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山好き金融マン(OB)のブログ
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急成長を続けるインドのアキレス腱は成人識字率の低さか?

2024年05月07日 | 投資
 インド経済の好調さは、インドに投資を行っていない一般の人々の関心も引いているはずだ。それは先月IMFがGDPでインドが来年にも日本を抜いて世界第4位の経済大国になる可能性があると報じたことにある。今回インドがGDPで日本を凌駕するとしても、それは円安のため、日本のGDPがドルベースでは低く計算されることによることが大きい。しかしインドの足元の経済成長率は7.8%と日本の1.9%を大きく凌駕しているので、遅かれ早かれインド経済が日本経済を規模の面で追い越すことは間違いない。
 そのインドで4月19日から選挙が始まった。9億7千万人の有権者と1.5千万人の選挙管理者を巻き込んだ世界最大の選挙であり、選挙は6月まで続くそうだ。地球温暖化の影響で暑いインドは更に熱くなり、最高気温は華氏120度(セ氏49度)に達するのではないかと言われている。
 その暑いインドの選挙の行方を熱いまなざしで見守っているのは、中国に取って代わる可能性のあるエマージング市場の投資に興味のある投資家だ。
 そして何よりも、この選挙により所得格差が少しでも是正されることを願っている多くのインドの人々だろう。
 WSJのIndia's boom face a pitfall: Sharing yhe wealthという記事によると、選挙の大きな争点はいかにして、所得格差を是正するか?具体的には相続税や所得税を使っていかに所得の再配分を行うかが大きな論点になっているようだ。
 超富裕層、たとえば所得の上位1%に所得が集中している度合いでは、インドは中国やアメリアを抜いて、経済大国の中では世界一だ。中国では1%の人が全所得の15.7%を得ているが、インドでは22.6%の所得を得ている。
 またインドでは国民全体の所得の過半(57.7%)を上位10%の人が稼いでいる。これは中国43.4%やアメリカの48.3%を上回っている。WSJの記事によるとインドを上回る所得の上位集中があるのは南アフリカだけだ。南アフリカでは上位10%の人が全所得の65.4%を得ている(データソースはWorld Inequality Lab)。
 つまりインドは世界トップクラスの所得格差大国である。その大きな理由は、インドでは45.5%の人が生産性の低い農業に従事し、製造業従事者は11.6%に留まっていることだ(建設業は12.4%)。
 経済成長の先行モデルである中国の場合、田舎の農民を生産性の高い都市部の工場労働者にシフトしたことが経済成長のエンジンになっているが、この点インドは遅れているといえる。
 これは記事にはかかれていないが、私はインドで農民層を生産性の高い分野へのシフトが進まない大きな理由は成人識字率が低いことにある考えている。中国の成人識字率は96.2%だが、インドのそれは68.4%に留まる。
 世界的にみれば、インド人の活躍は目覚ましく、特にIT企業の幹部や人工知能エンジニアに多くのインド人を見つけることができる。
 一方低い成人識字率を見ると、インドの教育システムが中国に較べるとボトムアップ型でなかったことが推測される。
 インド急成長の落とし穴が、経済格差であるとすれば、その格差の大きな原因は教育格差であるということがいえる。この教育格差を埋めるには、成人層の再教育が必要だろうが、それは容易ではないだろう。
税制改革など経済政策だけでは、乗り越えることができない大きな課題をインドは持っていると見るべきかもしれない。もっともそれが投資のアキレス腱になるかどうかは別の話だが。
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