金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

野村の社長交代の真相

2008年03月04日 | 金融

野村ホールディングスの社長が古賀氏から渡部氏に交代することは日経新聞で読んだ。交替の理由について日経は古賀社長は「サブプライムローンで損失を出したことと社長交替はほとんど関係ない。今の野村に必要なのは若い力を引き出すこと。自分のやり方では変化しきれないと感じていた」と述べたと報じて、それ以上の分析を加えていない。

一方ファイナンシャルタイムズ(FT)を読むと次のような解説が出ていた。見出しは「野村のトップは損失を出して辞任」だ。FTは古賀社長の辞任はサブプライムローンで1,456億円の損失を出したことがきっかけとなったのが業界の大方の見方だという。その論拠としてドイツ証券の前島アナリストの「社長交替が示唆するところは、古賀社長が責任を取って辞めたということだ」というコメントを引用している。

更にFTは古賀氏から渡部氏に交替したことは「野村が古賀社長の指揮下でグローバル金融のパワーハウスになることを目指したが、失敗して国内回帰を鮮明にしたこと」を示すという。
渡部新社長について日経は「海外、財務、国内営業と幅広い経験を積んで」と書いているが、FTはあっさり海外勤務の経験はないと断言している。
古賀社長はインスティネットという米国の電子取引ブローカーを1千億円で買収したり、フォートレスというヘッジファンドの持分15%を1040億円で購入したり、海外展開を推進した。しかし野村證券は結局のところ海外での競争力を高めることができず、サブプライムローンで損失を出した。そして住宅ローン部門を閉鎖し、固定利付債取引部門の縮小を余儀なくされた。

野村證券が述べたことをそのまま書いている日経新聞の記事が真実であるか、FTの記事が真実であるかは時間が決めることである。

野村といえば極めてローカルな話題であるが、私が住んでいる田無の駅前に最近新しく支店をオープンした。そのその建物は以前UFJ三菱銀行の支店で更にその昔は三和銀行の支店だった。銀行の店舗を買ってまで店を出そうというとこころに野村の国内重視戦略が垣間見えるというとこじつけ過ぎだろうか?

もしFTの分析が正しいとすると「日本でもっとも海外展開に積極的な金融機関である野村證券でもグローバルな金融競争では歯が立たなかった」ということだ。金融立国などという看板を掲げる政治家がいるが、それは絵に書いた餅のようなものだということが分かる。
次に古賀社長を先鞭として、サブプライムローン等で大きな損失を出した会社のトップは詰め腹を切らされるということだ。

サブプライム関連の損失というと新聞に「武富士が社債の実質的期限前償還スキームで最大300億円の損失を計上」という記事があった。

恐らく一般の人にはほとんど関心がないことなので、読み飛ばして頂きたいが、金融にご関心のある方のために説明を加えるとこれは「信託型デットアサンプション(債務引き受け)」と呼ばれるスキームである。社債の発行会社(この場合武富士)は、その社債の元利金の支払にほぼ等しい国債等リスクの低い債券を購入する資金を信託して、信託財産で債券を購入する。
何故こんな面倒くさいことをするのかというと、一つは発行した社債を繰り上げ償還することは出来ないが、オフバランスしたい場合。
もう一つは財テク的に少しでもクーポンの高い債券を信託財産で購入して、発行する社債との鞘取りを狙う場合。
日経新聞は明記していないが、私は武富士が鞘取りのためにデットアサンプションを使ったと推測している。

さて300億円の損失の責任は誰にあるのだろうか?それは誰がディールを仕掛けたか?そして誰がリスクを説明し、誰が理解したか?という問題につながる。責任はメリルにあるのか?武富士にあるのか?それは私には分からない。分かることはいずれにせよ武富士の株主としては等閑視できない損失であり、責任を追及するべき問題ということだ。サブプライムローンはまだまだ日本の中で暴れそうだ。

そう考えると国内回帰を決めた野村證券は賢明にも見えるが、長期的には勝ち目のない篭城戦を決め込んだ戦国大名のような気がしないでもない。

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