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倫理からの気づき (エコエティカ‐生圏倫理学入門(今道友信))

2008-03-12 16:00:28 | 本と雑誌

Aristoteles  倫理学と銘打った本は、私の記憶のなかでも読んだことはなかったと思いますが、本書の内容は非常に興味深いものがありました。
 もちろん、すべて肯定というわけではありませんが、あらゆることを考えるうえで、参考になる視点をいくつも再確認できたように思います。

 それらのなかで、私の覚えとして、以下のいくつかの気づきを記しておきます。

 まずは、エコエティカが対象とする問題の一つである「人と物との関係」を考えるにあたっての「所有」と「使用」の概念について。

 
(p127より引用) 所有権は直ちに使用権を含まないということは当たり前で、・・・所有権と使用権とがつながらないということは明らかなのに、現実の生活では「自分の土地だからどう使ってもいいだろう」とか、「自分の家だからどんな家を作ってもいいだろう」というふうになり、これが都市の美観を害なっていることも事実ですし、経済活動なり政治活動において、間違いを起させているのではないかと思います。

 
 この点、特に日本人は「物に対する所有のパトス」が強いとの指摘です。

 次に、日本人論のなかで頻繁に登場する「恥の文化」について。

 
(p128より引用) 昔から日本には「恥の文化」というものがある、と言われていますが、それは「公に顔向けができない、残念だ」と思うことがあっても、おのれ自身を不徳のゆえに恥じているわけではありません。
 何に対して恥じているのか、といえば、世間に対してであり、つまり、世間が間違っているのならば、間違いに合わせることが恥ずかしくないことになってしまうのです。これこそ、世に迎合することです。つまり、われわれの国の「恥の文化」は、内的な「恥の道徳」ではない、ということです。

 
 この指摘は素直に首肯できるものです。
 日本人論においては、この日本人にとっての「世間」、さらに「世間の中の自己」というものを突き詰めていくことになります。

 さて、最後にご紹介するのは、人間が行為を起す際の論理構造についての著者の主張です。

 ここでは、古代ギリシアの大哲学者アリストテレースが登場します。
 アリストテレースの「ニコマコス倫理学」においては、行為の論理構造の出発点は「目的」でした。その目的を達成するための「手段」が複数あり、その中から「もっとも立派」で「もっとも容易」なものが選ばれるという仕組みでした。
 これに対し、著者は「新しい技術環境の中での行為の論理構造」として、以下のような仕組みを提起しています。

 
(p144より引用) 目的が自明的に望まれているのではなくて、社会に強力な手段Pが自明的にそなわっているということであります。電力も原子力もその一例です。あるいは形はちがいますが、大資本もその例になります。そしてこの自明的なところで、ある強力な手段としての力Pから、どういう目的が達成されるかという考えが出てきます。ですから手段Pが自明であって、列挙されるのは、その手段Pから分析的に考えられて実現が必然的に可能と思われるもの、それが目的として列挙されます。そしてこの目的の中で、どれか一つをある原理で選んでいかなければならないのです。

 
 この考えによると、最後の「目的の選別の基準」がさらに重要になります。

 また、著者は、以下のような重要な問題点も指摘しています。

 
(p146より引用) 手段が強大な物理的な力である現代の場合には、この物理的な力が可能にする物理的な事柄しか目的としては出てこない、という限定があります。

 
 ちょうど本書と並行して、梅田望夫氏による「ウェブ時代をゆく‐いかに働き、いかに学ぶか」という本も読んでいたので、多くの点で、二人の主張の対比や拠って立つ価値観の相違が感じられてなかなか面白かったです。


(追記)
 実は、この本を読んだ後、著者の今道先生ご本人のお話しを2時間ほど直接うかがう機会がありました。
 お話しの中には、いくつもの心に残ることばがありました。以下にご紹介します。

  • 西田幾多郎氏と鈴木大拙氏の友人関係に関して、「真に謙虚であれば、良い友ができる」
  • 西田幾多郎氏の「善の研究」という本を何度か読み返しているというお話しに関して、「書物とともによい思い出が残る」
  • 今道先生が学生時代、西田幾多郎氏にお会いになった際、西田氏から贈られた言葉にとして、「哲学は予言者にならなくてはならない。その予言は論理に基づかなくてはならない」
  • 今道先生がエコエティカを記された想いとして、「『各個人が内面的に反省したときに自分の人生に意味があるかを考える』ということを書きたかった」

 
 哲学関係の講義は学生時代にも受けたことがなかったのですが、その道の第一人者の方のお話の内容はもとより、その正に謙虚なお人柄には、本当に久しぶりに唸りました。
 

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価格:¥ 840(税込)
発売日:1990-11

 

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