11月20日より改正出入国管理法が施行され、日本に入国する外国人の顔写真と指紋が取られることになった。 これについてエコノミスト誌が痛烈な皮肉を交えた記事を書いている。まずポイントを紹介しよう。
1641年に幕府は長崎に出島を築いて、外国人を閉じ込めた。後に日本はもっと外国人を歓迎するようになったが、最近入国する外国人の顔と指紋の写真を撮ることを始めた。プライバシー擁護者は監視国家の出現だと激しく非難している。
批評家達はこれは日本の反外人感情におもねるもので、外国人観光客を増したり、東京を国際的な金融センターにしようとする国策を傷つけるものだという。
余談だが「おもねる」の原語はpanderで「おもねる」という意味の他「売春を斡旋する」という意味がある。おもねるには売春を斡旋するのが手っ取り早かったのだろうか?
これに対して政府は「単にテロリストを締め出す手段だ」と言う。ここでエコノミスト誌の最初の皮肉が出る。「蝶の愛好者である鳩山邦夫法務大臣が説明したように、彼の蝶仲間の友人であるアル・カイーダのメンバーの一人は偽のパスポートを使って日本に出入国を繰り返していた。新しい管理法はこのような奴をブロックするのだ」
鳩山邦夫という人は蝶のコレクターとしてつとに有名らしい。そのため評論家の佐高信から「変質者の代名詞のような蝶のコレクター」と中傷されたことがある。なおこの中傷によって佐高もまた昆虫研究家達から非難されている。
本題の戻るとここでエコノミスト誌は二発目の皮肉を飛ばす。「日本のテロリズムはただ日本国内で生まれたものばかりだ。最近の例ではオウム真理教信者によるサリン攻撃で12名が東京の地下鉄内で殺された」
エコノミスト誌は言外に外国人の取り締まりを強化するより日本人のチェックの方が大切じゃないの?と言っている訳だ。
そしてエコノミスト誌は別の箇所で自ら答を用意している。それは「日本には隣組というものがあってお互いに監視しあっている」ということだ。
この「隣組」だが、配給の効率化や思想統制を図る目的で太平洋戦争前の1940年に明文化された制度である。つまり監視国家の下部構造を支えていたのだ。
日本の顔写真・指紋システムは米国のUS-VISITプログラムのコピー版であり、本来はそれ程議論を呼ぶような話ではない。総ての国が生態認証情報を収集する方向に動いているからだ。問題はその実施ともに起きてくるとエコノミスト誌は言う。米国のシステムは欠陥含みで、費用は予算を上回っている。技術的な問題で欧州ではデジタルパスポートの導入が遅れている。
ここでエコノミスト誌の最後の皮肉が出た。「日本のコンピュータをデザインする優れた能力に比べて、政府は奇妙なことにそれを運用するのが下手である。今年政府は50百万件の年金の電子データを失ったことを認めた」
以上がエコノミスト誌の記事のポイントだ。それにしても指紋採取の問題を論じながら日本の問題点を浮かび上がらせる同誌の筆力は並々ならぬものがある。私がエコノミスト誌を好んで読む一つの理由はエスプリの利かせ方を学ぶところにある。最後にエコノミスト誌が書いていない問題点を一つ指摘しておこう。
それは日本人には隣組はあっても米国のソシアル・セキュリティ番号に相当する統一背番号がないということだ。このため国民年金や厚生年金の掛け金・給付管理の問題が発生したり、金融一体課税制度の導入のネックになったりしている。「隣組」制度などでお互いを監視しながら、国民背番号問題になると急にプライバシー議論が頭をもたげる。きちんと税金や社会保険料を納めている我々にとって納税者番号が導入されることで便利になることはあっても、不利益はないはずだ。導入反対を唱えている人はなにかやましいことがあるのか?と勘ぐりたくなる次第だ。
外国人の入国に目を光らすことの必要性を否定する訳ではないが、国民の必要な情報を電子的に把握することの方が優先課題ではないだろうか?
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