鎌田實さんの著作は今までも何冊か読んでいます。通底する考え方の方向や自然体の語り口が私の好みにあっているというのが主な理由です。
本書もいつもの図書館の新着本リストの中で目に付いたので手に取ってみました。
テーマは“孤独”。鎌田さんが勧める“孤独への処方箋”です。
まずは、鎌田さんが本書で取り上げている「孤独」とはを語っているくだりです。
(p30より引用) 「孤独」とは、いつもポツンとひとりでいることをさすのではありません。・・・ 周囲の“雑音”に惑わされずに自分が気持ちよく暮らし、自分の中に「新しい自分」を芽生えさせることです。そうやって生まれた新しい自分の力を自分の中に充満させること。それが「ちょうどいい孤独」というものであり、ソロで生きることで、この力が増幅されます。
肯定的なニュアンスですね。また、こういう説明もしています。
(p70より引用) 「孤独」とは、「単独で生きろ」という意味ではありません。夫婦でいても友人といても、お互いの距離を保って、個人としてきちんと存在し続けることが大事なのです。
本書は、鎌田流の「積極的な孤独」のススメですね。
ただ私自身意外だったのですが、今のような時期にそういったテイストの本書を読み通してみて感じたのは“大きな違和感”でした。いままでは鎌田さんの著作には首肯できるところが多くあったのですが、本書は「どうもノリが違うなぁ」という感じを抱きました。
原因は何か・・・、本書で扱われている「孤独」論には、まさに今直面している「貧困」という大きな社会課題への考察が抜け落ちているのですね。
たとえば鎌田さんは「ひとり時間の鍛え方」の項でこう語っています。
(p128より引用) 生活習慣を少し変えて、自分流のひとり時間をつくってみてください。ここから行動変容は始まります。 再三述べているように、ひとりで過ごす時間は自分を再発見するための時間であり、人生を豊かにするための糧になる時間だからです。
でも、どんなふうに「ひとり時間」を過ごせばいいのか? 結論は「やりたいことを思う存分やってみる」「自分を解放して、より自由な自分になる」ということに尽きます。
自分の思うように時間を使えるのは孤独の特権。食べたいもの、見たいもの、行ってみたい場所、誰にも気兼ねなく、思う存分やってみることをおすすめします。
確かにそうかもしれませんが、自己責任論が蔓延し人々の間に大きな分断が生まれている今の格差社会では、「働くのが精一杯で、時間に余裕がない」「お金がなくて、やりたいことなどできない」「健康を害していて、自由に動けない」といった方々が急激に増加しているのが現実なのです。
もちろん鎌田さんも、その点は承知されているのですが、この危機的状況についての言及はほとんど見られません。
確かに取り上げたテーマや視点は違います。とはいえ、「孤独」というキーワードを掲げているのであれば、“貧困”や“分断”により生まれる「望まない孤独」への言及なくして “孤独” を語るのというのは、やはり今の社会を思うとどうにも物足りない論考のように捉えてしまいます。
最終章まで読み進めると「鎌田流の“死への向き合い方”」がテーマなのだと明確になりますが、それでも、やはり“ある程度の生活水準の人々”を前提にした内容です。
だからといって、本書での読者へのメッセージとしては決して間違ったものではありませんし、鎌田さんの熱意も十分に伝わってきます。ただ、ちょっと前に大空幸星さんの「望まない孤独」を読んで受けたインパクトが大きかっただけに、鎌田さんの著作としてはちょっと残念な出来栄えだなぁと感じたということです。