金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米中貿易摩擦を日米貿易摩擦に重ねてみると

2018年12月15日 | 投資

昨日(12月14日)の米国株式市場はまた大きく売り込まれた。ダウは497ポイント2%強下落した。ダウ・S&P・ナスダックとも直近の高値から10%以上下落し、コレクション領域に入った。昨日の株式市場では医薬・日用品メーカーのジョンソンアンドジョンソンが、ベビーパウダーに微量のアスベストスが含まれていることを知りながら隠蔽していたとロイターが報じたことで同社株が10%下落したことも重しになった(ちなみに同社はロイターの報道に対し事実ではないと反論している)。

だが全体的なセンチメントは米中貿易戦争が長引くことを懸念し、週末にポジションを整理しておこうという動きが売りをよんだのだろう。

さて市場参加者や経済界が頭を悩ませている米中貿易戦争について、30年前の日米貿易摩戦争を重ねながら米中貿易戦争の影響を予測する記事がWSJに掲載されていた。

タイトルはThe old U.S. trade war with Japan looms over today's dispute with China by Peter Landers.

著者は1980年中頃レーガン大統領時代の日米関係とトランプ政権下の現在の米中関係の共通性に着目しながら筆を進める。解説を加えながらポイントを紹介しよう。

  • 対日本巨額の貿易赤字に悩むアメリカは1985年9月の5カ国蔵相会議でドル高是正の合意を得た(プラザ合意)。
  • プラザ合意以前は1ドル240円だった米ドルは約1年で154円まで下落した。米国は日本に輸入拡大を促進するために金融緩和を迫り、日銀は政策金利を引き下げた。この結果米国の貿易赤字は幾分改善されたが、米国の圧力は続いた。米国の全貿易赤字に占める日本の割合は1991年がピークで実に65%に達していた。米国企業による日本企業に対する著作権侵害訴訟などが続いた。
  • 日本製のOSトロンも制裁対象となった。米国は日本製のOSトロンが世界標準になることを恐れ「日本メーカーがトロンを搭載したパソコンを作ると不公正貿易障壁に該当するので相応の制裁を取る」と脅しをかけてきた。
  • 金融緩和で日本では資産バブルが発生。バブルが崩壊した後日本はその後始末に難渋し、長い停滞期に入ってしまった。

筆者は木内元日銀政策委員会審議員の「米中貿易摩擦が中国を別の方向に向かわせるリスクを人々は見落としているかもしれない」という言葉を引用しながら、中国がバブル崩壊後の日本と同じ軌跡をたどる可能性があることを論じている。

  • 中国経済は80年台の日本のそれとは異なる。平均的な中国人は当時に日本に較べてはるかに貧困である。一方金融システムのリスク把握力が脆弱である点など構造的欠陥については幾つかの共通性がある。不動産価格が平均的な市民の予算をはるかに越えている点も同じだ。また少子化政策の結果労働層人口の減少が始まり、人口統計学上の時限爆弾を抱えているのも共通点だ。
  • 中国では国営企業の市場型への移行が停滞し、むしろ公共投資など短期的な景気浮揚政策が取られる可能性がある。プラザ合意の後日本が採用しそして失敗したように。
  • 中国経済が停滞し軍事予算が削減され、政治に不満を持つ中間層の政治的自由を求める声が高まるとすれば米国は安堵の胸をなでおろすことができるだろう。
  • しかし世界経済の1/6を占める中国経済が停滞し、政治的不安定が顕在化すると日独の産業機械の輸出が減り、その影響はやがて米国にも及んでくる。

つまりメイドインチャイナ2025政策を掲げ、ハイテク分野で自力調達を目指す中国の経済政策は、トロンを掲げた日本と同様この分野で世界的覇権を維持したい米国にとっては叩いておかねばならないものだが、叩きすぎるとその影響は自国に跳ね返ってくるだろうというのが筆者の結論である。

世界経済とサプライチェーンは日米貿易摩擦の頃とは比べものにならないほど複雑に相互依存しているので、米中貿易摩擦が与える影響もはるかに予想が難しいということができるだろう。

 

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