃねえから、通り一遍のことしか知らねーよ」
「でも……って、」

 なおも言い募ろうとしたら、ゴンとおでこを拳骨で押されて止められてしまった。慶が呆れたように言ってくる。

「そうやって心配されんのが面倒だから、終わってからの報告でいいって判断だったんだろ」
「…………」
「なんだその口」
「んん」

 思わず口を尖らせていたら、きゅっと口を摘ままれた。

「だって……」
「もう歳なんだから、あちこちガタがくるのは当然なんだよ。むしろ今まで何もなかったのが奇跡。うちの父親、渋谷家の男にしては長生きなんだよな」
「は!?」

 慶のセリフに叫んでしまった。

「お父さんまだ78だよ!?」

 何言ってんの!?と、いうと、慶は「いやいや」と手を振った。

「じいちゃんも伯父さん達も、みんな70前後だったからさ。父さんも覚悟はできてるだろ」
「そんな覚悟しないでよっ」

 慶が普通のことのように言うので、グラグラしてしまう。

「そんな……」

 おれは両親とも長寿家系、なんだと思う。父方の祖父は事故で亡くなってるから除外として、最期の数年をうちで過ごした父方の祖母は、百歳近かった。今、父は86だけど相変わらず矍鑠としているし、父の兄姉も、そして母の兄姉も、みんな存命で、しかも元気だ………

「慶……そんな話、初めてきいたよ……」
「そうだっけ?」
「うん……」

 同年代のいとこが女の子しかいない、とか、お正月に京都のおばあちゃんのうちに行った、とかは、学生の頃に聞いた記憶はあるけれど、それ以外、親戚の話なんてほとんどしたことがない。数回、誰かのお葬式に行くとか聞いたくらいで……

 おれは親戚といえば、嫌な印象しかない。親戚と会った後は必ず母の機嫌が恐ろしく悪くなるので、なるべく関わりたくない、としか思えない存在だった。

(だからかな……)

 おれが親戚の話を避けていた、のかもしれない。

 あらためて、考えてみる。
 例えば本当に、渋谷家の寿命が70で、桜井家が90だったとしたら……

(20年……)

 血の気が引いてしまう。
 慶がいない世界で、おれはそんなにも長い時間を生きなくてはならないのか……?

「慶……どうしよう」
「あ?」

 テレビのリモコンに手を伸ばしていた慶が、その姿勢のまま振り返った。

「何がどうしよう?」
「桜井家は長寿家系なんだよ」
「おーそりゃいいな」

 お父さんも元気だもんなーと慶が呑気に言うので、たまらなくなって、後ろからだきしめた。

「だから、どうした?」
「どうした、じゃないよ」

 その柔らかい髪に顔を埋める。優しい感触。昔から変わらない……

「慶がいなくなったらおれ、生きていく自信ない」
「何言ってんだよ」

 ぽんぽんと抱きしめている腕を叩かれた。

「お前は大丈夫だよ。お父さんだってあんなに元気に老後を過ごしてるんだから、お前も元気に」
「過ごせないよ! 慶がいない世界なんて……」

 そんなの……そんなの……

 耐えられない。耐えられるわけがない。
 慶がいない世界……
 また、ブラウン管の中に閉じ込められる。また、死ねないから生きているだけの世界がはじまる。

 そんなことになるなら、いっそ、慶が旅立った時に……

 してはいけない想像をしてしまった、その時。

「だから大丈夫だって」

 振り返った慶が、いたずらそうに、笑った。

「おれ、いなくならないから」
「でも」

 渋谷家は短命って……

 いいかけたけれど、また口を摘ままれた。そして。

「おれ、成仏しねーから」

 湖みたいな瞳をキラキラさせながら、慶がいった。

「お前がこの世にいる間は、絶対成仏しねえで、お前のそばにいるから」
「え」
「だから安心しろ」

 ………。
 ………。
 ………。

 え?

「成仏?」
「おお。絶対しねーぞ。おれは絶対負けねえ。ずっとお前のそばにい続ける」
「………」
「だから安心しろ」
「………」
「………」
「………」

 ドッと、体の力が抜けてしまった。慶の肩口に頭をのせる。

「慶……」
「なんだ」

 ゆっくり頭を撫でてくれる優しい手……

(ああ、本当に……)

 敵わないな……と思う。

(慶ならやりかねない……)

 想像すると、ちょっと可笑しい。

「慶……ずっとずっと一緒にいてね」
「おお」
「ずっとずっとだよ?」
「おお。まかせとけ」

 慶。慶。愛しい愛しい慶……


「あ、何かテレビ見ようとしてた?」
「ああ、ニュースと天気予報」
「うん。どうぞ。何か飲み物入れるけど、コーヒー?お茶?紅茶?」

 体を離して立ち上がる。と、

「浩介」
「ん」

 引き寄せられ、ちゅっとキスされて、体中に幸せが充満してくる。

「お茶がいいなー」

 にこにこと言う慶の頭を軽くなでる。

「わかった。待ってて」

 お揃いの湯飲み。
 聞こえてくるテレビの音。

「明日も暑くなるってさ」
「えー嫌だねえ」

 たわいない会話。
 ずっと続く幸せな日々。永遠に、永遠に続く幸せ。


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お読みくださりありがとうございました。

これを持ちまして、長期休載に入らせていただきます。

この「風のゆくえには」シリーズの最終回は頭の中では書きあがっています。
が、2041年12月23日のお話なので、あと22年経たないと書けません^^;

私がまだ高校生の時に、「~翼を広げて」という29歳からの3年間のお話をノートに書いて、あとからエライ苦労したので(書いた当初は携帯電話なんてなかったけど、29歳の時に携帯ないわけないから、辻褄合わせが大変だった。あと天気も)、未来の話は二度と書かない、と決意しているのです。

きっと、2041年も今とは違う色々なことがあるはず。だから、2041年12月が来るまで、最終回は書けません。
このブログが22年後まで残っているかどうかは分かりませんが……もし残っていたら、最終回を書きたいと思っています。

でも、その前に、生活が落ち着いたら、また書きたいなあーとは思ってます。それに、ちゃんと時系列順に読めるように、どこか良いサイトに写したいなあーとも思っていたりして……。

今までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。ランキングクリックもとっても励みになりました。本当にありがとうございました。

彼らは今もこれからもずっと幸せに暮らしています。
皆様もどうぞお幸せに……



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