夕焼け金魚 

不思議な話
小説もどきや日々の出来事
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テニメデス

2015-06-12 | 創作
友達から聞いた話です。
雨が夕方から降り続いた夜の事だったそうです。
家に帰る途中の道で、近道のために裏道に入ったそうなのです。
街灯がポツリポツリとあるような道の真ん中を、フラフラと歩く人がいたのだそうです。雨が降っているのに、傘もささずに手を前に突きだして歩いていたのだそうです。
てっきり目が悪いのだと思ったのだそうですが、杖を待たずに手を突きだして歩いているのも変だなと思ったそうです。
横を通り過ぎるとき、見ると髪が長くて女の人だと分かったそうです。
髪が雨に濡れて街灯の光でキラキラ光っていたそうです。
通り過ぎたとき、後ろから「お兄さん」と声をかけられて振り向いたらビックリしたそうです。友達に向けられた手の平に、大きな目がギラギラ光っていたのだそうです。
後ずさりして逃げようとしたとき「逃げるな」と突然大きな声がしたそうです。
その声で昔、おばあちゃんに言われた事を思い出したそうです。
この街には、手の平に目がある化け物がいるというのです。
もし、その化け物に出会ったらどんなに速く逃げても、もの凄い速度で追いかけられてとても逃げられないと言うのです。
そんな時は、突きだしている手の甲を見るように動けば逃げられると教えられた事を思い出したそうです。
後ずさりしながら突きだしている手が右手だと確認して、左に廻るように動いたそうです。
よく見ると、突きだしている右手が、少し内側を向いていたのです。
左に、左に動いていると突き出している右手をダラリと下げて立ち止まったそうです。
「もう、お前がしっかりしないから逃げられたじゃないか」と言う声が聞こえたそうです。
どこから声がするのだろうとよく見ると、左手に口が付いていて喋っていたというのです。
左手には口だけがあって、右手に向かって「お前がしっかりしなかったからだろう」と怒っているのです。
それに対して、右手の目がなんとなく謝っているように見えたそうです。
背中に隠れるように見ていると、身体の前で右手と左手が握手をしたかと思うと、右手を前に突き出して再びフラフラと歩き出したそうです。
友達はその場に立ち止まって、その姿を見送っていたのだそうですが、フラフラ歩いていたと思うと突然、フッと目の前から消えてしまったそうです。
今あった事が本当の事なのかと思う程、暗い夜道だけが残っていたのです。
でも、あの時大声で「逃げるな」と声をかけてくれたのは誰だったのか、結局分からなかったそうです。
周りには誰もいなかったのですから。
ただ、後から考えるとあの声は、亡くなったオバァチャンの声に似ていたのだそうです。

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