最近ブログのアクセス件数が2万件を越えた。ブログを作っている目的は、単にアクセス数を増やすことにあるのではなく、自分の考えや行動をアーカイブ的に保存しておくことにあるのだが、多くの人にブログを読んで頂けることは嬉しい。多くの人に読んで頂くといえば、来月から地域金融機関向けの雑誌にエッセーを寄稿することになった。エッセーにはブログに書いたことをそのまま転載する訳ではないが、パーツとして使うことは多いと思うので、自分のブログは良いデータベースとなる。
さてそんなこともあって、「どうして日本は金融でアメリカに勝てないのか?」の続きも進める。日本は金融でアメリカに勝てないとは言ったが、総てのところで負けているという訳ではない。例えば個人の資金決済を中心とするオンライン・ネットワークやATM等はアメリカをはるかに凌いでいる。普通預金の通帳というものもアメリカにはない。これらは技術的には日本がはるかに優れているところだ。
これには現金や決済に対する考え方・処理方法の歴史的な違いが大きく影響を与えている。アメリカは個人でも当座預金から小切手を振り出し、決済(例えば電気代の支払)することが一般的である。(私が10年程前にアメリカにいた時の経験である。最近はインターネットバンキングが進んでいると思われるので、決済方法にも変化が起きているかもしれない) またクレジット・カードの利用が盛んなことも周知のとおり。そのカード利用代金の決済も当座小切手をカード会社に郵送することで行なっていた。従って米国で個人が電信送金することはまず考えられないし、口座からの自動引落というものもまずないと思う。
アメリカでは預金通帳もない。その代わり毎月当座預金の異動明細表が送付されて来る。これを自分が振り出した小切手と照合する(アメリカでは引落済み小切手が振出人に返却される)のである。アメリカの銀行は時々ミスをするので、預金者が自分でチェックする必要があるのだ。
アメリカのキャッシュ・ディスペンサーは、単なる現金支払機である。一回の払い出し限度は一人数百ドル止まりつまり10万円以下である。又入金はリアルタイムには処理されない。封筒に現金や小切手を入れてキャッシュ・ディスペンサーの中に投入するのである。この時入金金額を自分で機械に入力するが、リアルタイムで残高に加算される訳ではない。夜間作業で銀行がキャッシュ化するのである。
この様にアメリカの個人預金・決済業務は、簡素・オフライン的である。これに較べて日本の個人預金・決済業務が如何に精密でリアルタイムな処理を完成させてきたかということを考えるとある種涙ぐましい感じすらする。例えば預金通帳というものがなければ、銀行の合併作業等もっと簡単に進んでいただろうし、システムコストも削減できたはずだ。
この世界一優れた日本の個人預金・決済業務であるが、ここへ来て少し変調が起きている様だ。先日某都市銀行に行って、ATMから少しまとまったお金を送金しようとすると「一日の取扱限度を越えています」というメッセージが出て、送金が出来ないのである。これは偽造(および盗難)銀行カード対策に銀行側が普通預金に引出限度を設けたことによる。一定金額以上の現金引出や送金については、銀行の窓口で処理をして貰うことになるが、窓口の開いている時間の制限はあるし、待ち時間は長い。それに送金では余計な手数料がかかる。
普通預金の通帳というものも、これだけ自動引落やインターネットバンキングが進んでくると考え物だ。未記帳がどんどん溜まっていくのである。私はある大手銀行で無通帳の普通預金を使っているが、インターネットで異動を確認できるので全く痛痒はないし、預金通帳を盗られたり紛失するリスクもないので重宝している。
日本とアメリカの個人の決済方法は既に述べたとおり、歴史的に異なった経路をたどって来た。しかしインターネット取引が増えてくると、二つの経路は収斂することはないもののかなり接近してくると考えられる。
日本の個人預金・決済業務が技術的に極めて優れたものであることは既に述べたが、技術的に優れているということと、実際に役に立つかどうかということの間には必ずしも正の相関関係はない。例えば映画にもなった戦艦大和、世界最大の戦艦であったが、日米戦争でその巨砲を活用することなく、南海に沈んだ。
この大和のことを他山の石として、日本の個人預金・決済業務も簡素に出来るものはもっと簡素にするべきであろう。以下簡素化すべき一例を示してみる。
- 普通預金通帳の廃止
- 預金を中心とした商品の統合と商品数の削減
実質的に余り違わない商品があふれている。商品数を絞って金利等のメリットを顧客に還元するべきだろう。
- 各種手続きの簡素化
アメリカにいた時、キャッシュカードを紛失し再発行を依頼すると、運転免許証で本人確認した後、その場で仮カードを交付され、翌日に新しい本カードが郵送されてきた。この類のサービスは物凄く早い。日本では考えられない簡素で早い手続きだ。日本の銀行ももっと顧客の立場でものを考える必要がある。
以上はほんの一例であるが、金融機関や当局が「何が本当に必要なサービスか?何は省略すべきことか?」ということを真剣に考えていかないと、世界一の銀行システムが大艦巨砲のシンボルで終わってしまう恐れがある。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます