日本軍の得意な思考様式は、現実を前にした「積み上げ式」でした。
「帰納法」的といえるかもしれません。
(p285より引用) 日本軍は、初めにグランド・デザインや原理があったというよりは、現実から出発し状況ごとにときには場当り的に対応し、それらの結果を積み上げていく思考方法が得意であった。このような思考方法は、客観的事実の尊重とその行為の結果のフィードバックと一般化が頻繁に行なわれるかぎりにおいて、とりわけ不確実な状況下において、きわめて有効なはずであった。しかしながら、すでに指摘したような参謀本部作戦部における情報軽視や兵站軽視の傾向を見るにつけても、日本軍の平均的スタッフは科学的方法とは無縁の、独特の主観的なインクリメンタリズム(積み上げ方式)に基づく戦略策定をやってきたといわざるをえない。
それに対比して米軍の思考様式は論理的な「演繹法」を基本にしていました。
さらに、頭の中だけの演繹ではなく、実践の結果からの検証・改善のプロセスも組み込まれていました。
(p287より引用) 日本軍が個人ならびに組織に共有されるべき戦闘に対する科学的方法論を欠いていたのに対し、米軍の戦闘展開プロセスは、まさに論理実証主義の展開にほかならなかった。・・・
ガダルカナルでの実戦経験をもとに、・・・太平洋における合計18の上陸作戦を通じて、米海兵隊が水陸両用作戦のコンセプトを展開するプロセスは、演繹・帰納の反復による愚直なまでの科学的方法の追求であった。
どうも日本軍には、論理実証的思考様式が存在しなかったようです。
(p287より引用) 他方、日本軍のエリートには、概念の創造とその操作化ができた者はほとんどいなかった。
日本軍の上層参謀と現場士官との間には、大きな組織的・情緒的な断層がありました。
明確な意見表明をせず、双方で「察する」ということが期待されました。その結果、それぞれの立場に都合の好い手前勝手な解釈がまかり通っていったのです。
(p289より引用) 日本軍の戦略策定が状況変化に適応できなかったのは、組織のなかに論理的な議論ができる制度と風土がなかったことに大きな原因がある。
また、上層参謀間には、論理的判断を超越した人間的つながりの判断軸が存在していました。
こういった一種「空気の支配」といった状況は、インパール作戦の解説においても語られています。
(p176より引用) なぜこのような杜撰な作戦計画がそのまま上級司令部の承認を得、実施に移されたのか。・・・鵯越作戦計画が上級司令部の同意と許可を得ていくプロセスに示された「人情」という名の人間関係重視、組織内融和の優先であろう。・・・
このような人間関係や組織内融和の重視は、本来、軍隊のような官僚制組織の硬直化を防ぎ、その逆機能の悪影響を緩和し組織の効率性を補完する役割を果たすはずであった。しかし、インパール作戦をめぐっては、組織の逆機能発生を抑制・緩和し、あるいは組織の潤滑油たるべきはずの要素が、むしろそれ自身の逆機能を発現させ、組織の合理性・効率性を歪める結果となってしまったのである。
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