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世界の異常気象…続編―(3)熔ける北極と世界熱波へ

2023年09月25日 | 文化・文明
世界の異常気象…続編―(3)熔ける北極と世界熱波へ

気象庁は「異常気象」に付いて、「原則としてある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年に1回以下で発生する現象」と定義している。しかし世界気象機関(WMO)によると、暴風雨や洪水、干ばつといった世界の気象災害の発生件数が1970年から2019年の50年間で5倍近くに増加していると報告していて、気象庁の定義は最早時代遅れの様相を呈して居り、常態化した異常気象を『ニューノーマル化した異常気象』と呼ぶ学者も出てきている。
異常気象の原因は偏西風の蛇行、エルニーニョ現象等種々挙げられて来たが、根源的な理由は地球温暖化に行き着くと言うのが一般的な見方で、それを裏付ける世界気象機関(WMO)による「地球環境の観測事実」として以下の点が挙げられている。
• 2019年の大気中の二酸化炭素濃度は産業革命以前(1850年から1900年)より約47パーセント上昇
• 世界平均気温(2011~2020年)は、産業革命前と比べて約1.09度上昇
• 北極圏では世界平均の約2倍の速度で気温が上昇
• 北極の海氷(2010~2019年)は、1979~1988年と比べて、海氷が一番少ない 9月で40パーセント減少、海氷が一番多い3月で10パーセント減少
• 世界の平均海面水位は1901~2018年の間に約0.20メートル上昇
• その他陸地殆どの地域で1950年代以降に大雨の頻度・強度が増加、又強い台風(強い熱帯低気圧)の発生割合は過去40年間で増加 
***此れに対する[将来予測]として下記点を挙げている。
• 今世紀末(2081~2100年)の世界平均気温の変化予測は、産業革命以前と比べて+1.0~5.7度上昇
• 今世紀末(2081~2100年)の年平均降水量は、1995~2014年と比べて、最大で13パーセント増加
• 世界規模では地球温暖化が1度進行するごとに、極端な一日降水量の強度が約7パーセント上昇
• 2100年までの世界平均海面水位は、1995~2014年と比べて、0.28~1.01メートル上昇

前回ブログで触れたように「北極圏と熱帯の温度差縮小が、偏西風の蛇行頻度が多くする原因となって居り」、上記観測事実と照らし合わせると、北極圏の気温上昇と北極の海氷や氷床の減少が世界の異常気象に大きな影響を及ぼしている事が読み取れる。
アメリカ、カナダ、ロシアなど北極海を囲む8ヵ国が加盟する北極評議会閣僚会合(日本などはオブザーバー参加)が2021年5月に発表した報告によると、北極圏の温暖化は地球全体の平均の3倍の速さで進行、過去50年地球全体の年平均気温の上昇は1℃だったのに対し、北極圏では3.1℃に達したとしている。この結果、直近5年(2017~2021年)平均の北極海の海氷域面積は、1979〜1983年の5年間の平均と比べて日本の国土面積(約38万km2)の7倍以上約280万km2も減少して居り、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した第5次評価報告書でも最悪2050年頃の夏季(9月)には「北極海の海氷がなくなる」という予測が立てられている。海氷の減少により、太陽熱の反射が弱まる為、北極の温暖化も含め、地球全体の温暖化をさらに加速化させることに繋がる。北極の氷が完全に消失すれば、地球全体の温暖化は2倍のスピードで悪化すると言う報告もあり壊滅的な被害をもたらす事が予想される。

温暖化が地球の時限爆弾になると言われているのが南極とグリーンランドの氷床である。地球上の氷の90%が南極大陸に、9%がグリーンランドにあり、南極の氷の厚さは最も厚い所で4,500m、平均2,450m、グリーンランドは平均1,500mである。陸上に降り積もった雪が長年に亙って蓄積され、やがて氷になり、流れ始めた「氷河」は、北極や南極その他、ヒマラヤ、ヨーロッパアルプス、南米パタゴニアなど、世界中に分布している。
グリーンランドと南極大陸を覆う氷は規模が大きい為、特別に「氷床」と呼ばれている。(氷床以外の氷河は山岳域に多く見られるため「山岳氷河」と呼ばれる)。
差し迫って問題視されているのは北極圏の温暖化によるデンマーク領・グリーンランドの氷床と北半球の山岳氷河の溶解である。
グリーンランド中心部分は日本の6倍近い面積に厚さ1,500mの氷が乗っかって居り、中心部は余りの重さに300mの深さまで沈み込んでいるが、デンマーク政府はこの氷床が端から熔けて海に流れ込んでおり、その量は年間2,500億トン、地球の海水面を0.07mm押し上げていると伝えて居り、地球全体の気温上昇でその融解が更に加速されるだろうとの懸念を表明している。グリーンランドの氷が全て溶ければ地球の海水面は7m上昇すると試算されている。
海氷と異なり熔け出た水は塩分を含んでいないので海水の塩分濃度の低下が、生態系はもとより海流変化が地球環境に与える影響は計り知れないものがある。既にサイエンス誌にはデンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームが発表した論文で、熱帯の温かい海水を北に、北部の冷たい海水を南に送ることで北半球の気候に大きな影響を及ぼす「大西洋南北熱塩循環(AMOC)」が、早ければ2025年にも崩壊してしまう可能性が示唆されている。事実近年では、グリーンランドの氷河崩壊などによる淡水流入によって海水の密度や塩分濃度が変動し、AMOCが弱まっていることが指摘されて居り、「大西洋の海洋循環崩壊」という恐ろしい現実が迫りつつあることを示している。
オーロラ観光で有名な世界最北の街、ノルウェー・スピッツベルゲン島は、過去50年で平均気温が4度上昇し人間が定住する場所として世界で最も温暖化が進んでいる場所の一つとして有名になった。島を覆っていた永久凍土が溶け埋葬されていた遺体が地表に現れる為、葬儀や埋葬は本土で行うよう政府が便宜を図っている。又海氷の減少で北極熊が島に住み着くようになり、外出にはライフル携行が必須となっている。

ヒマラヤ山脈は北極、南極に次ぐ「第3の極地」として、地球全体を冷やす大きな役割を担っているが、ヒマラヤ氷河の溶解が急速に進んで居り、地球温暖化と大洪水が懸念されている。現在のペースで温暖化が進むと氷河は最大80%消失すると言う予測もあり、首都カトマンズを含むネパール全土、下流のインド、パキスタン、中国に途方もない水量の奔出が懸念されるのである。
昨年6月から10月迄パキスタン全土は大洪水に見舞われた。8月の降水量は例年より500~780%多く、加えて3~4月の異常高温でヒマラヤ山脈やカラコルム山脈の氷河が溶けだし平野部を襲った為、日本の本州を上回る面積が水浸しとなった上、天然の冷凍庫が機能せず低地は異常高温となった。世界最多と言われるパキスタンの氷河、最近の調査でこれがどんどん溶けてヒマラヤ地方だけで3,000以上の湖が生まれ居り、この内30以上が極めて脆弱と警鐘を鳴らしている。
『Nature』に掲載された研究結果によると、2000年から04年にかけて年間2,270億トンの氷河が失われたことが判明した。ところが15~19年には、温暖化や降水量の増加によって溶ける量が年間2,980億トンまで増えていたことも明らかになった。標高の低い山地の一部では2050年までに氷河が完全に失われると言う分析結果も示されている。
すべてを合わせると、溶けて河川や海に注ぎ込んだ水量は、過去20年間に観測された海面上昇分の約5分の1に相当する規模だと言われている。

南極の氷は途方も無く厚い。この氷は、何百万年もかけて降り積もった雪が解けることなく圧縮されてできたものだが、その重さで南極大陸を押し下げている為、南極は大陸といっても、その大部分は海面下まで沈下している。
もし氷が解けてなくなると、南極の地盤は数百メートル隆起し、その影響で地球全体の海水面がおよそ60メートルも上昇するという。当然、人口が集中している都市の多くが海の近くに位置しているため水没、日本では東京23区が高層ビル以外水没、ニューヨークやロンドン、ベネチア、上海などが水面下となる。オランダは国土のほとんど全部、オーストラリアは国民の80パーセントが暮らしている地域を失うと言う悲惨なことになるらしい。
かつては、南極の氷が減ることはないと考えられていた。しかし、2002年には南極大陸の南米側にあるラーセン棚氷が崩落している。これは東京都の1.5倍にあたる面積の氷が7年ほどかけて崩壊したもので、地球温暖化の影響ではないかと懸念されて居り、日本を含め大規模な調査が行われている。
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