夕焼け金魚 

不思議な話
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思い出のプレゼント

2023-05-17 | 創作
晴れた朝は玄関先でお掃除です。
元気良く登校する一年生を見るとおじさんも元気になります。
「おはようございます」
声をかけられて驚いて振り返ると、二人の娘さんがおられました。
「おはようございます」
と返事しますとそれだけで「キャハハハ」と笑われるのです。
この年頃の方は本当に何しても笑いますね。
「おばさんの家探しているのですけど、ご存じですか」
手渡されたメモ紙を見ると、近所のよく知っているご婦人の名前が書いてありました。
「近くですから、ご案内しましょう」
と言って二人の娘さんと歩き出しました。
午前中の早い時期だったので、ご婦人はまだ起きたばかりの様子でした。それでも、二人の娘さんを見ると笑顔一杯で迎えてくれました。
二人の娘さんはご婦人に風呂敷包みに包まれた箱を差し出して、ご婦人に渡します。
「母の日のプレゼントって、お母様と私達のです」と言ってまたキャッキャッと顔を見合わせて笑います。
本当に何がそんなにおかしいのでしょうかね。
でも、若い人の笑い声はいいものです。
「オバァチャン、おじちゃんからも何か貰いましたか」
「あの人でしたら、おまえは俺の母ではないと言うでしょうね」
「そうなのですか、色々プレゼントしたようなこと言ってましたよ」
女性の会話に入ってみました。
「あら、金魚さんにはそんな風に言ってましたか」
「一度聞いたとき、虹の玉をプレゼントしたのが、一番印象に残っていると言ってましたよ」
「虹の玉ですか。印象には残ってますけどね」と言って笑うのです。
「なに、おばぁちゃん。虹の玉なんて素敵じゃないないの」
「なんでも虹を見ることが出来る玉だそうですよ」
「凄い、おばぁゃん、そんな素敵なプレゼントもらったの」
上の娘さんがキラキラした目で聞きます。
「どんなプレゼントなの、虹の玉なんて」
下の娘が聞きます。
「私も詳しくは知らなくてね、金魚さんならその手のプレゼントの事、詳しいんじゃないですか」と笑って私を向くのです。
ここのおじいちゃんとは長い付き合いなのです。
中学生の頃に引っ越ししてきて、一緒に登校した仲ですから。
若い頃、おじいさんが結婚したい女の人に、あっと言わせるプレゼントをしたいというので、教えてあげたことがあります。
虹の玉という、虹が見える木の実です。
気象を保つ果肉のある実をつける樹で、虹の樹と言われてます。
虹の樹は虹の気象をその実の中に閉じ込める果肉を持っているのです。
虹は雨降りの前後に生じる現象なので、虹の出る気象条件を実の中にため込んで、日照りの時期には、自ら実を落として、雨を降らして日照りの季節を過ごすという不思議な樹です。
午前の虹は青い実、午後の虹は赤い実なのです。
青い実は真っ青な蒼空を背景とした虹。
赤い実は夕焼け空を背景として虹なのです。
「あれ、金魚さんが教えたのでしょ」
「はあ、まぁ昔のことですから」
「でも、その結果、ご存じですか」
「上手くいったのでは、こうして結婚なさっているのですから」
「そういう意味では成功でしょうけど、大変だったのですよ」
「そうなのですか、彼からは何の報告もなかったので」
「珍しくあの人が、私を部屋に誘って虹を見せてあげるっていうのですよ」
「どうなったの、おばぁちゃん」と二人の娘さんも興味津々です。
「部屋を暗くしてね、虹の玉だと言って樹の実をみせてくれたの。このあたりで、誰かさんの入れ知恵だなぁって思いましたよ。あの人はそんなことには本当に疎い人なのですから」
「ばれてましたか」
「はい、貴方だとすぐ分かっちゃいましたから、金魚さん。あの玉は貴方が他の女の方に使った手でしょう。もうみんな知ってましたから」
「知っていたのですか」
「貴方の事はこのあたりの女の人みんなが知ってましたから。貴方とデートしたことは翌日にはみんなの耳に。どんな事したとか情報交換してましたよ。でもまさか、おじいちゃんが私にするとは思いませんでしたけど」
「で、どうなったの、オバァチャン、それから」
娘さん達が先をせかします。
「おまえ達も大人だから言うけど、男の人が部屋に誘って珍しいモノ見せてあげるなんて言うときは、エッチなことしたい時なんですよ」
「えっ、そうなの」
「ええ、おじいちゃんも虹を見るには床に寝ないといけないというのよ。分かるでしょ。」
二人の娘は顔を合わせて、キャーと笑います。
「床に寝転がって天井を見ているとね、おじいちゃんが実を割るの。すると天井あたりに光が映ってすぐに丸い虹が出てきた。半円の虹を想像していたから、この丸い輪っかの虹には驚いたわ」
「そうでしょ、丸い虹なんて普段は見ませんからね」
と少し得意げに言ってしまいました。
「青い空を背景にまん丸な虹がキラキラ光っていて、とても綺麗なの。この雰囲気は危ないなぁって思ったのだけど、半分仕方ないかなともね」
「で、それからどうしたの、おばぁちゃん」
「おじいちゃんがね、私に覆い被さってきたの」
「それから」二人の娘さんは食い入るようにオバァチャンを見ます。
「目をつぶってね、覚悟したのよ。でも、その時にポツンと額に冷たいモノが当たったの」
「冷たいモノ、何 ?」
「目を開けると虹がなくなってて、真っ黒な雲。今まで見たこともないような真っ黒な雲、雲の中に光モノもあって」
「部屋の中に」
「そう、部屋の中に虹もおかしいけど真っ黒な雲もおかしいわよね」
「それで、おじいちゃんとのラブシーンは」
上の娘さんはそちらの方が気になるようです。
「ラブシーンどころじゃないわよ、それから土砂降りの雨、凄い音を立てて雨が降るのよ」
「部屋の中で」
「そう、慌てて隣の部屋に逃げたけど、応接間から雨が溢れてくるから、廊下から台所へビショビショ。おじいさんと二人で窓を開けるやら、ドアを閉めて水が入らないようにして、それは大変」
「まさか、青い玉を使ったのですか」
「そうみたい。説明書に青い玉は雨が降ります。たまに土砂降りになるので注意して下さいって書いてあったのに、おじいさんよく読まないから」
「それでもおばぁちゃん、おじいさんと結婚したのですね」
「だって、おじいさんのお母様が帰ってきたときに、二人ともビショビショで家の中に立っていたのですよ。もう大変な格好で、そんなのすぐ噂になっちゃって、おばあちゃんの若い頃は、男の人とそんな噂立てられちゃったら、他の人とはちょっとね。ねえ、金魚さん」
と言うのです。
そんなことになっていたなんて、当時の私は東京にいたから知りませんでした。
「金魚さん、教えたことには責任を持ってくださいね」と念押しされました。
二人の娘さんも笑い転げていました。
ちょうどその頃です。おじいさんが、朝の散歩を終えて帰ってこられたのですね。
みんなが笑い転げているのを見て「何がそんなにおかしいの」というので、またまたみんなで笑い出すのです。
朝から笑いが溢れる家は気持ちいいモノですけど、私は足音を忍ばせて、トットと逃げ帰りました。




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