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BL小説・風のゆくえには~うちの旦那様、お医者様なもので

2020年02月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】

 朝起きたら、何となく、ちょっと、頭が重かった。
 でも、今日はせっかくのバレンタイン前の休日。せっかく朝から慶と一緒にチョコレートフェアに行く約束をしているのに、具合なんか悪くなっている場合じゃない。

(気のせい気のせい気のせい……)

 頭痛は「気のせい」ということにして、先にベットから抜け出し、朝のコーヒーを落としはじめる。……と、コーヒーの匂いにつられたように、慶も起き出してきた。

「はよーーー」

 慶は挨拶と一緒に伸びをしたかと思うと、その勢いで腕をブンブン振り回しはじめた。時々するその仕草を見る度に、なんだか子供みたいでカワイイなあ、と思っていることは内緒だ。

「おはよう。昨日のスープの残り食べる?」
「食べるーー」
「分かった」

 肯いて、台所に戻ろうとした……のだけれども。

「浩介」
「え」

 いきなり腕を掴まれた。慶の表情が、寝ぼけたポヤッとしたものから、真剣なものに変わっている。

(なに……)

 ジッと覗き込まれ、ドキマギしてしまう。……と、

「お前、顔色悪いな」
「!」

 げ。

 鋭い指摘に、グッと詰まってしまう。さすが現役のお医者様だ。

 慶の鋭い目が真っ直ぐにこちらを向いている。

「具合、悪いだろ?」
「……どこも悪くないよ」

 ブンブンと首を振る。本当に、別に悪くない。ほんのちょっと頭が重いだけだ。インフルエンザだったら、もっとガツンと悪くなるから、絶対に違う。こんなの許容範囲のうちだ。

「全然、ホントに、悪くないよ」
「……口開けろ」
「え」

 喉は……ほんの少しだけ違和感があるといえばある。ってことは、これ見られたら、外出中止?

「だから本当に悪くないから大丈夫だから。早くご飯……」
「口、開けろって」

 ぐっと顎を押さえつけられた。

「んんん」

 けど、ブンブンブンと首をふる。
 嫌だ。絶対嫌だ。絶対開けない!

「浩介」
「んんんん」

 口を結んだまま、首を振り続ける……と。

「!」

 いきなり、背中に衝撃が走り、視界が天井になっていた。力任せにソファーの上にぶん投げられたのだ。あいかわらず、その可憐な顔も小柄な体型も無視した馬鹿力。

「え」

 そして、のしかかるように、バンッと顔の両端に手をつかれた。いわゆる床ドン…ならぬソファドン?

「ちょ、慶……っ」
「具合、悪くないんだろ?」

 慶の完璧に整った綺麗な顔が近づいてくる。キラキラした瞳が細められ、唇が迫って……

(………って!)

 ダメだダメだダメだ! もしおれが風邪だとしたら、キスなんかしたら慶にうつしてしまう!

「ごめん!」

 慌てて、自分の口を手で押さえて、慶の唇を寸前で押し戻した。

「分かった! ちゃんと口開けます!」
「最初から素直にそうしろっての」
「うー……」

 体を引っ張り上げられ、ソファにちゃんと座らさせられる。あらためて「口開けろ」と言われ、素直に開けたところ……

「若干赤い……けど、まあ……」
「え! じゃあ、出かけてもいい?!」

 期待を込めて叫んだけれど、「却下」と冷たく言われた。

「今日は一日家で温かくしてゆっくりしてろ」
「えーーーーーー」
「えーじゃない」
「えーーーーーー」

 うちの旦那様、お医者様なもので、こういうの誤魔化せないから困ります……

「これ、風邪?」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、やっぱりキス禁止かあ……」
「…………」

 細ーい目で見られてしまった。けど、気にしない。

「ねね、じゃあさ、キスしないでイチャイチャするのはOK?」
「なんだそりゃ」
「だから、例えばフェ……、痛!」

 ゴッと額にゲンコツがきた。

「痛いーーーー」
「アホなこと言ってないで、メシ食うぞ。おれが用意するからお前座っとけ」
「えーーーーー」
「えーじゃない」
「えーーーーー」

 せっかくのバレンタインフェアだったのにー。そのあと、食事に行くのも楽しみにしてたのにー。

 ダイニングの椅子に座り、台所にいる慶に向かってブツブツブツブツ言い続けていたら、慶が呆れたように言ってきた。

「どうせ来年もまたやるだろ。来年まで我慢しろ」
「…………」

 …………来年。

 来年、か。

「…………そうだね」
「おお」

 うん。そうだね……。

 当然のことのように、来年の話ができることが、嬉しい。

「で、お前、食欲は?」
「んー…あんまり。でも……」

 答えながら、朝食を運んできてくれた愛しいその人を見上げる。

「慶を食べる食欲ならあるよ❤」
「アホか」

 冷たいツッコミと共に、「ちゃんと食え」とスープを押し出された。

「えーーーーー」
「だから、えーじゃねーよ」
「えーーーーー」
「さっさと食え」
「うーー」

 しょうがないのでスープを一口飲む。体が温まる……

 しばしお互い無言で食べていたけれど、食べ終わりかけに、慶がポツンと言った。

「とにかく……今日はゆっくりしてろよ」
「……うん」

 もう、素直に肯く。心配してくれてるのに、これ以上はふざけられない。

「……で、慶は今日何するの?」
「何って……」

 慶は少し首をかしげると、思わぬ言葉を言ってくれた。

「お前の看病?」
「え!?」

 思わず叫んでしまう。

 看病?看病?看病って!?

 それは、あれやこれやこれやあれや、的な!?

「わ〜❤」
「アホな想像するな」

 慶は苦笑いの表情で言うと、食べ終わった食器を持って立ち上がり……

「とにかく……今日中に治して、バレンタイン当日、旨いもん食いに行こうな」

 通りがかりのついで、みたいに、ポンポンと頭を撫でてくれた。

(…………。く〜〜〜っっ)

 幸せ過ぎて変な声が出そうだ。

 撫でられたところから、優しさと温かさが伝わってきて、体中がふわ〜っとなる。もうこれだけで治った気がする。

(うちの旦那様、お医者様なもので……)

 そばにいるだけで、元気になる。幸せでいっぱいになる。最高の主治医だ。

「ハチミツ生姜飲むか」
「うん!ありがと」
「昼はうどんな」
「うん」

 今日は一日、うちでゆっくりしていよう。二人で一緒に。


 

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お読みくださりありがとうございました!
今さっきのお話、でした。今日は二人で録りためているDVDを観たりしてゆっくり過ごすそうです。いいな〜✨

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当に本当にありがとうございます!!

本当は「2つの円の…」のその後の話を書こうと思ったのですが、真面目な話になりそうなので、やめときました💦

そのうちまた忘れた頃に何かしら更新すると思いますが、その際には何卒何卒よろしくお願いいたしますm(__)m
こんな不定期更新にお付き合いくださり、本当にありがとうございます!

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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら

コメント (10)
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