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弁理士法人サトー 所長のブログ

弁理士法人サトーから法改正や事務所の最新情報を提供します。

知的財産制度の未来

2015-09-11 13:23:28 | ちょっとひとやすみ
夏休みは、我が家の子ども達も苦手な読書感想文に苦しんでいました。
それを見ていたからというわけではありませんが、最近読んだ本の中で興味深い本の感想を。
知的財産制度の未来を考えさせられました。

知財関係者の著書ということで、業界の方にはちょっとした話題だった「久慈直登」さんの「喧嘩の作法」。お気づきの方もあるとは思いますが、東海道新幹線の車内誌「Wedge」で連載されていた著作の単行本です。「久慈」さんは、本田技研の知財部長を務められた方です。

ホンダといえばF1なんかが有名ですが、著書の中でも紹介されているように「知財」に関しては強気な会社ということで有名です。広く知られているのは途上国での「スーパーカブ」の意匠権侵害訴訟があります。著書の中では、「知財」はビジネスで利用しうる攻撃用の武器と述べられており、防御のための知財戦略が主である日本の多くの企業にとって感じるところは多いのではないかと思います。

さて、その著書の中でも最終盤に紹介されている知財の「南北問題」は、大変興味深いものでした。
「南北問題」についておおまかに紹介すると、「途上国(南)」と「先進国(北)」との間のジレンマといえるでしょう。知財に限らず、国際的な問題の多くはこの「南北問題」につながります。最近話題の「TPP(環太平洋パートナーシップ)」も、日本ではコメや自動車といった核心的な話題が中心ですが、それ以上に「南北問題」が摩擦を生じさせています。このTPPでも、知財が摩擦の一因になっています。

本題に行きましょう。
知財、特に特許は、特許権者を出願から20年という長期にわたって強固に保護します。この強固な保護には、差止請求権、損害賠償請求権が含まれています。この強固な保護を背景に、発明者(出願人)は、多大な研究資金を投入して、新たな発明を行なっています。つまり、将来的に強固な保護が約束されるからこそ、投資した資金を回収する機会が確保され、発明者(出願人)は安心して研究資金を投入することができるのです。
先進国(北)におけるこの知財の力を背景とした開発サイクルは、既存の発明を超える新たな発明を促すこととなり、累積進歩にともなう産業の発達に大きく貢献します。これは、日本における特許法が、1条で「産業の発達に寄与」することを目的としているように、知財制度が技術的な進歩を進める動力源になっていることを意味します。

ところが、途上国(南)は、技術的進歩を進める動力源となる研究開発の余力がありません。そうなると、途上国に存在する知財の多くは、先進国(北)が生み出したものであり、その途上国内で自由に実施することすらままなりません。途上国では、知財が産業の発達の阻害するおそれすらあります。
特に、医薬は、人の命に直結するにもかかわらず、あらゆる産業分野の中でも最も強力と思われる知財によって保護されています。インフラや環境といった知財も、多くが先進国で生み出されたものです。そのため、途上国内における国民の安全・健康のために、水や空気の浄化など生活環境の改善を図ろうとしても、先進国の知財によって実施が阻まれたり、高いライセンス料を要求されることになります。

そこで、知財の「南北問題」において、途上国(南)は、当該国に存在する知財について国家の裁定による強制的な実施権制度など、知財の効力を有名無実化する制度の構築を狙っています。

この権利による利益と、権利があるがための不利益とのアンバランスの解消は、南北国家の利害が正面から対立するだけに非常に大きな摩擦を生じさせています。

しかし、医薬、インフラ、環境といった産業分野は、まさに人の命に直結する問題です。著者の久慈さんは、ホンダのCVCC技術の活用を例に、この南北問題を解決するためにも知財関係者は知恵を出し合うことが必要と述べられています。

知財に携わる者として、とても共感する点でした。
どうも、日本では、知財(特に特許)は、一攫千金の金儲けの手段のように扱われることが多いのですが、多くの特許に基づく技術は地道な研究によってコツコツと積み上げられたものばかりです。そして、その知財によって、みんながハッピーになるはずですが、発明者のハッピーだけがクローズアップされがちです。
そろそろ、特許法の1条には、「産業の発達」だけでなく、「地球環境の維持」や「人類の生存」といったマクロな視点が必要になってきているのかもしれない、などと大きなことを考えさせられた読書となりました。

ところで、日本をはじめとする特許などの知財制度は、産業革命とともに発展したといえるでしょう。そのため、特許法の1条に「産業の発達に寄与」とありますが、実質的には「産業」=「製造業などの第2次産業」といえます。しかし、すでに産業構造はよりソフト化が進み、第3次産業の比重が高まっています。にもかかわらず、特許制度は、第2次産業の保護に重点がおかれています。商標制度では、サービスマークという第3次産業保護が図られていますが、多くは商品という第2次産業の産物を保護しています。
このように、知財制度として、第2次産業の保護を重視し続けていくと、従来の知財制度自体が「古い」といわれ、活用されない時代がやってくるかもしれません。

時代に応じた産業の保護を図るために、知財制度も新陳代謝が必要な時期になっているのかもしれません。


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目指す弁理士像

2015-09-01 16:46:31 | ちょっとひとやすみ
今日、外国の事務所から弁理士の訪問を受けました。
もしかしたら、このブログもご覧いただいているかもしれません。

この弁理士の先生(個人情報ですので「Y先生」とします。)は、日本人で日本の弁理士でありながら、ドイツの特許事務所に勤務されています。今回、弊所のウェブサイトを見て興味をもったとのことで、事務所を訪問していただきました。
お話をしてみると、色々と共感すること、勉強になることが多々あり、非常に刺激的でした。事務所のビジネスに参考になることだけでなく、現在進めている方針に自信が持てました。

さて、このように、日本の弁理士資格を持ちながら海外で活躍する弁理士は多くいらっしゃいます。しかし、その多くは、日本の事務所や企業に勤務しながら、駐在という形で外国の事務所や事業所に籍を置かれている方がほとんどです。
Y先生のように、勤務先そのものを外国の法律事務所(特許事務所)とされている方は少数派であると思います。
今回、Y先生とお話をしてみて、弁理士としてのキャリアプランが重要だと感じました。
そこで、説教じみていますが、弁理士像について感じることでブログを書いてみます。

僕は、常々、事務所で新たに合格した弁理士に次の問を投げかけます。「どのような弁理士になりたいか?」ということです。
合格して最高に舞い上がっているときだからこそ、将来は冷静に見つめて欲しいと思うからです。
正直なところ僕自身は、弁理士に合格したとき、自分の求める弁理士像を意識をしていませんでした。しかし、弁理士として、どこに自分の活躍する主たるフィールドを置くかによって、キャリアプランが異なります。
漠然とした弁理士像では、日本中ですでに10000人を超える弁理士に埋もれてしまい、大勢の弁理士の中の一人にすぎなくなってしまいます。そうなると、資格があってもなくても変わらないという状況にも陥ってしまいます。
自分の求める弁理士として明確なビジョンを持って、それを達成するために何をすべきかということを常に意識することが大切です。そのような理由から、目指す弁理士像を意識してもらい、その後のキャリアプランに役立てて欲しいと思っています。
弁理士というプロフェッショナルな世界では、「この話題なら○○さんに任せよう。」と思われるくらいでないと食っていけません。

弁理士像を超えて僕が目指す特許事務所像は、広く浅い弁理士の集合体よりも、鋭く狭く非常に深い弁理士の集合体です。自分でできることは限られていますので、狭いけど深い能力をいつでも貸してもらえる関係を事務所の弁理士と構築できたら最高です。

ちなみに、僕の場合、合格した当時に想定した弁理士像とは全く違う現実になっています。
環境に臨機応変に対応する弁理士も、目指すべき弁理士像の一つなのかもしれません。


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続・東京オリンピックのロゴ

2015-07-31 13:59:49 | ちょっとひとやすみ
昨日、東京オリンピックのロゴでブログを書いたところ、目論み通り多くのアクセスを獲得しました!

昨日のブログは、出張に出発する前の15分で書いていたので、深掘りができず消化不良感が残りました。
そこで、「続編」として、もう1回、アクセスの獲得を目論みます。

まず整理しておきたいこと。
●商標の視点
「商標」は、特定の商品やサービスに同一又は類似する登録商標がなければ登録されます。極端な話をすれば、同一の商標であっても、適用するサービスや商品が違っていれば登録になる可能性があります。
今回のベルギーの劇場のロゴ(以下、「ベルギーロゴ」)は、サービスや商品でオリンピックとの共通性が低いでしょうから、国際的にも登録される可能性が高いでしょう。そもそも、ベルギーロゴは商標登録されていませんので、今回のオリンピックのロゴ(以下、「東京ロゴ」)が商標的な観点で問題になることは少ないでしょう。
●著作物の視点
「著作物」は、登録等が必要とされず、創作された時点で「著作権」が発生します。極めて大雑把にいえば、「著作権」は複製を禁止する権利と捉えられます。ですから、例えAとBという著作物が類似していても、これらが独自に創作(=複製ではない)されたものであれば「著作権」を侵害するような事態は生じません。

それでは、今回のケースについての分析です。
商標としての問題は、上にも述べたようにベルギーロゴが登録商標でないことから生じません。ベルギーロゴに商標権がないので、商標権を侵害することもありません。

それでは、「著作権」はどうなるのか。
これも上に述べたように、東京ロゴが独自に創作されたものであれば、著作権が問題になることもありません。
しかし、時間軸で捉えると、ベルギーロゴは、東京ロゴよりも前に使用されていたようです。そうなると、東京ロゴは、時間的にベルギーロゴの後ですから、デザイナーがベルギーロゴを知っていたか否かが問題です。もちろん、主観的に「知っていたか否か」といわれたら、東京ロゴのデザイナーは「知らなかった」というでしょう。

では、客観的に東京ロゴとベルギーロゴとを比較してみましょう。
ベルギーロゴは、中央の長方形の棒状の図形に対して、左上と右上に、「正方形から扇形を除いた形状の図形(メンドクサイので「ブーメラン形」としましょう。)が表されています。これで、ベルギーの劇場名を示す「Theatre De Liege」の頭文字の「T」と「L」とを表現しているように思います。つまり、「T」と「L」とをモチーフ(動機)にしたデザインといえるでしょう。
次に、東京ロゴは、中央の長方形の棒状の図形に対して、同じく左上と右下に「ブーメラン形」の図形が表されている点で共通しています。ただ、東京ロゴは、右上に、日本であることを象徴(日の丸)するような「赤い丸」が追加されています。これで、東京ロゴは、中央の長方形と、左上の「ブーメラン形」、右上の「赤丸」で「Tokyo」の「T」を表しているのでしょう。
そうなると、右下の「ブーメラン形」は何なのでしょうね。
東京ロゴをカラーで見ると、左上のブーメラン形は「金色」、右下のブーメラン形は「銀色」であることから、「金メダル」と「銀メダル」を暗示したのでしょうか。
でも、「Tokyo」に右下のブーメラン形が必要となるモチーフがありません。じゃあ、銀色の右下のブーメラン形は何を意味しているのかな?
この「Tokyo」と直接関係のない、右下のブーメラン形があるばかりに、東京ロゴのデザイナーはベルギーロゴにインスパイアされた、との印象を客観的に与える結果となってしまっているようです。

一方、東京ロゴにもし右下の「ブーメラン形」がなかったら、今回のような問題は起こらなかったかもしれません。中央の棒と、左上のブーメラン形と、右上の赤丸で「日本、東京」を表現している主張すれば、「そうかもね。」と理解されそうです。でも、モチーフを導き出すのが難しい右下の「ブーメラン形」を追加してしまったばっかりに、ベルギーロゴとの共通点が多くなってしまい、客観的な説明の説得力を失ったように思います。
デザイナーさんは、なんで右下のブーメラン形を追加したのでしょうね。
「金」と「銀」にこだわったのかな。じゃあ「銅」はどこに行った?



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東京オリンピックのロゴ

2015-07-30 13:32:03 | ちょっとひとやすみ
気づいたら、7月も終わりが迫ってきました。
最近、名古屋は毎日暑い日が続いています。
ここ10年くらい夜寝るときは冷房を使っていませんので、毎朝汗だくになって目が覚めます。昼間の暑さは我慢するとして、夜は涼しくなって欲しいものです。

さて、ニュースでは、2020年の東京オリンピックに向けて作成されたエンブレムのロゴがベルギーの劇場のロゴとそっくりということが話題となっています。
JOCや政府の関係者の話としては、「商標的には問題ない。」ということのようです。
確かに、指定商品・役務を別にして、商標のロゴとして「類似」か「非類似」かと問われたら、「非類似」となる可能性が高いかもしれません。
しかし、ロゴとしての共通性が非常に高いですよね。商標的な観点からは法的な問題が無いにしても、クリエイターの観点からは看過できないレベルではないでしょうか。
ベルギーの劇場のロゴを作成したデザイナーからすれば、気持ちいいものではないでしょう。

そもそも、どうしてここまで似たロゴがあることに気づかなかったのか。このロゴを選定するに当たり、専門家(弁理士を含む)の意見聴取や調査は行なわなかったのでしょうか。
先に大きな話題となった新国立競技場の話題も含めて、日本の主催組織(JOC?)に知的財産に関する認識の甘さが感じられます。
組織委員会は代理店に丸投げしているんじゃないかな?

エンブレムを貼りたいところですが著作権が心配なのでリンクをしておきます。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150729-00000109-jijp-spo.view-000
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特許の怪物(パテントトロール)

2015-07-07 13:41:43 | ちょっとひとやすみ
世の中、特にアメリカではずいぶん前から「パテントトロール」が問題になっています。日本ではあまり話題にならないのですが、「日本企業がアメリカでパテントトロールの犠牲になった」、なんて話は聞いたことがあるのではないでしょうか。

このパテントトロールの「トロール」は、「怪物(troll)」を意味しています。特許の世界の「怪物」なんですね。
ちなみに、僕は、最初「トロール漁船」の「トロール」の意味かと思っていました。特許を「トロール網」で文字通り一網打尽にするといった意味なのかと思っていたのですが、こちらは「trawler」ですね。

さて、本題に戻して。
なぜ、この「パテントトロール」が日本では大きな問題になっていないかという点に触れてみたいと思います。
「パテントトロール」は、市場で大きな規模を形成している商品に関連する特許を入手(あくまで入手です。自分で出願することは「まれ」です。)して、この特許で権利行使をすることによって利益を上げる仕組みです。例えばスマフォなんかは世界中で巨大な市場になっています。このスマフォに組み込まれているちっちゃな特許を権利者から入手(購入)して、この権利を使って巨大市場のメーカや通信キャリアなどに特許権を行使(脅し)しまくります。巨大な市場を形成している以上、その特許をやりすごすことは難しく、うまくいくと和解や訴訟で億単位のお金を得ることができます。
パテントトロール会社は、この埋もれている特許を探しだし、日夜権利行使に励んでいるわけです。
このように、パテントトロールは、トロール会社が自ら実施をすることなく、権利行使を吹っかけることに目的があります。

ところで、日本の場合。
日本の特許法では、特許権者に認められる権利として、大きく特許発明の実施をやめさせる「差止請求権」と、特許発明の実施によって特許権者に生じた損害を賠償させる「損害賠償請求権」があります。簡単に言えば、日本の特許法における「誠意をみせろ!」の中には、「やめろ」と「金払え」が含まれています。

この「やめろ(差止請求権)」には、侵害者の実施によって生じる特許権者の被害の拡大をくい止める、ことが期待されています。
例えば特許権者が特許発明を利用してAという製品を作って販売しているとき、侵害者が特許発明を侵害したA'という製品を作って販売すると、侵害者の侵害品A'が売れる分だけ特許権者の正規品Aの売上が減少します。ですから、特許権者が「やめろ」と差止請求権を行使する理由があります。
ところが、トロール会社は、特許権を持っていても正規品Aに相当する商品を製造しているわけではありませんので、「やめろ」というのは単なる嫌がらせです。もちろん、侵害者であればやめざるをえないのですが、トロール会社としては1円にもなりません。

そこで、トロール会社は、「金払え!」と損害賠償請求権を行使します。ところが、日本の場合、「金払え」の根拠となる損害賠償の金額は、侵害者の侵害行為によって特許権者が受けた損害を上限としています。つまり、上の例でいくと、侵害者が侵害品A'を売ることで特許権者の正規品Aが売れず、特許権者に10億円の損害があればその損害(10億円)を賠償しろ、ということになります。
でも、トロール会社は、特許発明を利用した正規品Aを製造販売していないので、上記の例の損害がほとんど発生しません。そのため、日本の特許法では、トロール会社の取り分は、ライセンス料程度に抑えられてしまいます。さらに、日本では、懲罰的な損害賠償、つまりアメリカの3倍賠償のような制度もないので、裁判を起こしてまで「金払え!」というウマミがありません。
このような理由があって、日本ではトロール会社にウマミがなく、パテントトロールがあまり問題にならないのが実情と思われます。まあ、日本の特許の市場は、トロール会社にとって魅力が無いということでしょう。

これだけなら、「日本は平和でよかったね。」なのですが、日系の会社は日本以外で標的にされてしまいます。そうなると、この理屈に慣れていない日本の企業はアメリカなどでも同じような理屈が通ると思い、日本的な対応をとってしまい、大きな損を出すことにもつながります。
また、日本では上記のような懲罰的な損害賠償が認められていません。そして、慣習上なのか、裁判所は、損害賠償額を低めに認める傾向にあります。そのため、本当に特許権侵害で困っている特許権者も、特許権の侵害で被った損害を十分に回収できないのも実情です。
こうなると、海外のユーザ(日本も?)からしてみると、「日本では特許をとっても元が取れない」とか、「侵害した方が得」という発想になりかねません。

そんな背景から、損害賠償額について懲罰的な金額を認めようとする意見もあるのですが、パテントトロールの存在もあって難しいジレンマに陥っています。
特許権の有効活用と権利濫用防止という観点から、既存の枠に囚われない新しい制度の構築が必要なのかもしれません。


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