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争いばかりの人間たちへ ゴリラの国から (山極 寿一)

2025-03-21 07:04:58 | 本と雑誌

 いつも利用している図書館の新着本リストで目についたので手に取ってみました。

 山極寿一さんの著作は今までも「ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」」「虫とゴリラ」「京大式 おもろい勉強法」「動物たちは何をしゃべっているのか?」等々何冊か読んでいます。そして、読むたびに、山極さんの真っ当な思索にいつも数々の気づきをいただいているのですが、本書からもそうでした。
 それらの中から、特に印象に残ったところをいくつか覚えとして書き留めておきます。

 まずは、「人類の社会性」が誕生した経緯についての山極さんの理解。

(p118より引用) 人間が多産なのは、おそらく森からサバンナへ出てきた時代に高い捕食圧に直面して子ども死亡率が高まったためであり、それを現代まで受け継いでいると考えられるのだ。しかも、脳が増大するようになってから、脳の成長に摂取したエネルギーの大半を回すようになったため、子どもの身体の成長は遅くなった。そのため、人類は成長の遅い子どもをたくさん抱えなければならなくなって、母親以外の育児の手が必要になった。それが男女の経済的分業と家族の成立をもたらしたと私は考えている。まさに人類は、狩ることではなく、狩られることによって複数の家族が寄りあって暮らす社会性を発達させたのである。

 「人類は狩猟されることによって進化した」という考え方は、ある種ショッキングですね。

 さらに、人どおしが争う「戦争」は、この発達した社会性に根源があると山極さんの論考は進みます。

(p121より引用) 戦争の由来は人類の祖先が危険の多い環境で手を取り合って生き抜くために作り上げた、共感に基づく強い集団への帰属意識にあることがわかる。

(p122より引用) 戦争は人類の攻撃性を狩猟生活が高めた結果ではない。狩られる生活のなかで人類が生存のために生み出した、特殊な集団意識とコミュニケーションの産物なのである。

 “共感に基づく集団への帰属意識の強さ” の裏返しとしての「他の共同体へ向ける敵意」が戦争という過度な暴力を作り出したという考えです。

 こういった「戦争の起源」を探求している山極さんは、同時に「戦争を起こさない思考スタイル」についても紹介しています。

(p143より引用) 人間は他の動物にはない能力を持っています。
 1つは他人の目から見た自分を想像できること。もう1つはいろんなグループの中で自分を演じられる自分がいること。この2つの能力から世界を平和にする提案をします。

 具体的には、それは「人との付き合い方」の工夫です。

(p146より引用) 付き合い方を意識すると、相手にそんなに負担を感じさせないですみます。それが人間社会のルールみたいなもの。あんまり溝をつくらない、あんまり絆を重くしない。だから、親友ができなくてもそう悲観しなくてもいい。親友はいなくてもいいんです。・・・
 絆を重くせず、かろやかに人と付き合いましょう。味方をつくらないのだから、敵もできません。それは、平和をつくる礎になります。

 山極さんが語る「絆を重くしない」という提言にはとても納得感があります。こういう “気持ちのゆとり” や “オープンマインド” は心地よさそうですね。

 ただ、現代の人と人との “付き合い” は、リアルな場に加えてSNSに代表される “バーチャルな空間” での関わりが大きなウェイトを占めており、この仮想空間内では、いとも簡単に “他人と絡む” ことが可能になっています。さらに、そこでの “匿名性” は、無責任性を増幅したりひとりの人間が複数の人格を演じたりすることも容易にしています。
 敵味方が流動しつつ安直に色分けされる社会、虚実が入り混じったこの新種のコミュニケーション空間で、人と人との付き合い方の練度をいかに高めていくか。こういった不安定な環境下での “相互信頼の形成” が、まさに今日的な課題といえるでしょう。

(p211より引用) そして今また、急激な変化の時代を迎えている。それは携帯電話やインターネットによるコミュニケーション革命である。人間は対面し、相手の存在を感じ取れる社会の肌触りの中で道徳を育ててきた。それが感じられないこの新しいコミュニケーション世界のなかで、道徳ははたして人間社会の規矩として持ちこたえられるだろうか。こころの準備ができないまま巨大なコミュニケーションのニッチを構築してしまった今、私たちはこころと社会の在り方を進化の視点から再び見つめ直す必要があると私は思う。

 山極さんもこう語っていました。

 

 


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