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特許の日本とばし!

2019-11-25 16:01:26 | 知財関連情報(特許・実用新案)

突然のブログ掲載。

ずっと気になっていたことについて、本日(2019年11月25日)の日経新聞に関連記事が掲載されていましたので久しぶりにアップしてみます。
記事の概略は、次のようなものです。
・欧米や中国で特許を出願しても、日本では出願しないケースが増えている。
・欧米等で出願した発明について日本で出願しないケースは2008年では4割前後だったが、2015年には6割程度に上昇している。

そもそも特許を出願する目的は何でしょうか?
大きく考えると、重複しているかもしれませんが、次のようになるのではないでしょうか。
・他人による技術の模倣、類似品の流通を防止
・競争相手の市場参入を制限
・市場を有利に独占
・自社の商品価値の最大化
・開発投資の回収

この目的を達成するためには、どこで特許を取ることが望ましいでしょうか?
こちらも大きく分けると、次の2ヶ所に集約されると思います。
・大市場
・生産地

現在、多くの商品の流通は、グローバル化しています。
つまり労働力が豊富で労働コストの低い地域で大規模に商品を生産し、消費意欲の高い経済が活発な地域で販売するというのが、主流のビジネスモデルです。
日本の企業も多くは、このビジネスモデルを使って、アジア各国で商品を生産して、世界各国に販売しています。

この場合、特許による保護が必要なのは、生産拠点と市場です。
生産拠点となる国や地域で特許を取得することにより、実効力はさておき、現地での模倣品の生産及び流通を阻止することができます。国や地域によっては、輸出を止めることができますので、生産国からの侵害品の流出も阻止できます。
そして、市場となる国や地域で特許を取得することにより、当該国や地域への侵害品の輸入、流通を阻止することができます。
このような生産地及び市場地での特許の取得により、効果的に自社の技術や商品を保護することができます。

さて、ここで冒頭に戻って、日本はどうかということです。
日本は、既に生産拠点としての能力がほとんどありません。
大規模な生産力は、お隣の中国をはじめとして労働コストが低い東南アジアや南アジアに移ってしまっています。自動車などの一部の商品は現在でも日本での生産が継続されていますが、「世界の工場」としての機能は失われています。
そして、市場力。
聞き飽きた少子高齢化、そして長期化する経済の低空飛行によって、日本の市場としての価値は世界中でも決して高くはありません。はっきりいえば縮小傾向にあり、今後の成長の見込みは小さいのが現実です。これまたお隣の中国の市場としての力、消費大国のアメリカの力とは比較できないほど縮小しています。
このように、日本は、商品の生産拠点としての魅力、商品を消費する市場としての魅力のいずれも高くありません。
そうなると、当然ながら、日本は上記の「大市場」又は「生産地」のいずれにも該当せず、特許を出願する国としての魅力も乏しくなります。結果として、日本以外でなされた発明が日本に特許出願される可能性は低くなるのが当然です。

さらに、日本の特許制度は、制度的な面については世界にも誇れる程に整備されていますが、実際に使ってみると決して使い勝手がよいものではありません。
訴訟の手続も煩雑ですし、いわゆる3倍賠償のような懲罰的な賠償規定もありません。
特許に限ったことではありませんが、日本特有のまさに「仏作って魂入れず」的な感じです。
こうなると、商品の市場としての魅力の低下だけでなく、特許を取得する魅力も低下し、現状のような「日本とばし」につながっていると考えられます。

そろそろ産業革命以来の第2次産業を保護するために過ぎない既存の特許制度から、新しい時代のイノベーションを保護する斬新な枠組みを創作すべき時代が到来しているように思います。

本音をいえば、今のように技術革新がとても速い時代、特許出願と同時に権利が設定されるくらいの制度設計が必要だと思うのです。
技術によっては数ヶ月で新しい技術に置き換わることなんて珍しくないわけですから。

技術力、発想力、改善力など、世界の各国に対して日本が優位性を保っている分野はまだまだたくさんありますが、出願件数から見た特許力は既にピークを過ぎてしまっているでしょう。
だからこそ、世界が驚愕するような新制度を提案し、知的財産の保護の新しい枠組みを日本主導で作って行けたらいいと思うのは夢物語でしょうか。

コメント
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