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BL小説・風のゆくえには~片恋11-1(慶視点)

2016年01月31日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋


『おれ………フラれる、みたい』

 浩介がそう言ってから5日。
 今日は木曜日。写真部の活動日だ。

 浩介はさっきからずっと写真部の部室の窓から外を眺めている。ここからは、昇降口の前あたりとそこから校門へ続く道が見渡せる。今日は朝から雨が降っているため、窓の下には傘が花のように咲いている。

「…………」
 ファインダー越しに浩介の横顔をみる。カメラを通すとその人の内面まで見える、と、写真部部長の橘先輩がいっていた。
 今の浩介の内面は………

「……あ」
 ハッとしたように浩介が身を乗り出した。途端に、喜びと切なさが入り混じったような表情になる。
 そっと窓辺に近寄り外を見てみると……

(まあ……当然だな)
 そこには、浩介が片思いしている相手、三年の堀川美幸さんの姿があった。女友達と一緒に校門に向かって歩いている。鮮やかな赤の傘。上からみると相当目立つ。

「お前、昨日聞けたのか?」
「ううん」
 おれの質問に浩介が小さく頭を振る。そうしながらも視線は少しも美幸さんから外れることはない。

(浩介………)
 お前本当に、美幸さんのこと、好きなんだな……。



 5日前……

『おれ………フラれる、みたい』
 そういって半べそをかきながら抱きついてきた浩介を落ちつかせて、河川敷におりる階段の途中に並んで座って話しを聞いた。

 話によると、美幸さんと、バスケ部キャプテンの田辺先輩が、すごく仲が良さそうで、おそらく両想いなのではないか、と……。でもそれは浩介の勝手な予想の話であって、何の証拠もないことらしい。

「聞いてみたらどうだ?」
「聞くって?」

 ウルウルした目でおれを見かえしてくる浩介。くそー……かわいすぎる……
 抱き寄せたくなるのを何とか我慢して、淡々と言う。

「だから、美幸さんに田辺先輩のこと好きなのかどうか、聞いてみりゃいいじゃん」
「………。聞いて、好きって言われたら?」
「その時は……」

 諦めろって? そんなことは言えないか。
 実際おれだって今、お前が美幸さんを好きだって知ってても、お前のこと好きなままだしな。

「……お前がどうしたいかにかかってるんじゃねえの?」
「どうしたいか?」

 この会話、前にもしたな……

「前にお前、美幸さんとはとりあえず友達になりたいって言ってたよな? 付き合うのは恐れ多いって」
「うん……」
「それは変わってねえの? それとももう友達になれたから、次のステップに進みたくなったのか?」
「…………」

 あ、否定しないんだ……
 予想以上にショックだ。この沈黙……

 耐えられなくなって、立ち上がった。浩介の前に立って頭をグリグリとなでる。

「じゃあ、もう、お前、付き合ってください!って告白するしかねーじゃん」
「………ううん。やっぱり無理」

 浩介はされるがままに頭をフラフラさせながら言った。

「美幸さんは、女神様、だもん。付き合うとかそんなの無理」
「女神様………」

 あっそーですか……

 浩介はブツブツと続けた。

「こないだ練習してもらっておいて何なんだけど、やっぱり、手繋ぎたいとか、キ……キスしたいとか、そんなことも思わないし……」
「………………」

 え? そうなのか?
 思わずニヤケてしまいそうになるのを、なんとか堪える。

「じゃあ、お前、今、何そんなに悩んでんだ?」
「え」

 はた、と気が付いたようにキョトンとした浩介。

「あ……そうだよね。何悩んでるんだっけ……」
「…………」

 ………なんだそりゃ。

 浩介はうーんとうなってから、あ、分かったとポンと手を打った。

「あ、そうそう。だから、もし、二人が付き合ってるんだったら、もう一緒に帰ったりしちゃダメだよなって思って」
「ああ、なるほど」

「それと……」
「え」

 浩介がいきなりおれの左手を両手でつかんできたので、ドバッと血液が頭に上がる。

「な、なに」
「慶、せっかく応援してくれてるのに、期待に応えられなくて申し訳なくて……」
「…………」

 ぐさっと突き刺さる。
 ごめん………応援なんかしてない………

 浩介がシュンとしたまま言う。

「おれ、本当にダメダメで……ごめんね」
「浩介……」

 浩介………大好きな浩介。
 ごめんな。騙してて。おれ、お前のこと応援なんて、これっぽっちもしてねーよ。

 泣きそうな浩介の頭を抱き寄せ、優しく優しく撫でてやる。

「おれのことなんてどうでもいいから」
「どうでもよくないよ」
「どうでもいいって」

 浩介が腕の中にいる……なんて幸福感。

「考えてみたら、3年ってもうすぐ引退だよな?」
「うん……。引退試合は今月末で、引退式は夏休み入る前」
「そっか……」

 もうすぐ終わりだな……

「だったら、もうこのまま、気がつかないふりで今まで通りに接したらどうだ?」
「でも……」

 浩介、眉間にしわが寄っている。

「あんなやり取り見ちゃったら、もう今まで通りには……」
「じゃあ、聞いてハッキリさせればいいじゃねえか」
「う………そうだよね……」

 分かった。聞いてみる。


 そう言っていたのに、結局聞けていないらしい。昨日も一緒に帰ったくせに。
 美幸さんの真っ赤な傘を目で追っている浩介の切ない表情に、胸が苦しくなってくる……。

「黄昏てるとこ悪いが」
「…………黄昏てません」

 部長の橘先輩が、シャッター音とともに声をかけてきた。この人、あいかわらずおれのこと勝手に撮ってくるんだけど……どうにかしてほしい。
 おれの溜息にも気を止めず、橘先輩がそのまま続ける。

「明後日、バスケ部と卓球部の撮影許可がおりた。出られるか?」
「明後日?」
「すみません、おれ……」

 振り返った浩介が言うと、橘先輩は軽く肯き、

「桜井はそれこそバスケ部だったな。じゃあいい。渋谷は?」
「大丈夫です」

 正当な理由で浩介のバスケ部の練習風景を見られるのはおいしい。会いたくない奴もいるけどそこは目をつむろう。

「運動部は夏休み前後で3年が引退だからな。早めに回っておいた方がいいだろう」
「ですね」

 今年の文化祭の写真部のテーマは『輝く白浜高校生~部活編』。ちなみに昨年は『輝く白浜高校生~体育祭編』だった。昨年の文化祭では、クラスメートの安倍と石川さんと枝村さんの4人で、自分たちが写ってないか見にいった記憶がある。まさか今年は自分が撮る側に回るとは……

「授業終了後、昼食持参で部室集合な」
「はい」
「で、二人ともやる気が出たら先週の続きやるから声かけてくれ」
「えええ」

 やる気が出たらって……

「やる気ありますよっ」
「ありますっ」

 浩介と二人、思わずハモったが、橘先輩は肩をすくめて暗室に入っていってしまった。

「何でもお見通しって感じ……」
「だな」

 浩介のつぶやきに、心から肯く。
 カメラのファインダーを通すとその人の内面まで見える、というのは本当なのかもしれない。

(………浩介)

 それならば、おれは今、お前のことは写したくない。お前の心の中は美幸さんでいっぱいに決まってるもんな……




---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
まだ続きがあるのですが、書き終わらなかったので、とりあえずここまでをアップさせていただきます。

続きは……明日更新したいなあ、という感じです。
早ければ明日、ダメだったら明後日、いつものように朝7時21分に。よろしくお願いいたします!


クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
もう少しで「片恋」編は終わります。お見守りいただけると幸いです。
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BL小説・風のゆくえには~片恋10(浩介視点)

2016年01月29日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋



 6月15日土曜日

 土曜日は、授業の後、各自で昼食をとってから体育館に集合することになっている。でも、みんな体育館で食べるので、おれもそれに倣っている。だいたい、男子は入り口側、女子はステージ側、その中でも学年ごとで車座になって食べる。

 美幸さんが女子部3年生の人達と一緒に食べていたのは見ていたけれど、気がついたらいなくなっていた。部活開始時間まであと5分なのにもどってこない……。心配になって探しにいったら、

「……あ、やっぱり」

 校庭に下りる階段の途中で座っている後ろ姿を発見。前もここで寝ていたことがある。

 そっと近づいてみたら………やっぱり寝てた。バスケットボールを抱えて、そこに頬をつけて………。こんな体勢でよく眠れるな……。

『眠るの大好き。どこでも寝られるのが特技なんだ~』

 昨日、一緒に帰ったときに言っていた。

 そうそう……、せっかく練習してもらったけれど、昨日も結局、手繋げなかった。まあ、繋ぐ気もなかったけど。
 でもそれでいい気がする。ようやく少し慣れてきたけれど、まだまだ緊張するし、こうして見ているだけで充分なのに、それ以上のことなんて……

 少し開いた唇あたりをみて、うーんとうなってしまう。

(キス……)

 別にしたいと思わない……というのは、男として何か欠けているんだろうか……

(そういえば、渋谷、すごい手慣れた感じだったな……)

 なんだかまたモヤモヤしてきてしまう。
 おれが知らない中学時代の渋谷……。本人は否定していたけれど、やっぱり女落としまくりのモテモテの生活だったんだろうな……。

(渋谷はキスしたことあるんだろうな……)

 相手はどんな人なんだろう。どんな顔してキス……してたのかな……。

 練習の時の渋谷を思い出して、ドキドキしてきてしまう。
 あんな美形に至近距離で見つめられたら、男でも女でも金縛りにあうに決まっている。本当に吸い込まれるみたいに綺麗で………

「桜井」
「あ」

 キャプテンの田辺先輩の声に我に返る。先輩は身軽に階段を下りてくると、

「なんだ、堀川、また寝てんのか」

 苦笑しながらも、なんだか優しい目で美幸さんを見下ろしている。

「またって……」
「こいつホントどこでも寝るんだよ。中学の時もよく、陽当たりのいい体育倉庫の前とかで丸まって寝てた」
「丸まってって」

 猫みたいだ。

 田辺先輩は美幸さんの横にしゃがみこむと、ツンツンツンとその頬をつついた。

「堀川、堀川、練習はじまるぞ」
「んー……」

 ボンヤリと目をあけた美幸さん………

「起きたか?」
「んん」

 美幸さんの目の焦点があって、田辺先輩の姿を認めると、

「ああ、ひでくん………」
「!」

 ドキッとするほど、可愛らしい笑顔を浮かべ……

「あと5分……」
「…………」

 再び目をつむってしまった。

「こらこらこら、美幸!」
「!」

 笑いながら今度は美幸さんの頭をぐちゃぐちゃとかきまわす田辺先輩……。

 二人の様子に、鼓動が早くなってくる。

『ひでくん』
『美幸』

 そんな呼び方してるの聞いたことがない。
 それに、美幸さんの、今までにみたことないような女の子女の子した表情。田辺先輩の、美幸さんを見るいとおしげな瞳。

 二人………もしかして、付き合ってる……?

「……………」

 鼓動が早くなりすぎて苦しい。

 付き合っているとしたら……もう、こうやって見つめていたり、一緒に帰ったり、できなくなる。田辺先輩が相手じゃ敵うわけない。

(渋谷……)
 せっかく応援してくれたのに………
 親友の期待に応えることもできないなんて、やっぱりおれは、何をやってもダメな奴だ……



 この日の部活は、おれはもうボロボロだった。
 はじめは叱り飛ばしてくれていた田辺先輩に、途中から「具合悪いのか?」と心配されるくらいにボロボロで、結局、篠原に保健室に連れていかれる羽目になってしまった。

「……迷惑かけてごめんね」
「いやー?」

 篠原はニコニコとおれの背中をバシバシたたくと、

「サボれてラッキー」
「……ごめん」

 篠原の明るさには本当に救われる……

「田辺先輩もあれで結構気にし屋さんだからさー、前半桜井のこと怒りすぎたって気にしてるよ絶対」
「………うん。悪いことしちゃった」

 田辺先輩には、入部した時からいつも気にかけてもらっていた。頼りがいがあって、優しくて、みんなに気を配れて、その上カッコいいから、女子からの人気はすごいことになっている。

 田辺先輩と美幸さんは同じ中学出身。中学の時も同じバスケ部だったらしい。でも、普段は全然話したりしないので、あんなに親しいだなんて、誰も知らないんじゃないだろうか……。

「田辺先輩って、彼女……」
「いないって言ってたよー?」

 おれの独り言のようなつぶやきに、篠原がアッサリと答えてくれた。じゃあ二人、付き合ってはいないのか……

「あんなモテモテだから一人に絞れないんじゃないのー? 渋谷と一緒」
「………」

 渋谷は面倒くさいから彼女はいらないと言っていた。それで、おれと遊ぶのが一番楽しいって言ってくれてる。……なんてことは篠原には教えてやらない。

「でさー、再来週の引退試合の前に、三年生は女バスからお守りもらうじゃん?」
「あー……去年もそんなのしてたね」

 誰が誰に渡すかとか、女子がきゃあきゃあ騒いでいた記憶がある。

「今回、田辺先輩に誰が渡すかで、今、女バス内、険悪になってるらしいよ~」
「えー……」

 美幸さんは……渡さないのかな……

 と、思ったら、篠原にニヤニヤとつつかれた。

「今、美幸先輩は誰に渡すのかな?って思ったでしょ?」
「え!?」

 す、するどいっ。

「桜井ってホントわかりやすーい。でもご安心を~~。美幸先輩は誰にも渡さないって言ってたよ」
「誰が?」
「みんな」
「…………」

 みんなって誰なんだろう……

 その後、保健室で休ませてもらって、部活終了直前に戻った。
 保健室のベッドで寝ていたら、美幸さんと田辺先輩のやり取りが夢の中のことのような気がしてきていたんだけど……

(………美幸さん)

 気がついて、しまった。
 体育館に戻ったらちょうど、男子部は紅白に分かれて試合をしていた。入り口でそれを見ていたら、女子部がステージの上でストレッチをしている様子も目に入ったのだけれども……、美幸さんの視線……ずっと、ずっと田辺先輩を追っている。

 そう思ったら、今までの様々なことが頭の中で回りだした。
 打ち上げの席で、田辺先輩が女子に囲まれている様子を、女神のような微笑みを浮かべながら見ていた美幸さん。おれと一緒に帰るときも、話題の中には必ず田辺先輩のことが入っていて……。そして、さっきの「ひでくん」と言った美幸さんの少女のような表情……。

(好き……なんだ)

 美幸さん、田辺先輩のことが好きなんだ……。

 そして………

「………あ」

 田辺先輩がチラッとステージの上を見た。その先には……美幸さん。
 さっきも、美幸さんをみるその目は愛情に溢れていたし………

(やっぱり田辺先輩も……)


 田辺先輩がゴールを決める度に、女子部から歓声が上がる。本当にカッコいい。こんな人に、おれが敵うわけがない……。


 それから後のことはあまり覚えていない。

「大丈夫?」
って、何人も声かけてくれたけど、上手く答えられなかった。でもみんな、おれが具合悪いせいだと思ったみたいで、それ以上は何も言われなかった。

 ただひたすら、美幸さんの女の子女の子した表情とか「ひでくん」って言った声とか、ゴールを決めた田辺先輩の姿とかが頭の中をグルグル回っていて……
 気がついた時には、もう帰り道で、自転車を走らせていた。自転車を漕ぎながら、一人ごちる。

「ごめん……ごめんね、慶」

 せっかく応援してくれてたのに。おれ、期待に添えないよ。あんな人がライバルじゃ、どうやったって勝ち目がない。

 もう、美幸さんと一緒に帰るドキドキした時間も無くなってしまう。美幸さんを見つめて癒される時間も無くなってしまう。それに、渋谷に相談にのってもらう時間も無くなってしまう。

 渋谷に合わす顔がない、と思いつつも、今すぐ会いたい、とも思う。でも、会えない……会いたい……

 ……と、そこへ。


「おーい」
「!」

 遠くの方から渋谷の声がする。え、と思ったら、川辺の先の方で渋谷がぶんぶん手を振りながら立っていた。

「……渋谷」

 ズキっと心臓に痛みが走る。
 渋谷は時々、ああやっておれの帰りを待ってくれていることがある。
 どうしておれなんかのために、渋谷はこんな嬉しいことしてくれるんだろう。その渋谷の期待に添えないおれは本当にどうしようもない使えないクズだ。

『お前は本当にできそこないだな』

 父の声がこだまする。苦しい。おれは本当にできそこないで……

 でも、でも……

「渋谷……」

 必死に自転車をこぐ。近づいてきた渋谷はあいかわらずキラキラしていて……

 ああ、今すぐ、今すぐ、触れたい。
 そうしないと、息もできない。

 我慢できなくて、自転車から飛び降りて、渋谷を強引に抱き寄せる。

「慶!」
「え?」

 戸惑っている様子の渋谷をぎゅうううっと抱きしめる。

「慶……慶!」

 体中が渋谷のオーラで包まれていく……
 息を吸い込むと、清涼な空気が入ってくる。少しずつ息が整ってくる。

「慶……ごめんね」

 なんとかそういうと、渋谷が優しく頬に触れてくれた。

「何が? どうした?」
「おれ………」
「どうした」

 顔をあげると、渋谷の綺麗な瞳がすぐ近くにあった。吸い込まれるみたいに綺麗……。涙が出そうになる。

「おれ………フラれる、みたい」

 勇気を出して言うと、渋谷は「?」というように首を傾げた。ああ……本当に、ごめんね。

「慶、ごめんね」

 再び渋谷の髪に顔を埋めてぎゅうっと力をこめて抱きしめると、渋谷はゆっくりゆっくり背中を撫でてくれた。

「慶……」

 おれ、期待に添えないような、できそこないのダメな人間だけど……でも、おれ、一緒にいてもいいかな……。





---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

これで9の終わりと10の終わりがそろいました。
9の最後で、慶は浩介が美幸さんのせいで心乱されてると思って嫉妬してましたが、
実は浩介は、美幸さんのことプラス、慶の期待に応えられないということにも心乱されていた、という……。いや別に期待してないから^^;

続きはまた明後日!よろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~片恋9(慶視点)

2016年01月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋


 キスしたい。
 キスしたい。


 中学生並みの思考回路だ。自覚はある。

 でも、浩介の、ニッコリ笑った時に端っこがきゅって上がる唇とか、怒った時にぶーっとつきだした唇とか、おれが完璧なシュートを決めて見せた時にポカーンと開いている唇とか見てると……

 その唇はどんな感触がするんだろう、と想像して、自分の唇を指でなぞってみたくなる。
 せめて触ることだけでもできたら……


 ここまでキスのことを考えるようになってしまったのは、確実に、真理子ちゃんのせいだ。

 あの日…………

 部室奥の暗室で、真理子ちゃんが兄である橘先輩にキスしている現場を偶然目撃してしまった。心臓が止まるかと思った……
 橘先輩は熟睡していたので、気がついていないと思う。気がついていたら……大変だ。

 その後、何となく真理子ちゃんと一緒に帰ることになったのだけれども……非常に気まずかった。

「あの……」
「はい」

 ムッとした顔のままの真理子ちゃんにおそるおそる聞いてみる。

「橘先輩とは、実は、血が繋がっていない、とか……」
「繋がってます」
「……だよね」

 あれだけ顔が似ていて他人なわけがない。あ、でも……

「実はいとことか?」
「父も母も同じです」
「……そっか」

 う……気まずい。

 しばらくの沈黙の後、真理子ちゃんが大きく大きくため息をついた。

「わかってます。変ですよね。わかってます。わかってますよ。でも……」
「…………」

 好きな気持ちは止められない。

 それはおれにも痛いほどよくわかる……。


「子供の頃からずっとずっと好きだったんです。一人の男性として意識するようになったのは中学生になってからですけど……」
「…………」

 なんと答えたものかと、黙ってしまったが、真理子ちゃんは特に気にする様子もなく言葉を続けた。

「お兄ちゃん、昔約束してくれたんです。将来はプロのカメラマンになって、私のこと撮ってくれるって」
「もしかして、それとコンテストって関係ある?」

 聞くと、真理子ちゃんはこくりとうなずいた。

「はい。コンテストで一番良い賞を取ることが、カメラマンを目指す条件、なんです」
「?」

 おれが首を傾げると、真理子ちゃんは家の内情をポツリポツリと話しはじめた。


 真理子ちゃんのうちは小さな印刷会社を営んでいて、長男である橘先輩は、高校卒業後、家業を継ぐように言われているらしい。
 でも、橘先輩は将来はカメラマンなりたい、と、妹の真理子ちゃんにだけは昔から言っていたそうだ。

 橘先輩は、高校入学後、ようやくそのことを両親に話したのだが、両親は一つだけ条件をだした。

『高校在学中にコンテストで一番良い賞を取ること』

 そうすれば、家業は継がずカメラマンの道を目指してもよい、と。

 昨年のコンテストに出した写真は、橘先輩的には最高の出来で、これ以上のものは撮れない、というほどの自信作だった。

 けれども、結果は、入選止まり……。


「お兄ちゃん、もう、あきらめたって言ってて……。まだチャンスはあるのに」
「……………」
「絶対後悔すると思うんです。だから何としてもコンテストに……」
「うーん……それはどうかなあ」

 思わずつぶやくと、真理子ちゃんが立ち止まった。

「どういう意味ですか?」
「あ……いや……」

 よそのうちのことに口出すのも何なのだけれども、このまま真理子ちゃんが暴走するのも見ていられなくて言ってしまう。

「おれも長男だから、何となく橘先輩の気持ちがわかるというか……」
「………長男?」
「うん。おれなんか親、サラリーマンだけど、それでもやっぱり家を継がないとって気持ちあるよ? もしかしたら、橘先輩が今回コンテストに出さないのは、もしも賞を取れたら困るからかもしれないよ」
「…………困る?」

 コンテストに出すのは無駄だと言っていた橘先輩……。

「もし、賞を取ったら、カメラマンの道に行きたくなるよね?」
「そんなの………っ、行けばいいじゃないですか!!」

 叫んだ真理子ちゃんを、まあまあと抑える。

「おれ、思うんだけど……、賞を取っても取らなくても、先輩、傷つくことになるよ」
「…………傷つく?」

 想像でしかないけどね、と前置きしてから話し出す。

「賞を取って、カメラマンの道にいったら、家を出たことに対する罪悪感で傷つく」
「…………」
「賞を取ったのに、カメラマンの道を諦めたら、後悔する」
「だから……それは……」

 言いかけた真理子ちゃんを制して続ける。

「でも、一番辛いのは、せっかく出しても賞を取れなかった場合」

 いい? と人差し指を立てる。

「賞を取れなかったら、自分に実力が無かったと認めなくてはならなくなる。でも、出さなければ、『もしかしたらあの時出していれば賞を取れてたかもしれない』って思える」
「…………」

 本当の気持ちは橘先輩にしかわからないけれど……でも、きっと、コンテストに出さないことが一番良い選択なのだと思える。

 きっと、橘先輩の中で、家を継ぐ覚悟は出来ているのだろう。それを今さら外から騒ぎ立てるのは違うと思う。

 真理子ちゃんは、唇をぐっとかみしめて下を向いていたけれども……

「わかりました。コンテストのことはもう言いません」
「………」

 顔をあげた瞳には強い意志が宿っていた。

「でも、せめて、最後の文化祭は悔いの残らないものにしたいです」
「………そうだね」

 きっと橘先輩も同じ気持ちだと思う。一人になっても写真部を辞めなかったのは、やっぱり写真が好きだからなのだろう。


「じゃ、先輩?」

 真理子ちゃんはニッコリと笑うとおれを可愛らしく見上げてきた。

「これで相殺、ということで」
「え?」
「私も、先輩の泣き顔は見なかったことにしますので、先輩も……」
「あ、うん」

 おれも真理子ちゃんのキスは見なかったことにする。
 それにしても……

「真理子ちゃん、万が一お兄さん起きちゃったらどうするつもりだったの?」
「お兄ちゃん、昔から眠りが深いのでちょっとやそっとの刺激じゃ起きないんですよ」

 ふっと笑った真理子ちゃん。

「でも、いーじゃないですか、キスぐらい。減るもんじゃなし」

 見た目と違ってサバサバしてる。真理子ちゃんは肩をすくめて恐ろしいことを言いだした。

「まあ、バレたときはバレたときで、冗談で誤魔化します。今はまだ」
「今はまだ?」

 ぎょっとして聞き返すと、うんうん肯き、

「そのうちお酒飲ませて、前後不覚のところを襲おうと思ってるんですよ。既成事実を作って逃げられなくしようかと」
「えええ!?」

 真理子ちゃん……可愛い顔してやっぱりコワイ。

「今はとにかく、お兄ちゃんに変な女が寄ってこないように、絶賛監視中です」
「そ、そうなんだ……」
「私はとにかく、お兄ちゃんと一緒にいられれるためなら何でもします」

 あっけらかんと言った真理子ちゃんがちょっと羨ましい。
 真理子ちゃんと橘先輩は妹と兄だ。何があったって、その関係が切れることはない。

 でも、おれと浩介は……


「先輩は、もう大丈夫なんですか?」
「大丈夫って?」

 何の話?
 首を傾げると、真理子ちゃんは眉を寄せた。

「失恋、ですよね? あんなに泣いてたのって」
「失恋……」

 告白もしてないのに、失恋……かあ。

「違うんですか?」
「違うといえば違うし、そうだといえばそうだし……」

 うーん…と言っていたら、真理子ちゃんはまたあっけらかんと言った。

「じゃ、先輩も、実力行使しちゃえばいいじゃないですか?」
「実力行使?」
「キスしちゃうとか?」
「キ………っ」

 そ、そんなことできるわけがない!!

「先輩かっこいいから、まず普通の女子はコロッとまいっちゃうと思いますけど?」
「普通の女子……ね」

 普通の男子は……。引くだろ。

 ああ、でも、浩介とキス………

(うわああああっ)

 想像しただけで顔が熱くなってきたっ。

「先輩、顔、真っ赤」
「ほっといて」

 くすくす笑われたけど、もうどうしようもない。

 それからはもう、ずっと、そのことが頭から離れなくて……
 ふとした拍子に「キスしたい……」と思ってしまって。
 もう本当にどうしようもないおれ……。



 そんな調子で、週末を迎え、週が明け……火曜日。

 昼休みにバスケ部の篠原が教室にやってきた。何やら浩介に絡んでいたかと思ったら、

「渋谷、奥手の桜井君に教えてあげてよ。手を繋ぐタイミングとか、自然にキスまでもってく方法とか」
「はああ?」

 何の話だ、なんて言いつつも、頭の中で浩介と手を繋いだりキスしたりする光景が浮かんでニヤけてしまう。誤魔化すために、必死に眉間に皺をよせる。

 篠原のおいしい提案は続いた。

「渋谷に練習台になってもらえばいいじゃーん」
「はああ?!」

 ナイスだ!篠原!

 こいつ、部活の時に浩介といつも一緒にいるので、嫉妬の対象でしかなかったけれど、今回ばかりは感謝感謝だ。


 帰宅後、浩介が来るのを部屋で待ちながら、浮かれて色々妄想していたけれど……

 ふっと我に返った。

「こういうこと、浩介は美幸さん相手にしようとしてるんだよな……」

 そう思ったら、一気に凹んできてしまった。

 浩介と美幸さん、昨日も一緒に帰ったらしいし……

 ああ、こんなことやっても不毛だ不毛……しょせんおれは練習台……


 でも……浩介が来てくれて、実際に練習をはじめて、キュッと浩介に手を繋がれたら……

(うわああああ……)

 おれは練習台だと分かっていても、ドキドキが止まらなくて……しかも「慶の手、気持ちいい」なんて言われたらもう………


「浩介……」

 その頬に手をあてて、本当にキスしてやろうかと思って、かなりの距離まで顔を近づけた。

 …………けど、やめた。

 浩介、ものすごいビックリした顔で固まったから。

 気持ち悪いと思われただろうな……と思いきや、浩介はそれを即座に否定してくれた。おれは『親友』だから大丈夫らしい。

「お前の親友の定義がわからん」
 
 言うと、浩介はこの上もなく優しい眼差しで、にっこりと笑ってくれて、

「おれの親友の定義は『渋谷慶』だよ」

 なんて、嬉しいことまで言ってくれて………

 ああ、もう、キスなんかできなくてもいい。そばにいられればそれでいい。
 お前が美幸さんと付き合うことになっても我慢できる。たぶん。

 ……いや、まだ無理……。



**


 木曜日。
 
 写真部の活動で、約一週間ぶりに真理子ちゃんに会った。
 真理子ちゃんは何事もなかったかのように、真摯にカメラに向かい合って……

(………ないな)
 隙あらば、橘先輩の横にピッタリとくっついて、腕やら腿やら触っている。そして可愛い顔をして見つめていたりして……

(これ、妹でさえなければ……)
 妹でさえなければ、それこそ、イチコロだ。でも、妹、だもんな……

 その証拠に、橘先輩は淡々とあしらっている。慣れたもんだ。妹から本気で思われているなんて夢にも思っていないだろう。
 でも、真理子ちゃん、少しもめげていない……

(真理子ちゃん、強いな……)

 正直言って、以前のおれだったら、真理子ちゃんの想いに対して嫌悪感を抱いていただろう。おれにも妹がいるからなおのこと。
 でも、人には言えない想いを抱えた今は、真理子ちゃんに親近感を覚えてしまっている。

 おれも、そのくらい強くなりたい。
 想いを返してもらえないとわかっていても、想い続ける強さが欲しい。



 土曜日。

 部活の帰り時間近辺に、川べりで浩介のことを待ち伏せた。
 もし、今日も美幸さんと帰るならば、ここは通らない。昨日も通らなかった。だから昨日は美幸さんと一緒に帰ったのだろう。聞きたくないから確認はしていないけれど、たぶんそう。それなのに今日も待っているおれ、健気。健気すぎる……

 なんて、自分で自分のことが可哀想になっていたところ……

「あ」
 やった。浩介の自転車がこちらに向かってくるのが見えた。

「おーい」
 ぶんぶん手を振ると、気がついたらしい浩介が立ち漕ぎしてこちらに向かってきた。すごい速さ……

 そして、おれの目の前で自転車を急ブレーキでとめると、もどかし気に自転車をおりて、

「慶!」
「え?」

 いきなり……ガシッと抱きついてきた。

 え?え?え???
 
 ときめくよりも前にビックリしてしまう。

 ど、どうした?!

「慶……ごめんね」
「は?」

 耳元で浩介の絞り出すような声がする。

「何が? どうした?」
「おれ………」
「どうした」

 顔をあげさせて、間近に浩介の顔をのぞきこむ。
 浩介………泣いてる?

 浩介は、この世の終わり、みたいな真っ青な顔をして、ポツリ、と言った。

「おれ………フラれる、みたい」
「…………?」

 フラれる、みたい?

 フラれた、じゃなくて、フラれる……
 しかも、みたいってなんだみたいって……

「慶………ごめんね」
「???」

 しかも、ごめんってなんだごめんって……

 再びぎゅーっと抱きついてきた浩介の背中をゆっくりゆっくり撫でてやる。

 浩介のことをこんな風に取り乱させる美幸さんの存在に、あらためて強烈な嫉妬心が湧き上がってくる。

(フラれる……みたい)

 みたい、ということはまだ確定ではないということだ。
 もし、フラれたら、浩介は苦しむことになる……浩介が苦しむ姿を見るのは嫌だ。
 でも、フラれなかったら………

 犬の散歩の人にジロジロ見られたけれども、もうこの際かまわない。
 浩介が落ち着いて話ができるようになるまで、おれは浩介のことを強く強く抱きしめ続けた。




---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

あれも書きたい、これも書きたい、と思ったら長々となってしまい……すみません^^;
慶が練習台になった話は、前回のお話の慶視点です。詳細は前回参照で…
『片恋』もあと数回で終わりです。もうさっさと失恋してしまえ!

続きは明日!
最後の方が対になっているため、間をあけたくないので、明日更新します~。よろしくお願いいたします。


そして。クリックしてくださった方、本当に本当にありがとうございます。
背中押していただけて、どれだけ嬉しいか……
もう、迷いません! 引き続き、「友達の友達の友達の話」的話で行かせていただきます。本当にありがとうございました!
今後とも、どうぞどうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!


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BL小説・風のゆくえには~片恋8(浩介視点)

2016年01月26日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋


 び、びっくりした……
 もう少しで、親友の渋谷慶とキスするところだった……

 元はといえば、篠原のせいだ。篠原が言ったのだ。

「渋谷に練習台になってもらえばいいじゃーん」

 と……。


 6月11日火曜日。 

 昼休みに突然、同じバスケ部の篠原がうちの教室にやってきた。
 それで、教室の端っこにおれを連れてきたかと思ったら、

「桜井、昨日も美幸先輩と一緒に帰ったでしょ? なんか進展あった?」

と、ニヤニヤ聞いてきた。

 進展と言われても……。美幸さんと一緒に帰るのは昨日で4回目。ただ普通に帰ってるだけなんだけど……

「普通って何、普通って。どんな話してんの?」
「うーん……だいたい、バスケの話とか田辺先輩の話とか……」
「手ぐらい繋いだ?」
「繋ぐわけないじゃん!!」

 思わず大声で返してしまって、近くにいた女子からジロジロ見られてしまった……。
 それにも構わず、篠原はやれやれと大袈裟にため息をつくと、

「あーダメだなー桜井はー」
「そんなこと言われても……」
「まあでも、恋愛初心者には難しいのかなあ」
「………難しいよ」

 一緒にいるだけでずっと緊張してるのに、手繋ぐなんてありえない。

「あー、んじゃさ、モテモテ渋谷に相談すればいいじゃん」
「何を?」

 首を傾げたおれに、篠原がニッと笑って人差し指をさした。

「どうやって自然に手繋ぐかとか、どうやってキスするのかとか」
「キ………ッ!!!」

 あ、ありえない!!!

「そ、そんなの……っ」
「お前ら何騒いでんだ?」
「!」

 後ろから両脇腹を掴まれてぎょっとする。渋谷、だ。

「あー、渋谷。良いところに」
 きょとんとしている渋谷に、篠原が手を振る。

「渋谷、奥手の桜井君に教えてあげてよー」
「何を?」
「んー、手を繋ぐタイミングとか?」
「は?」
「自然にキスまでもってく方法とか?」
「はああ?」

 渋谷の眉間にこれでもかというほどシワが寄っている。

「何の話だ?」
「なんかね、桜井、せっかく昨日も美幸先輩と一緒に帰ったっていうのに何の進展もないんだって」
「もう、篠原……」

 遮ろうにも、篠原の言葉は止まらない。

「だから渋谷に教えてもらえばって思って!」
「なんでおれが……」

 渋谷、あきれ顔だ。そりゃそうだ……
 でも、篠原は全然気が付かないようで、喜々として言った。

「そうだ! 渋谷に練習台になってもらえばいいじゃーん」
「はああ?!」

 渋谷と二人で声を上げてしまう。

「何を言って……」
「だって、ほら、背の高さちょうど同じくらいじゃん。渋谷と美幸先輩って」
「篠原っ」

 もう! 渋谷は自分が背低いこと気にしてるのに!

 篠原は渋谷の眉がピクリとしたのにも気がつかず、うんうん頷くと、

「我ながら良い考え良い考え~」
「良い考えじゃないよっ。そもそも付き合ってもないのに、手繋ぐとかないでしょっ」

 指摘すると、篠原は、はて? と首を傾げた。

「あれ? まだ付き合ってないんだっけ?」
「付き合ってないよ!」
「あれ? そうだっけ? 告白してなかった?」
「してないよ!!」

 篠原って、いい奴なんだけど、思い込みが激しいというかなんというか……

「そっかそっか。あ、でもさ、自然に手繋いでみて、振りほどかれなかったら告白してもOKって目安になるよね?」
「ああ……まあ、そうだな」

 渋谷までフムフム肯いてる。二人して他人事だと思って……

 そんなことをしているうちに予ベルが鳴った。

「んじゃ、渋谷、桜井の指導よろしくねー」
「なんだそりゃ」

 帰っていく篠原に苦笑しつつ、渋谷がおれを振り仰いだ。

「だってよ」
「もー気にしないでねー慶。篠原ってこういう恋の話大好きでさー」
「んーまあ、面白いかもな」
「え?」

 目を見開くと、渋谷がニッと笑った。

「練習だよ、練習。今日の帰りうちこいよ。練習、しようぜ?」
「えええええっ」

 何言ってんの……、という前に、渋谷は楽しそうに席に戻っていってしまった。
 れ、練習って………えええええ!?


 ………と、いうことで。

 部活の帰り道、渋谷の家に寄った。2階にある渋谷の部屋に入って早々、

「どのくらい離れて歩いてる?」
「え?」

 言われた意味が分からなくて聞き返すと、渋谷は若干イラッとしたように、

「だから、美幸さんと帰るとき。昨日も一緒に帰ったんだろ? どのくらい? このくらい?」
「あ……んーと、このくらい?」

 拳2つ分くらい離れて立つ。すると、渋谷はなぜかますますイライラしたように、

「じゃ、別に何も難しくねえじゃんかよ。ちょっと伸ばせばすぐ届く」
「そう言われても……」

 な、なんで渋谷、こんなに機嫌悪いんだ。練習しようって言った時は楽しそうだったのに……
 ビクビクしながら渋谷の方を見ると、渋谷は眉間にシワを寄せたまま、

「ほら、手、伸ばしてみろよ。おれと美幸さん、同じくらいの背ってことは同じくらいのところに手だってあるだろ」
「う、うん……」

 あ、もしかして、女性と同じくらいの背って言われたことに今さらムカついてる? ってことかな。
 と、思ったけれど、そんなこと怖くて確かめられないので、渋谷に言われるまま少し体を傾げて左手を伸ばす。

「……あ」

 ぎゅっと握った渋谷の手……細い指先。体温が直接伝わってくる……温かい。渋谷のオーラにフワッと包まれるような心地よい感覚……。
 考えてみたら、今まで手を触ったり触られたりしたことはあっても、こんな風に繋いだのは初めてのことだ。
 
「………慶」
「………なんだ」

 見ると、下を向いている渋谷、耳まで赤くなっている。
 恥ずかしい……よね、そりゃね。男同士で手繋ぐなんてね。でも……

「慶の手、気持ちいい」
「……何言ってんだお前」

 そう言いながらも、離そうとはしないでくれているので、きゅっきゅっきゅっと何度も握りしめる。

「なんか、パワーもらえる感じ。元気になってくる」
「なんだそりゃ。マリックかよ。ってマリックは元気にしてないか」
「マリックって何?」
「ハンドパワーだよ」
「何それ?」
「知らねえの? あ、そうか、お前テレビ見ねえもんな」

 話しながらどちらからともなく、歩きだした。狭い部屋の中、男子高校生二人で手を繋いで歩いてる、なんてちょっと面白い。

「まあ、こんな感じだな?」
「うん」

 しばらくしてから手を離され、とん、と勉強机の椅子に座らさせられた。前に立っている渋谷が苦笑気味にいう。

「手繋ぐなんて、中学の時のフォークダンス以来だ」
「そっか……おれなんて……」

 小学校……いや、幼稚園以来? 誰かと触れ合うなんて。だって、おれはずっとクラスメートから無視されてて……

 ふっと、昔の嫌な思い出にとらわれて、沈みこんでいく。
 おれは、あの時……あの頃……

「………浩介」
「……え」

 優しい声に、我に返る。

「慶………」

 そうだ。おれはもうあのころのおれじゃない。
 おれには渋谷がいる。クラスのみんなとだって渋谷のおかげで上手くやれてるし、それに、それに……

「……浩介」
「え」

 左頬がふわっと温かくなった。渋谷の右手がおれの左頬を包むように触っている。

「け……い?」

 渋谷の透き通るような瞳がジッとこちらを見下ろしている。ドキッとするほど、真剣な……。体が金縛りにあったみたいに動けない……。

「………え」

 そこに、その瞳がスッと近づいてきて……

(え、えええええ……っ)

 うそ、ホントに? ちょっと、渋谷……っ


「ってな感じでな」
「え」

 唇が、もう、あとほんの数ミリで重なる……というギリギリのところまで、顔を近づけてから、渋谷がぱっと離れた。

 びびびびびびっくりしたーーー!!

「てな感じって、なな何が?!」
「何がって、キスするタイミング。篠原が教えとけって言ってただろ」
「あ………」

 そうだった……そうでした……。

「ああ……びっくりした。本当にするかと思った……」
「するかよ」

 渋谷がムッとしている。

「男相手にするわけねえだろ」
「だよねー」

 はあ。びっくりした。ほっと胸をなでおろしていると、

「……悪かったな」
「え」

 渋谷、口がへの字に曲がっている。

「悪かったよ。気持ち悪い思いさせて」
「え、気持ち悪いって?」

 どういう意味?
 言うと、渋谷はブツブツブツブツいいながら、ベッドに腰かけた。

「だからー、野郎にキスされそうになるなんて気持ち悪いだろ?」
「気持ち悪い? そう?」

 渋谷、眉間にシワが寄っている。

「気持ち悪く……なかった、のか?」
「んー? ビックリしただけで、気持ち悪くはなかったよ?」

 気持ち悪いの意味が分からない。

「あ、そうか。慶だから大丈夫だったのかもしれない」
「え」

 きょとんとした渋谷の前まで椅子を転がして移動する。

「だって、ほら、おれ達『親友』だし」
「…………。お前の親友の定義がわからん」
「んー、定義……」

 定義………それは。そんなの決まってる。

「おれの親友の定義は、一つだけだよ」
「一つ?」

 首をかしげた渋谷の綺麗な瞳に、にっこりと告げる。おれの親友の定義は……

「定義は『渋谷慶』、だよ」
「……………」

 渋谷は、呆気にとられたような顔をしてから………

「ばーか」
 すごくすごくすごく嬉しそうに笑ってくれた。




---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

慶君がキスに手慣れた感じだったのは、めっちゃシミュレーションしてたからですね。
さりげなく浩介を勉強机の椅子に座らせたあたり、ほんと計画的!!

続きはまた明後日!よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
今さら気がついたのですが、遭逢・片恋・月光、とただひたすら慶君の片思いで終わっているので、
何もイチャイチャしません。キスもしません。BL小説、と書いておきながら単なる友情物語です。
それにも関わらず!!読みにきて、クリックしてくださった皆皆様には、もう感謝の言葉しかありません。

本当ならもっとドキドキする展開……
うーん……例えば、慶が他の男から言い寄られてやられちゃうとか、
(慶は喧嘩強いので、一服盛るか、集団か、もしくは、浩介を人質に取られるかしないと無理だけど)
そんな話にしようと思えばできないこともないんですが、
いや、それ、違うでしょ? と自分で自分に即座に突っ込み入れてるところです。

こうしてランキングに参加させていただくのって、今だに慣れないというか……
もっと、急展開? もっと、刺激的な? お話の方がウケがいいのかな……とか色々迷ってしまう時があるのです。

そんな中、こんな緩々展開で、何も刺激的なことがおきないお話なのにも関わらず、こうしてクリックしてくださる方がいらっしゃるということが、どれだけ有り難いことか……本当にありがとうございいます!!

この物語は今から20年以上前に決まったストーリーでして、今さらそれを変えるのも……というか、
私の中で、慶と浩介は本当に存在している人達で、本当にあった出来事を粛々と書いているだけ、という感覚なので、今さら変えられないといいますか。
そんな超日常生活小説でございます。「友達の友達の友達の話なんだけど……」ぐらいの身近な人の話というノリで読んでいただけると嬉しいです。
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BL小説・風のゆくえには~片恋7(慶視点)

2016年01月24日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 橘真理子ちゃんは、おれの姉に少し似ている。
 初めて見た時に、ぎょっとしたくらいだ。

 そんなことが言い訳にならないことは、重々承知している。でも……言い訳させてほしい。

 あの時おれは、浩介が美幸さんと相合傘して帰る姿を見て、正気を保てなくなって、恥ずかし気もなく泣いていて……。そこへ不意打ちで真理子ちゃんが現れて……一瞬姉と錯覚して、それで……それで……

『泣いて、いいですよ?』

 椿姉みたいにふんわり抱きしめてくれた真理子ちゃんの柔らかい胸の感触……

(わーーーーーなんで拒否しなかったんだおれーーーー!!!)

 思いだすだけで、穴掘って中に隠れたい気持ちでいっぱいになって叫びだしたくなる。どうしてあのまま彼女の腕の中で泣き続けてしまったんだ……。だいたい、椿姉にこんな風に慰められたのだって小学5年生の時が最後なのに……
 
(こ、こんなことが浩介に知られたら……)

 ……いやいや。別に知られても、あいつは何とも思わないだろう。何しろあいつは今、美幸さんに夢中だからな。おれが誰と何しようと……

(…………)

 凹むわ。余計凹むわ。ああ、もう考えたくない……


 記憶からあの時の感触を追いだして、なんとか過ごした月曜、火曜、水曜……

 そして今日は木曜日。
 自習中にトランプやって遊んでいたら、上野先生にゲンコツおみまいされたりして、気が紛れていたけれど……

 木曜日は写真部の活動日。どうやっても真理子ちゃんに会ってしまう……
 サボりたい。サボろう。そうしよう……

 心を決めて昇降口に向かっていた最中、

「私、今日先輩にご相談があるんですけど」

 当の本人に見つかってしまい、そんな恐ろしいことを言われた。

 部室に行く道すがら内容を聞いてみたところ、通常だったら絶対に断る依頼だったのだけれども、

「かわりに金曜日のことは誰にも言わないってお約束しますから」

 にっこり、と真理子ちゃんに言われ、肯くしかなくなってしまった。
 脅迫だ……。真理子ちゃん、可愛い顔して恐ろしい……


**


「でね。コンテストに出すんだったら、渋谷先輩モデル引き受けてくれるって!」
「…………」

 真理子ちゃんが喜々として、兄である橘先輩に言っている。
 真理子ちゃんはお兄さんにどうしてもコンテストに参加してほしいらしく、その餌としておれがモデルをするという話を持ってきたのだ。

「ヌードでもいいって」
「ヌ?!」

 そんなことは言ってないっと言いかけたのを、真理子ちゃんのニッコリした笑顔に遮られる。真理子ちゃん、目が笑ってない……『ばらしますよ?』と脅迫している目だ……。

 橘先輩は、神経質そうに眼鏡をあげ、こちらを見ると、冷静な声でつぶやいた。

「確かにヌードは魅力的だが……」

 み、魅力的?!

「コンテストには出さない」
「お兄ちゃん!」

 真理子ちゃんが悲鳴じみた声をあげた。それにも介さず、橘先輩はおれを向くと、

「今日は文化祭のコンセプトを決めようと思っている」
「文化祭って……11月の頭ですよ? ずいぶん早い……」
「早くない。遅いくらいだ」

 そんなもんなのか……。と感心してる場合じゃない。
 橘先輩がコンテストに参加してくれるようになることが、真理子ちゃんへの口止め料だ。どうにか説得しなくてはっ。

「あの……先輩はどうしてコンテストに出したくないんですか?」
「……………」

 橘先輩はピクリと眉を上げると、

「出しても無駄だからだ」
「無駄?」

 どういう意味?と聞く前に、真理子ちゃんが叫んだ。

「無駄じゃない! お兄ちゃん、真理子との約束守ってよ!」

 真理子ちゃん、また涙目になっている。でも、橘先輩は冷たい視線を妹に返した。

「だからそれはもう守れないと言っただろう。お前、いい加減しつこいぞ」
「……………っ」

 真理子ちゃん、また出ていってしまうのかと思いきや、ムッとした顔をしたまま、棚からファイルを取り出してきた。

「昨年までの文化祭の様子です。どうぞ皆さんご参考までに」
「あ、ありがとう……」

 いったいなんなんだ。この兄妹は………。

 戸惑いながらも、浩介と南と三人でファイルをめくっていたら、真理子ちゃんが座っているおれの隣にそっとやってきた。

「私、コンテストのこと、諦めませんから。お兄ちゃんの説得、協力してくださいね」
「……………」

 耳元でこそこそと言われ、若干……いや、かなり、うんざりしてしまう。兄妹喧嘩に巻き込まないでほしい………

 でも弱味を握られているから逆らえない……。しょうがないので頷くと、真理子ちゃんは眉間にシワを寄せたまま、部屋から出ていってしまった。

 いったい二人の間に何があったというのだろう………。


**


 その日の帰り、うちの近くの公園に寄って、いつものようにバスケの練習をした。
 でも、浩介の奴、どうも心ここにあらずで、ボールの取りこぼしが酷すぎて……

「集中できないならもうやめるぞ?」
「あ、ごめん……」
「…………」

 謝りながらも、心ここにあらず、だ。
 こいつ、頭の中、美幸さんでいっぱいでバスケもできないのか。
 イライラする。これ以上一緒にいたら、おれ、何を言い出すか分からない。

「もう止めようぜ。じゃあな」
 ボールを持って出口に行きかけたところ、

「あ、慶。待って」
「!」
 後ろから腕を掴まれ、ドキッとする。でも、こんな時でもトキメイテしまった自分に腹が立って、思いきり振り払った。

「なんだよ」
「あ……あの……」
 
 振り払われて行き場のなくなった手を、静かに下ろし、浩介が小さく言う。

「聞きたいことがあるんだけど……」
「…………なんだ」

 どうせ美幸さんのことなんだろ?
 お前、昨日も一緒に帰っただろ? いつも水曜日は体育館練習で片付け楽だから早くあがれたって言って、うちに寄ってくれること多いのに、昨日は来なかったもんな? 待ってたけど……来なかったもんな。

 そんな恨みつらみを何とか喉の奥に押し込めて、浩介を見上げる。

「だから、なんだよ?」
「あの………」

 早く言え。……って、まさか、告白しようと思ってる、とかいう相談じゃないだろうな。
 いや、ありうる……もし、そうだったら、おれ……耐えられるか?
 いや……ちょっと無理かも……いや、絶対無理!

「浩……っ」
 遮ろうとした瞬間、浩介が叫ぶみたいに、言った。

「真理子ちゃんと何かあったの!?」
「おま………、え?」

 言いかけて、言葉を止める。……真理子ちゃん?
 ぽかんとしたおれに浩介が畳みかけるように言う。

「慶、今日、真理子ちゃんに会ってから、ずっと変だったし、部活中も何かコソコソ喋ってたし」
「あ………」
「金曜日の写真部の用事っていうのも、真理子ちゃんに会うことだったの?」
「…………」

 浩介の真剣な目……

「浩………」

 言葉が出てこない。浩介、お前、それが気になって……? 

「ごめん。気になっちゃって、全然集中できなくて」
「…………は」

 うそだろ……ホントに?
 マジかよ……おれのことで? おれのことで……
 そう思ったら……

「は、は……っ」
「ちょっと、慶?」

 笑いだしてしまったおれに、浩介がプウッとふくれた。
 でも……ごめん。笑ってしまう。……嬉しくて。

「ごめん、ごめん……」
「ごめんじゃなくて、教えてよ。何があったの?」
「何があったって……」

 ……と、真理子ちゃんの柔らかい胸の感触を思いだして、血の気が引く。
 そんなこと、言えるわけないじゃないか!!

「べ、別に何もねえよ」
「うそ!」
「!」

 むにっと両頬を掴まれ、血が逆流する。何を……っ

「うそついてる。慶」
「……………」

 ………勘弁してくれ。

「ただ、橘先輩の説得に協力してくれって頼まれただけだよ」
「……………」

 じとっと浩介はこちらを見ていたけれど……いきなりとんでもないことを言い出した。

「もしかして……真理子ちゃんに告白されたとか?」
「は?」
「慶、真理子ちゃんのこと好きなの?」
「はああ?」

 何をどうしたらそんな話になる?

「あのね……南ちゃんに聞かれたの」

 浩介はようやくおれの頬から手を離すと、下を向いたままつぶやくようにいった。

「慶に彼女ができたらどう思うかって」
「…………」

 南、何を……

「おれね、渋谷の恋は応援しないとって思ったの」
「……………」

 応援……。だよな。そりゃそうだよな……

「でも」

 浩介は言いにくそうにまたうつむいた。

「でも、おれと遊ぶ時間が減ったら嫌だなって思っちゃった。我儘だよねおれ」
「……………」

 浩介……

「でも、おれ、我慢するから。頑張って我慢するから言ってね?」
「………何を?」
「真理子ちゃんと……その、付き合ってる、とかそういうことだったら……」
「…………」

 浩介……浩介。愛おしい……
 浩介の頬を、今度はおれがむにっと掴む。

「付き合ってねえよ。つか、おれ、誰とも付き合うつもりねえし」
「え………なんで」

 お前のことが好きだから。

 ……なんて言えるわけがない。

「興味ない。面倒くさい」
「面倒くさいって」
「今は女と付き合うより、友達と遊んでるほうが楽しい」

 下に置いていたボールを取って、浩介の胸におしつける。

「お前と遊ぶのが一番楽しい」
「慶……」

 浩介はボールを受けとると、にへらっと笑った。……かわいい。

「じゃ、もうちょっと遊んでいい?」
「おう」

 再びゴール下に戻る。

「久しぶりに賭けするか」
「うん! じゃあ、負けた方は勝った方のいうことをきく、ね?」
「10本勝負な」
「先攻後攻ジャンケン……ポン!」

 おれの勝ち。先攻。すぐにゴールを決めてやると、浩介がギャーギャー騒ぎ立てた。

「もー本気ださないでよー!!」
「現役部員が何言ってんだよ。ほら、次お前」
「もー……」

 むーっとふくれっ面の浩介もかわいい。

 こうやって……こうやって、ずっとずっと一緒にいられたら……
 それ以上はのぞまないから。だから……


***


 翌日の放課後、写真部の部室に行った。
 橘先輩が、翌日も作業をすると言っていたからだ。

 何がなんでも、橘先輩を説得しなくてはならない。
 真理子ちゃんの口止めを絶対的なものにするためなら、もうこの際、ヌードモデルでも何でもやってやる。とにかく、真理子ちゃんとのことを浩介に絶対に知られたくない!


「失礼しまーす……」
 小さく言って入ったが、誰もいない。電気はついているし、橘先輩のカバンもあるからいるはずなんだけど……。

「……暗室か?」
 でも、ずいぶん静かだ。もしかしたら寝てるのかもしれない。橘先輩は暗室で寝ていることもある、と聞いたことがある。

 起こすと申し訳ないかな……でも……、と思いながら、そーっとドアを開け……

「…………………!!!」

 ぎょっとする、というのをこういうのだろう。
 息をするのを忘れてしまった。

「渋谷先輩」

 泣きそうな、か細い声。

「真理子ちゃん……」

 薄暗い室内……背もたれのない椅子をいくつか並べた上に横になり、腕を組んで寝ている橘先輩。熟睡しているのかピクリとも動かない。そして、その横に、顔面蒼白で立っている、橘先輩の妹、真理子ちゃん……。

「……見ちゃいました?」
「………ごめん。見た……」

 見てしまった。

 真理子ちゃんが、兄である橘先輩にキスしているところを……




---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
どうしてもここまで入れたくて長くなってしまいましたっ。
続きはまた明後日!よろしくお願いいたします!

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