2005年冬
【浩介視点】
山田ライトが、突然ケニアにやってきた。
「教えてくれれば迎えにいったのに……」
「サプライズの方が感動が大きいでしょー?!」
うひゃひゃひゃひゃ、とあいかわらずの笑い声が懐かしい。でも、アマラは「その笑い方やめて」と眉をひそめている。
おれが日本にいた頃に所属していた日本語ボランティア教室での教え子だった山田ライト。
今、下宿させてもらっている家主のシーナと、ライトの父親がいとこの関係にあるので、ライトとシーナの娘のアマラは「はとこ」ということになる。
2歳違いの彼らは、幼い頃、一緒に遊んだことがあるらしい。
「その笑い方、昔から変わらないよね」
アマラは本当に嫌そうに言うと、シーナの手伝いに行ってしまった。今日は職員や近所の人たちを招いてのホームパーティーがあるのだ。
ライトはわざとらしく肩をすくめると、こちらを振り返った。
「浩介先生、最近どう?」
「うん。まあ……ようやくちょっと落ちついたところだよ」
こちらでは、新学期が1月からはじまる。進学を希望する子が昨年よりも増えたため、この数か月はその対応にも追われていた。
「でも、新学期準備でまた忙しくなるよ」
「へー。大変だねえ」
去年も一昨年も忙しかった。一度立ち止まろうと思ったのに、結局こうして日々に流されてしまっている……
「ライトは、大学はどう?」
聞くと、ライトはヒラヒラと手を振って、嬉しそうに言った。
「たーのしーよー」
「そう。良かった……」
日本に住んでいた時は、学校に行きたくない、と言って高校進学をしなかったライト。でも、3年半前に父親のいるアメリカに移住してから、高校に進学し、今年の秋からは大学生になったそうだ。
ライトは、アメリカでの充実した大学生活をひとしきり話してから、ふと思いついたように、日本語に切り換えて、言った。
『そういえば、夏に日本に帰ったとき、慶君に会ったよ』
『………っ』
慶、の言葉に心臓がグッと掴まれたようになる。
慶。慶……。もう一年以上会っていない……
『元気だった……?』
自分の乾いた久し振りの日本語が耳に響く。と、ライトは、うーん……と首を傾げた。
『あいかわらず美人だったけど……、なんか大人しくなってた』
『大人しく?』
『うん。なんていうか……』
えーと……と悩んでから、ライトはぽんと手を打った。
『老けた』
『ふ、老けた!?』
慶が老けた!? 想像つかない……っ
『うん。前は学生っぽかったじゃん? それが、なんか社会人ぽくなってた。そうは言っても、30過ぎてるようには見えなかったけど』
『あ…………そうなんだ』
老けたって、そういう意味か……。あかねからの情報と同じだ。『大人っぽく』なったということだ。
『二人全然連絡取ってないんだって? あんなに仲良かったのに冷たいねえ』
『………………』
ぐっと詰まってしまう。
ライトはおれと慶はただの友達だと思っている。そのライトですら、今のおれは『冷たい』と思う対応をしているということだ。
確かに電話くらいはできるんだけど……でも、電話で声を聞いたら、絶対に会いたくて我慢できなくなる。今はまだ、そんな甘えたことを言ってはいけないと思うのだ。
それに何より、そうして会いにいったことが、母に知られて、また母が慶に嫌がらせをしたらと思うと、こわくて、こわくて……
そんなおれの葛藤には気がつかないようで、ライトがニコニコと続ける。
『慶君にね、冬に浩介先生に会いに行くけど伝言ある?って聞いたんだけどね』
『…………うん』
ドキッとする。伝言……伝言。慶はなんて………
こちらのドキドキを裏切って、ライトはあっさりといった。
『ない。だって』
『……………』
ない。
う………と胸が苦しくなる。
慶にとって、おれはもう、伝言することもないような、そんな興味のない存在……?
何かを吹っ切ったかのように、大人になったという慶……
その吹っ切ったものというのは、やっぱり、おれのこと……?
頭の中を黒い思いが渦巻いて、立っているのがやっとのところに、ライトの明るい声が流れてくる。
『だからさ、頑張れとか言えばいいじゃんって言ったんだよ』
『…………』
『そしたら慶君、なんて言ったと思う?』
ライトは、わざとらしく咳をすると、腕を組み、顎をツンとあげた。
はっとする。それ、慶が何かを宣言するときの仕草……
ライトは顎を上げたまま、キッパリと言った。
『あいつが頑張ってることはおれが一番良くわかってる。だからこれ以上頑張れなんて言うわけねーだろ』
『!』
慶……っ
『おれはただ、待ってるだけだ』
『……………』
慶……
『って、言ってたよ』
『………………』
慶………慶。崩れ落ちそうだ……
慶はいつだって真っ直ぐで……、真っ直ぐおれのことを見てくれていて……
おれは……おれは、あなたのために、何をすればいい?
どうしたら、迎えにいこうって思えるようになれるんだ……?
--------------------------
お読みくださりありがとうございました!
って、書こうと思ったうちの3分の1までしか書けていないのですが、
風邪を引いたらしく鼻水ズルズル頭ボーっなため諦めました。
皆様もどうぞお気をつけください……
次回、火曜日に続きをアップできたらいいなあ……と。
こんな真面目な話にクリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうこざいます!
有り難いー有り難いーと画面に向かって拝んでおります。今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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2005年夏
【浩介視点】
あかねと「別れた」ことになってから、7ヶ月が経った。けれども、こちらでは引き続き「遠距離恋愛中」ということにしている。なぜなら……
「浩介先生は結婚しないの? うちの娘なんてどう?」
なんて話をされるからだ……
「先生には日本に恋人がいるからダメだよ」
「あかね先生、今年はこないの?」
みんながそんなことを言ってくれるので、何とか『強引に娘に引き合わされる』とかそういう目には合っていない。
(慶は………どうなのかな)
もう31だし、上司の娘をすすめられたり………
(したとしても、きっと慶は……)
断ってくれてるに違いない。
(でも……)
それでいいのかな。慶には慶の幸せが……なんて「きれいごと」を思ったりもする。
こんなとき、慶に会いたくて、いてもたってもいられなくなる。
この2年と数ヵ月、無我夢中だった。朝から午後までは子供達に勉強を教えて、その後は校舎の修繕、寄付金集め、家庭訪問……、夜は大人向けの授業。帰宅後は翌日の準備……
「恋人を迎えにいく自信はついた?」
アマラに聞かれ、詰まってしまった。
ずっと、この地で成し遂げたい、と思ってきたけれど………具体的には何をどうしたら「成し遂げた」ことになるんだろう……
(…………。今更、だな………)
今更、だけれども……
この2年数ヵ月、日々に流されてきてしまったけれど、ここで一度立ち止まって、考えてみようと思う……
【早坂さん視点】
一年ほど前……
ある患者さんの死をきっかけに、『元気いっぱいキラキラキャラ』から、『優しい包容力のある大人キャラ』に変身した渋谷先生……
無理してるんじゃないかな、と、はじめのうちは心配でしょうがなかったけれど、それは杞憂に終わった。気がついたら『大人』な渋谷先生がスタンダードになっていて、いつでも冷静で頼りになるので、みんなの渋谷先生を見る目もすっかり変わってきている。
だから、それはいいんだけど……
(あ、まただ……)
思わず眉を寄せてしまう。
春からこちらに異動になった、石原先生という35歳のおじさんが、渋谷先生を変な道に引きずりこもうとしているのだ……
「な?だから行こうって!可愛い女の子たくさんいるからー」
「でもおれ、明日、乳児検診の……」
「酒飲まなきゃいいじゃん。な?行こうよー」
渋谷先生困ってる……
こんな時、峰先生がいてくれたらきっと助けてくれるのに、峰先生は下のお子さんが生まれてから、速攻で家に帰るようになったので、石原先生がこんな風に強引に渋谷先生に声をかけていることを知らないのだ……
(今度言いつけてやろうかな……)
接待で女の子のいる店に行くことはしょうがないと思うけど(でも、渋谷先生、以前はそれもかたくなに断ってたのになあ)、プライベートでは行って欲しくないと思ってしまう。
でもそれはこちらの勝手な希望なのかな……。
渋谷先生だって彼女と別れて(たぶん別れてる。聞いてないから知らないけど、たぶん)、さみしいかもしれないし。だからキャバクラにも……
(あーでも、やだ。やっぱりやだなー)
断りきれなかった渋谷先生が石原先生に連れられていく後ろ姿を見送りながら、不安にかられてしまう。
(キャバクラはともかく……風俗とか連れて行かれてないよね……?)
石原先生はキャバクラの後に風俗いくのがお決まりでーなんて話を、昨日製薬会社の人がしてた……
風俗にいく渋谷先生の図……
「うわー!やだやだやだ!絶対やだーーー!!」
「わ! なに早坂さん叫んでるの!?」
「………あ」
気が付いたら叫んでいて、みんなに大注目されてしまった……。
「なんでも……ないです……」
もう、絶対! 明日、峰先生に言い付けて、注意してもらおう!!!
【ルナ視点】
与えられた個室の中で、お菓子を食べながらゴロゴロしていたら、電話が鳴った。
「ルナさん、ご新規さん入ります」
「はーい」
「石原先生の紹介だから」
「あーはいはいはい。オッケーでーす」
石原先生はこの店の常連さんで、週に2回は必ずくるんだけど、特定な子ではなく、色々な子を指名する。本人の中ではローテーションがあるそうだ。
あたしには「外科医」って言ってるけど、他の子には「弁護士」だの「大学教授」だの言ってるらしい。色黒でガタイがよくて、いかにも遊び人風の、30半ばくらいのお金持ちだ。
「今度、後輩連れてくるからサービスしてやって」
と、先週言っていたから、今日くるのはその人のことだろう。
なんでも、彼女と別れて一年以上ご無沙汰してるとかなんとか……。「すっごいイケメン」っていってたけど、本当にイケメンだったら、一年もご無沙汰になるわけないから、たいしたことないんだろう。期待はしない。
「あ、しまった」
お菓子の食べカスがシーツの上に散乱している。慌ててコロコロで取って、包み紙もゴミ箱に放り込む。
と、軽いノックの音が聞こえてきた。いきなり開けないでノックをするところに好感を覚える。石原先生が「そいつ風俗初体験だから」と言っていたけど、本当に初めてなのかもしれない。
「どーぞー」
答えながらも、ベッドの下にまで落ちていた食べカスをコロコロで取って、コロコロを部屋の端っこに押しやって、
「初めましてー。ルナでー……」
言いながら、開いたドアの方を振り返って……
「!!!」
絶句。
絶句、っていうんだ、こういうの。
あまりもの衝撃で、言葉を失ってしまった。
(な………なんなの!!)
すっっっっっっっっっっごい美形なんですけど!!
「あ……」
「あー……ええと……」
その美形さんは困ったように頬をかくと、
「とりあえず、入っていいかな? おれがちゃんと中に入るか、そこで石原先生が見張ってるから」
「え」
石原先生と隣の部屋のネネちゃんの笑い声が聞こえてくる。石原先生、わざと隣の部屋取ったとみた。
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
スルリと入ってきた超美形。背は低め……。でもこういう中性的な顔の人って、背が低いほうが似合う気がする。
ぼーっと見とれているあたしをよそに、美形さんはキョロキョロとあたりを見回して……、それからスイッとあたしに視線を向けた。
(うわっ)
ドキッと心臓が跳ね上がる。この人、本物の美形だ。こんな完璧な顔、テレビに出てる人以外で見たことない。すごい。
(って!)
あたしこれからこの人とすんの? できんの? めっちゃラッキーじゃない?
………なんて、思ってる場合じゃない。
「え、ええと……」
いかんいかん。初めてなんだから、ちゃんと料金の説明しないと。
「せ、説明するねー。うちは基本サービスがー……」
「説明しなくていいよ」
「え」
手で制されて、言葉を飲みこむ。
「ええと……」
それは、お金たっぷり持ってるから、どんなオプションつけても大丈夫とか……
(そういう意味じゃなさそう……)
美形さんはまたキョロキョロと部屋を見渡すと、
「椅子は……ないのか」
「は?」
椅子?
「ええと……」
それは、椅子に座ってのフェラを希望とかそういう……
(意味じゃないだろうな……)
確実に違う……
美形さん、うーん、と頬をかいて……かなり躊躇してから、ベッドの隅にチョコンと腰かけた。
そんな端っこに座られても……
「あの、もっとこっちに……」
「あ、いや」
また手で制された。
「石原先生がどうしてもって言うから来ただけだから気にしないで」
「気にしないでって……」
え、何もしないつもりってこと?
それ、あたしに失礼じゃない? これ何もしなかったら、確実にネネちゃんに馬鹿にされる!
こうなったら……
「じゃ、せっかくだから、お風呂とかどう? 気持ち良くしてあげる♥」
スルリと着ていたバスローブを脱いで、下着姿になってやる。胸の大きさはネネちゃんに負けてない。少し屈んでブラからあふれだしてる胸を強調………………、してるんだから、見ろよ!コラ!
「あのっ!」
「え? ああ……」
カバンの中をゴソゴソと探っていた美形さん、こちらにふいっと視線を向けてきた。
(う…………)
見ろよ、と思ったものの、美形に真面目な顔でジッと見られるのは、相当………つ、つらい…………
「あの………」
「ああ……ごめんね」
ふっと笑った美形さん。か、かわいい……
「上、着てくれる? さすがに目のやり場に困る」
「あ……うん」
脱いだバスローブをとりあえず着る。って、通常と違いすぎて困る……何をどうすれば……
「あのー…しないの?」
直球で聞くと、美形さんはまた、ふっと笑った。だからその笑顔、かわいすぎだって!
「なんで笑ってんの?」
「いや……」
また頬をかいた美形さん。
「石原先生にね、『ルナちゃんと狭い部屋で二人きりにされて勃たない男なんていない』っていわれたんだけど……」
「え……」
石原先生、そんなこと言ってくれたんだ……
っていうか、この会話の流れ……美形さんは……
「おれ、男じゃないんだなあって思って」
「………………」
思わず、美形さんの股間のあたりに注目してしまう……。うーん、確かに……。
って、そんなことで諦めてる場合じゃない!
「じゃあじゃあ、色々試してみようよ!」
「え」
「初めてだと緊張して勃たない人いるよ! あたし、そういうの得……、え?」
またまた、手で制された。
「申し訳ないんだけど」
美形さん、さっきまでとはうって変わって真面目な顔になると、きっぱりはっきり………言いきった。
「おれ、あいつ以外とはそういうことしたくないから」
***
美形さん、30分で帰ってしまった……
「なーんだかなー……、と」
お菓子に手を出しかけて、先ほどの美形さんの声がよみがえってきて、我慢する。
「バランスの取れた食事、だってさ」
ベッドに寝っころがって、もらったプリントを眺めてみる。
炭水化物、ご飯、パン、タンパク質、お肉、お魚……
キレイな色の円グラフ。絵と一緒に書いてあるから分かりやすい。仕事で使うって言ってたけど、何の仕事してるんだろう……調理師とか?
「器用そうな手、してたもんなー」
プリントを差し出した時の美形さんの手を思い出して、ふーん、と思う。
あの手は、『あいつ』のためにあるんだなあ……
美形さんには、高校の時から付き合っている彼女がいるそうだ。
石原先生からは「彼女と別れて一年以上ご無沙汰」って聞いてたのに、本人曰く「別れた覚えはない」そうだ。
でも、最後に会ったのは一年前で、それから連絡取ってないっていうんだから、それは普通に考えて別れたということになるんだけど………
(でも、美形さんの心は『あいつ』のものなんだなあ……)
彼女のことを話す時の、ちょっと照れたような嬉しそうな顔……。誰も入り込めないよ……
「彼女どんな人? 胸大きい?」
「いや………………」
聞いてみたら、苦笑いされた。思い出し笑いっぽい。なんだかな……
「じゃ、痩せてる?」
「あー、うん。痩せてる」
ふーん……
「痩せてる子が好きなの?」
「いや、そうわけじゃないんだけど……」
「もっと胸大きかったらいいのに、とか思わなかった?」
「思わないよ」
美形さん、ぷっと吹き出した。何その幸せそうな顔……。やっぱり痩せてる子が好きってことじゃん。
「………あたしもさ、今、ダイエット中なんだ」
「そう……なんだ?」
美形さんの視線がゴミ箱に移った。ああ、それなのに、お菓子食べてる、とか思ってるな?
「お菓子ダイエットだよ。知ってる?」
「?」
首をかしげた美形さん。やっぱりかわいい。
「ちゃんとカロリー計算して、1800キロカロリー超さないように食べてるんだよ」
「毎食、カロリー調べてるってこと? それは大変……」
「別に大変じゃないよ。書いてあるもん」
ほら、と次に食べる予定だったクッキーの箱を見せてあげる。
「これ足すだけだよ。あたし足し算はわりと得意なんだあ」
「…………え」
美形さん、ぎょっとしたような顔をした。
「まさか、お菓子ダイエットって、お菓子しか食べないとかそういう……」
「うん。そうだよ?」
「………………」
美形さん「絶句」という感じなので、説明を加えてあげる。
「友達がそれですぐに3キロも痩せたんだって。お菓子食べて痩せるなんてラッキーだよね~~」
「いや」
またまたまた、手で制された。美形さん、真剣な顔してる。
「それは、筋肉量とかが減ってるだけで、脂肪が減ってるわけじゃないよ」
「???」
筋肉量?
「それ続けたら、栄養失調で倒れるよ?」
「栄養失調?」
なんで? ちゃんと1800キロカロリー食べてるのに?
言うと、美形さんは「いやいやいや」と首を振って、
「人間には必要な栄養素っていうのがあって……」
そういいながら、カバンから出してくれたのが、『五大栄養素』って題名のプリントだった。
「バランス良く食べることが大切なんだよ」
「ふーん……」
「例えば、ご飯を………」
美形さんが、真面目な調子で話し出したので、あたしも思わず聞き入ってしまい……
***
美形さんがきてから、ちょうど2週間後。石原先生がやってきた。
「おお?! 今日のルナちゃん、肌艶いいねえ」
「でしょー?」
自分でも分かってる。美形さんに言われた通り、この2週間お菓子を止めて、バランスの取れた食事、を心掛けるようにしたら、体重は微妙に増えちゃったけど、肌の調子が良くなって、なぜかパサついていた髪もしっとりしてきたんだ。
「あの美形さんのおかげだよ。色々教えてもらったの」
「あー、なんか、栄養学の話をしたとか言ってたな。なんなんだろうな、あいつ」
石原先生、笑いながらシュルリとネクタイを外した。男の人のネクタイ外す仕草って好き。ゾクゾクする。
「お礼いっておいてね? 痩せてはいないけど、キレイになった、でしょ?」
「おお。なったなった」
ボタンを外すお手伝いをしてあげる。分厚い胸板。石原先生、性格は軽いからあんまりだけど、このガッチリした体型はかなり好み。
「あいつもルナちゃんに礼をいってくれって言ってたよ」
「お礼?」
きょとん、としてしまう。何もしてないのに?
「うん。なんかなあ、自信がついた、らしい」
「へ?」
自信???
「やっぱり自分には『あいつ』しかいないって、確信が持てたって」
「………」
「だから、自信を持って、待つことにするってさ」
「………」
………。
あっそーですか……
そんなのはじめから持ってたくせに……
「………バカみたい」
「だよなあ。一年も音信不通って、それ別れてるってーのにさー…」
「だよね……」
なのに、待つって……
2週間前の帰り際、「頑張って」と言ってくれた美形さん。
「ホントにしないでいいの?」
って聞いたら、ふわっと微笑んで、
「おれ、あいつ以外、ダメだから」
そう、幸せそうに言った。……失礼しちゃう。
でも、ちょっとだけ、羨ましくなった。
そう言ったら、石原先生は「オレは全然羨ましくない!」と言い切った。
「世の中、こんなにたくさん可愛い子がいるのに、たった一人に絞るなんて、人生損してるよな~~」
石原先生の手が優しく優しく包んでくる。
「その中でもルナちゃんはダントツ一番可愛いよ」
「……ありがと」
それ、ネネちゃんにも言ってるって知ってるけど知らないふりしてあげる。今だけは、恋人気分でいいよ。
「あーこんな可愛い子にこんなことしてもらえるなんて、ホント幸せー」
「でしょ?」
石原先生の嬉しそうな声が嬉しい。
あたしはたくさんの男の人を幸せにしてあげてる。それでお金ももらえて、たくさん欲しいものも買えてる。だからあたしも幸せ。
「じゃ、今日もサービスしちゃおうかなあ」
「ルナちゃん最高。大好き」
こうしてたくさんの人の「大好き」をもらえる。だから幸せ。
でも、「唯一の大好き」をもらえる美形さんの彼女が、ちょっとだけ、羨ましい。
(早く帰ってきてあげれば?)
見たこともない、想像上の痩せっぽっちの彼女に念を送ってみる。
(唯一の大好き、受け取ってあげなよ)
それで、美形さんも幸せになればいい。
--------------------------
お読みくださりありがとうございました!
二年ほど前に書いた「あいじょうのかたち」18-1で、慶が「風俗にいったことがある」と話していたのは↑のことなのでした。詳細書けて満足満足^^
ルナちゃんは買い物依存症気味の、普通の女の子です。一言で「風俗」といっても色々種類がありまして……というのは、本筋から離れすぎるので置いておいて、と^^;
前回の委員長に続き、ルナちゃんにも「帰ってこい!」オーラを送られている浩介さん。慶くんを迎えにくるまで、あと8ヶ月……
次回、金曜日は3年目その3です。
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高校二年生の初日……
「これ、君の?」
机の横からスッと出されたオレの栞。白い手。その先を見上げて………
「………!」
あまりにも驚き過ぎると、人は息をすることすら忘れるんだ、ということを、身をもって知った。
凛とした目元、白い肌、1つに結われた長い髪、透明感のある雰囲気……オレが思い描いていた理想の女の子を体現したような……
「違うの?」
「あ…………、いや……」
「落ちてたよ?」
にっこりとしてくれたその瞳があまりにも綺麗で……オレはこの一瞬で恋に落ちた。
中学時代も高校1年の時も、彼女がいたことはあった。でもそのいずれも、それなりに好意を持っていた子から告白されて付き合って……という感じだったので、こんな風に、心全部持って行かれるような恋愛感情を抱いたのは初めてのことだった。
川本沙織は、控えめだけれども芯のあるしっかりした女の子で、バトン部の副部長として頑張っていて、何より笑顔が可愛くて……、きっかけは一目惚れだったけれど、知れば知るほど、その内面にも惹かれていった。
それから約2年間片想いをして、卒業旅行で行ったスキー場で告白して、付き合うようになって……
高2の出会いから14年。今も変わらず、沙織のことが好きだ。好き………だけれども。
「少し距離を置きたい」
そう言われて「分かった」とアッサリ肯いてしまった。
沙織が望んでいたのは、その言葉ではない。それは分かっていたのに……
この14年の間で、こうして距離を置くのは二度目のことだ。
……いや、一度目は「距離を置く」ではなく「別れた」。あれもちょうど『全員25歳になった記念同窓会』の直後のことだった。
あの頃、『ミレニアム婚』ブームにのって、周りの友人が何人も結婚したからか、沙織も結婚を強く意識するようになっていた。親の意向もあったようだ。でも、オレは一浪したせいもあり、まだ就職して3年目。短大卒で、働きはじめて6年目の沙織とは、結婚に対して温度差があった。
(いや、それだけじゃなくて……)
就職してから3年目。自分の中の「これでいいのか」という思いは日に日に強くなっていくばかりだった。名の知れた会社であることと給料がいいことだけを理由に選んだ会社だったので、誇りを持って仕事をしている友人達が眩しく見えた。
仕事はそつなくこなしてはいたけれど、漠然とした不安は募るばかりで……「会社を辞めたい」と言ったオレに、沙織が別れを切り出したのも、至極当然のことだったと思う。無職の男と結婚はのぞめない。
オレは沙織と別れてすぐに仕事をやめ、一人旅に出た。色々な国を旅しながら何か掴めるかと思ったけれど、そんなものはどこにもなくて……。
そんな時に思い出すのが、修学旅行の松陰神社の境内でのことだった。
「オレ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?」
そう叫んだ時に一緒にいた桜井は、親の跡を継いで弁護士にならないといけない、と言っていたのに、自らの夢を優先して学校の先生になった。あの時は何もないと言っていた渋谷は、医者になるという夢を見つけて叶えている。二人のことが羨ましかった。
何かしなくては、何かなさなくては、という気持ちのまま、帰国後、大学時代の友人が立ち上げたシステム開発会社を手伝うことにした。でも、その会社もすぐに立ち行かなくなり、1年ほどで潰れてしまった。
結局、今は、その時のツテで紹介してもらった、とある学校法人の事務室で働いている。
沙織とは、その後、高校の文化祭で再会した。
オレと別れてから2年半の間に、沙織には恋人がいた時期もあったらしい。結婚までは行きつかなかったそうだけど……
「章人君は? 彼女は?」
変わらない黒目がちの瞳に見つめられ、ゆっくりと首を振った。
「オレには沙織しかいないから」
「…………そっか」
沙織はふっと笑って……
「章人君、変わってないね」
そう言って、また笑った。変わらない笑顔……。思わず引き寄せて抱きしめたら、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。愛しくて愛しくて二度と手放したくないと思った。
それからオレ達は、オレの一人暮らししていたアパートで、同棲生活をはじめた。
「章人君と一緒にいると安心する」
沙織はよくそう言って、隣に並んで座っているオレの肩に頭を預けてくれた。二度と得られないと思っていた笑顔がここにある。沙織と一緒に過ごせることが、ただ幸せで、幸せすぎて、ただぼんやりと、漠然と、こんな日が毎日続けばいい、と思っていた。仕事の忙しさを言い訳に、深く考えることを放棄していたともいえる。深く考えることが怖かったのかもしれない。
でも、そんな日々も終わりを告げる。親や職場や友人からの圧力が、このままでいることを許さなかった。
アクションを起こすならば、今年の3月の、沙織の30歳の誕生日がチャンスだった。そのことにはオレも気が付いていたのに、気が付かないふりをした。
(手放したくない。……けれども)
自分が何をなせるのかもわからないのに、人一人の人生を負う自信がない……
「少し距離を置きたい」
5年前とは違って「別れたい」ではなく「距離を置きたい」と言ってくれた沙織の優しさを思うと胸が痛い。本当はここで覚悟を決めるべきだったのに……
***
全員30歳になった記念同窓会は、盛り上がったままお開きとなった。当然、二次会にもかなりの人数が流れることになったのだけれども……
「渋谷ー?」
「おーい。二次会行くんだろー?」
渋谷慶がテーブルに突っ伏したまま、ピクリとも動かないため、山崎と溝部につつかれている。渋谷はあまり酒が強くない。そういえば10年前の同窓会の時も、最後の方で、トイレで吐いていてしばらく戻ってこられなかったことがあった。あの時は桜井が介抱していたけれど、その桜井も今日はいない……
あの時、「絶対変わらない」って言ってた桜井と渋谷……。やっぱり変わったじゃねえかよ……。
「……オレ残るから、先に二次会行ってくれるか?」
「え、でも」
戸惑った山崎に名簿を押しつける。
「悪い。オレもちょっと休みたくて」
正直、気持ちが落ち込んでいて、カラオケではしゃげる自信がない。
「溝部、仕切り頼んでいいか?」
「いいけど……」
溝部が眉間にシワを寄せながらも肯いてくれた。
「大丈夫か?」
「おお。長谷川で9時から予約してある。一応22人って言ってあるけど、30人まではオッケーの部屋だから、多少増えても大丈夫だって」
「わかった」
文句も言わずに引き受けてくれる存在が有り難い。二人に手を振って、渋谷の隣に座り直す。
「…………」
テーブルに片頬をぺったりとつけたまま熟睡している寝顔を見て、(ホント綺麗な顔してるよな……)と、感心してしまう。
男のわりに長い睫毛。スッと通った鼻梁。何より肌が白く透き通るようで……
頬杖をつきながら、無遠慮にジッと見ていたら、視線に刺激されたのか、渋谷がうっすらと目を開けた。
そして、
「こう……っ」
「え」
いきなり焦ったように頭をあげ、オレの腕をガッと力強く掴んだ。と思ったら……
「なんだ……委員長か」
「…………」
あからさまにガッカリしたように言って、また、テーブルに突っ伏してしまった。
こう、って言ったな……。桜井の下の名前は「こうすけ」か……
「……桜井だと思ったのか?」
聞かなくても分かっているけれども一応聞くと、渋谷は拗ねたようにポツリと言った。
「浩介と委員長、ちょっと似てるんだよな……。背格好もだけど、雰囲気とか……」
「………。そうだな。同じタイプだと思う」
「だよな……」
渋谷、酒のせいか、眠気のせいか、朦朧とした感じだ。
「桜井……いつ帰ってくるんだ?」
「………さあな」
渋谷は半分くらい目をあけてはいるけれど、視線は定まっていない。
「あいつはさあ……自分の可能性を試したいって……」
「…………」
「だから、おれは待ってるんだよ……」
「…………」
可能性を試したい……?
待ってる?
なんだ、それ……
「待ってるって……いつまで?」
「…………」
聞いたけれど、渋谷の目は閉じられてしまった。また寝たのか……?
「なあ、渋……」
「………ずっと」
ポツリとした声……
「……ずっと、ずっと待ってる」
「…………」
何を言って………
「……っ」
途端に、ゾッと背筋に寒気が走った。
渋谷の孤独の影……なんて深くて、なんて寂しくて……
(桜井……っ)
何やってんだよ、桜井。可能性を試すってなんだよそれ。
そんなことのために、なんで渋谷のこと一人にしてんだよ。こんなさみしそうな顔させて……っ
「渋谷はそれでいいのか?」
思わず聞くと、渋谷は再び少しだけ目を開けた。
「……いいんだよ」
ゆっくりと動く長い睫毛……
「応援してる……」
「………」
「おれはおれで頑張って……それで……」
「………」
「でも………」
消え入るような声……
「おれは……一緒にいられるだけでよかったのに……」
「……っ」
スッとまた眠りに引きこまれてしまった渋谷。
何かに押されたように胸が痛い……
(………沙織)
「少し距離を置きたい」
そう言ったときの、沙織を思い出す。ちょうど今の渋谷みたいな……
オレは……自分のことばかりで、沙織が今、何を思って何を感じているのか、本当に理解しようとしたことがあっただろうか……
自分の可能性を試したい、なんて理由で、渋谷を置いていった桜井。
自分が何をなせるのかわからない、なんて理由で、一緒にいる将来に進めないオレ。
(ほんと、似てるよな……)
桜井、オレ達やっぱり似てるよ……
「浩介……」
「!」
ギクッとした。渋谷の寝言……寝言なのに、そんな寂しそうに……
もしかして、今、沙織もこんな風に、孤独の中にいるのだろうか……
***
それから少ししてから、山崎と皆川が迎えに来てくれた。
山崎に熱いおしぼりで目元を覆われ、びっくりしたように目を覚ました渋谷。やはりさっきは寝ぼけていたようで、カラオケまでの移動中に、コソッと、
「おれ、なんか変なこと言ってなかった?」
と、不安げにオレに聞いてきた。覚えていないらしい。ので、オレもしらばっくれてやる。
「別に何も?」
「あ、そう……」
良かった。夢か。とボソッと言った渋谷。
桜井……渋谷……。お前ら、本当にそれでいいのか……?
聞きたいけれど、余計なお世話だろう。
だいたい、オレ。自分だってどうなんだ。
本当にこれでいいのか?
(いいわけがない)
意味の分からない、自分勝手な理由で、大切な人を一人にして……それで良いわけがない。
『おれは……一緒にいられるだけでよかったのに……』
さっきの渋谷の言葉が胸に刺さる。
オレだってそうだ。沙織と一緒にいたい。それだけなのに。高校2年生の教室で出会ったときからずっと、沙織だけなのに……
「お!委員長!ちょうど良かった!」
カラオケの部屋を開けた途端、溝部にマイクで叫ばれた。
「10時で帰る奴が何人かいるから、今、中締めしようとしてたんだよ!」
「あ……、おお」
みんな頬を蒸気させ、興奮したようになっている。溝部がうまいこと盛り上げてくれたんだろう。
「はい!委員長から一言!」
「え」
と、マイクを渡されそうになったところで、オレに続いて入ってきた渋谷の姿に女子から黄色い声が上がった。
「渋谷くーん!こっちこっち!ここ空いてる!」
「飲み物何にする~~?」
「溝部、邪魔!」
「んだよ!渋谷渋谷うるせーんだよお前ら!委員長の話聞け!」
溝部があいかわらずの調子で女子に文句を言っているのが面白い。………と。
(……!!)
その文句を言われている女子の間に……
「沙織……」
沙織の姿があった。1ヶ月ぶりに見る彼女……凛とした目元も透明感のある雰囲気も、高校の頃から全然変わらない。
「……っ」
オレの視線に気がついて少し笑って手を振った沙織。その笑顔が何よりも大切で……
『章人君と一緒にいると安心する』
そういって寄り添ってくれた彼女とずっと一緒にいたくて……
「ほら、委員長」
ざわめきの中、溝部にマイクを渡される。
「何か一言」
一言……?
一言……一言……一言……
それなら、一言だけ、言わせてほしい。
「委員……」
「川本沙織さん!」
溝部にマイクを押し返し、肉声で思いきり叫ぶと、途端に部屋の中がシンとなった。
「え………」
思わず、と言った感じに立ち上がった沙織に向かって、ただ、一言。一言だけ……
「オレと」
精一杯の誠意をこめて……
「オレと、結婚してください」
自信なんて何もないし、オレに何ができるのかも分からないままだけど。だけど、一つだけ、どうしても叶えたいことがあることに気がついた。
「オレと、一生一緒にいてください」
ただ、それだけ。それだけ叶えさせてほしい。
静まりかえった部屋の中で、沙織は、小さく……でもはっきりとした声で、
「はい」
と、うなずいてくれた。
***
みんなにさんざん冷やかされ、飲まされた帰り道。
「待たせてごめん」
繋いだ手にぎゅっと力をこめて言うと、沙織は少し笑って、
「うん。待ってた」
そう言って、オレの肩に額をこんっとぶつけてくれた。
この幸せを守ることが、自分のなすべきこと。それでいい。それだけでいいんだ。
『オレ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?』
高校の時に叫んだオレに答えられるとしたら……
「普通の将来がくるだけだ」
と、言ってやろう。
何も特別なことはない、普通の将来がやってくる。
愛する人と一緒にいられる、幸せな将来が。
(桜井……)
お前も早く、渋谷のところに帰ってきてやれよ。
遠い異国の地にいる同級生に、この思いが届けばいい。
---------------------------
お読みくださりありがとうございました!
ちなみに
全員20歳になった記念同窓会→「同窓会にて」
全員25歳になった記念同窓会→「同窓会…でもその前に」
全員40歳になった記念同窓会→「カミングアウト・同窓会編」
です。
いつか書きたいと思っていた、長谷川委員長(本名・長谷川章人。あきと、です)と川本沙織さんの話でした。
今から12年前の話なので、今と結婚観も少し違った時代でした。
めっちゃスピンオフ回っっ。そして、「将来の夢が仕事になってる奴なんて、ほんの一握りなんだよ!自分探しの旅!?君いくつだよ!?」と、総ツッコミの回でしたー。
ちなみに松陰神社で叫んだ回は「将来5-2」でした。
でも、現在、長谷川委員長、ちゃんと良いパパ・良い旦那してます♪
「たずさえて3」(←2015年の話)とかでちょこっとそんな話もしています。
次回、火曜日は3年目その2です。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうこざいます!
書き続ける勇気をいただいておりますっ。今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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2005年春
【長谷川委員長視点】
「おれ達にはどんな将来が待ち受けてるんだろうなー?」
そう、空に向かって叫んだのは、高校二年生の3月。修学旅行先の松陰神社の境内でだった。雨が冷たかったことを覚えている。
あの時、もうすぐ18歳だったオレは、先日31歳になった。
何もできていない、進むべき道すら決められていない、そう思ったあの時と、今もあまり変わらない。やっぱりまだ、模索し続けている。
**
全員20歳になった記念同窓会からはじまり、今回は3回目の同窓会。
名付けて『全員30歳になった記念同窓会』は、座敷のある居酒屋にした。子連れ希望が何人かいたからだ。
「えー、桜井いねーのかよー」
3月に30歳になったばかりの溝部が、あいかわらずの大きな声で叫んでいる。高校2年の終わりに「10年後には結婚して子供3人くらいいる予定」と言っていた溝部だけれども、いまだに独身で、彼女募集中らしい。勤め先は誰もが知っている大手メーカーだし、性格も明るく社交的だし、結婚相手の条件としてはかなり良いと思うのに、クラスの女子達が誰一人として溝部を相手にしていないのが不思議だ。
逆に、言い寄られまくっているのが、あいかわらずの完璧美形の渋谷慶で……
「渋谷君って外来の診察もしてるの?」
「どこ住んでるの?」
「休みの日何してるの?」
質問攻めにあいながらも、慣れた調子でその一つ一つに答えている。
「渋谷……ちょっと雰囲気変わったなあ……」
その様子を見ながら独り言のようにつぶやいたのは山崎。高校時代から真面目で地味な奴だった。今は区役所に勤めていて、職場に彼女がいるらしい。
「やっぱり、桜井が一緒じゃないから元気がない……とか?」
「…………かもな」
桜井は、2年前からケニアで働いているそうだ。「ちょこちょこ連絡取ってんのか?」と、先ほど渋谷に聞いたら、
「いや。去年の夏に会ったのが最後」
そう言って、渋谷は少し笑った。でも……本人は笑ったつもりだったかもしれないけど、目は全然笑っていなかった。
「さみしい。つらい」
そう、言っているように見えた。
(あー……やっぱり……)
その目を見て、この10年以上、うっすらと感じていたことを確信してしまった。
(やっぱりこの二人、本当に付き合ってたんだろうなあ……)
桜井浩介とは、オレは高校2年の二学期頃から少しずつ話すようになった。本の趣味が似ていることに気がついたからだ。
桜井は、おとなしくて控え目。人付き合いも少し苦手にしている印象があったけれど、夏休み明けくらいから、だいぶ積極的になってきて、文化祭では実行委員として活躍してくれた。
成績は常にトップクラス。でも、少しもそれを自慢することなく、教え方も上手なので、みんなよく桜井に勉強を教えてもらったり、ノートを見せてもらったりしていた。
桜井と渋谷は1年の時から仲が良かったらしく、2年生でもずっと一緒にいて、その後も、一緒にいるところをよく見かけた。
渋谷慶は、とにかく目立つ男だった。本人には目立とうという気はないのだろうけれども、その整った容姿と、妙にキラキラしたオーラのせいで、どうしても目を引くのだ。
その上、抜群の運動神経の持ち主で、体育の授業や、球技大会、体育祭での活躍ぶりは、女子だけでなく、男子も惚れ惚れするくらいだった。
性格はわりと単純で分かりやすく、裏表なくサバサバしている。人懐こいので、誰とでも仲良くなれる。明るく、いつでも前向き。
5年前の『全員25歳になった記念同窓会』でも、その印象に変わりはなかったのだけれども……
(やっぱり、変わったよな……)
今回は、妙に落ち着いているというか……影があるというか……
(桜井と別れた……とか?)
桜井と「去年の夏に会ったのが最後」ということは、そこで別れたということか? それでこんなに変わったのか?
(まあそうじゃなくても、もう31なんだから、落ち着いてもいいんだろうけど)
逆にまったく落ち着いてない溝部の方が変なのかもしれない。
あいかわらず、中心になってワアワア騒いでいる溝部の姿が目に入り、妙にホッとしてしてしまう。
(………オレは、変わったかな)
ふ、と、バインダーにはさんだ名簿に目を落とす。
(……沙織)
欠席の『欠』の字の書かれた、川本沙織の欄をそっと撫でる。
(……オレたちは、変わったかな……)
**
---------------------------
お読みくださりありがとうございました!
全然終わってないんですけど、もう無理、と判断して、不本意ですがキリのよいところまであげることにしましたっ。
長谷川委員長、実は中二病……
ちなみに
全員20歳になった記念同窓会→「同窓会にて」
全員25歳になった記念同窓会→「同窓会…でもその前に」
全員40歳になった記念同窓会→「カミングアウト・同窓会編」
だったりします。
次回、金曜日に続きを……
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうこざいます!どれだけ嬉しいことか!!
真面目な話が続きますが、今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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【浩介視点】
朝起きたら、慶がいなくなっていた。荷物もない……
「………慶?」
………夢? 慶がいたっていう夢を見たのか? おれ。
そう一瞬思ったけれど、リアルに残っている慶のぬくもりにそうではない、と思い直す。
話した内容も覚えているし、シーナたちに紹介したっていう記憶もある。
夢、じゃない。じゃあ、慶と慶の荷物はどこにいったんだ?
「………母屋かな?」
釈然としないまま、母屋に顔を出したところ、
『あああ! 良かった! 浩介! 今、呼びに行くところだったのよ!』
いきなり、シーナに叫ばれた。いつもはそんな大声をだしたりしないシーナの様子にビックリしてしまう。
『どうし……』
『学校の門が壊されてるって報告があって、今見に行ったら、子供たちがルイスが犯人だって決めつけてて』
『えええ?!』
なんだそれはっ
『すぐ行きます!』
……と、行きかけたけれども、振り返り、部屋を見渡す。やっぱり、慶、いない……
「あのー……」
『何?』
立ち止まったおれに、キョトンとしたシーナ。と、そこへ、
『慶なら帰ったわよ』
「?!」
淡々とした調子の声に振り返ると、アマラが腕組みをして立っていた。
「え?!」
帰った?? え? え? えええ?!
驚き過ぎて叫び声も出ない。
来たばかりなのに。しばらくいるっていってたのに。なんでおれに何も言わないで……
『とりあえず、学校行って』
「…………」
なんで? なんで慶………
頭の中が「?」でいっぱいになったけれど、とにかくトラブル解決が先だ。思考に蓋をして、シーナに急かされるまま、猛ダッシュで学校に駆け込んだ。
『ストップストップ! 何やってんの!』
手を叩きながら、子供達の輪の中に割って入る。興奮した子供達から事情を聞いて、壊れた門の様子をみて……
結局、野性動物の仕業らしい、と結論がでた。それから、子供達を仲直りさせて、他の先生方と門の修理をして……、とあいかわらずの忙しい時間を過ごしていたため、慶のことを聞けたのは、夜になってからだった。
「なんで……慶」
慶は朝早く、出て行ってしまったという……
慶、つらそうだった。何かあったことは確かなんだ。
せっかく会いに来てくれたのに。せっかくおれを頼ってくれたのに。
慶。慶……会いたいよ。
ちょうど学校も長期の休みに入る。一度、日本に戻ろう。
と、密かに思いながら、数日たったころ……
突然やってきた、<恋人のあかね>が、おれが目を背けていた現実を運んできた。
「あんたのお母さん、慶君がケニアに来たこと知ってたわよ」
***
久しぶりに過呼吸の発作を起こしてしまった……
「ごめん。心の準備してもらってから話すべきだった」
「…………ううん」
枕元で謝ってくれたあかねに静かに首を振る。比較的すぐに落ち着いたのだけれども、シーナが過剰に心配して、ベッドで休むようにと、無理矢理寝かされてしまったのだ。
「どう言われても、破壊力は同じだよ」
「破壊力、ね……」
ふっと笑ったあかね。
「まあ……あいかわらずよ。あんたのお母さん」
「…………」
「気持ちがいいくらい、一本筋が通ってる」
「…………」
その筋がおかしいからおかしなことになっているんだ……
「どうやら、定期的に慶君のことも調べてたみたい」
「え………」
また、調査会社を使ったのか? なんなんだあの人……
「慶君に遠距離恋愛中の恋人がいるって噂聞いて心配になってたんじゃない? まさか、自分の息子のことじゃないかって」
「…………」
「で、さらに、慶君がケニアに行ったって知って、『あかねさんも行かないと!』って私に言いにきてくれたってわけ」
「………バカじゃないの」
「ね」
あかねは真面目に肯くと、
「だから、つい『私も来週夏休みなので行くんです~』って言っちゃって」
「………ごめん」
本当に、昔から変わらない。どうしてあの人は、自分の考えを人に押し付けるんだ……
でも、あかねは「いや?」と手を振ると、
「今、ストーカーちっくな子につきまとわれてるからちょうどいいの。休み期間中、ここにいさせてよ」
「…………うん」
ホントかな……おれに気を遣わせないために言ってるんじゃないかな……
とも思ったけれど、あえて何も言わなかった。それを追求したところで、あかねが認めるわけがない。
「慶のこと……何か知ってる?」
「んー………」
あかねは頬に手を置いたまま天井を向いた。これは、知ってる、ということだ。なんだかんだで、あかねとも付き合いが長いから、分かる。
「何でもいいから教えて」
「んー……私も慶君とは別の科の子に聞いてるだけだから、そんなに詳しくないんだけどね」
あかねは顔が広い。慶の病院にもガールフレンドがいるらしい。
あかねはスッと真面目な顔になると、静かに話し出した。
「慶君の担当の患者さんが亡くなって………それで慶君、ものすごく落ち込んで、仕事もままならなくなっちゃって……」
「……………」
「それで、強制的に休みを取らされたらしい」
慶………
思い出す。あれは、慶が働きはじめてすぐの頃……
真夜中に突然、事前になんの連絡もなく、慶がおれのアパートまでやってきたことがあった。
窓から差し込む街灯の明かりだけの部屋の中で、
「ぎゅーーって」
そう、慶は言って、おれに抱きついてきた。
ずっと後になって、あの日、初めて患者さんの死に立ちあったのだと知った。
(そうだったんだ……)
こないだ、慶は、おれに「ぎゅーーって」されに来たんだ……
(慶………)
胸が痛い……
慶は、やっぱり、ずっと変わらず、おれのことを好きでいてくれて……
(慶……会いたい)
おれはやっぱり、慶と一緒にいたい……
「……おれ、やっぱり日本に帰ろうかな……」
「…………」
思わず出てしまった言葉に、あかねが目を瞠った。
「帰って、どうするの?」
「慶と一緒にいる」
「………」
「………」
「………」
「………痛ッ」
グサッと人差し指で額を突き刺された。
「何……」
「ちょっと冷静になりなさいよ」
あかねの呆れたような声。
「今まだ、お母さんの話ししただけで発作起こしてるような人が、日本で普通に暮らしていけるの?」
「それは……」
「また、同じこと繰り返すんじゃないの?」
「…………」
同じこと……また慶のことを殺そうとしてしまうかもしれない……?
「それだったら、慶君をこちらに呼びよせた方がまだ現実的だと思うけど」
「そうなんだけど、それはちょっと無理………」
慶は、憧れの島袋先生みたいな先生になるために、先生のいたあの病院を選んで頑張っている。それを「辞めて」とはとても言えなかった。
それに………実は、ケニア行きの打診があった際、慶の勤め先がないか確認してみたのだ。でも、一応、年齢経験問わず、と言いつつも、求められているのは、やはりそれなりに経験のある医師で………。当時、大学を卒業してまだ丸3年の慶には無理があった。
「だったらやっぱり、あんたが強くなるしかないじゃないのよ」
あかねがまた額を突いてくる。
「どうなのよ? 慶君を支えられるくらい強くなれそうなの?」
「それは……」
そうなるつもりで離れた。そうなるつもりで頑張ってきた。でも結果を出せているのかと問われると……
「……………」
「慶君はね」
ダメ押し、とでも言うように、もう一度突き刺してから、あかねが言う。
「新・渋谷慶、になったらしいわよ」
「新?」
なんか10年くらい前にそんな流行語があったような……
「どういうこと?」
「休暇から帰ってきたら、雰囲気がガラッと変わって、大人~~って感じになってたんだってさ。仕事もバリバリこなしてるって」
「え……」
大人……? なんで……?
「で、女性陣がソワソワしてるらしいんだけど」
「え!?」
そ、それは……っ
あわあわしてしまったおれに対し、あかねが軽く肩を叩いてきた。
「でも、あいかわらず、誘いにはまったく乗ってこないっていうから安心しなさい」
「………………」
それは……嬉しいけど………
「でも……慶、それでいいのかな……」
不安が広がっていく。
「おれに気を遣って断ってるんだよね……。おれには、慶をそこまでさせる権利はないっていうか……」
おれのせいで慶が幸せな未来を逃してしまってるんじゃないか? でも、その未来を慶が選んだら、そしたら……
どーんと暗くなったところで、
「は~~白々しい」
はあ……とあかねに大きくため息をつかれた。
「もし慶君に本当に恋人ができたりしたら、あんた発狂するでしょ」
「………………」
「なのに、それでいいのかな……なんてイイ人ぶってんじゃないわよ。白々しい」
「…………」
あかね、鋭い。でも、自分でも分かってる。自分の中で2つの気持ちがせめぎあっているのだ。
1つは、純粋に慶に幸せになってほしい、と思う気持ち。
もう1つは……醜い独占欲。
「だいたいさ」
あかねは引き続き厳しい表情でいう。
「それは慶君が決めることでしょ。あんたがどうこう口出しする話じゃない」
「………」
それはそうなんだけど……
「慶……大人になったって……なんなんだろう」
「…………」
「それに……なんでおれに何も言わず帰っちゃったのかな……」
「それは……」
あかねが「んー」と言いながら首を傾げた。
「まあ、何も言わずに帰ったのは、言ったら別れがつらくなるから、かしらね?」
「…………」
「大人になったのは……、何か吹っ切れるものがあった……とか?」
「吹っ切れる……」
おれのこと吹っ切ってたらどうしよう……
ヒヤッと背中に冷たいものが落ちる。
でも、誘いは全部断ってるっていうし……
でも、本当は、慶のためには、日本で幸せを見つけたほうが……
でも、そんなことになったら、おれは……
グルグルと答えの出ない問題が頭の中で回りはじめる。………けれども、
「ま、今後も何か動きがあったら知らせるわよ」
「あかね……」
有り難いあかねの申し出に、思わず拝んでしまう。
「ありがとうございます。ありがとうございます……」
「拝むな」
ピシッと手を弾かれた。
「タダとは言わないわよ? とりあえず、今回は、休み明けのテスト作るの手伝って」
「え、仕事持ってきたんだ?」
あかねは都立中学の英語教師をしている。
「部活忙しいから、休み中に終わらせたいのよ」
「そっか……」
部活、テスト……たったの一年四ヶ月前のことなのに、ずいぶん昔のことみたいだ。
「これ、ここ数年の高校受験の過去問。ここから中2の一学期までに習う文法の問題を……」
「……………」
ベッドの上にテキストが並べられていく。中学英語、懐かしい。大学生の時に中学生向けの塾で講師のアルバイトをしていたので、それ以来だ。
『お前が先生してるとこ見るの好き』
ふいに思い出す、慶の言葉。
おれは、慶の好きだった『浩介先生』になりたい。そう思ってここにきた。
慶が、『新・渋谷慶』になって、またお医者さんの仕事を頑張っているというのなら、おれも、新しい自分になって、それで……
「あとさー、女の子紹介してよー」
おれの思い詰めた顔をゆるめるためか、あかねがおどけたようにいってきた。
「去年来たときは長居できなかったから、こっちの子と少しもお近づきになれなかったのよねー」
「別にいいけど……」
あかね、あいかわらずの女好き。
「一応、あかねサン、おれの恋人ってことになってるからね? そこのところ……」
「分かってる分かってる。別にどーこーしたいわけじゃなくて、単に遊びたいだけだからー」
「…………」
そんなこといって、手の早いあかねのことだから、どーこーなるのは目に見えているような……。まあ……いいか。それは本人たちの問題だ。
「じゃ、明日の夜の授業、ちょうどいいから手伝ってよ。女性もいるから」
「だったら喜んで」
即答っぷりに笑ってしまう。
こんなに気の許せる異性の友人ができるなんて、昔のおれだったら考えられなかった。
恋人のふり、なんて妙なことも、こんなに長い間してくれて………
「あかね………色々ありがとね」
「だからホントに、そういうのいらない」
あかねが心底嫌そうに鼻にシワを寄せたので、ますます笑ってしまった。
(慶………)
おれ、頑張るよ。早く、慶を迎えに行けるように、少しでも自分に自信がつくように……
***
でも、その五ヶ月後。
あかねとの奇妙な「恋人」の関係を、親の前では解消することになった。あかねがおれの母親から「別れてくれ」と言われた、という。
電話口、暗い声で話してくれた話によると、結婚に踏み切らないおれ達を心配したおれの母親が、あかねの母親に会いにいき、そこであかねが高校時代に「不純同性交遊」で停学処分くらった話を聞いてしまったそうなのだ。それで、「桜井家の嫁にふさわしくないから別れてくれ」と…
「…………ごめん」
きっと嫌なこといっぱい言われただろう……
でも、あかねは「何いってんの」と言葉を続けた。
「ごめんはこっちよ。うちの母、娘の不幸が三度の飯より大好きだから。背びれ尾びれつけて、あんたのお母さんがそう言うように仕向けたに決まってる」
「…………」
あかねとおれの最大の共通点は、親を殺したいほど憎んでいる、ということだ。
せっかくあかねの母親は長野に住んでいるので、あまり関わらないで暮らしているというのに、おれの母のせいで……申し訳ない。
あかねが淡々とした調子で宣言した。
「そういうわけだから、私たち、お別れしましょう」
「…………うん」
思い出す……あかねがおれの『恋人』として、どれだけおれの盾になって両親の間にたってくれたか……
「あかね……今までありがとう」
「こっちこそ。私も職場ではこれ利用してたからお互い様」
肩をすくめたあかねの姿が見えるようだ。
「これまで通り、電話は時々する。でもそっちに行くのはやめておくわね。私もたぶん、しばらくはあんたのお母さんの見張りがつきそうな気がするし」
「そう……だね」
あかねの声を聞きながら、どうしようもない怒りが胸の中にたまっていくのを感じる。
どうしてあの人は、おれの大切な人を傷つけるんだ。どうしてここまでしておれを支配しようとするんだ。こんなに遠く離れたのに。もう2年近くも会っていないのに。いつになったら、おれはこの鎖から自由になれるんだ……
苦しくて、息ができない……
「この話はこれでおしまい!」
こちらの様子が見えるかのように、あかねが明るくいってくれた。
「暗い話のあとは、明るい話! 慶君情報、聞きたいでしょ?」
「!」
途端に、目の前が明るくなる。電話だから見えないのに、うんうんうなずく。
「あのね……」
あかねから語られる慶の話……
慶はその頑張りに実力が伴ってきて、看護師の中でも評価が上がっている、らしい。あいかわらず忙しく、休み返上で働いているけれど、体力無尽蔵で、クールなカッコよさは崩れることはなく、みんな感心している、と……
(慶………)
また、慶は前を歩いてる……
あかねに頼ったり、母のことを憎んだり、そんなことをしている場合じゃない。
おれも、頑張らないと……
---------------------------
お読みくださりありがとうございました!
長々とすみません……お疲れ様でございます……
あかねが訪ねてきた、という話は何かの後書きで書いた気がするけど探せなかった……
あかねと浩介が「別れさせられた」の話は、「光彩」6-4であかねが、「あいじょうのかたち」9で浩介が話していた話、なのでした。
なんかどんどん穴埋めが進んでる感じがするっっ。(←めっちゃ自己満足^^;)
次回、金曜日は3年目突入。高校の同窓会。長谷川委員長視点でいこうと思います。
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