大江戸余話可笑白草紙

お江戸で繰り広げられる人間模様。不定期更新のフィクション小説集です。

百花繚乱 仇桜 ~時の流れの中で~ 十八

2011年12月24日 | 百花繚乱 仇桜 ~時の流れの中で~
 「そのように揚げ足を取る物言いは、まるで兄様のようです」。
 兄様と口に出し、咄嗟に両の手を口に宛てがう千代。八郎の目がきらりと光る。
 「兄様とは、兄上の事にございますか」。
 「又従兄弟にございます」。
 「ならば、嫁にいけますね」。
 「いいえ、あのような不実な…」。
 「千代さんは、その兄様をお好きなのですね」。
 まだ出会って一時にも満たない八郎に、胸の奥まで見透かされたような気がする千代。この男の計り知れない大きさに、興味が募るのだった。
 「そろそろ参りませんと」。
 楽しい時とは、光陰矢の如し。後ろ髪を引かれる思いの千代であったが、逆に、これ以上知ってはいけないような思いにも苛まれるのであった。
 「確かお国は多摩にございましたね。今より多摩へ戻られますのか」。
 八郎のそれは、深い意味合いはなかったのかも知れない。
 「いいえ、暫くは叔父の元へ、身を寄せるつもりでおります」。
 京での話も伝えたいと千代は、つい口走っていた。
 「市谷甲良町にございます」。
 「それは近い。甲良町と言えば確か、天然理心流の試衛館がありましたな」。
 「御存じですか」。
 「はい。寺尾様がお留守をお預かりしていると聞いております」。
 その時試衛館は、近藤勇の留守を佐藤彦五郎と、幕臣の寺尾安次郎が預かっていた。
 「その試衛館に、叔父がおります」。
 「では、あなたは新撰組と関わりがおありなのですか」。



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