夕焼け金魚 

不思議な話
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逃げ水4

2023-05-16 | 創作
夜、ペットショップのオーナーという方がおいでになりました。
大きめの牡丹柄の着物を着た方でした。
夜というのにサングラスをかけていました。
「夜、来てくださいと言われたので」
「いえ、来ていただいてありがとうございます」
「夜の方が良いのは、なにか理由があるのですか」
「こちらにおいでください」と碁敵がオーナーを裏庭に案内しました。
裏庭を見たオーナーが小さく「あっ」声を出しました。
裏庭にはキラキラ光る白・赤・緑色がチカチカしていたのです。
三匹が庭の片隅にいたのです。
「綺麗ですね。お話だと白いのしかいないように聞いていたのですけど、赤も緑色のもあるのですね」
「はい、最近なのですよ、赤や緑色に光り出したのは。人にお見せするのは初めてです」
「光栄ですわ。最初に見せていただけるなんて」
「でも、光だけでしたら夜でなくても」
「夜でないとお見せできない事もあるのです」と言って碁敵は赤と緑のみずを手に持つと外へと案内するのです。
「こうやって夜の散歩が出来るのです」と言って赤いのは後ろに、緑色のみずに離すのです。
「そんなことすると、逃げちゃいませんか」
オーナーが驚いて碁敵に聞くのです。
「実は大丈夫なのです。意外と頭の良い子達で道とか覚えているのです」と言って歩き出すと、緑色のみずが歩く速度で同じ速度で動いて前に進みます。
後ろを見ると赤いみずがやはり同じ速度で付いてきます。
オーナーは前後を見て、にっこり笑いました。
「いいですね、こんなの。これだとペットとしても需要があるかも」
「そうでしょう、私もそう思うのです。夜ペットと散歩していても様子が見えないとつまらないですものね。でも、この子達、顔とかは見えないのですね」
「それは仕方ないと思っていただかないと。昼間や部屋の中でしたら見ること出来ますけど、外に連れて行くと光で隠れますから」
「光に隠れる動物なんて珍しいですよね」
「動物界にはそんなに珍しいことでは、ホタルイカとか深海魚は光る物がいますから」
その夜はとても素敵な夜になりました。
金魚はあのペットショップのオーナーに一目惚れしてしまいました。
いい年したおじさんがなんて言わないでください。
それほど素敵なオーナーだったのです。
連絡先を教えていただいたので、何度か食事のお誘いをしたのですけど、なにやかやと忙しい方でデートは出来ませんでした。
毎日のように碁敵のところで、囲碁をしながら勝ったり負けたりしていました。
「みずをペットにして、早く売り出したいなぁ」
「実は、その話なんだけど売り出すのは難しいかも」
「どうして」
「実はみずは4月中頃から、7月の中頃までしか活動しないのだよ」
「どういうこと」
「7月の中頃から翌年の4月頃まで夏秋冬眠するんだよ」
「えっ、そんなに長く」
「ちょっと長すぎますねってオーナーに言われてね」
「えっ、オーナーと会っていたの」
「うん、実はもう何度か」
私が何度デートに誘っていても応じなかったオーナーが、碁敵とは何度もデートしていたなんて。
碁敵は恋敵になっていたのです。
結局オーナーとはいつまでたっても逃げみずと同じく、追っ手も追っ手も距離は縮まりませんでした。
恋敵とですか、知りません。知ってても、言いませんから。

上記画像の出典は逃げ水2に

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