大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

百花繚乱 仇桜 ~時の流れの中で~ 二十五

2011年12月31日 | 百花繚乱 仇桜 ~時の流れの中で~
 それから暫くして、歳三は新入隊士を引き連れ、京へと向かった。時を前後して、八郎の遊撃隊も上洛する。
 千代の周辺も、静かになっていった。
 「戦が起きないように、歳三が京で働いているのです」。
 のぶの言葉が何よりの慰めであった。
 だが、慶応四年。静かな正月を迎えた多摩に、怒濤の知らせがもたらされるのだった。
 「ついに戦だ。鳥羽伏見で、戦が始まった」。
 千代が知った時には、鳥羽伏見の戦は幕府軍の敗戦。新撰組も、遊撃隊も江戸へと敗退の途中であった。
 江戸へと帰還した新撰組は、その後、甲陽鎮撫隊と名を改め、甲府へと出陣。その折りには再び、佐藤家を訪れたのであった。
 「兄様。伊庭様は、遊撃隊はどうなさったのです」。
 「我らものような状態だ。詳しくは知らぬが、遊撃隊は箱根に布陣すると聞いている」。
 「箱根でございますか」。
 「千代、これは天下分け目の戦だ。四方や箱根へ参ろうなどとは思うてはおらぬだろうな」。
 それが、千代と歳三の今生の別れであった。言わずもがな、八郎とは仮祝言から後、再び相見える事のないままであった。
 土方歳三、明治二年五月十一日、函館は一本木にて銃弾に倒れる。享年三十五歳。
 伊庭八郎、木古内での戦闘中、敵の銃弾を受け、函館で療養であったが、同じく明治二年五月十二日陣没。享年二十七歳。
 奇しくも両名は五稜郭内に隣併せに葬られたのであった。


人気ブログランキングへ

にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
にほんブログ村




人気ブログランキング

人気ブログランキングへ