弁理士法人サトー 所長のブログ

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標準化の難しいところ

2015-06-29 13:18:28 | その他の情報
これまで新幹線の話に絡めたTBT協定や洗濯機の話で、「標準化は重要です!」という解説ばかりをしてきました。しかし、「標準化」を進めたばかりにビジネスで失敗した事例もあるので紹介しておきます。

「標準化」というのは、身近には、メートルやキログラムといった度量衡の単位にはじまり、コンセントの形状など、みなさんが安心して生活をするための共通のルールだといえます。
「技術標準」も、工業的な製品をできる範囲で共通化して、コスト削減や部品の共通化を目指すルールと考えても差支え有りません。
そしてこの「技術標準」に含まれるルールにも、様々な技術が含まれており、ときには特許で保護することも必要となってきますし、現実には「技術標準」に採択される技術に対して知的財産をいかに絡めるかが重要な戦略にもなっています。
反面、標準化をするためには、みなさんが安心して使えるように技術の「オープン」が求められるわけですから、知的財産の保護と標準化との間にはギリギリの戦略を構築することが求められます。

ところが、技術標準を目指すあまりに、「オープン」とすべきところと、「クローズ」とすべきところを誤ってしまったケースも当然存在します。例として、DVDやデジタルテレビが挙げられます。
DVDもデジタルテレビも、日本の家電機器・音響メーカなどが主体となって国際標準を策定していきました。そして、それら日本メーカによる技術を中心に国際標準が構築されました。しかし、この技術に対する知的財産の側面からの保護が不十分だったのです。

技術標準は、繰り返すように「標準化」によって部品や制御に関するルールを統一し、コスト削減を目指すものです。そして「標準化」によって、市場には「標準化製品」が迅速かつ幅広く出回ることとなります。これを上手に利用すれば、「標準化」された製品の市場競争力が高められ、「標準化」された自社製品の売り上げ増大に結び付く、というのが標準化によって利益を上げる青写真です。

DVDやデジタルテレビでは、確かに「標準化」によって日本のメーカの技術が世界をリードし、技術的には優位に立つことができました。しかし、これらの分野で「標準化」によって大きな利益を上げたメーカはありません。なぜなら、「標準化」によって部品や制御に関するルールが統一された結果、より安価に部品を製造できるメーカに注文が集中したのです。つまり、台湾や韓国といった国々のメーカの安価な部品が市場に溢れたために、日本のメーカの部品は駆逐されてしまいました。もちろん、性能や耐久性などは日本のメーカの部品が優れていたのですが、より安価な製品が好まれ大規模な売上が見込まれる途上国の市場で敗れてしまいました。
これは、日本のメーカが国内のメーカ間の差別化を視野において高度な技術を中心に知財の保護を進め、「標準化」の根幹となる部分の知財保護が疎かになっていたのが原因です。
結果的には、「標準化」を進めるあまりに技術の手の内を公開してしまったために、これを利用する海外のメーカがあっという間に世界の市場に「標準品」を供給することとなりました。

例えば、南米では、デジタル放送の仕組みとして日本と同一のシステムが採用されているのですが、使用されている受像器つまりテレビのシェアは、韓国のメーカが大部分を占めているのです。つまり、「標準化」では日本が目的を達成したのですが、製品を売って利益を上げる部分では日本は目的を達成することができませんでした。

やみくもに標準化を進めたわけではないのですが、国内に複数のメーカが乱立して互いに競争している日本の場合、自社製品にとって有利な標準化を目指すことで他社を意識するあまり、大切なところを見落としてしまったのかもしれません。

繰り返すようですが「標準化」は、製品の汎用化にもつながります。戦略を誤ると、「標準化」が「敵に塩を送る」ことにもなりかねません。適切に知財を保護することで、この「標準化」を利益につなげることができます。
「標準化」の戦略は、どこを「標準化」するか、どこを自社の強みとして固有の技術として保護するか、「標準化」した技術と自社の強みとなる技術とのつながりをどこで確保するか、など複雑です。
「標準化」と「知財戦略」とは、切っても切れない関係にあるのです。


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プロダクトバイプロセスクレームの最高裁判決を受けた特許庁の審査基準について

2015-06-12 14:26:39 | 知財関連情報(特許・実用新案)
もう少しプロダクトバイプロセスクレーム(PBP)で引っ張ります。

先に考察した平成24年(受)2658、それからこれに関連する平成24年(受)1204では、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合」の特許要件としての記載不備の有無、技術的範囲の確定の手法について判示されていました。

これを受けて、特許庁では、審査基準の見直しを進めるということです。
とはいえ、今から着手して、7月中には新たな審査基準を示す、という流れのようです。
○参考までに
http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/product_process_C.htm

確かに、先の最高裁判決では、「真性」か「不真性」によって、特許請求の範囲における「PBP」の取り扱いに差が生じる、と示しているわけですから、特許庁としてもこれにしたがった審査を行なうことが求められるでしょう。

特許庁のウェブサイトによると、当面は、現状のプラクティスにしたがって審査を続けるようです。
そうはいうものの、噂では、すでに「PBP」については、最高裁の判決が出る前から特36条6項違反(クレームが不明確)の拒絶理由が普通に通知されているようですよ。
あくまでも「噂」ですが。

「不真性」で出願した発明に心当たりのある方は、可能であれば「PBP」でないクレームへの補正を検討された方がよいかもしれません。
すでに特許となった「不真性」の発明も、色々と準備が必要かもしれませんね。

ご心配な点などありましたら、サトー国際特許事務所へご相談ください。
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プロダクトバイプロセスクレーム判決についての考察

2015-06-08 10:41:35 | 知財関連情報(特許・実用新案)
事件:平成24年(受)2658 平成27年6月5日最高裁第二小法廷判決

6月5日に出されたプロダクトバイプロセス(PBP)クレームに関する最高裁の判決は、やはり知財関係者の興味が高かったようで金曜日、土曜日と当ブログへのアクセスも多くありました。

その後、判決文を読み、当初の理解とは違った結論が導かれていましたので、まとめておきたいと思います。詳しい検証は、これから様々な方々が行われると思いますので、まずは判決が示す内容の要点について紹介しておきます。
なお、僕のFacebookをご覧になったみなさんには、重複する部分もありますので予めお許しください。

今回の判決は、知財高裁の大合議で出された判決に対する上告審です。これまで大合議で出された判決の上告が最高裁で受理されたことがなかったため、弁論が行われた際には、大合議の判決が見直されるということでちょっとした話題となりました。この点は、先日のブログでお知らせした通りです。
その知財高裁の判決では、製法Zの製造方法で発明薬品Xを特定するPBPの場合、発明薬品Xと同一の物質X’が製法Zと異なる製法Z’で製造されている場合、製法Zの製造方法で特定した発明薬品Xにかかる特許権は、製法Z’で製造したX’には及ばないとするものでした。
つまり、知財高裁の判決は、PBPクレームで特定された発明は、その発明を特定する製造方法にのみ限定的に及ぶとする解釈でした。

この知財高裁の判断が最高裁で覆されるということから、マスコミをはじめとする知財関係者(僕も含む)の事前の考えは、PBPクレームで特定された発明は、その発明を特定する製造方法だけに限らず物質が同一であれば広く認められるのではないか、というものでした。

しかし、最高裁が示した判断は、この考えとは異なるものでした。

バイオ関連や遺伝子発明など最先端の分野では、発明の種類によっては、発明の対象となる物を構造で特定することが極めて困難であったり、できたとしても多くの労力や時間を割かなければならないことがあります。
そこで、最高裁は、このPBPクレームの対象となっている発明について、発明の特定がPBPによることが合理的なものを「真性」とし、それ以外を「不真性」と区分し、「真性」についてはPBPクレームを認めるべきだとしています。
「真性」、「不真性」については、判決の理由の本文ではなく、千葉勝美裁判官の補足意見の中で用いられているのですが、便宜上、上記のような使い分けでよいと思います。

このPBPが避けられない「真性」の発明の場合、PBPで記載しても発明が不明確になるということもなく、特36条6項の記載要件を満たします。そのため、審査上の不都合もなく、権利行使の場面でも第三者に不利益も与えることもないので、PBPクレームで特定された発明と物として同一の物であれば、そのクレームの製造方法以外で製造された物であっても特許権が及ぶケースもあるとしています。
判決理由の中では、「『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特定により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。」と判示しています。
つまり、最高裁では、出願時の実情においてPBPによる発明の特定が妥当であれば(真性)、これを認めるべきであり、その権利はPBPクレームの製造方法以外の物についても及ぶ、と考えています。その一方、明示されていませんが、逆の解釈によって、PBPによる発明の特定が妥当でなければ(不真性)、そのPBPクレームは特36条6項の要件を満たさない不明確な発明として、拒絶・無効理由になると考えているようです。

このような基準に照らし合わせると、知財高裁における判決では、このPBPによる発明の特定が出願時において「真性」であったか「不真性」であったかの検討が不十分です。すなわち、知財高裁では、「一般論としてPBPクレームはその製造方法で製造された物に限定して及ぶ」としていることから、この「真性」又は「不真性」についての検証が不十分です。そのため、最高裁は、この知財高裁の判断に対して、「判決に影響を及ぼす明らかな法令違反がある。」として差し戻しました。

これにより、知財高裁は、本事件のPBPが「真性」であるか、「不真性」であるかを判断することになります。そして、「真性」であれば、クレームの記載とは異なる製法で製造された物(被告製品)であっても権利が及ぶことになるでしょうし、「不真性」であればクレームに記載された発明が不明確であるとして拒絶・無効理由を含むという結論になるでしょう。
ざっくりと、知財高裁判決と最高裁判決とを図示するとこんな感じでしょうか。


以上のように、今回の最高裁の判決は、PBPクレームが「真性」であるか「不真性」であるかを侵害の存否を決める基準としています。

●実務への影響
今回の最高裁の判決を考慮すると、今後の審査実務では、特許庁はPBPクレームであれば特36条6項違反の拒絶理由を通知することになるでしょう。この場合、「真性」であるか「不真性」であるかを審査官が判断することは困難ですので、拒絶理由を通知して出願人に「真性」であることの妥当性の説明を求めるものと思われます。つまり、PBPクレームを用いる出願人は、少なくとも審査の段階で「真性」であることを立証する責任を負うことになるでしょう。
また、審査ではめでたく「真性」と認められ、特許査定となったとしても権利行使の場面ではこの「真性」であるか否かが争われることになると思われます。侵害訴訟の場面では、被告側が「真性」であることをひっくり返す理由を説明できれば、PBPクレームで成立した特許は「特36条」違反の無効理由を有することとなり、同104条の3の抗弁が成立することになるのはないでしょうか。

最高裁が知財高裁大合議の判決に対して上告を受理したことから、PBPについて広く認める「プロパテント」的な判決が出るのではと予測されていましたが、実際はPBPを極めて限定的に認めるという判決でした。予測に反して、PBPに対して厳しい判決といえるでしょう。

いつも判決を読むのは苦痛なのですが、今回の判決はとてもわかりやすく、読み物としても大変おもしろく感じました。PDFで約24ページの判決ですが、判決理由は6ページほどです。残りは、裁判官による補足意見です。この補足意見が、また示唆に富んでおり、興味深い内容です。

以上、やさしく簡単に説明しようと思いましたが、かえってわかりにくくなってしまったかもしれません。
もし理解が難しい点などありましたら、お問い合わせください。
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プロダクトバイプロセスクレーム特許の技術的範囲

2015-06-05 10:44:40 | 知財関連情報(特許・実用新案)
今回は、マジメな話。

特許請求の範囲は、「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と特36条で定められています。
ここで、ある発明を製造方法でしか特定できない場合、この製造方法を請求の範囲に記載して、その末尾を発明の対象となる「物」の名称とすることで、製造方法を用いて発明の対象物を特定する「プロダクトバイプロセスクレーム」の記載が、化学の分野において利用されています。
例えば、「物質Aと物質Bとを溶媒Cに溶解し、触媒Dを用いて大気圧下で300℃~400℃で5時間加熱した後、薬品Eを用いて触媒Dを除去したものを液体窒素で凍結し、20Pa以下の減圧下で溶媒Cを除去する製法Zにより得られる発明薬品X。」といった請求の範囲を記載するものです。

従来、このプロダクトバイプロセスクレームについては、特許権がどこまで及ぶのか議論となっていました。
つまり、上記の例の場合、製法Zで発明薬品Xを特定しているのですが、もし他人が製法Z’で薬品Xを製造する場合、この他人の行為が特許権を侵害するのかどうか、ということが論点だったのです。

本日、これを解決する判決が出るということで、大急ぎでブログを書いてみました。
控訴審である知財高裁の大合議では、プロダクトバイプロセスクレームを用いて製法Zで特定した発明薬品Xの特許権は、製法Zで製造したものにのみ及ぶという解釈でした。したがって、製法Z’で発明薬品Xを製造した他人は、特許権を侵害しない、としていました。

この上告審(最高裁)の判決が本日出るようです。
上告審では、特に理由がない場合、「弁論」を行なうことなく上告棄却や上告不受理となります。しかし、従来の解釈の流れを大きく変えるようなとき、「弁論」が行なわれます。今回の上告審では、「弁論」が行なわれていることから、この「プロダクトバイプロセスクレーム」の特許発明に対する解釈が明確になるのではないかと期待されています。
製法Z’で製造された薬品Xが、製法Zで特定された薬品Xの特許権を侵害するのかどうか、注目です。

判決の内容については、後日あらためて考察します。

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