「中島、何だその連れは」。
新入隊士が、四方や女御連れであるとは、思いも寄らぬ近藤勇であった。幾ら天然理心流の同門であり、旧知の間柄であっても、隊の局中法度は知っているなと、大きな口をへの字に曲げる。
「いえ、そのような者ではありません。こちらは、土方副長の縁者の方です」。
「歳三の縁者。それにしても女御を連れて京に上るとは、歳三が黙っていないぞ」。
「いいえ、近藤様。千代が勝手に中島様に付いて参りました。どうぞ、中島様をお叱りにならないでくださませ」。
千代の実家平家は、歳三の曾祖母の実家である事から、縁戚関係にあり、歳三の姉のぶの嫁ぎ先である佐藤彦五郎との縁もここから始まっていた。
「それで近藤様。兄様、いえ土方歳三は何処におります」。
勇は厳つい顔を歪ませると、同時に目も泳ぐのだった。
「それは、直ぐに迎えを出そう」。
瞬時に察した千代。
「いえ、私が参ります」。
「それは、ならぬ。大事ない。直ぐに連れ戻す」。
「何、千代が江戸から参ったと申すのか」。
島原で花君大夫の膝に乗せた頭を、むくりと起こした歳三。迎えの沖田総司にまで八つ当たり。
「如何して千代が。あやつは江戸城に奉公に行っている筈じゃないのか」。
「私に怒らないでくださいよ。私は近藤さんの言い付けで、土方さんを迎えに来ただけですから」。
「くそっ、あのじゃじゃ馬が」。
だったら歳三と似てると、余計な言葉を洩らし、ぽかりと頭に拳を見舞われるのだった。
急ぎ島原から、屯所の置かれた西本願寺へと戻った歳三。息を整える間も置かず、勇の部屋へと傾れ込む。
「近藤さん、申し訳ない。千代が来ているってのは真か」。
「兄様。お久しゅうございます」。
未だ襖から顔を覗かせて、立った侭の歳三に、指を着いて挨拶をする千代。一礼の後、その顔を上げると、これが京の女御の匂いかと、花君大夫の移り香を皮肉を込めて指摘するのだった。
「全く、大奥という所は女御をこうも嫌味ったらしくするもんか」。
殊勝な文とは、打って変わった千代に、舌打ちをする歳三。その侭、勇の横に胡座をかくのだった。
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新入隊士が、四方や女御連れであるとは、思いも寄らぬ近藤勇であった。幾ら天然理心流の同門であり、旧知の間柄であっても、隊の局中法度は知っているなと、大きな口をへの字に曲げる。
「いえ、そのような者ではありません。こちらは、土方副長の縁者の方です」。
「歳三の縁者。それにしても女御を連れて京に上るとは、歳三が黙っていないぞ」。
「いいえ、近藤様。千代が勝手に中島様に付いて参りました。どうぞ、中島様をお叱りにならないでくださませ」。
千代の実家平家は、歳三の曾祖母の実家である事から、縁戚関係にあり、歳三の姉のぶの嫁ぎ先である佐藤彦五郎との縁もここから始まっていた。
「それで近藤様。兄様、いえ土方歳三は何処におります」。
勇は厳つい顔を歪ませると、同時に目も泳ぐのだった。
「それは、直ぐに迎えを出そう」。
瞬時に察した千代。
「いえ、私が参ります」。
「それは、ならぬ。大事ない。直ぐに連れ戻す」。
「何、千代が江戸から参ったと申すのか」。
島原で花君大夫の膝に乗せた頭を、むくりと起こした歳三。迎えの沖田総司にまで八つ当たり。
「如何して千代が。あやつは江戸城に奉公に行っている筈じゃないのか」。
「私に怒らないでくださいよ。私は近藤さんの言い付けで、土方さんを迎えに来ただけですから」。
「くそっ、あのじゃじゃ馬が」。
だったら歳三と似てると、余計な言葉を洩らし、ぽかりと頭に拳を見舞われるのだった。
急ぎ島原から、屯所の置かれた西本願寺へと戻った歳三。息を整える間も置かず、勇の部屋へと傾れ込む。
「近藤さん、申し訳ない。千代が来ているってのは真か」。
「兄様。お久しゅうございます」。
未だ襖から顔を覗かせて、立った侭の歳三に、指を着いて挨拶をする千代。一礼の後、その顔を上げると、これが京の女御の匂いかと、花君大夫の移り香を皮肉を込めて指摘するのだった。
「全く、大奥という所は女御をこうも嫌味ったらしくするもんか」。
殊勝な文とは、打って変わった千代に、舌打ちをする歳三。その侭、勇の横に胡座をかくのだった。
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