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vol.360:大学における人事評価制度(事務職員・教員)実態調査報告書

2010年05月24日 | 調査・アンケート
大学を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。そのような中大学の「人」を巡る問題がクローズアップされ、教職員の人材育成と評価の仕組みを再構築する大学が増えてきています。

産業能率大学では2006年に「大学職員人事制度実態調査」を実施、大学職員の人事評価や人材育成の仕組みの現状を明らかにしました。今回2009年の調査では、職員に加え「教員」に対する人事考課制度の導入状況も調べました。
今週はそのサマリーとコガのコメントを紹介したいと思います。なお調査報告書(冊子)をご希望の方は、産業能率大学総合研究所東日本事業部(電話:03-5200-1721)にお問い合わせの程宜しくお願い申し上げます。

産業能率大学 調査報告書一覧:大学における人事考課制度実態調査



調査の概要

調査対象:全国の国公立・私立大学 計699法人に調査票を郵送
調査機関:平成21年7月~8月
回収状況:266法人(回収率32.3%)
回収内訳:国立37法人、効率31法人、私立158法人


大学職員に対する人事考課制度についての調査結果要約
【主な調査結果概要】
・大学職員を対象とした人事考課制度を導入していると回答した大学は62.4%となっており、前回調査の40.7%を大きく上回った。
・人事考課制度の導入目的として「人材育成」と回答した大学は80.1%となっており、前回調査の71.3%を大きく上回った。
・人事考課制度における課題については、「適切な目標設定が難しい」「フィードバックが適切に行われていない」等、具体的な運用時の課題を挙げる大学が増加している。
・現在人事考課で重視する点として、最も多かった回答は「仕事に対する取り組み姿勢・態度」(72.3%)であったが、2006年調査では86.2%であったので、その比率的は減ってきている。
・一方、人事考課で今後重視する項目としては「成果創出プロセスにおける行動、発揮した能力」が一位、「業務上、結果として現れた成果」が二位となっており、態度より行動や成果を重視する傾向が高まっている。

【コメント】
大学職員を対象とした人事考課制度が導入段階から運用段階に移行し、より現実的な課題を挙げる大学が増えてきたようです。それらの解決には「管理者の考課能力の向上」が必要なことは言うまでもありませんが。しかし「目標設定」や「目標自体のあり方」に課題があると回答する大学が多いことから、人事考課制度導入時に人材マネジメントのあり方について根本的な議論がなされなかったことによる歪みが課題の根底にあると考えます。

職員に対する人材育成についての調査結果要約
【主な調査結果概要】
職員の能力開発・人材育成についてどのように実施しているかを尋ねたところ、計画的な育成制度(研修制度)(51.3%)、各職場におけるOJT(47.8%)が一位と二位の回答結果となっており、前回調査結果はあまり変化はありませんでした。

また今回あらたに「職員一人あたりの自己啓発援助の年間補助予算額」を尋ねたところ、

9,999円以下=28.3%
~19,999円=13.1%
~29,999円=7.6%
~39,999円=4.1%
~49,999円=1.4%
50,000円以上=13.1%
その他   =32.4%
という結果になりました。

【コメント】
自己啓発支援制度については約3割の大学が導入しているという回答結果でした。しかし、「制度があること」と「制度が活用されていること」の間には大きな乖離があります。コガが企業内教育の世界にいた頃の経験では、こうした支援制度を使う社員の比率は全社員の3~5%に留まり、人材育成部門が「学習して欲しいと思う社員」はそこに含まれず、企業の意図する人材開発支援が機能していないケースを数多くみてきました。こうした傾向は大学職員の人材育成でも見られるものと推察しています。

教員に対する人事考課制度についての調査結果要約
【主な調査結果概要】
・教員に対する人事考課制度を導入している大学は39.8%で、「導入を検討中」の22.1%と合わせると6割が導入に前向きであった。

・人事考課制度の導入目的では
「教員の質の向上」(77.9%)
「研究業績の向上」(65.0%)
「教育方法の改善・向上」(62.1%)
の順となった。

・教員の1次評価を行うのは
「学部長」(39.3%)
「学科長、コース主任」(20.0%)
「学長」(13.6%)
の順となった。

・人事考課制度における、量的評価項目として現在実施しているものは、
「学内委員会活動」(62.9%)
「発表論文数」(57.1%)
「科研費の取得(50.0%)
「担当コマ数(45.0%)
の順となった。

・人事考課制度における、質的評価項目として現在実施しているものは
「授業方法の改善」(54.3%)
「FDの促進」(41.4%)
「テキスト・教材の開発、改善」(29.2%)
「シラバスの改善」(25.7%)
「新たな授業科目・教育プログラムの改善」(18.6%)
の順となった。

・教員に対する人事考課を実施していない大学に対し理由を尋ねたところ
「制度・仕組みを構築するのが難しい」(54.9%)
「評価基準そのものがない、または曖昧」(53.5%)
「評価者を決めるのが難しい」(45.1%)
「組織風土に合わない」(33.8%)
「教員からの反発」(29.6%)
の順となった。

【コメント】
今回の調査で一番興味深かったのが、人事考課制度における「量的評価項目」として「学内委員会活動」が最も多くの大学で設定されている点です。
一般に大学教員の役割は「教育、研究、社会貢献、管理運営」の4つとされています。「どの役割が一番重要か」を教員に問うと「教育」か「研究」のどちらかで意見が分かれる筈です。しかし「どの役割が一番重要でないか」を問うと、「管理運営」を選ぶ教員がダントツで多いと考えます。「学内委員会活動」はこの管理運営の役割に入るのですが、この一番重要度の低いと見なされている活動がどうして最も多くの大学で評価項目として設定されているのでしょうか?

「学内委員会活動」は、教員から見れば「面倒」な仕事以外の何物でもないものの、大学組織にとってはとても重要な仕事です。その活動に多くの時間を割いている教員に対しては、他の教員から「そんなに委員会活動にコミットしているのであれば、せめて人事考課では評価してあげなくては」というコンセンサスが得られやすく、その結果多くの大学で量的評価項目に加わっているのではないかとコガは推察しています。

しかし、量的評価の項目の中に「教育の質」に関する活動が含まれていないのが個人的にはかなり気になります。また、本メルマガでは紹介しませんが、この量的・質的評価項目については国公立と私立で設定されている項目の順位がかなり異なっており、非常に興味深い調査結果になっています。詳細については、ぜひ報告書冊子をお取り寄せいただきご確認いただければ幸いです。

「大学における人事評価制度実態調査報告書」(冊子)のお問い合わせ先
産業能率大学総合研究所東日本事業部(電話:03-5200-1721)

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