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再録・(BL小説)風のゆくえには~特別の呼び方

2017年07月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
すみません。再録です。
2017年4月18日投稿「現実的な話をします11-2」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます



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☆今日のオマケ・慶視点


 2月12日日曜日。

 浩介と溝部と一緒に、高校の同級生の山崎の引っ越し祝いにいった。
 山崎が、おれと同じ職場の戸田菜美子先生と結婚してから4か月。結婚式をしてからは2か月。はじめは山崎の1人暮らしのマンションに一緒に住もうとしたけれど、やはり手狭すぎて荷物が入りきらない……ということで、お互いの部屋をいったりきたりしながら新居を探していて、ようやく二人の納得いく家が見つかった、ということだ。

「でも、将来的には戸建てかな……とは思ってるんだよね」
「テラスハウスを選んだのは、その予行練習ってことか?」

 溝部が興味深々に山崎に問いかけている。家に入る前も、このテラスハウスの造りに妙に関心を持っていた溝部……

「いや、そういうわけではないんだけど……」
「じゃあどうして?」
「ここらへん、駅近の賃貸ってワンルームが多くて………って、何でそんな食いついてるわけ?」
「え!?」

 溝部は分かりやすく動揺して「いやいやいや……」なんて言っている。なんだその、ツッコンでください、と言いたげな態度は……

「何? 鈴木となんか進展でもあった?」
「あーいや、まあ………」

 気の優しい山崎のツッコミに、溝部はニヤニヤしながら、

「鈴木とは進展ないんだけどな」
「ないのかよっ」
「いやー、鈴木とはないんだけど、陽太からは全面的に応援の言葉をもらえてさっ」

 溝部のニヤニヤは止まらない。なんでも、「息子になってやる」「お母さんと結婚しろ」と言われたそうで……

「昨日の夜、久しぶりに陽太と通信したんだけどさー」
「通信?」
「ああ、ゲーム。最近忙しくて全然できてなかったから、ホント久しぶりにな」

 思いだし笑いをしている溝部……気味が悪い……

「そしたらさー、陽太が、バレンタイン、チョコあげるように言っておくって、言ってくれてさー!」

 パンっと手を打った溝部。

「これオレきたよな!? 今年のバレンタインは、人生を左右する超大事な日になるよな!?な!?」

「………………」
「………………」
「………………」

 な、と言われても………。おれは思わず黙ってしまったのだけれども……

「うん……そうだね。きっと」

 またしても、優しい山崎がうなずいてあげ、溝部が「だよな!だよな!」と調子にのり……、そこにエプロン姿の戸田先生が顔をだした。

「ご飯、運んでもいいですか?」
「あ、ごめん、菜美子さん、やらせっぱなしで……」

 慌てて山崎が立ち上がり、戸田先生のところにいくと、溝部がますますはしゃいだ声をあげはじめた。

「うわーー!!山崎、いつの間に名前呼び!? 菜美子さんとか言ってる!」
「そりゃ夫婦なんだから……」
「でもこないだまで、戸田さんって言ってたじゃん! ねえねえ、菜美子ちゃんは山崎のことなんて呼んでんの!?」

 わあわあ言いながら溝部もキッチンに行ってしまい……

「たく、しょうがねえなあ………、?」

 二人に絡んでいる溝部の声に苦笑しながら、浩介を振り返ったのだけれども……

「浩介?」
「…………え?」
「…………」

 なんだ? なんか浩介、今日様子がおかしいんだよな………

「どうかしたのか?」
「あ、ううん。なんでもない」
「…………?」

 浩介はちょっと笑って首を振ると、

「名前で呼ぶのって特別な感じがしていいよね」
「あ? ああ……そうだな」
「ねえ……慶」

 ふっと真面目な瞳をした浩介。

「慶のこと名前呼びつけで呼んでるのって、まだ、おれだけ?」
「え?」
「あ、海外では名前呼びだったから、日本人でって意味なんだけど……」
「?」

 なんだ? 何をいまさら……

「?? あとは親と姉貴……だけだけど?」
「そう……」

 浩介が安心したようにうなずいたのと同時に、溝部がまたわあわあ言いながら戻ってきた。

「やっぱり名前で呼ぶと俄然親密度が上がった感じするよな? オレも鈴木のこと名前で呼ぼうかな~」
「速攻で殴られる気がするけど……」
「いい。殴られてもいい。親密度上げるためならいくらでも殴られるっ」
「…………」

 溝部、なんか変な方向に進もうとしてる……

「卓也さん、これも」
「あ、うん」

 キッチンから聞こえてくる山崎と戸田先生の会話に心が温かくなってくる。

「まあ……親密度は上がるよな」
「だよな~だよな~」

 溝部は一人「有希……有希。うーん……有希?」とニヤニヤしながら練習をはじめ……

「慶」
「あ?」

 テーブルの下で浩介の膝がコツンとおれの膝にあたってきた。

「慶」
「うん」
「慶……」
「………」

 ああ、いいな。お前に名前を呼ばれると、すごく幸せな気持ちになる。

「浩介?」
「……うん」
「浩介」
「うん」

 そして、お前の名前を呼ぶと、愛しい気持ちがますます増えてくる。

 見つめ合い、テーブルの下でそっと手を触れあ……

「……って、お前ら人前でイチャイチャすんなーーーー!!!」

 溝部の怒鳴り声にハッと我にかえった。

「あ、ごめん」
「存在忘れてた」
「なんだとーーー!!」

 溝部に怒られ、笑いだしてしまった。続きは帰ってからにしよう。



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お読みくださりありがとうございました!
浩介さんの様子がおかしい理由はこれ→→「秘密のショコラ(前編)」
二人でお出かけした日曜日の朝、の行先は山崎新居なのでした。朝から出て、引っ越し祝い買って、お昼前に到着、でした。

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再録・(BL小説)風のゆくえには~10歳の夜には

2017年07月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
すみません。再録です。
2017年4月7日投稿「現実的な話をします9」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます



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☆高校の同級生・鈴木さんの息子・陽太君の、二分の一成人式のための作文の添削をしてあげた浩介。その影響で、小学生時代の記憶がよみがえってしまい……


【浩介視点】



 今は多くの小学校で『二分の一成人式』というものを行っている。

 数年前、その話をはじめて聞いたときには「今の時代に生まれなくて良かった」とつくづく思った。

 生まれてから10歳までの自分史を作ったり、両親への感謝の手紙を読んだり……想像するだけで、気を失いそうだ……

 10歳の時の自分……
 父に対してはひたすら恐怖心しかなかった。母の束縛から逃れることもできず、毎日毎日母と共に勉強机に向かっていた。学校にも馴染めず、家にも安らげる居場所はなく、唯一、本の世界だけが逃避場所だった。

 今でこそ、慶と、心療内科医の戸田先生のおかげで、両親に会っても平常心でいられるようになったけれど、何かの拍子に恐怖心や拒絶感が復活してしまうことがある。

(………まずいな)

 昼間に『二分の一成人式』の話をしたせいだろうか。子供の頃の記憶に脳が支配されはじめている……。

 おれはおそらく、人よりも記憶力がいい。みんなが漠然としか覚えていない昔のことも、かなり詳細に覚えていることがある。それは、嫌な記憶であるほど鮮明だ。思い出してしまうと、感覚までその頃に戻ってしまう。

(慶…………)

 そんなとき、おれはひたすら、慶のことを思い出す。慶の笑顔、慶の温もり、慶の声。嫌な記憶を全部慶で埋めつくす。慶の指、慶の腰、慶の背中、慶の……


「………どうした?」
「!」

 いつの間にお風呂から出ていた慶が、ベッドに腰掛けたおれをフワリと抱きしめてくれた。

(慶の……匂い)

 きゅうううっと胸が締めつけられる。

「慶………」

 おれの様子がおかしいことに気がついてくれてる……。できれば知られたくないのに、慶は昔から、こういうとき必ず気がついて、黙って抱きしめてくれるのだ。

(10歳のおれは、こんな愛、知らなかった)

 おれの全部を包み込んでくれる深い愛……
 慶の細い腰に手を回し、その胸に頬を押しつける。


 慶のおれに対する愛情の根本は『保護欲』なのだと、戸田先生が言っていた。孤独な深淵にいたおれだからこそ、慶の保護欲をかきたてたのだと。あの子供のころの日々も、慶に愛されるためだったのだと思えば、意味のあるものだと思える。


「慶……おれ、今、すごい幸せ」
「………そうか」

 そのまま気持ちの良い手が頭を撫で続けてくれる。慶の手。温かい、手……。

「慶は、10歳の頃、何になりたかった?」
「んー……なんだろうなあ? 4年だともうミニバスのチーム入ってたから、バスケットボール選手とかかなあ?」
「そっかあ……」

 おれは「弁護士」と書かされただろう。父の跡取りになることが母の願いだったから……。

 どんな親であれ、生んでくれたこと、育ててくれたことには感謝しなくてはならない、とよく聞くけれど、あの頃のおれに言わせれば「生んでくれと頼んだ覚えはない」というやつだった。生きている意味も分からなかった。ただ、親の期待に応えて弁護士になることだけが与えられた義務だった。でも……

(今なら、感謝できる)

 おかげで慶に出会えた。今、愛しいこの人と共に生きている。おれの幸せ。おれのすべて。


「七五三があって、次が10歳の半成人式、で、ハタチの成人式」

 慶が「うーん」と言いながら言葉を継いだ。

「そのあとって、還暦のちゃんちゃんこまで何もないんだよなあ」
「ちゃ……っ」

 ちゃんちゃんこ?!

「今時それ着てちゃんとお祝いする人っているのかなあ?」
「え、うちの親やったぞ? 写真館で写真撮った」
「え?!」

 し、知らない……っ
 素早く計算してみて、それがちょうど、おれが慶を置いて日本を離れていた3年間の間の話だと推察され、複雑な気持ちになってくる。あの3年も、今なら必要なことだったのだ、と思えるけれども、それでもやっぱり離れたくはなかった……

「あ、そっか。お前だけ日本にいなかった時か」
「う……」
「今度実家いったとき写真見せてやるよ。笑えるから」
「うん……」

 慶の言葉に再びギューッとくっつく。

 もう、離れない。絶対に離れない。


「おれたちも還暦の時は写真撮ろう?」
「ちゃんちゃんこは着ねえぞ?」
「さすがにそれはねー……。赤のネクタイとかかな」
「まー着ても赤のセーターくらいだな」
「慶は赤も似合うからいいね」

 ちゅっとキスをして、二人でベッドにもぐりこむ。

「ずっと一緒にいようね?」
 こつんとおでこを合わせると、慶は少し笑った。

「なに当たり前のこと今さら言ってんだ?」
「だって……」

「いいからもう寝るぞ? 明日仕事」
「うん……」

 手を繋いで、最後にもう一度唇をあわせる。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

 いつもの夜。昨日も同じだった。明日も同じだろう。

 10歳のおれが想像もしなかった、幸せな夜。このままずっと続く幸せな夜。そして、幸せな朝を迎える。

 

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お読みくださりありがとうございました!
って、暗!! でも、一度書いておきたかった浩介さんの現状話でございました。

慶の両親はわりとノリがいいので、二人でお揃いのちゃんちゃんこ着て写真撮りました。
その写真、撮ったばかりのころはリビングに飾っていましたが、もう10年とか前の写真なので、今はしまってあります。だから、浩介は見たことがない、というわけでした。

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再録・(BL小説)風のゆくえには~南の妄想

2017年07月26日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
すみません。再録です。
2017年4月4日投稿「現実的な話をします8」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます



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高校2年生時代、慶・浩介・溝部・山崎・斉藤の5人で仲良しグループでした。
明るい超美少年・渋谷慶、天然優等生・桜井浩介、お調子者でクラスの盛り上げ役溝部祐太郎、地味で大人しい山崎卓也、極々普通の青春謳歌している斉藤健一。
南ちゃん腐女子フィルターにはどう映っていたのかというと……

高校時代から四半世紀過ぎた今年のお正月。
浩介&慶カップルは、元旦は浩介実家へ。二日は、溝部と鈴木さん(←溝部が片想い中)とのデート?の付き添いの後、慶実家へ行きました。




【慶視点】


 今年の正月は、一日は午後から夜まで浩介の実家で過ごした。
 最近、本格的に浩介とご両親との仲は改善されてきたし、実家にいる間、浩介も楽しそうにしていたので、良い傾向だと思いきや、

「疲れた……しばらく実家はいい……」

 マンションに帰ってきて早々、そういってベタベタくっついてきたところをみると、相当無理をしていたらしい。今年は泊まりに……なんて思っていたけれど、それはまだハードル高いだろうか。日本に帰ってきて2年。同じ轍は踏まない。急がない。少しずつ、少しずつ、一緒に歩み寄っていければいい。


 二日は朝から、溝部と鈴木と鈴木の息子の陽太君と一緒に出掛けた。中華街で肉まんを食べ、山下公園の氷川丸でお餅を食べ、海沿いをずっと歩いてみなとみらいに出て、食事をして遊園地で遊んで買い物をして……まるでデートだった。

「ちょっと、いい感じになってきたよね?」

 その後移動したうちの実家で、浩介が嬉しそうに言った。

「途中からあの二人、横並んで歩くこと増えてたし」
「まあ、そうだな」
「うまくいってくれるといいなあ……」

「何が?」
 コーヒーを置いてくれながら、妹の南が言う。
 今日は、南と南の娘の西子ちゃんも実家にきている。椿姉とその旦那の近藤先生ももうすぐ到着する予定だ。
 
「高校の同級生の溝部と鈴木さん」
「鈴木さんって、女子バレー部の部長だった鈴木さん?」
「知ってるのか?」

 南は同じ高校の一学年下に在籍していた。

「知ってるよー。超カッコよかったもん。うちのクラスの女子でもバレンタイン渡した子いた」
「あ、そうだよね。女子からモテてたよね」
「え、そうなのか?」

 知らなかった、というと、「覚えてないだけでしょ」と浩介に突っ込まれた。否定できない……。正直高校の頃のことなんて、断片的にしか覚えていないのだ。
 うーん……と思い出そうと唸っている横で、

「なーんだ、溝部さん、そうなんだ……。がっかり」
「? 何ががっかり?」

 いきなり南が残念そうに言うので首をかしげる。と、南が肩をすくめて言った。

「いやー、山崎×溝部推しとしては、やっぱりガッカリですよ」
「…………」

 …………。

 なんだそりゃ。

 と、浩介がきょとんと返した。

「え、山崎、もう結婚したよ?」
「え?! マジですか?! そういうことは早く言ってよ、浩介さん!」

 だから、なんの話だ……。ハテナだらけのおれをおいて、2人、普通に話を続けてる。

「なんだよー、一年半くらい前だっけ? 二人のマンションで撮ったっていう写真には、まだまだラブラブで写ってたのにー」
「あー、あの後に色々あってね……」
「まあでも、結婚しても、そこから膨らむ妄想はありますが……」

 …………。

 だからなんの話だ……。

 いや、いい。世の中には知らない方がいい話もある……。

「慶?」
「お兄ちゃん?」

 立ち上がったおれを見上げた二人に手を振って、台所に避難する。

(………まあ、いいか)

 浩介が楽しそうだから、いい。昔から浩介と南はわりと仲が良い。妹が欲しかったという浩介にとって、南は妹みたいなものなのだろう。


「あけましておめでとうございまーす」
 しばらくして、玄関からにぎやかな声が聞こえてきた。椿姉と近藤先生だけかと思いきや、娘の桜ちゃん一家も一緒に来たようだ。

「いらっしゃーい」
 浩介と一緒にみんなを出迎えながら思う。
 今年もまた、こうして笑顔で過ごせればいい。

 

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お読みくださりありがとうございました!
南ちゃん、腐女子です。強気受け好き。山崎×溝部、と高校の時から思っていたらしい。

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再録・(BL小説)風のゆくえには~インフルの日々

2017年07月24日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

すみません。再録です。
2017年3月28日投稿「現実的な話をします6-2」&2017年3月31日投稿「現実的な話をします7」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます


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インフルエンザに罹った場合、別々に暮らすことにしている二人。
2016年の「つきあった記念日」は、浩介インフル罹患中のため、慶は高校時代の友人溝部のマンションに泊まっています。


【浩介視点】


 おれがインフルエンザになってしまったため、別居中のおれ達……

 慶は様子を見に来てくれて、着替えさせてくれたり、洗濯、洗い物、掃除をしてくれるけれども、マスク着用でほとんど話さない。必要以上には触れてくれない。しょうがないこととはいえ、さみしい……

 3日目の夕方……。
 熱は下がっているけれど、食べられなかったせいか体力が落ちていて、むしろ熱があったころよりも朦朧としていた。

(あー……今日は記念日だったのになあ)

 12月23日は付き合った記念日。いつもならば食事に行ったりするのに……

 慶はおれをベッドの上に座らせ、淡々と、蒸したタオルでおれの体を拭いてくれ、新しいパジャマに着替えさせてくれる。

(慶……お医者さんみたい)

 って、本当に医者だった……って当たり前のことを思う。
 でも、本当に、おれは単なる患者って感じで、この着替えも作業でしかなくて……

(慶は寂しくないのかな……)

 溝部と楽しく過ごしてるのかな。溝部がラインで教えてくれたけど、今日から鈴木さんの息子の陽太君が来てるんだもんな。楽しそうだな……

 会えない寂しさと、朦朧とした頭とで、なんだか泣きそうになっていたのだけれども……

「………浩介」

 ぼそっと小さなつぶやき……

 そして。

「!」

 後ろからぎゅっと抱きしめられた。

(………慶)

 愛おしい気持ちが伝わってくる。その愛に包まれていると実感できる……

 でも、そのぬくもりはすぐに離れてしまった。そして容赦なく寝かされてしまう。そのまま、また、淡々とした作業に戻り、慶は出て行ってしまった。

「慶………」

 でも……背中が温かい。
 離れていても、少しの時間でも、その愛は確かにここにある。

「早く良くならないと……」

 よくなったら記念日のお祝いをしよう。どこに行こうかな……
 そんなことを思っていたら、いつの間に眠っていた。


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【慶視点】
(↑のちょっと前の話。鈴木さんの息子・陽太君がお母さんの卒アル見たい、というので、溝部が出してきてくれました)



 卒業アルバムなんて久しぶりに見た。

 おれと浩介は高2の時だけ同じクラスだったので、卒業アルバムは別々のページに載っている。でも、唯一、修学旅行は高2の時だったので、このページにだけ一緒に写った写真がある。

『おれ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?』

 松陰神社で、長谷川委員長が空に傘を突き上げて叫んでいた言葉を思い出す。

 あの時おれは、どんな将来が待ち受けているとしても、おれの隣には浩介がいると信じたい、と思った。祈るように、思った。思いは、叶う。

『慶ー寂しいー』
 浩介からのメールに苦笑してしまう。せっかくの『付き合った記念日』なのに、浩介がインフルエンザになったため、おれは溝部の家に避難しにきているのだ。

『うちに帰ってきてー』
「…………」

 うちに帰る。そう言えることが、何よりも嬉しい。
 うち。おれと浩介の、『うち』。

『わかった。ちょっとだけ帰るから』

 そう書くと、たまらないほどの温かい気持ちに包まれた。



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お読みくださりありがとうございました!
一緒に暮らせることや、自分たちを「うち」っていえることって、本当に幸せなことです。

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4000日

2017年07月23日 21時42分00秒 | ご挨拶・作品紹介

 再録更新にも関わらず、ポチしてくださった方、過去記事読んでくださっている方、本当に本当にありがとうございます!


 今さっき、gooブログの編集画面を開いて知りました。今日このブログ、

【ブログの開設から 4000日】

 だそうです。
 切り番ってテンションあがりますね~✨
 気がついてよかった……

 で、いつ開設したのか確認したところ、

【2006年8月10日】

 でした。意識したことなかったので、知らなかった。もうすぐ丸11年なんだ💦

 元々、昔書いた小説をブログに落とすために開設→落とし終わった後、新作少し書いて、休止。

 その後、2014年6月。
 実家から、高校時代に書いた小説ノートがダンボールに詰められて送られてきた→処分する前に、ブログに写そうと思って、復活。

 ノートすべてシュレッター終了→慶と浩介の話の続きがどうしても書きたくなる→今に至る。

 現在はちょっとお休み中で、再録の掲載をしてまして、本格復帰は9月10日の予定。

 やっぱり、復帰後は『翼を広げて』の補足話からはじめようかな……と思っています。

「以前書いた記事に関しては、消すことはしても、誤字以外の訂正はしない」

 といういうことを基本姿勢にしているため、『翼を広げて』の説明不足の部分を書き直したい、という気持ちはあるけれど、書き直しは信念に反する。しかも、色々難しい……ということで、うーーーーん……と悩んだ結果。

『翼を広げて』は慶視点だから、他の人の視点で色々書けばいいんじゃん?

と、思い付きまして……

「こんな真面目な話、誰が読むの? 私が読みたいからいいの!」

という、いつもの自問自答もありつつも……
 
 このブログのモットーは、

「自分が読みたいから書く!」

なので、それに従い、「私が読みたい!」と思う話を書かせていただきます💦 9月10日再開予定でございます。

 でもその前に。
 現在、ひたすら「おまけ」の抜き出ししてます。自分が読みたいときに探すのが不便だから(^^;

 一日おき更新で、8月7日に最後のおまけが更新される予定になっています。

 明日も再録更新させていただきます。よろしければどうぞお願いいたします。

 再録更新にも関わらず、ポチしてくださった方、読んでくださった方、過去記事読んでくださっている方、本当に本当にありがとうございます!ものすごく励まされております。感謝感謝感謝申し上げます!

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