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BL小説・風のゆくえには〜雨の記憶(後編)

2020年10月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 久しぶりに浩介と喧嘩した。
 きっかけは、浩介の車の迎えを断った当日に、タイミング悪く、知り合いの車で送ってもらってしまったことだった。

 迎えに来てもらえることは、正直、体力的に有り難かったし、少しの時間だけどドライブしてるみたいで気分転換にもなって楽しかったので、ついついずっと甘えてしまっていた。
 でも、そのために浩介が早起きをして晩御飯の用意をしている姿を見た瞬間に、背筋が凍った。

(おれはまた、甘えてる)

 忙しいことを理由に、浩介に甘えてばかりだった昔の自分を思い出して、ゾッとした。こうして無理をさせて、おれは……おれは。

「もう迎えに来なくていい。運動不足になるから歩きたいし」

 咄嗟に、そういった。運動不足のことはとってつけた理由だったけれど、実際ちょっと気にはなっていたので、嘘ではない。

 でも、結局、この日、知人にたまたま車で送ってもらってしまって、浩介の機嫌がみるみる悪くなって……。言い争ったら余計なことを言ってしまいそうで、

「うるせえなあ。そんなことより、メシ」

 思わずそう言って言葉を遮ったら、浩介がプチッと切れた。本来ならここで話し合うべきだったんだろうけど、おれも冷静に話せる自信がなくて、これ以上の会話は避けた。

 でも結局、翌朝、話の流れで、雨の日に昔の記憶がよみがえってしまうことを浩介に知られてしまい……

(最悪だ)

 これでは雨が降る度に、浩介が心配してしまう。こうなることが嫌でずっと黙っていたのに……。


 約17年前の雨の朝、浩介はおれの前から姿を消した。あの日の絶望感は、何をどうやっても消すことはできない。

 浩介と一緒に東南アジアを転々としていた間は、忙しかったことと、異国に一緒にいる、という安心感からか、思い出すことも少なかったように思う。

 でも、帰国して……、精神的や肉体的に落ちているときの、特に雨の日に、ふ、と不安に襲われるようになった。それはもうどうしようもない。その都度、浩介に連絡を取ったりして、逃れてきた。そうなる回数も年々減っていたし、こうして自分の中で解決すればいいと思っていた。それなのに…………

(失敗した)

 なんでバレたんだ。もっと上手く誤魔化せれば……。
 後悔先に立たず。それから数日、ギクシャクしたまま過ごすことになった。でも、とにかく『お迎え』は止めるようにした。木曜日に雨は降ったけれど、運良く帰宅時間には降らなかったので助かった。

 でも、土曜日は、シッカリと雨が降ってしまい……

『8時の電車に乗る』

 毎日の習慣で、渋谷で何時の電車になるか分かった時点でラインを打ったけれど、正直、気が重かった。
 今日は浩介は休みだし、『車で迎えにいく』ってラインが返ってくるだろうか? それとも、来るなと言われたことを気にして何も言ってこないか……?

と、思っていたら、

『了解です。改札で待ち合わせね♥』

と、ノーテンキな返事がきた。

(改札で待ち合わせ?)

 スーパーの駐車場に車を停めてあるのか? ただのお迎えだと、道路に停めて乗り込むけれど、迎えついでに買い物をしている時は、改札で待ち合わせることもある。

(じゃあ……まあ……いいか)

 買い物のついでなら……、と思っていたら、続けてラインが入った。

『相合い傘で帰ろうね♥』

 ……………………………。は?

 相合い傘? 何言ってんだこいつ? まさかこの雨の中、傘持たずに来たのか?

 意味分かんねえなあ……

 頭をハテナでいっぱいにしながら最寄り駅に到着。改札を出た先に、約束通り浩介がいた。

「慶!」
「……………………………」

 思わず、ぐっと詰まってしまう。

 マスクをしていても伝わってくる温かい笑顔。未だにときめいてしまうおれも大概だよな……。何年、いや、何十年もたつのに……。

 そんなおれに気がついた様子もなく、浩介は機嫌良く「おかえりなさい!」というと、

「ほら!これなら相合い傘できるよ!」

と、右手を突き出してきた。そこには見覚えのない、やたらと長い傘。

「こんな傘持ってたっけ?」

 聞くと、浩介は、

「借りにいったら、使わないからくれるってー」

 借りにいった? 誰に?

というおれの質問は聞こえなかったようで、

「ほらほら、大きいでしょ? これなら相合い傘しても濡れないよ♥」

 はしゃいだように言いながら、歩き始めた。屋根がなくなったところで、ばさりと傘が開く。

「うわ、でけーな」
「でしょでしょー? ほらほら入って入って!」

 入ってと言われても……

「おれも傘持ってんだけど……」
「いいからいいから!」

 腕を取られ、無理矢理相合い傘が始まる。

「今日、ホントに寒いよねー。でも慶とくっついてるとあったかい♥」
「…………」

 確かに冷たい雨の中、必然的にくっついている場所から体温が伝わってくる。一緒に聞く雨の音。一緒の傘で避けられる冷たい雨……

 あの朝の雨は、もっと冷たかったな……

(……って、違う違う)

 危うく記憶の深淵に沈みそうになり、頭を軽くふる。話題を変えよう。話題を。

「で、この傘誰にもらったんだ?」

 どうせ、あかねさんだろ?と言ってみると、浩介は、

「違うよー。ほら、これ読める?」

と言って、柄をこちらに見せた。何か小さな字が彫ってある……が。

「嫌味か。こんな暗いところでこんな細かい字見えるわけねーだろ」

 数年前から早々にはじまった老眼のせいで、小さい字は全然読めない。しかも夜になると余計に読めない。

 すると、老眼がまだきていない浩介が「やっぱりダメだったか」とちょっと笑ってから、スイッとおれの手をとって、その彫に指をそわせた。

「ローマ字でね、名前が彫ってあるの」
「名前?」
「うん。てぃーえーでぃーえーおー、えすえー……」
「…………」

 TADAO SAKURAI……ただおさくらい。

 桜井、忠雄。

 浩介の、お父さんだ。


「…………ああ、なるほど」
「うん」
「お父さんのか」
「うん」

 お父さんに、借りにいったんだ……。

 胸がつまって声が出なくなる。
 17年前、浩介が日本から出て行ったのは、ご両親と距離を置きたかったということが、大きな理由でもあった。帰国したばかりの頃は、お母さんに再会しただけで嘔吐してしまうほどの拒否反応がでていた。それを少しずつ少しずつ緩和していって……

「あのね、雨の日の良い思い出を作ろうと思ったんだよ」

 浩介の優しい声が、傘の中でこだまする。

「それで何がいいかなーと思って……で、相合傘!って思いついて」
「………」

 浩介はニコニコしながら言葉を継いだ。

「で、昔、実家にすごい大きな傘があったこと思い出したの。大きすぎて使いにくいとかいって、父も全然使ってなくて」
「…………」
「でも結構、高級そうな傘だったからさ。きっと30年たっても悪くなってないから、絶対捨ててないだろうって思って電話で聞いてみたら、やっぱり捨ててなくて」

 指をそわせるために取られた手が、いつのまに「包み込む」に変わって、大きな傘を二人で掴んでいる。

「で、くれるっていうからもらったんだよ。このご時世だから、中には入らないで、玄関先でちょっと喋っただけだけど」
「そっか……」

 おれは自分の両親にも浩介の両親にも、2月以来、一度も会っていない。浩介が一目でも会えたなら良かった。

「お父さんもお母さんも元気だったか?」
「うん。あいかわらず。もともと好んで人づきあいする人達じゃないから、生活変わってないしね。むしろ、行きたくない付き合いに行かなくてすむようになって喜んでたよ」
「そっか」

 浩介のお父さんとお母さんは、夫婦で庭いじりを趣味としている。お父さんは読書家だし、お母さんは裁縫や料理も趣味だし、この出かけられない生活も特に問題ないのかもしれない。

 うちの両親は、飲み会大好き・外出大好きなので、相当ストレスがたまっている。趣味の絵画教室やフラダンス教室が最近ようやく復活したと、先日の電話でも嬉しそうに言っていた。

 夫婦も色々だな。おれたちも30年後、どうなってるかな……

「あ、でね、おかず色々もらえたから、今日も明日もご飯炊くだけで大丈夫ー」
「お。さすが」

 浩介のお母さんは料理上手だ。きっと張り切って息子に持たせるための料理を作ってくれたことだろう。それを喜んで受け取ることができるようになった浩介。この数年で本当に、本当に変わった。こんな風に両親の話ができるなんて……

「あ、でね、父がインスタ始めたんだよ」
「は?! インスタ?!」
「うん。ひたすら、ご飯と植物が写ってる」
「へええええ……」

 86歳でインスタ。すげーな……

「うち帰ったら見せるね」
「おお」

 雨の中、聞こえてくる浩介の嬉しそうな声。

 浩介……本当に、本当に……日本に帰ってきて良かったな。

「相合傘いいねえ」
「……おお」
「手、くっついててもバレないし」
「……だな」

 くっついているところから伝わってくる体温。

(雨の日の良い思い出……か)

 以前、浩介が言っていたことがある。
 昔の辛い記憶がよみがえった時には、ひたすらに、おれとの楽しい思い出を思い出す、と。そうして辛い記憶から抜け出すのだと。

 すいっと浩介を見上げると、昔から変わらない大好きな浩介の瞳が優しく微笑んでいる。

「慶」
「…………」

 ここにいる、浩介。
 隣に並んで歩いてる。

 17年前、日本から逃げ出した浩介。
 でも、今はもう、逃げ出す理由は……ない。理由はもう、作らせない。
 
「慶?」
「…………」

 くそ。泣きそうだ。なんだこれ。

「慶? どうかし……」
「あ!」

 誤魔化すために、「そういえば!」と、浩介の手をパチパチ叩いてやる。

「相合い傘といえば、お前、高校の時に美幸さんと相合い傘してたよなー」
「…………う」

 覚えてたか……とボソッと言った浩介。ってことは、当然、浩介も覚えてるんだよな。

「あー思い出して腹立ってきた」
「えええ」
「あー腹立つー」
「ちょっと待ってよ。あれ、そもそも慶が待ち伏せしろってけしかけたんじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」

 あいかわらず恐ろしい記憶力の浩介。

「もー変なことばっかり覚えてるんだから慶はっ」
「それだけ辛かったからなーあー片思い辛かったなー」
「もーやめてー」
「やめねー」
「えー」

 言いながらも二人で笑いだしてしまう。

 さすがにまだ、17年前の朝を笑い話にすることはできないけれど……、でも、今度思い出して沈み込みそうになったら、今日のことを思い出そう。そうしたら、きっと……きっと。

「こうやって、ずっとずっと、一緒に歩いていこうね?」
「…………おお」

 おれ達はずっと一緒にいられる。雨が降っていても、こうして同じ傘を二人でさして。



---


切るに切れず、長々と失礼しました。最後までお読みくださり本当にありがとうございます!!

ようやく少しは慶のトラウマが薄まったかなあ?
でも、前から思ってたんですけど、この件、慶だけが被害者面するのってすごいモヤるんですよね〜〜。元々あの頃、慶がもっと浩介と向き合えていれば、少なくとも何も言わずに出ていくことはなかったでしょうに……。もちろん、その反省も含めてのトラウマなんだけどさ……でもモヤるわ〜〜。もうこの件で浩介の前でウジウジするのは止めてほしいわ〜〜。なんて思いました。

ということで。
ランキングクリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうございます!おかげで解決編も無事におわりました。
また今度……


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BL小説・風のゆくえには〜雨の記憶(中編)

2020年10月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】


 翌朝………

 すごい幸せな気持ちがしながら目が覚めた。それもそのはず。

「…………慶」

 腕の中に慶がいる。慶を抱きしめた状態で目覚めるなんて、何ヶ月ぶりだろう……

「慶」

 心の中がぎゅうっとなりながら、抱きしめる腕に力をこめると、慶が「ん…」と身じろぎをした。そして、

「浩介」
「!」

 きゅっと抱きしめ返されて、幸せ過ぎて気を失いそうになる。ああ、なんて幸せ……

 と、思っていたら、

「……浩介」

 ボソッと慶が言った。

「…………ごめん」
「………………………………え」

 ごめん? ……あ、そうだ。喧嘩してたんだった!
 忘れてた、なんて言えるわけもなく、慌てて言葉を継ぐ。

「ううん。おれの方こそごめんね。誘われたら断われないよね」
「まあ……うん。それもなんだけど……」

 慶は言いにくそうに、おれの肩口にグリグリとおでこをつけると、

「元々……おれが帰りに電話したことから始まっただろ?お前のお迎え」
「え……あ、そう……だね」

 先月、雨が降っていた日の夜、慶から珍しく電話がかかってきたのだ。それで、おれが迎えに行くことにして……

「その後も甘えて迎えにきてもらってて……」
「それはおれが迎えにいきたくて行ってるんだから」
「それでも」

 慶の頭が「違う」というように揺れた。

「お前だって働いてんだからダメだろ。メシの用意だってしてもらってんのに、甘えてばっかで……」
「そんなの……」

 この会話……前にもしたことある。あれは二年前の年末、慶がおれがいなくなったのかと勘違いして……

 嫌な予感がして、指先が冷えてくる。

 そうだ……そもそも、先月、慶は何で電話をかけてきたんだろう? あの日……

『浩介……今、どこにいる?』

 今思えば、電話の向こうの慶は、何だか怯えるような声をしていた。

「もう家だよ!」

 元気よく答えると、慶はホッとしたように『そうか』と、息をついたので、「どうかした?」と聞いたら、

『雨が降ってて……』

と、小さく言ったのだ。だから、おれは「迎えに行くよ」って提案して……

(…………雨?

 雨。雨が降っててって……

「…………慶」

 まさか……まさか、慶。

「………雨が降ると、深い穴の中に落ちていく感じがするの……?」
「!」

 ビクッとした慶。

(ああ…………)

 ………正解だ。

 それこそ深い穴に落ちていく感覚が襲ってくる。

 あの日……雨が降っていた。
 おれが慶を置いて日本から逃げ出したあの日の朝も、雨が降っていたのだ。もう17年も前のことだけど、でも、慶はあの日のことを思い出すと、深い穴に落ちていく感覚に襲われると言っていて……

「慶……」
「…………」

 再びきゅっと抱きついてくる慶。落ちていかないように、抱きしめ返す。その柔らかい髪の毛をそっと撫でる。

「慶……大好きだよ」
「……ん」
「ずっとずっと一緒にいようね」
「……ん」

 小さく肯く慶の頭を撫で続ける。
 まさか、慶は雨が降る度に、あの時の記憶に支配されてしまうのだろうか? 今までそんな素振り見せたことないから気が付かなかったけど、まさか、17年以上ずっと? まさかそんな……

 頭の中がぐるぐるしたまま、頭を撫で続けていたら、

「……ほうれん草、朝食べるから」
「え……」

 突然の申し出に、ぐるぐるが止まった。
 ほうれん草?

「ごめんな。昨日、気が付かなかった。さっき気がついて」
「あ……うん」

 ほうれん草のお浸しを一人分ずつラップをかけて、冷蔵庫に入れていたことなんて、すっかり忘れていた。

「お前、もう行く準備しないとだな。朝食おれが準備するから」
「慶」
「先、顔洗ったりしてこい」
「慶、待って」

 出ていこうとする慶を抑え込む。慶は力が強いので本気を出されたら敵わない。大人しく残ったということは、まだいてもいいと思っている証拠だ。

「慶……」
「…………なんだ」

 なんて言えばいいんだろう。おれはどうしたら、どうしたらいいんだろう……

 引き止めたくせに、言葉が見つからず、また慶の頭を撫で続けていたら、慶の方からボソボソと話し始めてくれた。

「おれ、正直、迎えにきてもらって体が楽だった」
「え」
「それに、嬉しかった。一緒に出かけてるみたいで」
「だったら!」

 だったらやめなくてもいいじゃん、という言葉は、ぶんぶん頭を振って止められてしまった。

「そのせいで余計にメシ遅くなったり、お前が早起きするのは嫌だ」
「…………」
「運動不足も気になるしな。ジムにも行けてないし」
「…………」

 あかねに指摘された通りだな……
 でも、問題はそこではない。

「でも慶……」

 覚悟を決めて、言葉にする。

今週後半、雨の予報だよ」
「…………」
「…………」
「…………それは」

 大きなため息が聞こえてきた。

「別に雨が降ったら必ずなるわけじゃない」
「そうなの?」
「雨が降ってなくたって、なるときゃなる。ただ、雨が引き金になることがあるだけで」
「…………」
「だから、気にすんな」
「そんな……」

 気にすんなと言われても……

「なったらなったで、お前に連絡したりして、ちゃんとその都度、対処してる。だから大丈夫だ」
「…………」

 慶は冷静だ。さすがお医者さん、ということなんだろうか。でも……

「雨が降ったら心配だな……」
「あー……」

 慶は、あーあーあーと言いながら、おれの肩口にグリグリとおでこを押し付けると、

「クソ。だからバレたくなかったんだよ」

と、小さく言った。これ、本心だ。おれに心配かけたくなくて、慶はずっと、ずっと…………

「慶……ごめんね……」
「だから大丈夫だって」
「でも」
「でもじゃねーよ」

 イラッとしたように慶はいうと、今度は本当に腕の中から抜け出してしまった。

「とにかく、おれは大丈夫だから。遅刻するぞ?」
「うん……」
「早くしろ」
「うん……」

 台所に向かう慶の後ろ姿を見送りながら、おれは途方に暮れてしまった。
 

後編に続く

---


お読みくださりありがとうございました!

お、終わらなかった……
でも、ようやく「雨の日が苦手」という慶の秘密を浩介に知ってもらえた!
前々から、いつか話しなさいよ……と思っていたのです。ようやく、ようやくです。

しばらく時間取れないのでいつになるか分かりませんが、そのうち、解決編をお届けします。更新は火曜日もしくは金曜日です。

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BL小説・風のゆくえには〜雨の記憶(前編)

2020年10月13日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】

 慶と喧嘩をした。
 原因は、慶が帰宅途中、偶然駅近くで会ったスポーツジムのトレーナーの浜中さんの車に乗って帰ってきたことだ。

 いや、おれだってさすがに、ただ乗ってきただけなら文句は言わない。
 おれが車で迎えにいくことを「歩きたいから」といって断ったくせに、浜中さんの車には乗ったということが面白くないから、文句を言ったんだ。
 それなのに慶は、

「うるせえなあ」

と、呆れたように言って、

「そんなことより、メシ」

 って!!!!!

 は!? メシ!? そんなことより!?メシ!?

 そりゃ、おれの長所は「料理が上手いこと」だけど、おれはメシを作るために存在しているわけじゃない!

「勝手に食べれば?!」

 言い捨てて、リビングのソファに座りこんで、用もないのにスマホを見ていたら、慶は本当に、勝手についで、勝手に食べ始めた!信じられない!!

 本当はほうれん草のお浸しも冷蔵庫に入ってるのに、肉団子のスープだけ勝手に食べた慶は、勝手に食器も洗って、さっさとお風呂にも入っちゃって、

「おやすみ」

 の一言だけぶっきらぼうに言って、寝室のふすまをしめてしまった。感染症対策のため、寝室を別にしているので、これでもう、朝まで会えない……

「…………信じられない」

 おれは絶対に悪くない。悪くない。悪くないでしょ?!


 ……と、大学時代からの友人・あかねに電話で話したところ、

『あいかわらず面倒くさい男ねえ……』

 心底呆れたように言われてしまった……

「えーじゃーおれが悪いっての?」
『知り合いに偶然会って誘われたら断れないでしょ普通』
「歩きたいって断ればいいじゃんっ」

 おれにだってそう言って断ったくせにっ。

 そういうと、あかねはますます呆れたようにため息をついた。

『そもそもさ、なんで車で迎えに行くのよ? 雨でも降ってるならともかく。あんただって今日、仕事だったんでしょ?』
「そうだけど……」

 先月、数日雨が続いたときに、たまたまおれの帰りが早かったため、車で迎えに行くことが続いたのだ。
 車で迎えに行った時に、車に乗り込んでくる「仕事モードの慶」がカッコよくて、その後二人でほんの少しだけどドライブできるのも嬉しくて、ついつい、その後も車で迎えにいくことを繰り返していた。

 金曜日、晩御飯の用意が途中のまま迎えに行ってしまって、余計に晩御飯が遅くなってしまったので、今朝は、少し早く起きて、晩御飯の下ごしらえをしていた。

 そうしたら、慶が、

「もう迎えに来なくていい。運動不足になるから歩きたいし」

って言って……


『はー。なるほどね』

 電話の向こうのあかねがなぜか納得したように肯いた。

「何がなるほど?」
『慶君、あんたが朝早くから晩御飯の用意してたのが気になったんじゃないの?』
「は?」

 意味が分からない。

「なんで?」
『自分を迎えにいくために早起きしてるって……ちょっと重くない?』
「う」

 重い、といわれると、返す言葉がない。

『まー、歩きたいっていうのも本心かもしれないけど……あんたに無理させるのも嫌だったんじゃないの?』
「それは……」
『明日って慶君休みで、あんたは出勤よね? 家事は慶君にまかせて、朝ゆっくり寝てたら?』
「……………」

 慶の定休である火曜日は、毎週慶が夕飯を用意してくれる。朝はゆっくりしててほしいから、おれが朝食を作るんだけど、結局慶も起きてきてしまうことがほとんどで……

「………そうだね。寝てる」

「そんなことより、メシ」発言にもまだ腹立ってるから、朝食作りはボイコットしてやろう。

「……で? 何を探せって?」

 電話がかかってきた理由を思いだして、あかねに問いかけた。
 慶と一緒に暮らすこのマンションは、あかねが所有者であり、一室はあかねの荷物置き部屋になっている。あかねはこうして時々、ここにある物について問い合わせの連絡をしてくることがあるのだ。

『そうそう、クローゼットの右下に、中学校の卒業アルバムがあると思うんだけど』
「あー、あるある」
『一組の岡本って男子、見せてくれる?』
「うん」

 すぐに見つかった『岡本』という真面目そうな男子を、カメラに切り替えて写し出す。おれの知らないあかねの世界。なんか不思議な感じだ。……と、

『あー……、全然思い出せない』

 あかねが困ったように唸りだした。

「何? 再会したとかそういうやつ?」
『うん。向こうはよく覚えてるんだけど……全然思い出せないなあ。女の子は全員名前言える自信あるんだけどなあ』
「…………」

 あかねは子供の頃から女たらしだったらしい。

「写メる?」
『いらない。男の写真なんて一瞬でもフォルダーに入れたくない』
「……だよね」

 あかねは昔も今も男嫌いだ。

『人の記憶って不思議よねえ。その岡本と私、卒業式の委員を一緒にやったらしいんだけどね、その時の私のスピーチがすごく良かったらしくて、今でも思い出して感動するんだってさ』
「へえ……」
『私なんて、そのあと母親にダメだしされたことしか覚えてないのにね』
「………そっか」

 そう……人の記憶は様々だ。
 辛いことばかりだったおれの中学時代。唯一の光は「渋谷慶」だった。
 慶は、中学時代のことなんて、ほとんど覚えていない。高校時代の記憶も断片的だ。おれなんて思い出そうとすればいくらでも出てくるのに…

 なんて、思い出にひたりそうになったところで、あかねが『じゃ』と声をあげた。

『ありがとね』
「うん」
『さっさと仲直りしなさいよ?』
「分かってるよ……」

 はいはい、と言いながら電話を切る。そして切った画面を見ながら独りごちる。

「仲直りといわれても……」

 寝室も別々の今、今日はもう何もできない。


中編に続く。
 
---

お読みくださりありがとうございました!
昨日の夜のお話でした。
昨日予定が急にキャンセルになり突然ぽかっと時間が空いたので、これ幸いと書きはじめたのですが、書き終われなかった……
これも運命、ということで、とりあえず書けたところまで!
続きは今度の金曜日にあげたいなあと思っております。

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