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弁理士法人サトー 所長のブログ

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ちょっと気になるJASRAC問題。

2017-02-07 12:10:50 | ちょっとひとやすみ

JASRACが大手の音楽教室から著作権料を徴収するということで、話題が沸騰しています。

JASRACは、概念としては「パテントプール」と似た仕組みです。
著作物(JASRACの場合、「音楽」に限られますね。)は特許などとは異なり、審査や登録を必要としませんので、完成した時点で著作権が発生しています。この著作権について、著作者である「作曲者」や「作詞者」などのクリエイターと、「演奏家」などのユーザーが1つ1つ管理して、毎度毎度の権利の使用許諾をするのは大変な作業です。

「パテントプール」も、テレビやコンピュータなどの数百~数千の特許を個別に実施許諾をするのは大変だから、「パテントプール」会社がそれらの特許権を一括して管理して、利用者に許諾してお金を徴収し、集めたお金をパテントプールに特許権を供出した権利者に分配する仕組みです。この場合、パテントプール会社は、供出した特許権の数に応じて、集めたお金を権利者に分配しています。ですから、たくさんの特許権を供出した企業には、自社が実施しなくても多くの特許使用料が入る仕組みになっています。

ちょっと話がずれました。JASRACも建前では、この「パテントプール」会社と同様に、ユーザからお金を集めて、クリエイターに分配することを行なっています。
ところが、特許などと違って著作物は、いつどこで使用されているかを把握するのは非常に困難です。ちょっとした演奏会やライブなどがあると、どの楽曲が何回利用されたかなんてわかりません。そこで、JASRACでは、包括契約という形でライブの「入場料」や「会場の広さ」などにあわせて、収入の数%程度を著作権使用料としてユーザーから徴収する仕組みになっています。そして集めた使用料を、クリエイターに分配するのがJASRACということです。
但し、この分配が適切に行なわれているかは色々と議論がありますが、今回はそこが気になる点ではありません。

今回気になったのは、ちょっと以前に問題となった、お笑いの「キングコング:西野」氏による絵本の無料開示との世論の整合性です。

「西野」氏は、自作した絵本(これも著作物です。)を、絵本として販売するだけでなくネット上に無料公開しました。西野氏としては、「絵本は子供に与える大切なものだから、ネットで絵本を見てもらって、納得してもらえれば書店で購入してください。」という趣旨だったようです。

この「無料公開」という行為に対して、世の中では「西野が無料でやっていることを理由に他のクリエイターにも無料が強要される。」、その結果として「クリエイターの収入が減少し、新たな創作の意欲が低下する。」として、「絵本文化の裾野が狭まり衰退する。」という論調が多く出されました。
どちらかというと、西野氏による無料公開に対して、ネガティブな意見が多かったようです。

翻って、今回のJASRAC問題。
JASRACは、これまで使用料を求めていなかった音楽教室に対して、使用料を徴収することとしました。JASRACとしては、「音楽教室では先生による演奏が行なわれているので、適切に使用料を支払う必要がある。」といった趣旨です。

この「使用料徴収」という行為に対して、世の中では「使用料が授業料に上乗せされることによって音楽に興味を持つ人が減少し、CDやライブの売上が減少する。」、その結果として「クリエイターの収入が減少し、新たな創作・演奏の意欲が低下する。」として、「音楽文化の裾野が狭まり衰退する。」という論調が多く出されました。

あれれ。

絵本は「無料」によって「文化が衰退」するという論調だったのに、音楽は「有料」によって「文化が衰退」するということ?

先にも挙げたように、JASRACは徴収した使用料をクリエイターに適切に分配しているのかどうかという疑問があるのは確かなのですが、「無料」と「有料」と「文化の盛衰」にはあまり関係がないのかもしれません。
そうすると、今回の問題は、JASRACのあり方、仕組みの作り方に問題が無いかを掘り下げる必要があるのであって、「お金を徴収すること」を問題視するのは道を誤ってしまうような気がします。

結局、世論を「正論」と考えてしまうと、某大統領のように盛大な矛盾が生じることになりますね。
事務所をはじめ会社の経営も同じかもしれません。


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (Unknown)
2018-03-06 02:46:50
営利目的の音楽教室と、非営利目的の音楽教室を一緒にしないでください。
著作権では非営利目的でないなら著作権は求められないときちんと明記されてます。
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Unknown (みなみじま)
2018-04-05 12:01:58
Unknownさん
せっかくコメントをいただいたにもかかわらず、1ヶ月も放置してしまい、大変申し訳ありませんでした。

ご指摘の点、ごもっともです。
本件の記事は、あくまでも営利目的を前提としています。
ただ気になるのは、非営利の音楽教室とはどのようなものでしょうか?
生徒さんから報酬(対価)を得ていない音楽教室ということでしょうか。
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