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BL小説・風のゆくえには〜変わる覚悟とその一歩

2023年09月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
長編「月光」と「巡合」の間のお話です。

内気で人付き合いが苦手な桜井浩介。でも「月光」の最後で、「おれは変わる!」と心に決めました。親友「渋谷慶」にふさわしい人間になるために。
そんな浩介高校2年生の9月の一コマです。



【浩介視点】

 高校2年生の夏休み、写真部の合宿での経験のおかげで、おれは「変わる」と覚悟を決めることができた。

 できた。はず、なんだけど…………

「あれー?桜井じゃん」
「……………っ」

 ハンドボール部の宇野の声が聞こえてきて、ビクーっと飛び上がってしまった。
 ここは写真部の部室。こんな安全地帯で、なんで……、と思ったら、続けて騒がしい女の子達の声も聞こえてきた。

「すみませーん、華道部でーす」
「もー、宇野っち勝手に入らないでよ!」

 入口の方に顔を向けると、大きな荷物を持った宇野と女の子二人が入ってくるところが目に入った。
 この部屋は、写真部と華道部が共同で使っている。とはいえ、華道部の活動場所は技術室のため、華道部は倉庫としてしか利用していない。こうして時々荷物の出し入れにくるだけだ。

「ここって写真部も使ってんの?」
「そうなの!だから静かにして!」

 そう注意してくれた女の子の言葉なんかお構いなしに、宇野はズカズカと中まで入ってきながら、

「こいつ一人しかいないんだから、静かにしなくたっていいだろ。な?桜井」
「…………」

 今はおれ一人だけど、隣の準備室では、橘先輩と南ちゃんと真理子ちゃんが現像作業をしている。慶は先生に呼ばれてまだ来ていなくて……

(慶……)

 ゴクリ、と喉が鳴る。

 早く来て……

(……って!違う!)

 ハッとして、思ってしまった言葉を慌てて否定した。

(おれは変わるって決めたんだ。だから……だから……)

「……うん。他の部員はこっちで現像作業中だから大丈夫だよ」

 普通の声になるよう細心の注意をはらいながら、普通に、返事をする。

「へー、準備室が現像室になってんだ?」
「うん」

 宇野は興味深そうにキョロキョロすると、半笑いで、言った。

「なんか写真部って暗いよなー」
「………」

 なんでそういうこと言うんだろう……

 なんて返事するべきかも分からず詰まってしまう。
 と、ふと、慶が宇野を評した言葉が脳内によみがえってきた。

(あいつ何も考えてねえから。その時思ったことなんでも言っちゃうバカなんだよ)

 ……そうだな。こちらがそう言われてどう思うかなんて何も考えていない、ただの感想、なんだろう。

 でも……それに対してなんて返せば一番普通なんだろう……

「宇野っち!荷物ここ!」

 迷っていたところに、華道部の女の子の声が入ってきた。助かった。

「ここにのせて!早く!」
「うっせーなあ」

 ムッとしたように宇野は返すと、軽々と棚に荷物を乗せた。さすがハンドボール部のエース。ガタイもいいし、力持ちだし。…って、あれ?

「宇野って、華道部も入ってるんだ」

 思わずつぶやくと、宇野が「入ってねーよ」と苦笑気味にいいながらこちらを振り返った。

「たまたま技術室の前通りかかったら、無理矢理手伝うことにされたんだよ」
「あ……そうなんだ」
「オレが華道部って似合わないだろ」
「そう?」

 そうかな……

「宇野って、着物似合いそうだから、華道も似合うと思って」
「え」
「え、あ……」

 キョトン、とされて、血の気が引く。

(まずい。おれ、また何か変なこと言ってる?)

 まずい、まずい。おれは人とピントがずれているところがあるらしく、時々こうして人を呆れさせてしまうことがあるのだ。だからなるべく話さないようにしているのに……。

(でも……でも、おれは変わるって決めたし……、でも……)

 どうしよう……とグルグルしていたら、

「でしょ?! 去年の応援団の羽織袴も似合ってたもんねー」
「今からでもいいから入部しなよー宇野っちー」

 華道部の女の子たちがはしゃいだ声を上げてくれた。また、助かった。全身から力が抜けそうになる。

 宇野は「うるせーよ」と、女の子たちに追い払う仕草をすると、

「桜井ー!」
「!」

 その力強い手が、おれの肩にバシッと降りてきた。

「お前が変なこと言ったせいで、こいつらまで変なこと言いだしただろ!」

 そのままバシバシと叩かれる。

(痛い。けど……)

 宇野……笑ってる……。おれに笑いかけてる……。

「どのみちハンド部忙しいから無理だけどな」
「そう……なんだ。残念」

 なんとかうなずくと、宇野はあと3回、おれの肩を叩いてから、

「あ、そうそう。今年の応援団は羽織袴じゃねえんだよ」
「そう……なんだ」
「すっげー仕掛け考えてるからしっかり見とけー?」
「う……うん」

 また、なんとかうなずくと、宇野は「じゃーなー」と言って、女の子たちと騒ぎながら出て行ってしまった。

 …………。

 …………。

 できた……かな。ちゃんと、できた……かな。

(慶…………慶)

 思い浮かぶのは、おれの親友、渋谷慶の優しい手。
 慶に会いたい。今すぐ、慶に……慶に。

 と、思っていたら、眩しい光が射し込んできた。

 渋谷慶。おれの親友。

「あれー? お前一人か? 橘先輩は?」
「…………慶っ」

 我慢できなくて、その光の元に駆け寄る。

「慶!」
「わわわっなんだなんだっ」

 ワタワタとしていることにはお構いなしに、ぎゅうっと抱きしめる。

 慶。慶。おれの親友。大好きな人。

「慶……会えて嬉しい!」
「…………。なんだそりゃ」

 さっきまで一緒だっただろ、と慶は呆れたようにいいながらも、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。果てしないほどの力強さで。

 そのぬくもりにあらためて誓う。

(おれは、変わる)

 変わるんだ。
 おれは、慶にふさわしい男になる。



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お読みくださりありがとうございました!

9月10日が浩介の誕生日なので、何かあげたい!と思っていたところ、
月光」「巡合」を読んでくださっている方がいることに気がつき(ありがとうございます涙)(←gooブログさん、どの記事が読まれているか見れるのです)
自分でも読み返していたら、この頃の浩介に会いたくなりまして……。

まだ浩介が慶を恋愛対象としてみる前です。
こうして苦手なタイプの人とも話せるように頑張って。偉かったなあ。頑張ったなあ。と、褒めてあげたい!
この頃の浩介ってひたすら健気で愛しい……

しかし、こんなに可愛らしかったのに、恋を知って、腹黒浩介になっちゃうんだよなあ……

ということで。こんな亀の歩みのブログにお付き合いくださって本当にありがとうございます!
読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方、本当にありがとうございました!また今度……


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