Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.265:企業内教育の予算調査結果の調査

2008年03月14日 | 調査・アンケート
そろそろ次年度予算も確定し、来年度の研修計画をあれこれ思案している企業内育担当者の方も多いかと思います。そこで、今回のメルマガでは、企業内教育の算について考えてみたいと思います。まずは、筆者の知りうる範囲で企業におけ教育研修投資に関する様々な調査結果についてレビューし、それらを米国企業の修投資の実態と比較しつつ問題点を考えてみたいと思います。

企業と人材
http://www.e-sanro.net/sri/books/kigyou_jinzai/index.html
調査母数が少ないため、実態を示しているかどうかやや不安な面があるものの、唯一毎年継続して企業内教育の予算についての調査を実施しているのが「企業と人材」誌(産労総合研究所)の「教育訓練費用実態調査」です。毎年年末ぐらいの号で調査結果を特集しているのですが、2007年度は調査の特集を組まれた号が見あたりませんでした。ちなみに昨年の特集によると、2005年度の従業員1人当たりの教育研修費は、大企業で35,197円、中小企業が50,372円ということです。普通に考えると大企業の方が多そうなのですが、たまたま教育熱心な中小企業が回答者に多く含まれていたからでしょうか。

労政時報
https://www.rosei.jp/about_jiho
労政時報は、昭和5年創刊、70余年の歴史を重ねた人事・労務全般を網羅した専門情報誌で、学術論文の引用にも多く使われています。2005年の8月26日号『教育・能力開発の最新実態』という特集の中で、「教育・研修・能力開発費用の実態」という調査結果を公表しています。元々人事労務全般を取り扱う雑誌のため、その後同様の調査が実施されているかどうかは不明です。ちなみに2005年の調査での教育訓練費は月額1,541円。12倍すると18,492円です。

業績主義時代の人事管理と教育訓練投資に関する調査(H12年8月)
http://www.jil.go.jp/kisya/daijin/20000808_02_d/20000808_02_d.html#gaiyou
ちょっと古いデータですが、日本労働研究機構(現、独立行政法人労働政策研究・研修機構)の調査結果です。この調査では、実際に訓練に必要となる直接費用と、訓練によって従業員が実働できないことによる機会ロスによる費用の合計として教育訓練費を算出しています。ちなみに直接費用が平均4.67万円、教育訓練期間の機会費用は3.77万円、合計8.44万円ということです。

Works人材マネジメント調査「2003 Part3 人材デフレ下の能力開発」
http://www.works-i.com/flow/survey/index.html#3
リクルートワークス研究所の調査も調査母数が多いのでお勧めです。
2003年度の調査で教育投資額に関するデータがありますのでご覧ください。
全体の平均では下記のようになっています。

経営層----18.9万円
管理職層---13.5万円
中堅社員層--10.1万円
若手層---- 8.3万円
新人-----17.7万円

上記報告書では業界別、従業員別での一人あたり投資額の違いも報告されておりますので、ご自身の業界とベンチマークしてみてはいかがでしょうか?
また「能力開発総予算のうち外部機関にアウトソーシングした率」も掲載されておりました。ということで、先ほどの数値にこの率をかけると、実際に外部へ流出するコスト( )となります。

経営層----78.3%(14.8万円)
管理職層---72.8%(9.83万円)
中堅社員層--68.1%(6.88万円)
若手層----63.1%(5.24万円)
新人-----52.9%(9.36万円)

教育研修投資に関する基礎調査(産業能率大学&ASTD)
実は本学でも10年前に、ASTDと協力し「教育研修投資に関する基礎調査」を実施しました。内容は日本、米国、欧州、カナダでの研修費用の比較や、研修配信方法や評価の方法についての比較調査です。企業内教育の実態を多国間で比較した調査というのはそれまで存在せず、おそらくこの調査以降も存在していないと思います。ということで大変貴重な調査データなのですが、日本での調査データは67社しか集まらず、さらに回答者のうち従業員1,000人以上が48社も占めていたため、大企業に偏った調査結果となっています。この調査での研修投資額は一人当たり 53,137円となりました。一方で全世界の平均は77,088円で、ガックリした記憶があります。

平成18年就労条件総合調査結果の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/06/kekka3.html
国の調査としては、厚生労働省の「平成18年就労条件総合調査結果の概況」があります。労働費用に関する調査データの中で「現金給与以外の労働費用」という項目があり、その中に「教育訓練費」があります。これによると月額1,541円、年額でも18,492円にしかなりません。これを従業員別で見ると

1,000人以上 2,259円(年 27,108円)
300~999人 1,635円(年 19,620円)
100~299人 991円(年 11,892円)
30~ 99人 668円(年  8,016円)

となっており、100人以下の企業では、1,000人以上の企業の1/3以下の教育訓練費用しかないことが分かります。

MOT社内教育に関するアンケート調査(2005年)
http://www.mot.gr.jp/upload/MOT%BC%D2%C6%E2%B6%B5%B0%E9%C4%B4%BA%BA1.pdf
三菱総合研究所の実施した調査です。役員・従業員数100人以上の上場企業(東証2部、ジャスダック、東証マザーズ、ヘラクレス含む)311社の人事教育部門責任者の回答に基づくデータとなっています。この調査よると、従業員一人あたり年間教育研修費用は、平均78,731円と、上記厚生労働省調査の2.9倍になっています。しかし内訳をみてみますと、「最大値200万円」というのもあり、実際には約6割の企業が5万円未満のようで、中央値は35,000円となっています。

まとめ
本メルマガVol.214「再び米国企業の研修予算」でもご紹介しましたが、Bersin &Associates社の調査による米国での年間の社員一人あたり研修コストは、$1,273。$1=102円で計算すると約13万円。最も低い企業でも$519(52,938円)と日本のそれを大きく上回っています。
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/f18bf8cc950bc6369c73d300848c11e2

また、2006年のASTDの調査でも、社員一人あたり研修コストは$1,040、Fortune500企業平均では$1,320となっています。もっともこれらの費用には、企業内教育部門の人件費等の内部コストが含まれているので、純粋な外部流出費用は上記のうち4割ぐらいになるそうです。だとしても今回ご紹介した日本企業の教育訓練費用の調査のほとんどを上回る投資額となっていますよね。

先日東京大学の中原先生のBlogに「企業内教育とお金」という記事をみつけました。
http://www.nakahara-lab.net/blog/2008/03/post_1175.html

以下が多分中原先生が一番言いたかったことだと思うのですが、

思うに、「日本ほど、教育に多くを期待しながら、そこにお金をかけない国は珍しい」。一言でいうと、「やい、教育、この問題何とかせい!、金は出さないけど、頑張れ」。そうした風潮は企業内教育であろうと、公教育であろうと、そう変わらない。


私も基本的には同感です。しかし、今回こうして様々な調査データを並べてみて、「もしかしたら我々は国レベルでも、はたまた個々の企業レベルでも、一体いくら企業内教育に投資しているのかすら把握していないのでは?」という疑問が沸き起こってきました。

会社によっては人事教育部門が、他の部門で実施している教育の実態や予算すら把握していないケースも多いと聞きます。また営業部門の教育であれば、教育費でなく販売促進費の枠の中で行われている等の実態もあり、調査数値以上に教育投資している可能性も捨てきれません。さらに、金額に出にくいOJTやワークプレイスラーニングにかける労力はどう研修投資として明らかにできるのか、課題は山積しています。

まずは正確な研修投資実態把握のスキーム(予算項目の定義、提出回収方法等)が必要なのだと感じた次第です。しかし、厳密に算出しようとすればするほど、調査の負荷が大きくなり、ただでさえ集めにくいデータがますます集まりにくくなるというジレンマがあります。

現在最も有効と思われる手段は、人材投資促進税制の制度を利用する企業のデータを分析することではないかと考えています。こうした制度を人材育成の活性化策だけでなく、ぜひ教育訓練投資の実態把握のためにも活用できるようになればと考えております。経済産業省サマお願いいたします。

人材投資促進税制について
http://www.meti.go.jp/policy/jinzai_seisaku/jinzaitoushi_zeisei.htm

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