「訳者まえがき」によると、本書は、1938年に刊行された「History of Football from the Beginnings to 1871」の翻訳とのこと。
内容は、フットボールの歴史をやさしく解説したものというよりは、文献を渉猟しての学術書に近いものです。(とはいえ、あくまでも新書レベルですが)
この点、著者もこう語っています。
(p viiiより引用) ブリテン島の民衆の旧時代の蹴球が西暦1300年の少し後からほぼ現代に至るまで連綿と続き、人気を得てきたことを示し、それがイングランド民衆の社会生活において占める地位を分析することが、今や様々な典拠から可能になっているのである。
本書では、数々の文献(法令であったり文学作品であったり)を引いて、蹴球の歴史を綴っていくのですが、その中にはこんな紹介もありました。
エリザベス朝期のシェイクスピア作の戯曲「間違い続き」での蹴球に関するくだりです。
(p65より引用) 私がお内儀さんにぽんぽんと物を言うので-これはお互い様ですが-
まるで蹴球ボールのように私を蹴っとばす、というわけですな。
貴女様が私めをここから蹴る、すると旦那様がここへ蹴り返す。
こんなお勤めをして長持ちさせようというのなら、革の被覆に納めて下さらにゃいけません。
こういう手荒い仕打ちの比喩に用いられるように、当時の蹴球はとても荒っぽい競技だったようです。実際、怪我する方はもちろん亡くなった方も出たようで、好ましからぬ競技としてしばしば法令をもって禁止されもしました。
(p ixより引用) 組織化された運動競技が十九世紀中葉に発達するまでは、蹴球は-例えば棍棒術のような、他のある種の激しい競技と共に-農民、徒弟、職人が専ら行うものに留まっていた。蹴球は久しいあいだ下層階級の競技であり、ごく稀に紳士が行ったにすぎない。
さて、サッカーやラグビーといった近代的蹴球ですが、これらは旧時代の蹴球から直接発達したものではありませんでした。
(p138より引用) 非公式な形の蹴球が・・・昔からイングランド全土で行われてきたが、協会式〔サッカー〕およびラグビー式蹴球〔ラグビー〕という近代の重要な競技は、内容が明確でなく、もっと古い、そして恐らくは極めて多様化した諸競技を組織統一したところに成立したというものではなくて、一方ではウェストミンスターやチャーターハウスなどロンドンの学校で、また他方ではラグビー(ウォリックシャー)の学校で行われた学校式蹴球をめぐって発達したルールを体系的に調整したことに基盤を置くのである。
とはいえ、「蹴球」は、母国イングランドにおいても乗馬や競馬といった上流階級のスポーツとして発展したものではなく、基本は庶民のスポーツでした。その底流には地域に根ざした民衆のエネルギーが脈々と流れている競技なのです。
サッカーが、熱狂的なサポータ同士のぶつかりや、国同士の戦争にまで至るのもさもありなんという気がしますね。
フットボールの社会史 (1985年) (岩波新書) 価格:¥ 504(税込) 発売日:1985-08 |
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