この冬だつて耕耘部まで用事で来て
こゝいらの匂のいゝふぶきのなかで
なにとはなしに聖いこころもちがして
凍えさうになりながらいつまでもいつまでも
いつたり来たりしてゐました
☆等(平等)の講(話)を展(ひろげる)
捕(とらえる)要(かなめ)の字は雷(神なり)である
仁王(仏法の守護神)の凄(すさまじい)闘いの雷(神なり)
クラムから引きはなされたきみは、よろめき、どうしていいのやら途方にくれていた。ぼくは、いつでもきみを助けてあげようとおもっていたけれど、いつもその場にいるとはかぎらなかったし、その場にいるときでも、ときとしてきみの夢想が、あるいは、たとえば橋屋のお内儀のような人間がきみをしっかりつかまえて放さないこともあった。
☆行くべき道がないきみをいつも理解しようとした。それにもかかわらず、わたしがいるときにも居合わせることがなく、幻のような永続だった。
お内儀(言葉)は、どこかはっきりしないような方法ではあるけれど、わたしに方法を見つけてくれた。
赤シャツの農夫は馬に近よって頸を平手で叩かうとしました。
赤はシャクと読んで、釈。
農夫はノウ・フと読んで、納、訃。
馬はバと読んで、場。
近よってはキンと読んで、襟。
頸はケイと読んで、継。
平手はビョウ・シュと読んで、描、趣。
叩かうとはコウと読んで、講。
☆釈(意味を解き明かし)納(おさめる)。
訃(死の報せ)の場(空間)は、襟(心の中)にある。
継(つないで)描く趣(考え)の講(話)である。
『アルンハイムの地所』
翼を広げた鷲の形をした山、星空に南中の二十六日の月、手前には三つの卵…。
三日月と鷲の頭部と三つの卵は直線状にある。
南中の二十六日の月が見える時刻は真昼であり、星空の夜間ではない。
翼を広げた鷲は、あくまで山であり鷲に見えるだけである。
巣に入った三つの卵、鳥が人工的な煉瓦の上に巣をつくり卵を生むことなど皆無である。
この三つの虚偽をつなげた空論に答えはあるのだろうか。
《まず否定ありき》の中から見出す真実・・・非現実をあたかも現実のように描くことの作為。
決して存在することのない景色…しいて言えば神の領域であり、永遠に見ることの叶わない光景は願望ですらある。
南中の二十六日の月は《時間の否定》
翼を広げた鷲の形は《質の変換/質の否定》
三つの卵は《場所・状況の否定》
要するに、現実空間を全面拒否した架空の創造世界の現出であり、宣言、宣誓である。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
さうです 農場のこのへんは
まつたく不思議におもはれます
どうしてかわたくしはここらを
der heilige Punkt と
呼びたいやうな気がします
☆納(受け入れる)状(ありさま)は、普く死を擬(なぞらえた)記である。
※der heilige Punkt は神聖な場所
しかし、きみは、ほかのことはいっさい無視するとしても、とにかくクラムから引きはなされてしまった。それがどういうことを意味するのか、ぼくは測りかねているのだが、なにやらおぼろげな見当ぐらいは、だんだんわかってきた。
☆しかし、すべての見たことを変え、氏族を引き離すことを、不思議に思った。それが意味することを、わたしは判断できないが、先祖の疑念はしだいに分かってきた。
脱穀小屋の庇の下に、貯蔵庫から玉蜀黍のそりを牽いて来た二疋の馬が、首を垂れて黙って立って居ました。
☆脱(ある状態から抜け出す)と告げる。
照(あまねく光が当たる=平等)也。
秘(人に知られないように隠し)化(教え導くこと)を著(あらわす)ように造る。
個(一人一人)霊(死者の魂)に属(たくして)書いている。
兼ねた記は、普く匹(一対を為す)場(空間)の趣(考え)を推しはかる律に拠る。
建屋にある窓、窓というのは内と外をつなぐ媒体であり、隠蔽することも開示することも成立させる機能を持つ。
閉じたものの中は不明であるが、開いて見える景は、経験上の予測を裏切らない想定内の空間でなければならない。
しかしここで見る景は、窓の中の空間に複数の窓を所有する一個の建屋が存在している。
明らかに矛盾であり暴力的である。否定されるべき条件の内包は、現実的に受け入れがたい。非現実、妄想、空論のそしりは免れない。
ただ、この景を精神的な解釈で解けば、個の中の世界(窓の中の一軒家)は容易に得心がいく。
物質界で矛盾することも精神界では可能であることの証明だろうか。客観的に見れぼ奇怪なことも、私的解釈による自由では肯定される。
あえて観念を覆すことで、物理的正論を確認する。
否定によって肯定の正当性を促す。真理の門(あるいは核)を叩き、世界の本質に迫る術は、時空を逆に覗き見ることかもしれない。
(写真は新国立美術館『マグリット』展/図録より)
わたくしはなにをびくびくしてゐるのだ
どうしてもどうしてもさびしくてたまらないときは
ひとはみんなきつと斯ういふことにある
きみたちとけふあふことができたので
わたくしはこの巨きな旅のなかの一つづりから
血みどろになつて遁げなくてもいいのです
(ひばりが居るやうな居ないやな
腐植質から麦が生え
雨はしきりに降つている
☆詞(言葉)の拠りどころを慮(思いめぐらす)。
溢(あふれる)訣(人との別れ)を結び、頓(ととのえること)を拠りどころに挙(事を起す/企てる)。
普く続く死地の漠(虚ろ)、章(文章)は天(天上の世界)の講(話)である。