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(BL小説)風のゆくえには~クーラー設定温度の戦い

2017年08月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切


 新婚・溝部家「初めての夏」

<キンキンに冷えた部屋にしたい夫・溝部vs冷房なんていらない。扇風機で充分!な妻・鈴木さん>

 で、クーラー設定温度の戦いが毎日繰り広げられています。

 よその家ではどうなんだろう……と思った溝部君。高校同級生の桜井浩介に、ラインで聞いてみました。

ーーー

【溝部視点・桜井浩介とのライン】


『設定温度の戦い? うちはないよ』

(キョトンとした桜井の顔が見えるようだ……)

 あー、やっぱりお前ら男同士だから、適温も同じってことか……

『ううん。うちは、慶が暑がりでおれが寒がりだから、希望温度は違うんだけどね』

 …………。どうせ、尽くしたい病の桜井が合わせてるんだろ……

『うん。そう。……ま、おれが長袖着ればいい話かなって思ってて……』

 だと、思った……

『あ! だからって、それ鈴木さんに求めないでよ? この考え、おれが特殊な病気なだけだからね?』

 ほんと羨ましい病気だな………。
 お前、合わせてばっかでストレスたまんねーの?

『んー……、合わせることが喜びというか……』

 ………マゾだな

『う……否定はしないよ……。あ、でも、クーラーの件に関しては、嬉しいこともあるんだよ』

 嬉しいこと?

『うん。おれ、末端冷え性なんだけどさ』

 OLかよ

『男の冷え性だってあるんだよ!』

 聞いたことねえなあ

『あるんだって! 慶が言ってた!』

 へー……まあ医者が言うんだから本当なんだろうなあ……

『だよっ』

 で?

『で、手と足の先、すごく冷たいんだけどさ』

 うん

『いっつも慶が温めてくれるんだ~❤』

 ……………………は?

『おれの足、足で挟みこんで温めてくれたり』

 ………。(←っていう絵文字)

『手も、両手で包み込んでくれたり、ほっぺとか首とかにくっつけてくれたりして』

『それで、お前の手、冷たくて気持ちいいって言ってくれるんだ~❤』

 ………。
 
 ………。

 ………。

(今、「シ」から始まる言ってはいけない二文字の言葉が頭をよぎってしまった……)


『溝部も鈴木さんのこと温めてあげればいいじゃん』

 そんなことをしようものなら、余計に怒りを買いそうな気がしますが……

『えーそうかなあ? 絶対嬉しいよ?』
 
 ……じゃあ、機嫌が良さそうな時にやってみます……

『うん。是非!』

 はい……参考になりました……アリガトウゴザイマシタ……
 

(…………。桜井に聞いたおれが馬鹿だった……)


***


【浩介視点】


 その夜……

「おやすみ」
「おやすみなさい」

 いつものようにコツンとおでこを当てて言い合う。
 そして慶は、おれの手をそっと掴んで自分の頬に当ててくれると、

「あー冷た冷たー……気持ちいー……」

 満足そうに言って、そのままスーッと眠ってしまった。慶はあいかわらず寝付きがいい。

(慶……)

 慶の温かい頬。温かい手。安心しきったような寝顔。泣きたくなるほど、幸せだ。

 おれは自分の手が冷たいこともコンプレックスの一つだった。心の冷たさが反映されているような冷たい手。大嫌いだった。
 でも……

『お前の手、冷たくて気持ちいい』

 慶がそう言ってくれるから、嫌いだった自分の冷たい手も大切なものに思えるようになった。

『お前の手は、おれがいつでも温めてやるからな?』

 慶はそういって、いつもいつも温めてくれる。四半世紀以上ずっと。

(慶……)

 そっと慶の首の下に手を差し入れて、その愛しい頭をかき抱く。

(慶はいつでもあったかいね……)

 その温かい体温を感じていたら、おれもいつの間に眠っていた。



 翌日……
 朝7時少し前、溝部からラインが来た。なぜか物語風……


『昨晩のことです』

『陽太が寝たあと、二人でソファで酒飲んでる最中、また鈴木が冷房切ろうとしたから、桜井から聞いた話をしたら』

『馬鹿じゃないの?って言われました』

 あ、そうなんだ………

『でも、食い下がって、足温めてやるーって言ったら』

『だったら、足のマッサージして、と言われ』

『昨晩は延々とマッサージをさせられました』

 それはそれで……

『ちょっと楽しかったです』

 だよね。

『しかもクーラー切れって言われなかったです』

 おお!やった!

『今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします』

 (笑)嬉しい報告ありがとう。



「……朝っぱらから何ニヤニヤしてんだ?」
「あ」

 慶の声に顔をあげる。

「おはよう。ごめん。起こした?」

 慶は毎週火曜日は休みなのだ。せっかくの休みだから起こさないように静かに準備をしているつもりなのに、慶はいつも起きてきてしまう。本人曰く「寝ていられない」らしいけど……

「メール? 誰から?」
「溝部。ラインだよ」

 見せてあげようとテーブルの上に置いたのに、慶は見ずにふいっとキッチンにコーヒーを注ぎにいってしまった。

「見ない?面白いよ?」
「どーせノロケ話だろ?」
「まあ、そうだけど……」

 慶はコップを手に戻ってくると、苦笑して言った。

「で、お前もどーせろくでもないこと書いてるんだろ?」
「……………」

 否定はしません。

「見たら文句いいたくなりそうだから、見ない」
「………賢明なご判断です」

 言うと、慶は「やっぱりか」とちょっと笑って、食器を持って立ち上がったおれに手を振った。

「食器そのままでいいぞ?」
「あ、ううん。今日少しゆっくりだから大丈夫」
「え、そうなのか?」

 今はまだ夏休み期間なので、いつもよりも少し遅めの出勤で大丈夫なのだ。

「何時の電車?」
「んー……8時2分でいいかなあ」
「じゃ」
「え」

 ガシッと腕を掴まれた。え、なになに?

「何……」
「風呂」
「え?」

 お風呂? 慶の目がいたずらそうに光っている。

「風呂、一緒入ろうぜー? 汗かいた」
「え……」
「つか、暑くて目、覚めたんだよなー」
「あ……ごめん」

 今朝はそんなに暑くないと思ってクーラー消しちゃったんです……ごめん……暑かったですか……そうですか……

「なんかやな天気だよな。ムシムシしててさー」
「…………」

 浴室に向かいながらTシャツを脱いだ慶。ホントだ。背中にうっすら汗かいてる……色っぽい……。

「………溝部とのライン、今回の議題は、クーラー設定温度の戦い、だったんだけど」
「戦い?」
「うん。今気がついた。希望温度の違いの利点はこんなとこにもあったんだね」
「なんの話……、っ」

 我慢できずに、その色っぽい背中に舌を這わすと、途端に慶が仰け反った。

「浩……っ」
「この汗、そそられる。おいしい」
「………っ、お前、ほんと変態……っ」
「だって、こんな汗……」

 言いかけると、慶はムッとした顔をしてこちらを振りかえり……

「汗かいてんのは、お前がクーラー消したせいだろっ」

 そう言って、噛みつくみたいなキスをしかけてくれた。


 ………この利点についての溝部への報告は、さすがにやめておこうと思う。



-------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
これ、今さっきの話!なので、今頃二人はお風呂で……❤
電車乗り遅れませんように~~^^;


9月10日までお休み、と言ったくせに、何をいきなり書いてんだって話なんですけど……
言い訳をすると以下のようになります。

1.「嘘の嘘の、嘘」を読み返していて8月22日が泉君の誕生日だ!ということを思い出した。
2.22日に泉君のお話をアップしよう!と思いつき、ネタもらうために「診断メーカー」なるものをやってみた。
3.そしたら「クーラーの温度設定でもめる」みたいなのが出てきた。
4.でも、泉君たちは揉めないだろうな、と思う。慶と浩介も揉めないと思う。揉めそうなのは溝部&鈴木……
5.揉めた溝部は、浩介たちに相談してくるに違いない……

ということで、上記のお話になったのでした。
泉君33歳のお誕生日おめでとう^^;


更新していないのにも関わらず、クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当に本当にありがとうございます!
その優しいお心にどれだけ励まされているか……画面に向かって有り難い有り難いと拝んでおります。今後とも、何卒何卒よろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~あと2回

2017年08月10日 21時35分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

2017年8月10日

「たまにはちゃんとトレーニングをしろ」

と、慶がうるさく言うので、普段スポーツクラブでは、プールのウォーキングコースとジャグジーとサウナしか利用しないおれが、久しぶりにマシンジムのコーナーに行ったのが間違いだった………

「もう限界、と思ったら、そこからあと2回ってトレーナーさんが言ってたぞ」
「な………にそれっ。限界だから限界なんでしょっ」

 何やら腹筋だか背筋だかを鍛えるマシンをやらされたはいいけれど、慶が面白がって、おれにあーだこーだと言ってくるのが迷惑極まりないっ。

「もう……っ無理………っ」
「なんだよ、だらしねえねなあ」

 全身プルプルになりながらマシンから降りると、慶はケケケと笑いながら、そのマシンに乗り、なんの苦もなく動かしはじめた。

「うわー………信じられない………」
「だから積み重ねだって。おれだって最初はできなかった」
「ふーん………」

 黙々と続ける慶………うっすらと汗をかいていて色っぽい………
 休日前の夜のせいか今日は妙に空いている。周りに人がいないのをいいことに、その姿を堪能していたら、急に思い出した。

『スポーツジムにハマる人って、マゾの人が多いんじゃないかって綾さんに言われた』

 おれの大学時代からの友人・あかねの言葉だ。あかねも慶同様、若い頃からスポーツジムに通っている。

 綾さんというのはあかねの恋人で、小柄で清楚な見た目に反して結構手厳しい人なんだけど、あかねは彼女のそんなところがたまらない、らしい。怒られて喜ぶなんて、あかねは正真正銘のマゾだ………

 でも確かに、わざわざジムに行って、自分の体をとことん追い詰めるなんて、マゾヒストだよなあと思う。あかねも。うちの慶さんも。

 色気だだ漏れの慶さん、自分のノルマの回数が終わると、マシンから下りて、おれを見上げて言った。

「プール、行くか?」
「うん!」

 助かった!と思って勢いよくうなずくと、

「……即答かよ」

 慶は苦笑しておれの腕を軽く叩いてから、上に行く階段に向かっていった。ああ、良かった……もうマシンの階は懲り懲りだ………

「あ!王子!」
「ホントだ!」

 こそこそした女性達の声が上から聞こえてくる。慶はこのスポーツクラブでは陰で「王子」と呼ばれているのだ。でも、本人は全然気がついていない。

「こんばんは~♥」
「こんばんは♥♥」
「こんばんは♥♥」

 スレ違いざまに「♥」つきで挨拶されても、あっさりにっこり「こんばんは」と返事している慶。

「きゃ♥」
「きゃ♥」
「きゃあ♥」

 またしても「♥」つきで笑われても、慶は何も気がつかない。そんなところも「王子」っぽい気がする。

(ほんと、かっこいいよなあ……)

 隣を歩く慶を盗み見て、あらためて惚れ惚れしてしまう。

 慶は外見も王子っぽいし、性格もリーダー気質だし、男らしいし、頼りがいがある。

 でも………。

 ふっと昔の記憶がよみがえる。

『痛く、してほしい』

って、言ってくれたことあったよなあ……。二年くらい前だったか………

 ああ、あれは美味しかった………
 いや、慶がカミングアウト問題で悩んで苦しんでいたことは本当に可哀想で申し訳ないんだけど、でも……

『痛く、してほしい。何も考えられなくなるくらい』

 あの時の慶の色っぽさといったら、さっきの比じゃなかった……。それにそそられて、慶が泣き叫ぶほど責め立てたいと思ってしまったおれは、やっぱりエス気質なんだよなあ……。それで、慶は実はエム気質なんじゃないかなって思うんだよなあ………

 あー……また言ってくれないかなあ……

「お前、何ニヤニヤしてんだよ」
「え!?」

 プールの更衣室の前で、訝しげに言われ、飛び上がってしまう。さすがにこれは言えない!!

「いやいやいやいや、何も……」
「変な奴」

 慶は肩をすくめただけで言及しないでくれたので助かった……

 ロッカールームもタイミングよく人が全然いない。更衣ブースに程近いロッカーに揃って荷物を入れる。

「お前も歩いてばっかじゃなくて、たまには泳げよ。全然泳げないわけじゃないんだから」
「えー……」

 おれの運動不足を気にしてくれてるのは有り難いけど、でも……

「25メートル泳ぎきれない……」
「途中で立てばいいだろ」
「えーやだよー」
「じゃ、泳ぎきれ」

 水着の入った袋だけ持って、慶がピッと指さしてくる。

「お前、前に泳いだ時、立っちゃったの、残り数メートルのところだったぞ?」
「えー……」
「さっきも言っただろ。もう限界って思ったところからあと2回って。もう限界って思ったところからあと数メートルなんだから、頑張れよ」
「えー……」
「結局、気合いだ。気合い。気合いがたんねーんだよ、お前」
「…………」

 散々な言われようだ……気合いの問題なわけがない……

(あ、でも)

 ふっと思い出した。

『もう無理………っ』
『待て……っあとちょっと……っ』

 脳内によみがえる、先週末の夜のやり取り……

 そうだ。そうだ。そうだよ……

「でもさ……慶」

 更衣コーナーに入りかけた慶の耳元に顔を寄せ、ささやく。

「おれ、いつもは、あと2回、どころじゃなく、頑張ってるでしょ?」
「は?何の話だ?」

 眉を寄せた慶に、小さく続ける。

「だってさ、してる最中に、おれが『もう無理』って言うと、慶いつも、ちょっと待て、とか、まだ、とか、あと少し、とかいうじゃん?」
「………………」
「だから、おれ、本当にもう限界だけど、ちゃんと2回以上の上下運動の刺激にも耐えて、慶がイクまで…………………、痛っ!!」

 頭突きされたっ

「あほかっ!」
「わっ」

 そして、バサッと目の前でカーテンを閉じられた。

(………あーーかわいーー)

 真っ赤な慶、ホントかわいい。
 困らせて喜ぶところは、おれ、やっぱりエス気質。でも………

「………お前もさっさと着替えろ」

 あっという間に着替えて出てきた慶に、ギロッと睨まれて嬉しくなるところは、エム気質だ。あかねのこと言えないな……

 急いで着替えて出てくると、腕組みをした慶に再び睨まれた。

「お前……おれが言ったら耐えられるっていうんなら、今日はクロール25、泳ぎきれよ?」
「えっ!?」

 いきなりの命令にのけぞってしまう。こういうところ、慶はエスっぽい。

「それで、最低でも300は泳げ」
「えええっ」

 さ、300!?

「そんなことしたら、今晩使い物にならなくなりますが……って、痛っ」

 再びの頭突きっっ容赦ないーー!

「慶~~っ」
「ほら行くぞ!」

 スタスタと先を歩く王子の後ろ姿を追いかける。あいかわらずの完璧な肢体。こんな人がおれのものだということが、叫びだしたいくらい嬉しい。

「おれは今日4キロ泳ぐからな」
「うわ~~いつもながらありえな~い」
「ありえなくない。普通だ普通」

 プールのコースは、速い人用と、ゆっくりの人用と、ウォーキング用とに分かれている。今日は空いているので、各コース数人しかいない。これならおれが途中で立っても、迷惑はかからなそうで安心する。

「お前が300泳いだら一回ジャグジー集合な?」
「ううう……泳げるかなあ」
「ゆっくりなら大丈夫だろ。まあ、無理はするなよ?」
「うん……」

 じゃ、と手を挙げた慶。やっぱりかっこいい。おれだけの慶。

「慶、夜のための体力、残しておいてよ?」

 ダメ押しで、もう一回ふざけて言うと、慶はムッとした顔をして……

「……………お前もな」
「え」

 ボソッと言った言葉に、今さらながらドキッとする。

「慶、それは……」
「さっさと行け」

 ムッとしたままの慶……相当照れてる……かわいい。

 あと2回。あと数メートル。あとちょっと。あと少し。
 あなたに言われたら何でも出来る気がするよ。

 慶の完璧なフォームを横に、おれもゆっくりと泳ぎだした。

 

-----------------------------

お読みくださりありがとうございました!
サイト開設が11年前、2006年8月10日21時35分だったということに先日気が付いたため、せっかくなので同日同時刻に更新してみました。
記念なはずなのに、いつものようにオチも何もない小話(^^;失礼しました~っ。
いつか書きたかったスポーツジムでの二人。
今さっきこんなこと↑が繰り広げられておりました。平日営業時間23時までなので、今頃泳いだりジャグジー入ったり~。そして二人とも明日休みなので今夜は……♥

ちなみに、『痛くしてほしい』と慶が言ったのはこちら → 短編『嫉妬と苦痛と快楽と』
2年ほど前の話です。弱気慶君、カワイイ♥

ではでは。これからちょうど一か月お休みをいただきまして。9月10日に戻ってまいります。
でも考えてみたら、私、9月8~10日いないんでした………予約投稿のセットしておきますー。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!どれだけ励まされたことか……
再開後もどうかどうぞよろしくお願いいたします!!

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再録・(BL小説)風のゆくえには~ずっと一緒に

2017年08月07日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
すみません。再録です。
2016年7月26日投稿「たずさえて11」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます



-----------

訳あって、高校の同級生・山崎と一緒に樹理亜とユウキのつとめるバーを訪れた浩介。
その後、山崎は戸田先生の元へ。そして浩介は慶と駅で待ち合わせ^^

浩介と慶は高校時代からの恋人同士。
樹理亜は慶に片思い中。ユウキは樹理亜に片思い中。

2015年12月26日(土)夜のお話です。


【浩介視点】


 山崎と一緒に店を出て、慶との待ち合わせの駅に向かった。山崎にはすぐに戸田先生の元に行ってもらい、おれは改札前で慶を待つ。一緒に住むようになってからは、外で待ち合わせる、という機会が減ったので、新鮮でいい。

「…………あ」

 遠くからでも分かる、慶のオーラ。周りの人が時々振り返るから、それで余計に分かるのかもしれない。

「浩介!」

 おれの姿を見つけた慶がニコニコで手を上げ、人の波と共に改札を抜けて、こちらに向かって歩いてきてくれる。

「慶………」

 ああ………抱きしめたい。
 どうしてこの人はいつまでたってもこんなに可愛いんだろう。どうしてこんなに真っ直ぐおれを見てくれるんだろう。

「慶っ」
 我慢できなくて、近づいてきたその腕を掴み、引き寄せると、

「あほかっ往来で何してんだよっ」
「痛っ」

 速攻で蹴られた………
 人前ではつれないところも、いつまでたっても変わりません……


***


「慶先生ー、今日、浩介先生、他の男とイチャイチャしてたよー」
「ユウキ君っ」

 店に入るなり、ユウキにとんでもないことをいわれて焦ってしまう。
 でも、慶はあっさりと、

「あー、聞いてる。ありゃ高校の同級生だ」
「えーでもさー」

 慶にあっさりあしらわれたのが気に入らないらしく、ユウキは不満げだ。

「すんごい仲良さそうだったよ?」
「そりゃ付き合い長いからな」
「ふーん……」

 いつものカウンター席に座ったところで、ユウキが温かいおしぼりを渡してくれながら言う。

「慶先生さあ、そんな余裕かましてるとそのうち痛い目あうよ?」
「痛い目?」

 きょとん、と二人で見返すと、ユウキは口を尖らせたまま、

「浮気、とか」
「浮気ー?」

 ぷっと吹き出してしまう。

「ないない。あるわけない」
「そう言ってる人があやしいんだよー?」

 ユウキの口は尖ったままだ。

「慶先生、ホント知らないからねー?」
「何が」

 慶も苦笑したまま、ユウキを見返した、が、

「こういう人が、朝起きたら突然いなくなってたりするんだよ?」
「……っ」

 ピキッと固まってしまった。

 まずい。それはNGワードだ……

 でも、ユウキは気が付くことなく、メニューの表を差し出してから行ってしまった。こんな爆弾落としておいて……

「……慶?」

 慶はまだ固まっている。これはこのことについて何かツッコむべきなのか、それともスルーするべきなのか……

 慶は今だに、今から10年以上前、おれが突然、慶を置いて日本を離れたことを根に持っている。いや、根に持っている、という言い方はおかしいか……。
 その時のことを思いだすと、ストーンと穴の中に落ちていくような感覚に陥る、と前に言っていたことがある。もしかして今も、穴の中に落ちてしまっているんだろうか……

「慶?」
「………浩介」
「!」

 カウンターの上に置いていた左手をギュウッと握られた。慶は下を向いたまま、ポツンと言った。

「お前……いなくなる?」
「…………」

 握られた手を両手で包み込み、慶の顔をのぞきこむ。

「いなくならないよ?」
「………」
「ずっとずっと一緒にいるよ?」
「………」

 目をつむってしまった慶の目尻に唇を落とす。頬にも落とす。

「ずっと、一緒にいようね」
「…………ん」

 かわいいかわいい慶……
 「ずっと一緒に」は慶がよく言ってくれる言葉だ。慶は、「好き」とかそういう直接的な愛の言葉はめったに言ってくれないけど、「ずっと一緒に」とか「ずっとそばに」とかは、呪文のように言ってくれる。

 たぶん、慶自身が強く強く願ってくれている言葉……いとおしくてたまらない……

 コクッと小さくうなずいた慶の額に額を合わせ、そして………と思ったところで、

「あー!ラブラブーいいなー!」
「…………あ」

 甲高い声に我に返った。目黒樹理亜が、パタパタと両手を振っている。

「いーなーいーなーいーなー」
「………………」

 その後ろでニターッとしているユウキ。
 彼は樹理亜に片想いしている。わざとけしかけるようなことを言って、おれ達をイチャイチャさせ、それを樹理亜に見せたかったらしい……。

「あたしもラブラブしたーい!」
「だから樹理、ボクと……」
「ユウキはお友達だからダメだってー」

 前からよく見かける光景だけれども、前よりも少し、樹理亜の拒否感が薄くなってきた気が…………

「……浩介。何飲む?」
「あ、うん」

 わざとメニュー表を、慶の手に重ねて持つ。重なった手から温かい気持ちが伝わってくる。

「一緒のがいいな」
「ん」

 うなずいた慶の目尻に再び唇を落とす。

 ずっとずっと、一緒がいい。



--------------

お読みくださりありがとうございました!
2015年12月のお話なので、まだ慶があまり「好き」って言ってくれてない……。

以上を持ちまして、再録終了となります。
次回、サイト開設11周年ということで、8月10日21時35分に、単なる日常短編を1つ更新して、1ヶ月お休みさせていただきます。

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再録・(BL小説)風のゆくえには~夜の公園

2017年08月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
すみません。再録です。
2017年5月2日投稿「現実的な話をします15」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます



-------------------

☆高校の同級生・溝部の実家で行われたすき焼きパーティーの帰り道のお話。

【慶視点】


 溝部の実家でのすき焼きパーティーの後、少し酔っぱらった状態で電車に乗り……途中から運よく座れたのは良かったけれど、そのせいで二人でうたた寝してしまって。気が付いたときには、乗換の駅を通り過ぎていたので、結局、そのまま乗り続け、その先のいつもとは違う駅で降りることにした。その駅からも徒歩20分強で帰れるはずなのだ。

「あんまり来たことない町って、ちょっと緊張するね……」
「だな。遠回りかもしれないけど環七まで出るか?」
「ううん。探検探検。住宅街抜けてこ?」

 しばらく歩いて住宅街に入ったところで、すっと自然な感じに手を取られた。そのまま手を繋いで歩く。日曜日の夜10時半。住宅街の人通りはたいして多くない。

(まあ、いっか……)

 そう思えるのは、まだ酔いがさめていないせいと、高校生に戻ったかのようにみんなでバカ騒ぎしていたテンションが体の中で持続しているせいかもしれない。

「色々なおうちがあるねえ……」
「わ、ここ金持ちっぽい。おーBMー」

 なんだか本当に高校生に戻ったみたいだ。こんな風にたわいもない話をしながら歩く夜道……あの頃、こんな日がずっと続けばいいと思ってた。今、おれは、その永遠の中にいる……。

「あ! 慶! 公園公園! ちょっと寄りたい!」
「え?」

 突然、浩介が走りだした。わりと遊具のたくさんある大きめの公園だ。
 なんなんだ、と思いながらついていくと、浩介はさっそくブランコに座って、ニコニコとこちらを見返してきた。

 何なんだ?

「何やって……」

 言いかけたところ……

「渋谷も乗るー?」
「!」

 その言葉にドキッと心臓が跳ね上がった。し、渋谷って……っ

「………なんだそりゃ」
「渋谷?」

 うわ、やめろ。感覚が片思い時代に引き戻される。なんだこれ。いや、でも、好きだと自覚した頃からは「慶」って呼ばれてた……けど、その前は「渋谷」って呼ばれてたわけで……

「しーぶや?」
「……………」
「し……、んにゃっ」

 ふざけている鼻をむにゅっと掴んでやると、浩介はふがふが言いながらおれの手を掴んできた。

「やめてー」
「お前がふざけたこと言うからだ。なんの冗談だ」
「えー、ちょっと懐かしくていいかなあーって思ってー。まだ渋谷って呼んでた頃にブランコで遊んだの覚えてない?」
「…………」

 そんなことあったっけ……。あいかわらず恐ろしい記憶力だな浩介……。

「どうせ覚えてないんでしょ? 渋谷」
「…………」

 渋谷と呼ばれていたころは、まだただの友達で。でもずっとずっと一緒にいたくて。
 
「浩介……」
「ん」

 そっと口づける……。その願い、おれは叶えてやったぞ?

「思い出した?」
「思い出した」

 今度は額に口づける。

「おれがどれだけお前のこと好きだったか、思い出した」
「慶……」
「それで」

 嬉しそうに微笑んで、こちらに手を伸ばしてきた浩介に、わざと冷たーく言ってやる。

「お前がおれのこと友達としか思ってなくて、美幸さんに片思いして、その相談をおれにしてきて、それで散々苦しんだことも思い出した」
「わわわわわっ」

 浩介がアワアワと立ち上がり、おれの頬を両手でぐりぐりと包み込んだ。

「それは忘れてー忘れてー」
「忘れらんねーなー」
「もー慶、しつこいよー」
「悪かったなっ」

 むーっと鼻に皺を寄せてやる。

「それだけお前のことが好きってことだよっ」
「……………」

 浩介は一瞬詰まり……

「それ言われたら、忘れてって言えない……」

 コンッとオデコをくっつけてきた。

「おー忘れねえぞ。お前も覚えとけよ。もし、またあんなことがあったら……」
「あるわけないでしょ」
「………。まあそうだな」

 くすりと笑って、また手を繋ぐ。

「帰ろ?」
「おお」

 ぎゅっと繋ぐ。離れないように。

「慶、大好き」
 頭のてっぺんにキスされる。それも高校の頃と変わらない。

 でもあの頃と違うのは、一緒の家に帰れること。共に夜を過ごして、共に朝を迎えられること。

 浩介と共に生きている。ずっと願っていた未来がここにある。



-------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
浩介の「渋谷」呼び。懐かしい^^

ずっと願っていた未来を生きている二人です。

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再録・(BL小説)風のゆくえには~初めてのキスはいつ?

2017年08月03日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
すみません。再録です。
2017年4月28日投稿「現実的な話をします14」の「おまけ」のみ。
「おまけ」の話、探すのが面倒なので短編として抜き出してます



-------------------


桜井浩介&渋谷慶カップルの高校同級生、溝部が、長年の片想いを実らせ鈴木さん(バツイチ子持ち)と結婚することになりました。
そこで、山崎と長谷川委員長も、浩介&慶のマンションに呼び出され……


【山崎視点】


2017年2月23日(木)


 溝部が鈴木と結婚すると言う。
 そのラインを読んだときには、どうせ溝部が勝手に先走っているのだろうと思ったけれど、どうやら本当にそうらしくて……

 それで、新居について相談があるそうで、木曜の仕事帰りに集合をかけられた。場所はいつもの、桜井と渋谷のマンション。

 桜井と渋谷は、高校2年の冬からずっと付き合っていて、今は一緒に住んでいる同性カップルだ。同性なので、こちらも気兼ねがなくて、ついつい甘えて二人の家に入り浸ってしまっている。どちらかが女性だったら、こうまでたまり場にはならなかっただろう。

「あれ? 新婚山崎、こんなとこ来てていいのか?」
「委員長!」

 着いたなり、長谷川委員長がいて驚いた。委員長まで誘っていたのか。

「あ、うん。彼女、毎週木曜は行くところがあって……。って、昨年は結婚式来てくれてありがとうございました」

 会うのは自分の結婚式以来なので、そんな挨拶をしたりしていたら、溝部が「桜井ー、もう食べよーぜー」と騒いでいるのが聞こえてきた。

「溝部、本当に結婚するのかな……」
「らしいぞ?」

 委員長は肩をすくめて、少し笑った。

「これで、2年10組内で3カップル目だな」
「…………だね」

 長谷川委員長と川本沙織。桜井と渋谷。そして、溝部と鈴木。

 同じ教室で過ごしてから、もう25年……。人生を共にする仲間がいるなんて、すごく……すごく不思議な感じだ。


***


「……で、陽太の学校のことを考えたら、I駅付近ってことは決定なわけだよ。でも、Iを終の住処にしたいわけじゃないから、とりあえず陽太が中学卒業するまでは賃貸って思ってて」
「なるほど」

 渋谷は遅くなるというので、残りのメンバーで先に食べはじめながら、溝部の相談とやらを聞いている。桜井の作る料理はあいかわらずの美味しさで、箸も進むし話もはずむ。

「で、長谷川委員長にお聞きしたい!」
「おお。なんだ」

 溝部が箸を持ったまま、真剣に委員長に問いかけた。

「いつエッチしてんの?」
「…………………」
「…………………」
「……………………は?」

 な、なんだっその質問は……っ
 オレも桜井もぎょっとしてしまう。でも、長谷川委員長は、

「いつっていうのは、時間帯の話か?」

 全然動じてない。真面目に返している。さすがだ……。溝部もいたって真面目に聞いている。

「そうそう。時間帯の話。夜中、子供が寝てからだよな? でもマンションだと、同じ階なわけだし、いつ起き出すかヒヤヒヤして集中できなくね? 幼児ならともかく、小学生じゃ誤魔化せないだろ?」
「まあ、そうだな。できないな」
「じゃあ、どうしてんだ?」
「ちょっと溝部……」

 そんなプライベートな話……と、たしなめようとしたけれど、長谷川委員長は躊躇なくあっさりと答えた。

「朝だよ。上の子が8時前には小学校いくし、下の子の幼稚園バスは8時15分にマンションの下までくるからな」
「で……」
「オレはフレックスだから、一番遅くて10時半出社ができる。そうすると、まあ、9時半に出てけばいいから……」
「一時間……」
「ってことだ」
「……………」
「……………」
「なーるーほーどー」

 溝部がポンと手を打った。

「いや、マンションが厳しいようなら、山崎のとこみたいなテラスハウス、とも思ってたんだけど、朝とはなあ」

 なるほど。すっげー参考になった。サンキュー、と溝部はニコニコしている。

「わ………鈴木とそんな話してんだ……?」

 想像できない……って、でも、結婚するんだから当然か……。と思いきや、

「いや? いいって言うまで手出さないって約束だから、全然そんな話してねーぞ?」
「え!?」

 な、なにそれ!?

「まだ、ほっぺにチュー止まりでさー」
「えええええ!?」
「うわなにそれっ」
「小学生かよ………」

 一斉のツッコミに、「だよな~~」と溝部は肯くと、

「で、次の段階は、やっぱり、普通にキス、だよな? はい、桜井君。君たちどのタイミングで初めてキスした?」
「え!?うち!?」

 急な指名に、桜井は、わわわ、と言いつつも、ちょっと嬉しそうに、

「うちはさ~~付き合う前だったんだよねえ~~」
「付き合う前?どういうことだ?」

 あのねえ……と、これでもかというくらいデレデレの顔になっている桜井……

「高2の後夜祭の時にさ~~こう、なんていうの? どちらからともなく自然に……」
「雰囲気に流されたってことだな?」
「う………なんかその言い方やだ……」

 委員長のツッコミに桜井が文句を言っているそばで、溝部は「げー、後夜祭ってあの時かよー……」と何かぶつくさ言っていたけれども、「はい次」とオレを箸で指してきた。

「次、山崎君と菜美子ちゃん」
「え……」

 詰まってしまう。えーと、キス? キスは………

「ご両親に挨拶に行った日の夜だったような……」
「うわなんだそれ!真面目か!」
「今時めずらし過ぎな真面目さだな……」
「紳士的ー」

 さすが山崎。さすが役人。と意味の分からないことを言われ、ちょっと気まずい。
 いや、確かにキスはそのタイミングだけど、最後までしたのは付き合う前……なんてことは絶対に言わない。

「委員長は?」
「うちは、オレの誕生日だったかな……」
「おお~なんかいいなあ」

 確か、委員長と川本沙織は、卒業後にクラスの有志で行ったスキー旅行の時に委員長が告白して付き合うことになった……と聞いている。オレはその旅行に参加していないから詳しくは知らないのだけれども……

「委員長って誕生日いつ?」
「4月20日」
「じゃあ付き合って1ヶ月くらいか……」

 なるほどな……と溝部。

「オレ来月誕生日なんだよな~。プレゼントそれお願いしようかなあ……」
「え、それ?」
「42でそれか……」
「うわあ。なんかピュアな感じでいいねえ」

 口々に言うと、溝部は「まあさあ……」とふっと遠くを見る目になった。

「ここまでくるのに25年かかったわけだからさ。いいんだよ。ゆっくりで」

 今まで見たことないような穏やかな瞳……

「結婚するって、一生一緒にいるってことだろ? 時間たっぷりあるもんな」
「溝部………」

 うわ……なんか………

「溝部かっこいい……」

 思わず、といった感じに桜井がつぶやくと、

「え、そうか!?」
 途端にいつもの溝部に戻ってしまった。

「よし。じゃあ今度口説く時に使ってみよう」
「口説くって……」
「婚約したのに、まだ口説いてるって、面白いよな……」
「ねえ、本当に、結婚オーケーしてくれたの? 溝部の勘違いじゃない? 大丈夫?」
「なんだと桜井!失礼だな!信じろよ!」

 わあわあ騒いでいる中、

「ただいまー」

 ひょいっと、あいかわらずのキラキライケメン渋谷が部屋に入ってきた。途端に、パアッと桜井の顔が明るくなる。

「お帰りなさい!お疲れ様~~」
「お疲れー」
「お邪魔してます」
「雰囲気に流されて後夜祭の最中にキスしちゃった渋谷君、おかえりー」

 溝部……………。

 あ、渋谷、固まってる……。

「わあああっ溝部!何でそういうこと言うの! 慶、怒らないでー!」

 桜井が叫んだけれど、溝部は全然動じない。

「あー、オレが灰色の高校生活送ってた間、お前らが陰でイチャイチャしてたかと思うとホント腹立つわー」
「そ、そんなこと言われてもっ」
「あの後夜祭でだって、一人寂しく過ごした奴がどれだけいると……」

「……言いたいことは色々あるが」
「え」

 ボソっといった渋谷の声に、溝部が押し黙った。美形の真顔はこわいのだ。さすがの溝部もビビり気味に渋谷を見かえしている。

「溝部……」
「な、なんだよ……」

 上擦った声の溝部を、渋谷はジッと見つめると……

「婚約おめでとう」

 そういって、ふっと笑った。

「…………」
「…………」
「…………」

 そういえば、そのセリフ、誰も言ってない……。

「うわー……なんか負けた気しかしねえ……」

 ガッカリとした溝部。「なんだそりゃ」と渋谷は苦笑気味に言ってから、あ、そうそう、と言葉を継いだ。

「夫婦で出かけたい、とかあったら、陽太君のこと預かるから言えよ?」
「え、いいのか?」
「もちろん。なあ? 浩介」
「うん」

 桜井はコックリと肯くと、ぐっと溝部にガッツポーズをしてみせた。

「だから溝部も頑張って、せめてキスくらいさせてもらえるようになってね」
「う………」

「キスくらいって何の話だ?」
「それがさ……」

 桜井が渋谷の食事の用意のために立ち上がり、渋谷もネクタイを緩めながらその後をついていく。
 あいかわらず2人一緒にいることが当然、のような桜井と渋谷。オレ達は25年以上前にもこの光景をみていた。

「あー……オレもがんばろ」
「おお。がんばれ」

 溝部の言葉に、委員長も笑った。考えてみたら委員長も川本とずっと一緒にいるんだよな……
 そんなに長い年月を共に過ごすって、どういう感じなんだろう。

(その答えは25年後にしか分からないわけだけれども……)

 きっとこんな風に、自然に一緒にいて、見つめ合って、笑っていられると思う。

 溝部と鈴木も。オレと菜美子さんも。
  



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お読みくださりありがとうございました!
山崎たちが25年経った時には、慶と浩介は50年経ってますね……

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コメント (2)
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