金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本版SOX法、運用は慎重に

2006年11月24日 | 金融

金融庁は11月21日に上場企業の内部統制整備を求める日本版SOX法(金融商品取引法)の「実施基準」に関する公開草案を発表した。金融庁によれば来年1月にも実施基準を確定したいということだ。私はまだ実施基準の詳細を見ていないが、企業にとってかなり負担になりそうだ。そういえば先日たまたま英国政府筋の要人と話をする機会があり、日本版SOX法の話が出たがその時彼が言っていたのは「米国でSOX法が実施されたお陰でロンドンに拠点を持ってきたり、ロンドンで上場をする企業が増えてホクホクである」ということだった。

折りしもエコノミスト誌は米国がSOX法などの影響でビジネスと金融の世界でその圧倒的優位性を失いつつあることをかなり詳細に論じている。かなり読み応えのある論説だがポイントを紹介しよう。日本がSOX法の運用を誤らないように警鐘を鳴らすためにも。

  • 米国のヘンリー・ポールソン財務長官~ゴールドマン・ザックスの前会長~は、今週エンロンの崩壊後2002年に制定されたSOX法(Sarbanes-Oxley Act)により、企業規制が強化され我々の社会に新しいリスクが導入されてきたと述べている。またニューヨーク市長のブルンバーグ氏やシューマー上院議員が「ロンドンに学びニューヨークを救え」と懸念を表明している。今米国の企業や銀行は史上最高の利益を上げているのにこれらの懸念は見当違いではないだろうか?
  • いや、米国の低下を裏付ける数字がいくつかある。米国はヘッジファンド、投資信託、証券化、シンジケートローン、株と上場デリバティブの取引高で欧州を凌駕しているが差は縮まっている。社債の発行額では昨年欧州は米国を上回った。また金融の健康状態のバロメーターであるIPOは5年前は米国が欧州、アジアを凌駕していたが今年は後者が上回っている。資本市場規制委員会のエコノミストは「数字は何か基本的なところで変化が起きていることを示唆している」という。
  • 同エコノミストによると米国市場の競争力を測るものは「海外企業が上場を選択するかどうか?」であるという。過去5年間自国と米国の証券取引所双方に上場する「クロスリスティング」は大幅に減少している。また上場するものは144Aルールを使って上場している。これは米国市場へアクセスしながら、完全な登録とコンプライアンス費用を回避するものである。
  • 米国企業も公開市場から逃げている。ディーロジック社の調査によると、今年の10ヶ月間で過去5年間を上回る金額の公開企業のプライベートエクイティによる買収が行なわれた。(金額は1,780億ドル)
  • 一方ロンドンは外為取引と店頭デリバティブで世界のリーダーになっている。また新興市場の自然は養育場所になっている。
  • 技術革新は資本とそれを必要とするものにとって最良の取引が得られる場所へ移動することを容易にしてきた。

ここでエコノミスト誌は米国の競争力が低下している四つの基本的な問題点を指摘する。

【SOX法のセクション404】 これがSOX法で最も物議をかもす部分である。これは企業に毎年「内部統制レポート」の提出を求める。内部統制レポートは会計監査人による証明と二人の取締役による署名が必要である。これはマインドを高めるが費用も高める。

監査費用は時価総額10億ドルの企業で年間数百万ドルに及ぶ。コンプライアンス費用は固定費なので大きな企業をそれを吸収することが容易である。しかし幾つかのより小さい企業はこのためロンドンのAIM市場を上場市場として選択している。

しかしSOX法はコスト負担を増やすだけではない。理論的にはより高い企業統治のレベルは、高い株価バリュエーションにつながるはずである。もしこのプレミアムが高ければコンプライアンス費用を相殺するはずである。一つの研究によると新興国の企業が米国に上場すると37%のプレミアムが付くという。また時価総額が230百万ドル以上の企業にとってはニューヨーク上場のプレミアムがコンプライアンス費用を上回るという資本市場規制委員会のエコノミストの示唆がある。

改革を主張するものはSOX法の運用をより「リスクベース」のものにしようとしている。これはゴールを大部分変えないで、企業と会計監査人にそれを達成するためにより裁量を与えるというものだ。既に米国の証券取引委員会も負担を軽減することを検討していると発表している。

なおエコノミスト誌はSOX法の問題の他【訴訟】【株主の権利】【規制】の問題を論じているが説明は省略する。

米国という国はある人々が正義と信じることを実行するために極端に走ることがある。たとえば禁酒法の導入もその一例だろう。ベトナム戦争もその一例だし、後年第二次イラン戦争もそうだったということになるかもしれない。ただ米国の良いところは振り子が触れすぎた場合、それを修正する力があることだ。

一方日本では米国のまねをして新しい仕組みやルールに導入に熱心な一派がいるが、これが行き過ぎた場合に修正する力はあるのだろうか?

エコノミスト誌によると、米国の証券取引委員会に英国の金融監督庁(FSA)のようにソフトなアプローチをとることを期待する人もいるということだ。FSAの職員構成は法律家よりエコノミストの方が多いということだが、これは取締より規制の変化が与える潜在的なコストと利益の分析に力を入れているということの表れであろう。

今日本が英国から学ぶことは結構多いのかもしれない。

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