弁理士法人サトー 所長のブログ

弁理士法人サトーから法改正や事務所の最新情報を提供します。

続・続・東京オリンピックのロゴ

2015-08-18 17:14:25 | その他の情報
お盆休みも終わり、通常営業に戻りました。
このお盆休み、名古屋では毎日暑い日が続いていましたが、13日の雨を境にちょっとだけ秋の雰囲気が感じられるようになってきました。

このお盆休み、暑かったのは気候だけでなく、休み前から話題だった東京オリンピックのエンブレムのロゴについても熱い・・・。
デザイナーさんの実績として挙げられているデザインに、次々と疑惑が持ち上がり、夏の暑さを忘れるような「炎上」状態となっています。

この疑惑の暑さのせいでしょうか、お盆休み中にもかかわらず、当ブログにもたくさんのアクセスを頂きました。やはり関心が高いのでしょうね。

以前も触れましたが、正直なところ、知的財産の専門家を自負する弁理士としては、今回のオリンピックのロゴについて、知的財産という視点での法律的な問題はあまり大きくないように思います。
要するに、今回の騒動は、法律的な問題よりも、モラルの問題にあるようです。
繰り返しになりますが、商標の視点からは、ベルギーの劇場のロゴと今回のオリンピックのロゴとは、誤認混同を生じるおそれが低いです。仮にベルギーの劇場のロゴが商標登録されていたとしても、誤認を招くほどの類似性はないでしょう。
また、著作物の視点からも、まるっとコピーしているわけでもないですし、相違点も多々あることから、仮にデザイナーさんがベルギーのロゴにインスパイアされていたとしても、権利侵害を問うのは難しいでしょう。

そうなると、最終的には、クリエイターのプロフェッショナルの仕事として妥当であったかどうか、つまりモラルの問題に帰着するように思えます。

ここからは、個人的な感想。
僕自身、デザイン業界はよくわかりませんが、今回のデザイナーさんの実績として挙げられている各種のデザインには今一つ一貫性が無いように思います。
例として正しいかどうかわかりませんが、例えばJR九州の車両デザインを行なわれている「水戸岡」さんなんかは、JR九州に限らずどのデザインを見ても「ミトーカ」だなと言えるデザインのコンセプトが感じられます。
さらに例として正しいかわかりませんが、「村上春樹」の小説は、誰が読んでも「村上春樹」だとわかる文体です。「小室哲哉」の曲は、誰が聴いても「小室哲哉」です。「天野喜孝」のキャラは、一見して「天野喜孝」です。
このように、クリエイターというのは、個性が一貫していて、自分自身の才能も統一した一つのブランドとしてうまくブランディングを行なっていると感じます。

これに対して、今回のデザイナーさんは、マルチな才能なのか、柔軟な方なのか、デザインコンセプトに幅広さを感じてしまいます。今回のオリンピックのロゴと、日光江戸村の「ニャンまげ」が同一のデザイナーさんだとは思いませんでした。

オンデマンドで「何にでも対応しますよ。」というマルチな才能も大切でしょうが、プロフェッショナルな世界、特にクリエイターの世界では独自の個性を貫くのも大切な気がします。
我々のような明細書を作成する弁理士でも、明細書を読めば誰が作成したかだいたい見当がつきますからね。だから、「この人、この事務所に依頼したい。」という次のビジネスにつながって行くように思いますし、これこそがプロフェッショナルの価値だと思っています。

個性が無いのが個性でしょうか。



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事務所夏季休暇のお知らせ

2015-08-07 17:20:53 | 事務所情報
事務所夏季休暇のお知らせ

8月8日(土)~8月16日(日)は夏季休暇で事務所はお休みです。
暑い日が続きますが、みなさまお体には十分にお気をつけください。
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アメリカの特許出願件数の減少

2015-08-05 14:09:41 | その他の情報
今朝の日経新聞に、アメリカの特許出願件数が6年ぶりに減少したという記事がありました。
何でも、パテントトロールの対策のために行なった法律の改正が影響したとのことです。
記事では、パテントトロール対策として特許法を改正して特許を消滅させるための「異議申立」の要件を緩和したところ質の高い特許も取消になりやすくなったり、パテントトロール対策として訴訟制度を改正して敗訴者の費用負担を大きくしたところ敗訴時のリスクを考慮して特許を取得するのを躊躇したりした結果、特許出願件数の減少につながったのではないかとの指摘でした。
結局、ユーザにとって特許制度が使いにくくなると、出願件数が減る、米国の出願件数が減ると特許制度への信頼性に疑問が生じ、他国でも出願件数が減る、日本も影響を受けるかも知れない、といった論調でした。
確かに、そういう傾向はあるでしょう。しかし、アメリカは、特許を重視するプロパテントと、特許を競争を妨げる制度とみるアンチパテントとが、コロコロと入れ替わる国です。そうすると、ここまでプロパテント政策を維持していたのですが、パテントトロールなどの問題で過剰な保護が問題となり、アンチパテントに舵を切ったとみることができます。
アンチパテントになると、特許を取得するウマミが減るので、当然出願件数も減少することになるでしょう。

ところで、国ごとの特許の出願件数は、その国の研究開発活動の活発さに結び付けられ、国の産業競争力の指標ともなっています。
一般的には景気がよく、企業活動が活発な時期は、特許の出願件数が増え、産業競争力も向上すると考えられています。
企業活動が活発な時期は、先行投資として研究開発へ投入する資金も増えるので、成果としての特許出願が増えるというのもうなずけます。

ところが、特許の出願件数は、このような景気や研究活動よりも、政策によって増減することの方が多いように思います。
僕が特許業界へ入った15年ほど前、アメリカのプロパテント政策、IT革命といった産業革新によって、特許業界は空前の好況でした。ビジネスモデル特許などもこの時代です。日本では、年間で40万件近い特許出願があり、2005年頃には40万件を突破していました。
日本は、世界一の特許出願大国でした。

しかし、この世界一の出願件数に手を焼いた人々がいます。特許庁です。
年間40万件を超える特許出願を捌くための人員やインフラが不足し、パンク状態となっていきました。そこで、特許庁が執った政策は・・・。
審査請求料を倍額に増額し、出願件数の多い出願人(大企業)に出願を選別するように要求したのです。
この政策が功を奏したのか、それとも2008年のリーマンショックが効いたのかわかりませんが、2009年頃を境に、日本における特許出願は急激な減少を見せ始めます。年間40万件近かった特許出願は、年々激減傾向を示し、2012年には全盛期の3/4である30万件を切る勢いとなり、現在も減少傾向が続いています。もちろん、上記の政策だけでなく、日本でも訴訟制度の変更(特104条の3の導入)などによる、権利者側の不利感も影響しているでしょう。

とはいえ、2013年頃から日本の景気は回復傾向にあるようですが、特許出願件数は減少が続いています。

このように、アメリカに限らず日本でも、特許出願件数は、景気や産業競争力ではなく、そのときの政策であることが明らかですね。
よく引き合いに出される中国は、特許出願件数が日本とは逆に激増しています。これも、中国の発展もあるでしょうが、中国政府による特許出願推進の政策による影響が大きいことは周知の事実です。

日本の出願件数の減少は、世界の知財制度における日本の発言力の低下に結びつきます。
これに気づいた特許庁は出願件数を増加させるための政策を打っているのですが、効果は見えず減少傾向が続いています。
ちょっとした政策が業界全体に大きな影響を与えるのは、アメリカだけでなく日本も同じですね。


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