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福沢の言う「僥倖」 (考えるヒント(小林 秀雄))

2008-08-15 09:59:28 | 本と雑誌

Kobayashi_hideo  「考えるヒント」から3つめのご紹介です。

 今回は「福沢諭吉」からの引用です。

 小林氏は、「福沢諭吉のすごさは、新学問の紹介にあったのではなく、新文明が流れ込む思想の変革期において、日本の思想家が強いられた特殊な意味合いを明確に理解していたことだ」と指摘しています。

 
(p124より引用) 西洋の学者は、既に体を成した文明のうちにあって、他国の有様を憶測推量する事しか出来ないが、我が学者は、そのような曖昧な事ではなく、異常な過渡期に生きている御蔭で、自己がなした旧文明の経験によって、学び知った新文明を照らす事が出来る。この「実験の一事」が、福沢に言わせれば「今の一世を過ぐれば、決して再び得べからざる」「僥倖」なのである。

 
 通常の考えであれば、新思想の流入は既存の思想体系に在る学者にとっては窮境だととらえます。
 しかし、福沢は、その状況をもって、旧態の思想と対比することにより新たな思想をよりよく理解判断することができる好機と考えるべきと指摘したというのです。

 福沢の名著「学問のすゝめ」は、新思想礼讃ではありませんでした。

 
(p124より引用) 彼の「学問のすゝめ」は、洋学のすすめではなかった。洋学はすすめるまでもない急激な流行であった。学塾三年間三百円の元手は、月給五、七十円の正味手取の利益となる、洋学が「高利貸と雖ども、これに三舎を譲る可き」官許の商売と化さんとするのを見たから、彼は、学問の「私立」を、「学者は学者にて私に事を行ふ可き」事を、すすめたのである。

 
 官許の商売としての漢学の悪習を否定したのであって、漢学自体を否定したわけではありません。
 福沢は、学者に「独立の丹心」を求めたのでした。
  

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