Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.341:ストーリーアナリスト

2009年12月10日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊
ストーリーアナリスト―ハリウッドのストーリー分析と評価手法
ティ・エル カタン,フイルムアンドメディア研究所
フィルムアンドメディア研究所

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この本の帯にあるキャッチコピーは「シナリオを斬る!ストーリーを裁く!」となかなか勇ましいです。往年のギター侍を彷彿させますが・・。

ストーリーアナリストとは、ハリウッドの映画制作会社から依頼され、制作会社に持ち込まれてくる膨大な数の脚本を読み、『カバレッジ』と呼ばれるレポートを提出するスペシャリストの事で、本書は、このカバレッジの書き方をまとめたHowTo本です。

筆者が最初にこの本に興味を持ったのは、GBS(Goal Based Scenario)SCC(Story-Centered Curriculum)のeラーニング教材を開発する際、それが「魅力あるストーリー」なのかどうかを分析する上で、この映画界の手法が使えるのではないかと思ったからです。しかし読後の感想としては、学生のレポートを読み評価するという日々の仕事に応用が効くかなと思っております。

さて、本書のキモとなる「カバレッジ」とは下記の3つの要素から構成されます。

1.評価リストと評価表
これは成績簿のようなものです。評価項目には、プレミス(ストーリーが発展していくための基礎となるアイデアのことで数行で表します)、キャラクタライゼーション、ダイアローグ(台詞)、ストーリーライン、予算、総合評価等があり、それらに対して4段階で評価します。

2.シノプシス
脚本のあらすじのこと。せいぜい2ページ程度にまとめます。

3.コメント
脚本が作品化するだけの価値のあるものかどうかを定性的にコメントしたものです。半ページから3/4ページでまとめます。

この本では上記の書き方を解説する前に、その前提として「どうやって読むか=読むという職人芸」からスタートします。納期の限られた仕事なので、カバレッジを書くという目的に沿った読み方をしなくてはなりません。特に「スキミング」=どうやって流し読みをするかについては筆者は熟読してしまいました。筆者も100通以上の学生からのレポートを目の前にして、3日以内に評価とコメントを記入しなくてはならない時「職業的に読む」ことに徹しなくてはならず、そうした読み方の基本はどのジャンルでも一緒なのだなあと感じた次第です。

本書で一番力点を置いているのは、作品の評価に関する記述です。半ページ程度の短い分量の中で「作品の可能性と限界」を明確に示すのは至難の業だからです。ストーリーアナリストには、あらすじ、登場人物、台詞、構成、の4点について簡潔なコメントが要求されます。そのためには曖昧さを省き、自分の評価に自信を持つ必要があります。そして最終的に評価した脚本が「推薦」「考慮」「却下」のどれに該当するかを選択します。

この本の中で筆者が最も気に入ったのは下記の一文です。「あなたがある作品に“却下”の判決を下すにあたり、覚えておくべきことは、人生において何一つ予測できないということだ。業界では誰もが知っていることだが、『スターウォーズ』の脚本はハリウッド中で拒否された」

考えてみれば「評価する仕事」に関するHow To本ってあまりないですよね。特にこの本のように、心構えでなく具体的な技術に特化した本は希だと思います。しかし技術中心に語っているからこそ、たまに出てくる「心構え」的な記述が生きてくる面もあり、訳者のあとがきに書かれている「本書は上等のスルメのようなものです。噛めば噛むほど味が出てきます」という文章も頷けます。

しかし残念なことに、すでに絶版になっている本なので、ネットで中古本を探してみて下さい。このメルマガを執筆している現在、Amazonでは3冊の中古商品が出品されていました。(文責:こが)

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