本書で取り上げられているテーマで、なかなか興味深かったのが「年功賃金」についてでした。
「年功賃金」は、昨今は「成果主義」との対比で語られることが多く、日本特有の守旧的制度の代表格のように扱われています。
(p142より引用) 年功賃金制度は、日本特有のものであると考えられることが多い。・・・一方で、日本独特のものであると考えられてきた年功的な賃金制度は、ホワイトカラーにおいては世界共通に見られることがさまざまな研究で明らかにされてきた。
著者は、世界のあちこちで見られる「年功賃金制度」を「経済学的」切り口からとらえ、その存在理由として4つの説を紹介しています。
(p142より引用) 第一は、人的資本理論で、勤続年数とともに技能が上がっていくため、それに応じて賃金も上がっていくというものである。
この考え方は、経験を積み熟練することにより技能が向上するような仕事では納得感があったかもしれません。
ただ、最近はそうもいえない状況が増えてきています。むしろ「年齢を経るに従い、新たな仕事のスタイルに追いつけなくなる」というケースが多く見られるようになりました。
(p143より引用) 第二は、インセンティブ理論で、若い時は生産性以下、年をとると生産性以上の賃金制度のもとで、労働者がまじめに働かなかった場合には解雇するという仕組みにして、労働者の規律を高めるという理論である。
これは、若いときの取り分を年をとってから取り戻すということですから、働く者の立場、特に若い世代からの納得感は今一です。
(p143より引用) 第三は、適職探し理論である。企業のなかで従業員は、自分の生産性を発揮できるような職を見つけていくのであり、その過程で生産性が上がっていくと考えられている。
これも企業実態からいえば、「?マーク」です。
この考え方が幅広く適用されるほど、企業内に多種多様な「職」があるとは思えませんし、常に適材適所が実現されるほどの「人材の流動」が図られているとも言い難いでしょう。
(p143より引用) 第四は、生計費理論で、生活費が年とともに上がっていくので、それに応じて賃金を支払うというものである。
これは、企業活動外に制度の因果関係を求める考え方であり、実態的にこういう傾向があるにしても、それこそ「相関関係」に過ぎないでしょう。これが主要因であるとは到底考えられません。
著者は、これらの点から、
(p149より引用) つまり、年功賃金制には合理性がある。そういう意味では、この制度がなくなることはないといえる。
と主張していますが、どうも、上記の4つの理由をみる限りでは、著者がいうほどの「合理性」があるとは思えません。
まあ、強いていえば、「インセンティブ理論」が結構企業実態には合致しているかも・・・という感じです。
この理論による場合は、従業員に対する「効果的なインセンティブ」をどう考えるかが最大のポイントとなります。
特に、金額的な価値観だけでない多様な価値観をもつ従業員に対して、どういう制度設計で対応するか・・・。
著者もエピローグで、こうコメントしています。
(p222より引用) 税制・社会保障制度・人事制度などの社会制度の設計が難しいのは、金銭的インセンティブをきちんと考えるだけでも難しいのに、非金銭的インセンティブの影響まできちんと考える必要があるからだ。
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