Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.490:ウェブで学ぶ

2013年10月20日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊

『ウェブで学ぶ』梅田望夫、飯吉透著(ちくま新書 2010年)

先週の日経本紙の社説でついに「eラーニング(ネット講義)」が取り上げ
られました。14年前、eラーニングに関する情報がほとんどなかった頃、そ
れなら自分で情報を発信しようと、このメルマガの配信を開始したコガにと
って、日本経済新聞の社説でeラーニングが取り上げられる日が訪れるとは、
隔世の感を禁じ得ないです。ハイ。

ネット講義を広めて大学改革に生かせ (2013/10/17付)

内容はJMOOCの発足を受けて、MOOCの動向とその影響と課題がまとめられて
います。なぜかMOOCとJMOOCという言葉は文中で使用されておりません。
ちなみにJMOOCについては下記のサイトを参照願います。
JMOOC「日本オープンオンライン教育推進協議会」

MOOCについて手っ取り早く理解したいと思う人は
『MOOC ─大学の革命─ (日経BP社[Kindle版]山内 祐平;重田 勝介;風間 正弘;八木 玲子 (著)』
という電子書籍をおススメします。286円という安価で入手でき、Kindle
なのですぐに手元にダウンロード可能。ページ数も短いので、おそらく
15分もあれば読了すると思います。

このように大学教育の世界だけでなく注目を集めるMOOCですが、この現象の
背後にある大きな流れのようなものを理解する上で最も参考となるのが、今
回ご紹介する書籍『ウェブで学ぶ』であるとコガは確信しております。

著者は「Web2.0」の生みの親である梅田望夫氏と、京都大学高等教育研究開
発推進センターの飯吉透氏。1章は梅田氏、二章は飯吉氏が執筆。そして三
章と四章が二人の対談という構成になっています。

一章の中で心に残ったのは「起業家タイプの人は、人生のある時期に、大変
な集中力と気迫で、新しい知識を独学で習得する」という一文です。この文
に続き、ウェブはそうした学習を後押しするだけでなく、ネットを通じて師
や同士と巡り合い、さらにはそれが新たな職を得たり生計を立てるのに役に
立つといった趣旨のことが書いてあります。コガは起業家ではありませんが、
40代半ばに学んだ社会人大学院での経験や、このメルマガを通じて知りえた
師や同士の存在のおかげで、現在の教員という職業に就いたので、この梅田
氏の言葉はとてもすんなり理解できました。

二章では、飯吉氏が「オープンエデュケーション」の3つの要素として
「オープンコンテンツ」「オープンテクノロジー」「オープンエデュケーシ
ョン」を挙げています。「オープンコンテンツ」とは教材のオープン化、従
来のOCWのような講義のネット配信が該当します。「オープンテクノロ
ジー」はeラーニングシステムのオープン化です。SakaiやMoodle等、Web上
で教育活動を推進していく上で必要となるシステムのオープンソース化のこ
とを指します。そして最後の「オープンナレッジ」とは「教育的知識」、つ
まりどのように教材を作りこめば学生や教員にとって使いやすいものになる
かといったノウハウのオープン化を指しています。コガは「インストラクシ
ョナルデザインに基づいたTipsやフレーム」みたいな事を指しているのでは
ないかと理解しているのですが、この辺りは読者の皆様の解釈にお任せしま
す。

そして、三章と四章が本書の肝となります。何が凄いかというと、まだMOOC
が出現していない2010年に、MOOCの勃興をを予言しているのです。しかもか
なり細かいレベルで。

本書の中では「世界を変えるほどとてつもないもの」(p.122)と表現してい
ますが、OCWの次の段階、つまり「オープンコンテンツ」に「オープンテク
ノロジー」と「オープンエデュケーション」がくっついたMOOCのようなWeb
サービスの登場をかなり明確に提示しています。また、アメリカでは草の根
的・ボトムアップ的に始まるが、欧州や日本では中央集権的・トップダウン
的に始まると述べており(p.109)、今回のJMOOCの動きとも一致しているから
驚きです。そして極めつけは、「営利型のオンライン大学が、無料の教材や
教育ツールを提供する可能性」(p.132)と、私企業が中心となって「世界を
変えるほどとてつもないもの」を推進することまで示唆しているのです。実
際アメリカでのMOOCはCourseraやUdacityといった私企業によって推進され
ているのはご存じの通りです。こうした未来の方向を見通せるのも、お二人
のWebや教育に対する世界観がしっかりしており、一見混沌としているイン
ターネットの世界を俯瞰できているからとコガは考えております。

最後に、こうしたオープンエデュケーションの試みに対し、梅田氏が課題を
示している一文がありますのでご紹介しておきます。

「オープンエデュケーションにも、何らかの形での『強制のシステム』がう
まくデザインされることが必要になるのではないでしょうか。独学のいいと
ころは『強制のシステム』がないことですが、同時にそこがいちばん弱いと
ころだと思うのですよ。人間は弱いですから」(p.179)

今後の格差は学び続ける意志の強い者と弱い者の間で広がっていくのかもし
れませんね。<文責 コガ>

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