【日本の情報文化と社会 2. Dictionary and Language】
今回のテ-マは『辞書と言語』(Dictionary and Language)である以前のブログ『1円OED(Oxford English Dicitionary)顛末記』にも書いたように私は辞書、それも大部の辞書が好きである。その上、言語についても私は非常に興味がある。それでこのテ-マについては自分なりに考えることも多い。
例えば、『日本語の同音異義語の多さについて』でも書いたように、日本語に多い同音異義語についての意見や、CJK(日中韓)の文字コ-ド統一の是非などもそうである。
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・ヨ-ロッパの辞書
○古代の辞書と翻訳辞典
もっとも古い辞書の著者に、アレキサンドリアのPamphius(紀元前 1世紀)や、Hesych ius(紀元前5世紀)などが挙げられる。ヨ-ロッパでは、辞書類も含め、書物は伝統的に修道院で書き写されていた。
○各国の辞書(16世紀―19世紀)
英語の本格的な初めての辞書は、1755年にサミュエル・ジョンソンによって、編纂された。数人の助手に筆記の手伝いをさせジョンソンがひとりで、約3年で完成させた。一方、フランスでは、アカデミ-フランセ-ズが約40人で40年かけてフランス語の辞書を編纂した。ドイツでは、グリム兄弟によって、1852年に初めて辞書が編纂されたが、完成まで150年ちかくかかった。
○現代の辞書(19世紀―20世紀)
単語の発生順序(Historical Principle)に基づいて Oxford English Dictionary(OED)がジェ-ムズ・マレ-を主筆として編纂された。アメリカでは、Webster が米語の辞書を編纂する。
・中国と日本の辞書
○項目の順序
ヨ-ロッパの辞書では、項目別の辞書以外では、アルファベット順の文字配列が多い。しかし、中国と日本の辞書の項目順は複数ある。中国語では最近になってピン韻順の編纂が主流となった。日本語では古くはいろは順が多かったが中世から50音順もでるようになた。漢字では部首、画数、押韻の順序もある。
・中国の辞書
○2世紀~6世紀
中国では紀元前2世紀に、「爾雅」という簡易な辞書(単語リスト)が初めてつくられた。2世紀には、部首によってグル-ピングされた「説文解字」という辞書ができた。6世紀に「玉篇」が編纂された。空海の「篆隷万象名義」は、「玉篇」の簡易版である。
○18世紀
清の康熙帝、雍正帝、乾隆帝の時代に、中国の文化は隆盛を迎えた。1716年に康熙帝の命令で、47000文字以上からなる「康熙字典」が編纂された。
・中国の辞書のリスト
現在の214部首に並べる方法は、1615年に編纂さえた「字彙」によって、確立された。漢字と日本語の翻訳辞典としては、19 60年に編纂された「大漢和辞典」が挙げられる。現在、もっとも大きい辞書は、1994年に編纂された「中華字海」で、8556 8文字を扱っている。
・日本の辞書の種類
日本の辞書は、大きく分けて3つのタイプがある;漢字辞典、国語辞典、外国語辞典。
・漢字辞典
○平安、室町、江戸時代
892年に編纂された「新撰字鏡」が、現存する漢和辞典の中で、もっとも古いものである。
○大漢和辞典
諸橋轍次が一生涯かけて編纂した。1928年に着手し、1943年に編集が完了した。しかし、第二次世界大戦の空襲により活字組版が全焼した。戦後、写植印刷技術を使って1960年にようやく完成した。大修館のオ-ナ-・鈴木一平氏の、全面的な信頼と支援がなければ達成できなかった偉業である。
・国語辞典
○平安、室町時代
平安時代には、934年に編纂された「倭名類聚鈔」が最古。これは、漢和辞典と、百科事典の両用を兼ねる。平安時代に他には、「色葉字類抄」が挙げられる。
○室町、江戸時代
室町時代から江戸時代にかけて、「節用集」のシリ-ズが数多く出版された。古い和訓を知るに便利である。江戸時代には、様々なバリュエ-ションが出版された。
○江戸時代の3大辞典
江戸の三大辞典には、「和訓栞」、「雅言集覧」、「俚言集覧」が挙げられる。また江戸時代には、蘭学と共に長崎から中国書が大量に輸入され、学問の進展に多いに寄与した。
○言海
大槻文彦によって編纂された、「言海」はそのユニ-クな定義に定評がある。「言海」は、大槻文彦の私費により編纂された。改定版の「大言海」の評判は「言海」より劣る。
○現代
20世紀で有名な国語辞典に、「広辞苑」と「日本国語大辞典」が挙げられる。「広辞苑」はもっとも一般的な辞書であるが、内容的には芳しくない。「日本国語大辞典」は国語辞典の中で、もっとも大部でかつ内容が充実している。国語辞典のOEDとも称すべきものである。
・外国語辞典
○ポルトガル、オランダ辞書
16世紀の中頃、ポルトガル人が布教のため来日した。宣教師により、日葡辞書が編纂された。これは当時の日本語の口語の語彙と発音を知るのに貴重な資料である。オランダ人のカピタン(商館長)の Hendrik Doeff は、長崎に十数年滞在し、日蘭辞書・ズ-フハルマを編纂した。完成は1833年。この辞書はその後の蘭学の学習者に多大の貢献をした。
○三ヶ国語辞書
日蘭辞書に遅れること半世紀、1865年に日仏辞書が、1862年に英和対訳袖珍辞書が編纂される。江戸時代の終わりには、学者によって、オランダ語、フランス語、英語、ロシア語が研究された。
・ヨ-ロッパとアジアの古典言語の学習
ヨ-ロッパでは、ギリシャ語とラテン語の二つが古典語と呼ばれる。アジアの国々、中国、韓国、日本、ベトナムでは、文書語として、漢文が共通語であった。
・漢字
漢字の総数は「大漢和辞典」では約5万字。康熙字典では5万弱(4 9030)。漢字には数多くの異字体が存在している。例えば「斉」という漢字には、31のバリュエ-ションがある。また、日本の漢字と中国の漢字では、僅かながら相違がある漢字がある。(例:骨、隣、妹)
・文字のコ-ドとフォント
日本の場合、JISのフォントでは、わずか7000字しか、漢字のコ-ドがない。台湾では、Big5があり、13053字の漢字を扱える。中国では、GB2312があり、20902字の漢字が扱える。
・中国と日本の間のフォントの違い
大陸中国では漢字は、繁体字と簡体字の二つがある。現在のコンピュ-タ-では、繁体字と簡体字の両方とも扱える。繁体字で入力することで、自動的に簡体字に変換できるが、その逆は難しい。
・音読みと訓読み
漢字の読み方について、6世紀に朝鮮から導入された「呉音」、7 -9世紀に中国から導入された「漢音」、10世紀以降に中国から導入された「唐音」。日本特有の「訓読み」。
・日本語の文字(かな)
奈良時代以前に作られた「万葉かな」と9世紀・平安時代に作られた、「平仮名」と「カタカナ」がある。
・日本語の語彙
日本語の基本的な語彙は、単音節語である。多音節語の単語も多い。日本語の複数形に「人々」、「下々」など同じ単語を繰り返すのは南方系の言語と共通である。日本語の語源をタミ-ル語や南方系と擬定する学者もいる。
・日本語の発音とアクセント
奈良時代の日本語には母音が7つあった。現在は5つ。江戸時代の参勤交代により江戸の語彙やアクセントが全国の武士階級に理解されるようになった。
・漢字廃止の動き
明治維新の前後、欧化思想の影響で、漢字の廃止が提言された。(例:森有礼、前島密)同じく第二次世界大戦後も同様の動きがあった。(志賀直哉)結局、漢字は日本文化の切り離せない部分だとして残った。
今回のテ-マは『辞書と言語』(Dictionary and Language)である以前のブログ『1円OED(Oxford English Dicitionary)顛末記』にも書いたように私は辞書、それも大部の辞書が好きである。その上、言語についても私は非常に興味がある。それでこのテ-マについては自分なりに考えることも多い。
例えば、『日本語の同音異義語の多さについて』でも書いたように、日本語に多い同音異義語についての意見や、CJK(日中韓)の文字コ-ド統一の是非などもそうである。
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・ヨ-ロッパの辞書
○古代の辞書と翻訳辞典
もっとも古い辞書の著者に、アレキサンドリアのPamphius(紀元前 1世紀)や、Hesych ius(紀元前5世紀)などが挙げられる。ヨ-ロッパでは、辞書類も含め、書物は伝統的に修道院で書き写されていた。
○各国の辞書(16世紀―19世紀)
英語の本格的な初めての辞書は、1755年にサミュエル・ジョンソンによって、編纂された。数人の助手に筆記の手伝いをさせジョンソンがひとりで、約3年で完成させた。一方、フランスでは、アカデミ-フランセ-ズが約40人で40年かけてフランス語の辞書を編纂した。ドイツでは、グリム兄弟によって、1852年に初めて辞書が編纂されたが、完成まで150年ちかくかかった。
○現代の辞書(19世紀―20世紀)
単語の発生順序(Historical Principle)に基づいて Oxford English Dictionary(OED)がジェ-ムズ・マレ-を主筆として編纂された。アメリカでは、Webster が米語の辞書を編纂する。
・中国と日本の辞書
○項目の順序
ヨ-ロッパの辞書では、項目別の辞書以外では、アルファベット順の文字配列が多い。しかし、中国と日本の辞書の項目順は複数ある。中国語では最近になってピン韻順の編纂が主流となった。日本語では古くはいろは順が多かったが中世から50音順もでるようになた。漢字では部首、画数、押韻の順序もある。
・中国の辞書
○2世紀~6世紀
中国では紀元前2世紀に、「爾雅」という簡易な辞書(単語リスト)が初めてつくられた。2世紀には、部首によってグル-ピングされた「説文解字」という辞書ができた。6世紀に「玉篇」が編纂された。空海の「篆隷万象名義」は、「玉篇」の簡易版である。
○18世紀
清の康熙帝、雍正帝、乾隆帝の時代に、中国の文化は隆盛を迎えた。1716年に康熙帝の命令で、47000文字以上からなる「康熙字典」が編纂された。
・中国の辞書のリスト
現在の214部首に並べる方法は、1615年に編纂さえた「字彙」によって、確立された。漢字と日本語の翻訳辞典としては、19 60年に編纂された「大漢和辞典」が挙げられる。現在、もっとも大きい辞書は、1994年に編纂された「中華字海」で、8556 8文字を扱っている。
・日本の辞書の種類
日本の辞書は、大きく分けて3つのタイプがある;漢字辞典、国語辞典、外国語辞典。
・漢字辞典
○平安、室町、江戸時代
892年に編纂された「新撰字鏡」が、現存する漢和辞典の中で、もっとも古いものである。
○大漢和辞典
諸橋轍次が一生涯かけて編纂した。1928年に着手し、1943年に編集が完了した。しかし、第二次世界大戦の空襲により活字組版が全焼した。戦後、写植印刷技術を使って1960年にようやく完成した。大修館のオ-ナ-・鈴木一平氏の、全面的な信頼と支援がなければ達成できなかった偉業である。
・国語辞典
○平安、室町時代
平安時代には、934年に編纂された「倭名類聚鈔」が最古。これは、漢和辞典と、百科事典の両用を兼ねる。平安時代に他には、「色葉字類抄」が挙げられる。
○室町、江戸時代
室町時代から江戸時代にかけて、「節用集」のシリ-ズが数多く出版された。古い和訓を知るに便利である。江戸時代には、様々なバリュエ-ションが出版された。
○江戸時代の3大辞典
江戸の三大辞典には、「和訓栞」、「雅言集覧」、「俚言集覧」が挙げられる。また江戸時代には、蘭学と共に長崎から中国書が大量に輸入され、学問の進展に多いに寄与した。
○言海
大槻文彦によって編纂された、「言海」はそのユニ-クな定義に定評がある。「言海」は、大槻文彦の私費により編纂された。改定版の「大言海」の評判は「言海」より劣る。
○現代
20世紀で有名な国語辞典に、「広辞苑」と「日本国語大辞典」が挙げられる。「広辞苑」はもっとも一般的な辞書であるが、内容的には芳しくない。「日本国語大辞典」は国語辞典の中で、もっとも大部でかつ内容が充実している。国語辞典のOEDとも称すべきものである。
・外国語辞典
○ポルトガル、オランダ辞書
16世紀の中頃、ポルトガル人が布教のため来日した。宣教師により、日葡辞書が編纂された。これは当時の日本語の口語の語彙と発音を知るのに貴重な資料である。オランダ人のカピタン(商館長)の Hendrik Doeff は、長崎に十数年滞在し、日蘭辞書・ズ-フハルマを編纂した。完成は1833年。この辞書はその後の蘭学の学習者に多大の貢献をした。
○三ヶ国語辞書
日蘭辞書に遅れること半世紀、1865年に日仏辞書が、1862年に英和対訳袖珍辞書が編纂される。江戸時代の終わりには、学者によって、オランダ語、フランス語、英語、ロシア語が研究された。
・ヨ-ロッパとアジアの古典言語の学習
ヨ-ロッパでは、ギリシャ語とラテン語の二つが古典語と呼ばれる。アジアの国々、中国、韓国、日本、ベトナムでは、文書語として、漢文が共通語であった。
・漢字
漢字の総数は「大漢和辞典」では約5万字。康熙字典では5万弱(4 9030)。漢字には数多くの異字体が存在している。例えば「斉」という漢字には、31のバリュエ-ションがある。また、日本の漢字と中国の漢字では、僅かながら相違がある漢字がある。(例:骨、隣、妹)
・文字のコ-ドとフォント
日本の場合、JISのフォントでは、わずか7000字しか、漢字のコ-ドがない。台湾では、Big5があり、13053字の漢字を扱える。中国では、GB2312があり、20902字の漢字が扱える。
・中国と日本の間のフォントの違い
大陸中国では漢字は、繁体字と簡体字の二つがある。現在のコンピュ-タ-では、繁体字と簡体字の両方とも扱える。繁体字で入力することで、自動的に簡体字に変換できるが、その逆は難しい。
・音読みと訓読み
漢字の読み方について、6世紀に朝鮮から導入された「呉音」、7 -9世紀に中国から導入された「漢音」、10世紀以降に中国から導入された「唐音」。日本特有の「訓読み」。
・日本語の文字(かな)
奈良時代以前に作られた「万葉かな」と9世紀・平安時代に作られた、「平仮名」と「カタカナ」がある。
・日本語の語彙
日本語の基本的な語彙は、単音節語である。多音節語の単語も多い。日本語の複数形に「人々」、「下々」など同じ単語を繰り返すのは南方系の言語と共通である。日本語の語源をタミ-ル語や南方系と擬定する学者もいる。
・日本語の発音とアクセント
奈良時代の日本語には母音が7つあった。現在は5つ。江戸時代の参勤交代により江戸の語彙やアクセントが全国の武士階級に理解されるようになった。
・漢字廃止の動き
明治維新の前後、欧化思想の影響で、漢字の廃止が提言された。(例:森有礼、前島密)同じく第二次世界大戦後も同様の動きがあった。(志賀直哉)結局、漢字は日本文化の切り離せない部分だとして残った。