Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol287:平成20年度 大学教育改革合同フォーラム(その2)

2009年01月27日 | 大学のeラーニング
1月12~13日にパシフィコ横浜で開催された大学教育改革合同フォーラムに参加してきました。今回筆者は「読み書き能力」「グループ学習」「学習ポートフォリオ」「コンピテンシー」「SNS」の5つのキーワードを決めて、ブースを訪問しました。

先週のメルマガでは「読み書き能力」「グループ学習」についての取組をご報告しましたが、今回は「学習ポートフォリオ」「コンピテンシー」「SNS」について報告します。

学習ポートフォリオ
ポートフォリオとは、元々画家やイラストレーターが自分の作品を大きいクリアフォルダに入れてまとめたものを指していたそうです。教育の世界では学習者の理解の程度や思考過程の「見える化」を促進することを主な目的に、個人の学習成果物や学習履歴などを一つのファイルやフォルダにまとめて蓄積しすることを指します。日本では初中等教育の総合的な学習の時間の評価法として数年前から脚光をあびるようになってきました。最近では高等教育の世界でもこのポートフォリオの活用が盛んになってきております。昨年末に発表になった中央教育審議会の報告『学士課程教育の構築に向けて』という答申の中でも
学生が,自らの学習成果の達成状況について整理・点検するとともに,これを大学が活用し,多面的に評価する仕組み(いわゆる学習ポートフォリオ)の導入と活用を検討する。

というように、政策レベルで活用を検討することが明記されるまでになっています。今回のポスターセッションでは、宮崎学園短期大学、帝塚山大学、千歳科学技術大学、東北大学、北海道教育大学等が学習ポートフォリオについての取組を発表していました。

宮崎学園短期大では「学生の総合的診断・ケアサポートシステム」という学生の個人カルテを作成し、その中の一要素としてポートフォリオを位置づけています。単に学習の履歴を管理するだけでなく、「学生生活スキル・スタンダード」の自己診断結果等もサポートシステムの中で管理し、アカデミックアドバイスの機会に活用しているそうです。

千歳科学技術大学では、学生個々人の履修コース設定状況や受講科目の達成度を把握できる「学習カルテ」をベースに、レベルごとのプログラム等における取組状況や適性・得意とする分野を加えた「学生総合カルテ」をコンピューター上で作成し、これを教職員との対話指導の際に役立ているとのことです。

帝塚山大学では以前より運用していたTIESというeラーニングシステムをベースに「e能力ポートフォリオ」を開発。単にeラーニングでの成績や履修状況を管理するだけでなく、学生が入学時から卒業までに作成するインターンシップ参加報告書やプレゼン資料までも記録蓄積しているそうです。また、教職員や外部評価員による学習の到達度や志向・態度に関する客観的評価を自己点検できる「e能力アセスメント」も実装し、人間力や社会人基礎力等を定量的に自己点検できる仕組みを実装しています。

このように、大学での学習ポートフォリオの世界は
1)電子化が急速な勢いで進む
2)データを蓄積することが目的でなく、それらをアドバイス時に活用することが目的となっている。
3)単に学習の履歴だけでなく、ベーシックなスキルの自己点検であったり、適性であったり、学生総合的なカルテに進化しつつある

というように進んでいるといえます。

コンピテンシー
直接コンピテンシーという用語を用いている大学は少ないのですが、大学を卒業するまでに「こんな事ができるようになる」「こういう力を修得する」ということを明確に示し、それをカリキュラムと連動し運用する大学が増えています。今回のポスターセッションでは、東京女学館大学、山口大学、静岡大学等でそうした取組が紹介されていました。

東京女学館大学では学生たちのキャリア形成に必要な能力として『10の底
力』」を設定しています(詳細下記PDF参照)。
http://www.jasso.go.jp/gakuseisien_gp/documents/jireih20_011.pdf
そして、各先生方は10の内2つの底力を選び、学生がその能力を伸ばせるように考えながら授業を実施しています。学生はセメスター終了後に自己評価し、設定された底力が身についたかどうか自己評価を行います(2=身についた、1=やや身についた、0=変わらない)。それらの点数を合計し、レーダーチャートで示すことにより次セメスターで履修する科目を決める際の参考としているそうです。とてもシンプルで分かりやすい仕組みでGoodですね。

山口大学ではカリキュラムマップを作成してラーニングアウトカムを見える化する取組を実施しています。カリキュラムマップとは、GP(山口大学が教育活動の成果を通じて学生に保証する最低限の基本的な資質=Graduation Policy)の各項目をどの授業を通じて実現するかを定め、マトリクスにしたものです。カリキュラムマップの縦の行には開講している授業の一覧が、横の列にはGPの一覧が並び、どの科目を履修するどういったGPが向上するのかが一目で分かるようになっています。学生の履修選択の際に役立つのみならず、カリキュラムの改訂にも役立っているそうです。こうした取組を支援するため、教育コーディネーターを設置し、教育個人の授業改善努力をきめ細かくサポートしている点に力の入れようを感じた次第です。

静岡大学では、情報学研究科修士課程において「マニフェストに基づく実践的IT人材の育成」を実施しています。
http://www.inf.shizuoka.ac.jp/news/ggp.html
この修士課程ではID、IS、CSという3つのプログラムを実施しています。それぞれのプログラムにおいて、IT人材としてのキャリアパス、そのために身につけるべきコンピテンシー、各コンピテンシーを習得するための授業科目と課外活動、各授業科目間の関連を明示的に「マニフェスト」として示しています。これを「大学院課程で習得させる・習得する知識とスキルに関する教員と学生との間の『約束』」としているそうです。政治の世界でよく使われているマニフェストという言葉が教育の世界でも活用されていることにちょっと驚きました。しかし取組としては至極まっとうです。むしろ教育をサービス産業として捉えるとするならば、何を提供するかをきちんとユーザーに説明するのは当然のことなんですね。

SNS
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)については東京外国語大学、星嵯大学等で興味深い活用事例が展示されていました。

東京外国語大学では「e-アラムナイ協働による学生留学支援」という取組でSNSを活用しています。同大学では毎年約300人が世界32カ国1地域に海外留学するそうです。しかし、その大量の留学生の現地でのサポートは大変です。そこで、同窓会の海外支部と連携し、卒業生(英語でアラムナイ)の集合知を学生支援に活かそうというのがこの取組です。SNSを活用してeコミュニティーを作り、時間や場所を越えた情報交換を可能にしています。現地でなければ得られない情報を卒業生から得ることで、留学生の留学環境の向上に役立てているとのことです。

星嵯大学では、通信制大学の修学支援のツールとしてSNSを活用しています。普段会う機会の少ない学生同士や教員と学生のコミュニケーションにSNSを用いているそうです。在学生の約3割が活用しており、人気のコンテンツは「先生の日記」だそうです。

両大学の事例に共通しているのは、物理的に対面でのコミュニケーションが取りにくい学生や卒業生に対しSNSを活用することで学生支援を充実させている点です。今までは通学制の授業の補完としてSNSを活用する事例が多かったのですが、あまり長続きしないケースが多いように見受けられます。「会って話せば、わざわざSNSにアクセスしなくてもいいのでは」という考えから徐々に沈滞化してしまうのでしょうか?その点「会うことができない」となれば使わざるを得ない活性化するという方程式が成り立つのか?

実は筆者が院生時代から活用している通信制大学院にも有志の学生が立ち上げ運用しているSNSがあるのですが、どうも書き込むメンバーも決まっており、お世辞にも活性化しているとは言えません。単に情報交換するだけでなく、留学先での問題を解決したい等の具体的な目的が不可欠と筆者は考えております。

まとめ
以上2週間に渡り、5つのキーワードで「大学教育改革合同フォーラム」の模様をお伝えして参りましたが、いかがでしたでしょうか?これらの活動は文部科学省の金銭的な支援を受けています。ですので他大学の取組を真似して自校の教育改善に役立てることが強く推奨されています。もっと言うならば、企業だって納税者なのですから、これら大学での取組をうまく企業内教育に活用していただければと思っております。

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