アメリカを中心に話題になっている本です。
「雇用問題」をテクノロジーの進化との関わりという文脈の中で議論しています。
産業革命以降の世界経済の動きは、世界恐慌等の谷間はあるにしても、基本的には拡大基調でした。それに併せて雇用も順調に伸びていきました。
(p164より引用) 「技術進歩が続いた結果、失業者が増大し続けた」ということにはならず、「技術進歩が続いた結果、経済が拡大し、生活水準が向上する一方で、新たな雇用の場が生み出されてきた」からである。
これに対して今日の「デジタル革命」「IT革命」は、従来とは異なる影響を経済に与えています。
指数関数的に進むコンピュータの進歩は、急速に従来型業務を効率化し雇用の減少をもたらします。そして、ITにより創出される新ビジネスが生み出す雇用の増加を凌駕し、「雇用総量を減少させる」というのです。
(p171より引用) 本書の主張はコンピュータが人間の領域を侵食することにより、雇用は減り、その減った雇用は、高所得を得られる創造的な職場と、低賃金の肉体労働に二極化するということだ。
このあたりの本書の主張のエッセンスは、本文よりも巻末の「解説」の方が明瞭です。
こういった状況に対して、著者たちは最終的には楽観的です。とはいえ、彼らの示す処方箋の解説は極めてプアです。「教育」「起業家精神」「投資」「法規制・税制」の観点から19のアクションを示しているのですが、それらの政策としての連関は希薄で、その説得力は乏しいと言わざる得ません。
(p150より引用) 「おそらく最も重要なアイデアは、メタアイデアである。すなわち、アイデアの開発と伝播をサポートするためのアイデアである」とも述べている。デジタルフロンティアは、まさにメタアイデアである。・・・このフロンティアでは、必ずやイノベーションのゆたかな実りを収穫できるだろう。私たちはその可能性にかけている。
テクノロジー失業を回避するためのイノベーションを生むキーファクタとして“メタアイデア”というコンセプトを説明しているくだりですが、これも具体的根拠の薄い希望的観測を語っているに過ぎません。では“メタアイデア”はどうやって創造しているかという重要な点については、「インターネットによる集合知への期待」を示すに止まっています。
結論はそのとおりになるのかもしれませんが、この程度の記述で終わってしまっては素人の感想文のレベルでしょう。
MITの研究チームのレポートとのことですが、(装丁が奇抜な割には)全体を通して論考が甘く、正直なところ物足りなさが大いに残る内容でした。
機械との競争 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2013-02-07 |