OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

悪意の欺瞞 (悪意なき欺瞞(J.K.ガルブレイス))

2007-01-17 00:07:19 | 本と雑誌

Missile  本書で、ガルブレイス氏が「欺瞞」だと指摘している真の対象は、新古典(保守派)経済学の「強者の倫理と論理」であると思います。

 ガルブレイズ氏は、「強者の倫理と論理」に基づいた経済政策の欺瞞の例として「減税による景気回復策」を挙げています。

(p122より引用) 近時、景気回復のために必要だからとして実施される減税が、景気回復の特効薬だというのは寓話以外の何ものでもない。・・・減税による所得の増分は必ずしも消費に回されないから、減税の景気浮揚効果は総じて乏しいのである。
 それだけではない。景気後退の確実な治療法の一つは、個人消費支出の堅実な伸びを誘うことである。言い換えれば、個人消費支出の低迷こそが、景気後退の元凶なのである。

 減税は、強者(富裕層)の可処分所得を増やす効果に止まるとの主張です。

(p123より引用) 使い道のない富裕層にお金を与えて、貧困層に生活苦を押しつける。その結果、景気は後退するけれども、政府は何ら有効な対策を講じない。・・・
 何か積極的な提言をしたいものである。しかし、経済学の世界には、確固たる信念のようなものがあって、それが、ときには逆効果を生む経済政策を支持し、ときには効果的な経済政策を支持する。
 景気が後退しているときには、購買力の確実な増加がなくてはならない。そのためには、所得の増加を確実に消費に回す貧者の可処分所得の増加こそが求められるのである。こうした対策が有効なことは否定すべくもないのに、無益な弱者救済策だとして一蹴されてしまう。

 米国における最大の強者は、大企業でありペンタゴン(軍)です。
 ここでいう大企業は何らかの形で軍需に関わる産業です。

 この図式で以下のガルブレイス氏の指摘を解すると、公的セクターはペンタゴン、私的セクターは軍需産業と当てはめられます。

(p72より引用) 他の諸国でも程度の差こそあれそうなのだが、とくに米国では、公と私の二セクターの役割分担をめぐって、侃々諤々の論争が繰り広げられてきた。・・・
 よく考えてみれば、公的セクターと私的セクターを区別すること自体が、無意味なことのように思えてくる。なぜなら、いわゆる公的セクターの仕事の大部分、その根幹となる部分、そして拡張しつつある部分は、私的セクターを潤すことのみを、そのねらいとしているからである。

 ガルブレイス氏は、本書の最後に、現在の最大の問題について付言します。

(p126より引用) 文明は、数世紀間にわたる科学、医療、あえて付け加えれば、経済的繁栄の賜物である。その反面、文明は、兵器の増強と周辺諸国への軍事的脅威、そして戦争をも是認してきた。文明を普遍化させるためには、大量殺戮さえもが避けて通れぬ道だとして正当化されるようになった。・・・
 戦争にまつわる経済社会的諸問題は、飢えや貧困と同じく、人類の英知と行動によって解決するしか他に手立てはない。解決へ向けての動きはすでに始まっていると見てよい。いまもって戦争は人類の犯す失敗の最たるものなのである。

 軍産複合体の問題については、米国でも古くから指摘され警鐘が鳴らされていますが、まさに今、再び三度、顕在化しているのです。

 この問題が解決されることなく、昨年ガルブレイス氏は亡くなりました。
 残念です。

悪意なき欺瞞 悪意なき欺瞞
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2004-10-01

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする